第77話 越後姉妹
秘策を授けられた僕は急いで越後さんの元へと向かった。
「だーかーらー! 行かないっての!」
「白君、何してたの! もうあたし達だけじゃ抑えられないから!」
「ステイ、リラちステイ!」
英さんと吉祥院さんは越後さんの足にしがみついていた。
完璧美少女とギャルお嬢様が高身長のバスケ女子にしがみついている様はなかなかに異様な光景だった。放課後に生徒が残ってなくて良かった。
「越後さん!」
「だからウチは行かないって!」
「生徒会長……お姉さんに聞いたんだけどさ」
僕の言葉にピタリと越後さんの動きが止まる。
「小学校四年生のときまで――」
「いやぁぁぁぁぁ!」
越後さんは英さんと吉祥院さんを振り切って猛ダッシュで生徒会室へと駆け出す。
「えっ、白君。もしかして今の」
「僕は生徒会長に、訳知り顔で小学校四年生のときまでって言えば自分のところに来るって言われただけだよ」
「いや、どう考えてアレって」
「くゆちゃん、そこから先は考察しないのがマナーってものだよー」
いや、モンスターテイルズのエーボイのぬいぐるみ抱いて寝てたって話なんだけど……。
人の秘密を拡散するものじゃないと思ったが、逆に変な誤解を生んでいるような気がする。
それから生徒会室へと入ると、越後さんが物凄い剣幕で生徒会長に詰め寄っていた。
「どういうつもりよ、お姉ちゃん!?」
「そんなに怒らないでよ。別に恥ずかしいことじゃないじゃない」
「恥ずかしいでしょ、普通に!」
「でも、白君は変に揶揄ったりしないでしょう?」
「いや、そこはウチも信頼してるけども!」
クロが憑依していたときは腕を折ろうとしたこともあったのに、いつの間にか信頼してくれていたようだ。
何だか照れるな。
「ふんっ!」
「痛ぁ!?」
感慨深い気持ちになっていたら、何故か英さんに足を踏まれた。ローファーでそれはないでしょ。めっちゃ痛いんだよ、それ。
「ごめん、足が滑っちゃった☆」
「ああ、未来でも足滑らせてたもんね」
ファイナルファンタ自慰のあとに。
「ふんぬっ!」
「あだぁ!?」
今度はさっきよりも強く踏まれた。痛みで反射的に涙が出てくる。
「やだぁ、また足が滑っちゃった」
「やだぁ、じゃないんだよ。こっちがやだよ」
人前なんだからちゃんと猫被れっての。それか全部脱ぎ去ってしまえ。
「はいはい、リラちとくゆちゃんもその辺にしてさ。とっとと勉強始めないと時間もったいないよー?」
吉祥院さんが手を叩いきながらその場をまとめる。
ちなみに、副会長は終始気まずそうな表情を浮かべていた。
「ツクモ、文章の要約って何?」
「えっと、要約の意味自体がわからない感じ?」
「バカを見る目で見んな」
問題文が理解できない人はさすがにバカでは?
「そうか、つまりきみはそんなやつなんだな」
「それ範囲的に中一だから」
それはわかるのか……ふむ、試してみよう。
「その声は、我が友、李徴子ではないか?」
「それ範囲的にまだじゃない?」
「むしろ高二の範囲よくわかったね」
僕の場合はクロがよくVtuberの話をするときにやたらと山月記の話をしていたから知っていた。いや、マジでこんばん山月ってなんだよ。
「凛桜ちゃん、私が高二のときに山月記にハマってダル絡みされてたものね」
「何で山月記にハマってダル絡みするんですか……」
生徒会長も大概思考が謎な人である。まあ、確かに越後さんは臆病な自尊心と尊大な羞恥心持ってそうだけども。
「試験範囲外の小説の名言ばっかり覚えてないで、まずは問題文の意図を汲み取れるようにしようよ」
「……はい」
僕の言葉に越後さんは背中を丸めてシュンとするのであった。
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