第78話 何だかんだでお姉ちゃん

 それから理系科目は英さん、家庭科などの期末試験だけにある科目は吉祥院さん、全体的な補助として生徒会長が越後さんの勉強を見ていた。

 副会長は気まずさから黙々と参考書と睨めっこをしている。

 僕も手が空いた時間では自分の勉強をしていたが、ふと気になって副会長へと尋ねる。


「そういえば、副会長って二年生ですよね」

「……それがどうした」


 ファーストコンタクトがアレだったせいで、副会長は僕に対してトゲトゲしい態度のままだ。

 僕も意地になってたけど、あのときは副会長にも非があると思う。


「いや、二学期からは生徒会長狙ってるのかなって思って」

「当然だ。内申に関わるからな」

「てことは推薦狙ってる感じですか?」

「まあな。というか、お前もそういうこと考えてたんだな」


 律儀に僕の質問に答えてくれた副会長は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「確実に大学に行ける手段があるならそっちを取りますからね」

「ま、お前は内申点低そうだがな」

「あら副会長、意外と白君は先生からの評判いいのよ? 頼めば仕事は手伝ってくれるし、校則違反も遅刻もしない。服装がちょっと緩くて生活指導の先生が渋い顔しているくらいじゃないかしら」

「なっ」


 予想外の方向から飛んできた生徒会長からの援護射撃に副会長の表情が固まる。


「あと、成績も学年五位だったかしら」

「あっ、はい」

「一桁代、だと……。俺ですら十一位だというのに」

「いや、十分凄いと思いますけど」


 僕の場合は英さんの試験範囲予想があったから実力にプラスアルファがある。実際の学力は副会長とそんなに変わらないだろう。

 しばらく考え込むと、副会長は複雑そうな表情浮かべて告げる。


「お前、見た目で誤解されるタイプだろ」

「副会長が見た目で誤解するタイプなだけでは?」

「うぐっ」


 まあ、副会長は僕を見た目で判断したというよりは恥をかかされた八つ当たりがしたかっただけだろう。


 実際、英さんを生徒会に取り込もうとしたときは、一年生にして生徒会長に次ぐ求心力を持っていたという背景も見える。

 その横にいる制服を着崩した僕は邪魔者にしか見えなかっただろうし、ムキになってしまったのだろう。


「副会長、生徒会長目指すなら偏見は持たないようにしないとダメよ?」

「……肝に、命じます」


 プライドが高く、真面目過ぎる嫌いがある彼はどっちかというと自由なトップを引き締める二番手が合っている気がしてしまう。さすがにそれは失礼か。


「生徒会長かぁ……」


 英さんは面倒だからやりたくないと言っていたけど、何だかんだ向いてはいそうだ。

 クロのいた未来じゃそれが原因でストレスが溜まっていたみたいだからやらない方がいいとは思うけど。


「リラ、わからないならわからないなりに答えを絞れるようにはした方がいいわ。最悪選択問題にしちゃえば直感で何とかできる部分もあるでしょ?」

「うぅ……それなら初めから全部選択問題にしてくれればいいのに」


 頭から煙を出しながらも越後さんは必死に英さんの解説を聞いている。

 あの二人がここまで仲良くなれた。

 その事実に、あのとき余計なお世話だとわかっていながら踏み込んで良かったと心から思えた。


「ふふっ、本当に仲が良いのね」


 そんな二人を生徒会長は穏やかな笑みを浮かべて眺めていた。


「白君、ありがとう。あの子が気を許せる友達ができたのはあなたのおかげだわ」

「僕なんて大したことはしてないですよ。英さんと越後さんが勇気を出して一歩踏み出した結果です」

「……そう」


 生徒会長が浮かべた表情は嬉しさだけでなく、どこか寂しさが混ざったような複雑な表情だった。

 優しい生徒会長のことだ。自分が原因で越後さんに劣等感を植え付けてしまっていたことに罪悪感があるのだろう。

 大切に思っているが、決して自分が好かれることはない。それはとても辛いことのように思えた。


 感傷に浸っていると、携帯の振動音が生徒会室に響いた。どうやら越後さんの携帯に電話がかかってきたみたいだ。


「あっ、電話――ひっ」


 携帯を開いた瞬間、越後さんの表情が恐怖で歪む。彼女のそんな表情を見たのは僕にクロが憑依したとき以来だった。


「も、もしもし?」


 瞬時に通話ボタンを押した越後さんの声は震えていた。


『凜桜! 連絡もよこさず何してるの!?』


 そして、通話口から耳を劈くような怒号が轟いた。

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