第22話 偉そうに説教する気?

 翌日。英さんにノートを返そうと思っていたが、学校内だと渡す隙がなかった。

 内容が内容だから英さんも人目があるところで渡されるのは困るだろうし、何より僕から英さんに話しかけるのも注目を集めてしまう。

 常にグループの子達と行動を共にしていることもあり、下手に連絡を入れるのも憚られる。

 結局その日はノートを返すこともできずに放課後になってしまった。


 今日は掃除当番の日。面倒臭いがサボるわけにもいかないだろう。

 渋々ロッカーから自在箒を取り出して廊下に出ると、鞄を持った越後さんがいた。彼女も今日は僕と同じで掃除当番のはずだ。


「越後さん今日は掃除当番でしょ」

「っ! 何だ、ツクモか」


 声をかけると越後さんは勢いよく振り返り、僕から距離を取った。前から思っていたけど、僕って越後さんから嫌われているのだろうか。


「悪いけど、女バスの練習あるから」


 越後さんに限らず、中学のときもこういう奴はいた。

 部活に打ち込むことは素敵なことだと思うが、一部の運動部連中は何を勘違いしているのか、運動部が特権階級だと思っているようだ。

 部活に打ち込むのならきちんと学校のルールも守ってほしい。中学のときに野球部の顧問が居眠りしている野球部員だけ注意しなかったり、何かと運動部は謎に優遇されている。

 だけど、僕はそんなの許せない。


「当番なんだからちゃんとやりなよ」

「何なの? 自分はそんなチャラチャラした見た目しといて、偉そうに説教する気?」


 彼女は眉を寄せ、睨むような視線を送ってくる。

 確かに僕の見た目は不良っぽいし、そういう風に見えても仕方がないが学校のルールは破っていない。


「こっちは校則違反じゃないから」

「別にウチだって校則違反じゃないし、代役も頼んであるから」

「代役?」


 越後さんは女子のリーダー的存在ではあるが、誰からも好かれているわけではない。

 むしろ、グループ内でも彼女の横柄さを不満に思っている子はいるらしい。

 そんな中、快く越後さんの頼みを聞く人に心当たりがあった。


「……英さんか」

「何よ、英だって喜んで引き受けてくれたよ」


 英さんが嫌な顔をせず、進んで代理を買って出る理由は単に〝周囲から見た英紅百合ならそうする〟という行動を選んでいるだけだ。

 内心ブチギレてストレスがマッハなのは間違いない。


「代理がいるならいいよ。部活頑張ってね」


 僕の言葉に返事はせず、越後さんは足早にその場から去っていく。

 言いようのない不快感が心の奥底から溢れてくる。気がつけば、僕は自在箒を持ったまま走り出していた。


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