第15話 一狩り行くわよ その2
「お待たせ」
「おかえりー」
お菓子と麦茶を置き、英さんが脱ぎ捨てたであろうブレザーをハンガーに掛ける。
それから既にやる気満々の英さんに習ってゲーム機の電源を付ける。
ゲーム内の集会所で合流すると、英さんのキャラが既にクエストを張って待っていた。
「白君って男キャラでプレイしてるんだ」
僕の使っているゴツイ装備のキャラを見て、英さんは意外そうな声を上げる。
「そりゃ男なんだから男キャラでやるでしょ」
「いやいや、こういうのって男でも女キャラにしがちじゃない? 装備の見た目とか格差あるし」
「わからないでもないけど……」
そういう英さんはスキル重視でいくつかの装備を組み合わせた僕と違い、統一装備だった。
同じクリーチャーの装備で統一するのは見た目、発動スキル共に優秀になることも多いため、彼女のやり方も悪くはない。
「待って犬飯食べてない」
「早くしてよー」
「ごめんて」
「海辺の森なら最悪忘れものあっても大丈夫だし、さっさと行くわよ」
ホラ貝の音と共に海辺の森のステージに移動して狩りが始まる。
狩猟対象の大型クリーチャーはどこにいるかわからないため、二人で手分けしてマップを散策する。
しばらくマップを探していると、僕の画面に翼のような耳が生えた黄色いゴリラが現れた。これがバタゴリラである。
「見つけた。ペイントつけたよ」
「ナイス! すぐそっち行く」
バタゴリラに発見され攻撃され始めたので、すぐに戦う準備を始める。
大振りな攻撃を躱しながら太刀で攻撃をしていると、ボウガンを携えた英さんがやってきた。
「お待たせ!」
バカスカ弾丸を叩き込みながら登場した英さんは、それはもう頼もしかった。
麻痺や睡眠、毒などの状態異常にする弾丸をバタゴリラに当て、確実にサポートをしてくれる。前線で暴れる僕からすれば戦いやすいことこの上ない。
痺れて動けないバタゴリラをタコ殴りにしようとしたとき、普段から弱点とか気にせずに殴っていたことを思い出した。
英さんのプレイスタイル的には弱点も把握していそうだと思ったので尋ねる。
「バタゴの弱点ってどこだっけ」
「確か耳じゃなかった?」
『紅百合は耳が弱い』
「けほっ、けほっ!?」
脳裏に過ぎるクロの余計な一言で、つい目線が英さんの耳に向いてしまう。
[SHIROが力尽きました]
「あっ」
「何やってんのよ、もう!」
「……ごめん」
よそ見をしたせいで僕はバタゴリラの連撃コンボをモロに食らってしまい体力ゲージが尽きてしまった。
復活した僕は急いで戦闘中のエリアへと向かう。
英さんの元へ向かう途中、後方支援メインで戦っていた英さんにバタゴリラの特殊攻撃が命中してしまった。
「ぎゃあああああ! ウンコバター当たっちゃった! 回復、回復!」
完璧美少女がウンコ言うとるがな。
バタゴリラは体内で生成された独特の臭いを発生させるバターを投げつけてくる。通称ウンコバター。それを当てられるとしばらくの間、回復アイテムが使用できなくなってしまうのだ。
……英さんもゲームで叫んだりするんだ。以前にもまして、より素が出てきている気がする。これは役得と言ってもいいのだろうか。
それからは僕もゲームに集中したため、一回も死亡することなくバタゴリラを討伐することができた。
「手伝ってくれてありがとね」
バタゴリラの素材を剝ぎ取りながら英さんは笑顔で礼を述べた。
いつもの作り笑いではない、自然な笑み。やっぱり、英さんはこっちの顔の方が魅力的だと思う。
柄にもなくそんなことを考えてしまうのだった。
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