男二人の間に挟まるということ
『任務が終わったら……また雑炊を作ってくれ。
背を向けると一緒に言われた言葉に、
クスッと両肩をすくめる。
『仕方ありませんわね。
『いや、ワシ白芯茸嫌いなんだが……』
『そうでしたっけ』
また二人の間に空白が横たわった。
『まあ、いいか』という父の小さな声で、再び空気が繋がる。まだ何かあるかなと思っていたら、わざとらしく足音を立てて父は消えてしまった。足音など絶対に立てない人なのに。帰るぞ、という彼なりの挨拶だったのだろう。
『ありがとうございます、お父様』
◆
寿虎府まで王都から馬車でなら五日。しかし、項淑妃の離宮は少し王都側に近いことと、馬車ではなく馬を使ったことにより、二日で辿り付くことができた。
(つ……疲れた……っ!)
離宮に着く頃には、
旅路では色々とありすぎたが、かいつまんで言うと、
(不安はあったけど、まさかここまで見事に予想を裏切らないなんて……)
それは、いよいよ王都を出ようとしていた時――。
『本当に馬で行くのか?』
『悠長に旅なんてしてられないもの』
禁軍武官に嗅ぎつけられたくなく、今回の項淑妃訪問については秘密とされていた。知っているのは項中書令くらいだ。できるだけ王宮を空ける期間は短くしたい。
『では馬は良いとして、陛下……いえ、
言うやいなや、
『……いきなりはやめてちょうだい、飛訓』
『失礼。善処します』
失礼など微塵も思ってなさそうな、ただただ人好きのする笑みで言われ、美花は片眉を下げた。
馬くらい駆れるのだが、まあ乗せてくれるのならありがたく乗せてもらおう、などと思っていると、今度は腕を横から引っ張られ、ズルッと馬上から滑り落ちた。
『きゃあ!』
しかし、痛みは襲ってこず、気付けば地上にいた
『そういう理由なら、
『はは、私は禁軍武官ですから。その程度障害にもなりませんよ』
『お前の障害にならなくとも、
『…………』
『…………』
(え、えぇぇ……)
結局、
そうして、途中の街で宿を取りながらやって来た項淑妃の離宮。
「久しいわね、
やはり、他に行動が漏れるようなことは避けたかったため、先触れは出さなかった。しかし、
通された部屋にやってきた美女――項淑妃は、結い上げた亜麻色の髪と白月を思わせる白い肌をしていた。目は細く派手な顔貌ではないが、佇む姿はまるで冴えた一輪の百合のようだ。はっきりとした顔立ちの
「ご無沙汰しております、母上」
「いきなり来るだなんて珍しい……しかも、聞いたところ、あなたと後ろの二人だけのようね」
項淑妃が
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