第13話 余計なことはしない方がいっか
教室を出た僕は、以前クロと校内で話した階段上の物置のようなスペースで携帯を開く。
「校内で急に出てくるなって言っただろ!」
『そんなにキレるなっての。悪かったよ』
ただでさえ僕の高校生活はクロのせいで悪い方向に向かっているのだ。これ以上、邪魔はしないでもらいたい。
クロも今回のタイミングについては悪いと思っているのか、珍しく素直に謝ってきた。
『紅百合から話だけで聞かされてた子がいたもんだから、ついな』
「お前、越後さんのことも知ってるのか?」
そういえば、越後さんのお姉さんである生徒会長は未来ではAV女優だった。越後さんもそれなりに有名人になっているのだろうか。
『まさか、えちゴリラがゴム付き様の妹だとは夢にも思わなかった』
「どっちも女性に付けるあだ名じゃない……」
どうしよう未来の僕が最低過ぎて絶望しかない。
『バカ言え。ゴム付き様の方はネットでの呼ばれ方だし、えちゴリラって呼んでたのは紅百合の方だっての』
「英さん、容赦ないな……」
でも、英さんなら裏でそう呼んでいても違和感がない。やっぱり日頃から不満が溜まっていたのだろう。
『裏でそんくらい毒突くのも無理ねぇけどな。えちゴリラは紅百合にとって高校時代の嫌なことを象徴するような存在だからな』
「二人にこれから何か起こるのか?」
『ああ、何でも財布を盗んだって濡れ衣を着せられたらしいぞ』
「越後さんってそんなことする子なんだ……」
ただでさえ苦手な部類の子ではあったが、僕の中で越後さんへの苦手意識がさらに強まった。自作自演をして誰かを犯罪者に仕立て上げようとするなんて許せる行為ではない。
『紅百合は返り討ちにしたらしいけどな』
「さすが英さん……」
越後さんはどうやら挑む相手を間違えたらしい。僕の中で英さんへの恐怖心がさらに強まった。
『紅百合曰く、八方美人は悲劇のヒロインになれるそうだ。えちゴリラ以外、全員紅百合の味方だったらしいぞ』
そりゃそうだ。仮にクロからこの話を聞かないでこの状況になったら英さんを疑うことはないだろう。
「でも、越後さんって女子のトップみたなポジションの子なんだよね。何でわざわざそんなことしたんだろ」
『シンプルに嫉妬じゃねぇのか?』
「だとしても、リスクが大きすぎる。相手はあの英さんだよ?」
どれだけ狡猾に嵌めようとしても、その策を上回ってくるのなんて簡単に想像が付きそうなものだけど。
『状況を客観的に見られなくなるくらい冷静さを失ってたんだろ』
「どういうこと?」
『攻撃的な態度のえちゴリラにも紅百合はずっと優しく接してたらしい。えちゴリラからしたら〝ここまでされて何でウチに優しくできるのー!?〟って感じで頭ごちゃごちゃになったってのが紅百合の推測だ』
冷静さを欠いたというのは一理ある。
それだけ英さんの猫被りが完璧だったのだろう。トップでありたいのに、人気は英さんの方が圧倒的に上だったわけだし、その状況で嫉妬している自分にも優しくしてくるなんて敗北を突きつけられているようなものだ。
『ま、何にしても放っておけば事態は勝手に紅百合が収める。下手なことはしない方がいい』
「そうだね。僕は本来の歴史じゃいなかったんだし、余計なことはしない方がいっか」
もし下手に事件に割り込み、英さんの邪魔をしてしまっては元も子もない。完璧なカウンターが用意されているのならば、僕が割り込む意味もない。
未来を知っているからといって、タイムリープモノの主人公のように自分の思い描く未来へと過去を変えることはできないのだ。
「そういえば、さっき越後さんが僕のこと見て顔を逸らしてきたんだけど心当たりない?」
『知らねぇよ。俺は紅百合の話でしかえちゴリラを知らねぇんだぞ。顔に虫でも止まってたんじゃねぇか』
「それはさすがに英さんが指摘するでしょ……」
相変わらず傍観者を気取るクロに呆れながらも、僕は携帯を閉じて教室へと戻った。
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