第3話 8日目~9日目

8日目

今日も変わらず朝が来た。

目を覚ました桜の耳飾りをつけた少女、夢咲美春はそう思った。

正直昨日の出来事は夢だったのではないかとさえ思う・・・いや昨日だけではない今まで起きてきたこと全てが夢だったのだと…そう思えるほどに色々なことがあり過ぎた。

実は自分は授業中に寝てしまっていて、夢を見ているのだ。そしてもうすぐ親友のロザリアが自分のことを起こしてくれる、そうして自分はこの夢から覚めてロザリアに誤魔化し笑いを浮かべる。そしてまた変わらない日常が続いていく…これからもずっと…

しかしもう見慣れた寮の壁や天井、そして昨日の戦いの後からずっと感じる火薬の匂い。そして…目の前にある自分を庇って負傷し医務室で眠っているロザリアの姿。それが美春を淡い妄想から現実に引き戻す。

結局昨日のうちにロザリアが目を覚ますことはなかった…穂乃果の話では命に別状はないためしばらくすれば目を覚ますとのことだがここまで目を覚まさないとやはり心配になってしまう。

結局昨日は眠ってしまうまでロザリアの側を離れられなかった…そして今も…

美春はロザリアの包帯でぐるぐる巻きになった手にそっと触れた。

美春「ロザリア…」

美春は彼女の名前を呼ぶが目を覚ますことはなかった。

美春(こんなことをしていてもダメですね…)

朝が来たということはもう少ししたら今日の活動が始まる。食料の調達や水の確保などやることは山積みだ。それに今はレオも負傷していて動けない。こんな状況では自分でも貴重な戦力の一つだ。このままずっとここにいる訳にはいかない…

そう思った美春は椅子から立ち上がり、ドアの方へと歩いて行く。

そしてドアに手を触れた時もう一度だけロザリアの方を振り返った。

美春「ロザリア…早く目を覚まして下さいね」

美春はそれだけいい残し医務室を後にした。

エントランスに行くと既に他のメンバーは集まっているようだった。

修斗「美春さん、目を覚ましたんですね」

一番初めに修斗が美春に気づき声をかけてきた。

美春「ええ…もしかして寝坊しちゃいましたか?」

修斗「いえ、これから話し合うところでした」

美春「それなら良かったです」

美春は皆と同じように席に着いた。

美春「…霊華は?」

よく見ると全員が集まっていた訳ではなく霊華だけいなかった。

光「あいつは昨日あんなにはしゃいでたからね…まだ寝てるわ」

佐藤「うっ…」

佐藤は昨日のトラウマが蘇ったのか頭を抱える。

美春「起こしてきますか?」

光「いいわ。どちらにせよ疲れてるだろうし寝かせてあげましょ。それよりも…今日はどうするの?」

光が修斗に質問する。

修斗「兄上様からご指示は受けています。今日は水の確保を優先しろとのことです」

光「それじゃあまたあの川まで行かないとね」

光が言う川は6日目にやっとの思いで見つけた川だ。あの時は水を持ち帰るための容器などは持っていなかったため、場所を記録した後帰ったのだ。

真鈴「何人ぐらいで行くんだぜ?」

修斗「今回は水の確保を優先したいのでここにいる半数ほどを割きたいと思います」

アリシア「なら私が行くわ」

フレア「私も!」

吾先にとアリシアとフレアが声を上げた。

アリシア「昨日は何もできなかったから、今日は働かせてほしいわ」

フレア「うんうん」

フレアは姉に同調するように首を縦に振った。

光「なら私も行くわ。こいつらと同じで昨日は寮にいるだけだったし。それにあの時は私もいたから道も大体分かるしね」

佐藤「なら僕達も行こう」

アリシア達に同調するように佐藤も声を上げた。

田中「僕達もって…もしかして俺も!?」

どうやら田中にはそんな気はなかったようで驚いた声を上げる。

佐藤「当たり前だろ」

田中「でも水を運ぶってなるとめちゃくちゃ重労働だろ…それはちょっと…」

佐藤「昨日皆が怪物と頑張って戦ってた間僕達は寮にいただけなんだ。今日ぐらいは働かないと。わがままは言ってられないよ」

田中「分かったよ!行けばいいんだろ!行けば!はぁ…無事に帰って来れればいいんだが…」

田中は諦めてついて行くことにした。

これでこの5人が水の確保に行くことに決定した。しかしまだ人数が心許ないことは否めなかった。

修斗「この人数ではまだ少し少ないですね…」

リオン「なら俺が行くぜ!力仕事なら任せとけ!」

リオンが自信満々に立候補するが…

光「あんたはダメよ」

光が却下する。

リオン「なんで!?」

光「あんたは昨日の怪物との戦いの疲れがまだ残ってるでしょ?昨日は何回も能力を使ったて聞いたし」

リオンのエンチャントも何の負荷もないわけではない、能力を使用すればその分体力の消耗も激しくなり、肉体への負荷も大きくなるのだ。

リオン「そうだけど…」

光「あんたも今日は休むべきよ、どっかの誰かさんみたいに・・・能力使いすぎて倒れたりでもしたら困るしね」

グレイ「あはは…」

グレイは目を逸らした。

修斗「では私が…」

光「あんたもダメ、昨日怪物と戦った奴らは全員休むべきよ。こんな状況じゃ何が起きるか分からない訳だししっかり休んで万全の状態で行動するべきよ」

エレン「でもいくらなんでも五人は少ないんじゃない?せめて後一人ぐらいはいないと怪物に出会した時に危ないんじゃ…」

光「それは…確かにそうね…」

光の意見も正しかったが、エレンの意見にも一理あった。結局議論が平行線を辿ったところで一人が声を上げた。

美春「私が行きます」

光「美春…あんた話聞いてなかったの?」

美春「お願いです、行かせてください」

美春の声はいつになく真剣だった。

美春「私は昨日の戦いでそこまで疲れてはいません。ロザリアが庇ってくれたおかげで怪我もしていません…それに…」

美春は一度言葉を詰まらせたが一呼吸置いて口を開いた。

美春「このまま何もせずにここにいるのは…耐えられないんです」

光・修斗「美春…」「美春さん…」

美春はロザリアを負傷させてしまった罪悪感に何かしていないと今にも押しつぶされてしまいそうな様子だった。

美春「お願いします、私も一緒に行かせてください」

光「…分かったわ、ならあんたも一緒に行きましょ。でも…無茶だけはしないでよね」

そんな美春の心情を察してか光は美春が同行することを許可した。

美春「!ありがとうこございます!」

光「あんた達もそれでいい?」

アリシア「私達は特に異論なし」

佐藤「僕たちも」

修斗「…分かりました。それではお嬢様達六名で水の確保、私を含む他の方達は寮に残ると言うことにしましょう」

エレン「気をつけてね…みんな」

光「大丈夫よ、最悪こいつらがいるし」

光はそう言って田中の肩をポンと叩いた。

田中「え?」

光「えってなによ?女の子が危険な目に遭いそうになったら守るのが男のあんたらの役目でしょ?」

田中「なんで俺がそんな役目買わなきゃいけないんだよ!?」

光「ギャーギャー言わないの、そんなんだからモテないのよ?」

田中「うるせえ!!!」

光と田中が言い争うのを見て…

アリシア「…本当に大丈夫かしら?」

アリシアは少し不安に感じた。

しかしそんなアリシアの心配とは裏腹に森に入ってから特に怪物に遭うことも、他の生徒と遭うこともなく、順調に川に着くことができた。

光「思ったより順調に来れたわね…」

フレア「怪物いなかったね…」

フレアは狼の怪物を見てみたかったのか少し残念そうに言った。

アリシア「フレア、残念そうにしないの。怪物に遭わなかったのはラッキーだったんだから」

美春「そうですね」

田中「ゼェーゼェー…なっなあ…ちょっと…はぁ…休憩しないか…」

田中が肩で息をしながらそう提案した。

どうやら普段家で引きこもってパソコンばかりいじっている運動不足の田中にとってはここまでの道のりさえかなりキツイようだ…

光「もう疲れたの?あんた体力無さすぎでしょ…」

田中「うるせぇ…俺は運動は・・・専門外なんだよ…」

佐藤「どうする?田中は結構限界そうだけど…」

美春「田中ほどではないですが私達も少し疲れてはいます。帰りは水を持つ分より疲れるはずですから少し休んでいきましょう」

光「仕方ないわね…そうしましょ」

美春の提案もあり少し休憩を取ることにした。

目の前には美しい川や木々が広がり時折鳥の囀りも聞こえてくる。普段ならばこのような光景は心身共にリラックスさせてくれるが、今の状況では一ミリたりともリラックスなど出来ず常に神経を張り巡らせていなければいけなかった。

美春は休憩中終始無言でいたが不意に口を開いた…

美春「…どうして修斗は夢咲家のことを知っていたのでしょうか?」

光「え?」

美春はどうやらあの時修斗が自分の家系を知っていたことを疑問に思っていたらしい。

美春「私は自分の家系のことを話したことは誰にもありません…もちろんロザリアにも、それなのに修斗は…私の家系を知っているようでした…」

アリシア「あ〜それなら多分修斗があなたのことを調べ上げたからでしょうね」

美春「そうなんですか?」

アリシア「ええ、修斗て心配性だから、私達が悪い奴らと付き合ったりしないように仲良くなった奴のこととかを一から調べ上げるのよ」

光「なんとなく想像できるわね…」

光は修斗の性格上恐らくそのようなことはしているだろうと前々から思っていたのだ。

美春「なるほど…通りで…」

フレア「ねえねえ」

突然フレアが話に入ってきた。

フレア「そのゆめさき家…てなんなの?」

光「確かに…私も気になるわ」

美春「………」

光「あっ…もしかして話したくないことだった?」

美春が何も言わないのを見て光は気を遣ったが…

美春「あっいえ…そう言う訳ではないんですが…どこから話せばいいか…」

特段話したくないと言う訳ではないようだ。

美春「そうですね…まず夢咲家と言うのは主君である千歳家を守る為の防人の家系なんです」

光「千歳家て言うと確か…」

美春「はい、私の親代わりでもある千歳未散様も…千歳家の一人です」

光「そうだったのね…じゃあその未散…て奴はあんたを従者として向かい入れてるの?」

美春「いえ、千歳様は従者としてではなく家族として向かい入れてくれています」

アリシア「従者としてではなく…家族…」

アリシアは修斗の顔を浮かべた…彼も初めは従者ではなく…家族だったのだ… そのことを考えるとアリシアの胸は少し痛んだ…

美春「話を戻しますね…千歳家と夢咲家の歴史は数百年…それこそ江戸時代まで遡ります…」

皆「…」

美春「千歳家は江戸時代でも有数の権力者の家系でした、その理由は一族で最も美しい女性を将軍の妻として献上していたからです。その見返りに千歳家は莫大な権力を手に入れていました」

佐藤「将軍の妻としての献上…あれ?」

佐藤は美春の話を聞いてふと疑問に思った。

彼はそんな千歳家のことを見たことも聞いたこともないのだ。

佐藤「でもそんなことどんな歴史の教科書や本にも載ってなかったよ?授業でも聞いたことないし…それだけのことをしていたら載ってそうなものだけど…」

光「確かに…」

実際この場にいるもの達は千歳家と言う家系を一度も見たことがなかった。将軍への妻の献上、莫大な権力を持った家系、それだけで普通は書籍などに載りそうなものなのだが…

美春「それは…千歳家のことは公にしてはならないからです…」

光「公にできない…?どうして?」

光はつい興味が湧いてしまい美春に理由を尋ねる。

美春「…秘密に…してくれますか?誰にもこのことは喋らないって…約束できますか?」

美春の目が真っ直ぐと光達の目に向けられる。

田中「因みに…バラしたりしたら…どうなるの?」

美春「斬ります、たとえそれが誰であっても」

美春の目は本気だった、本気で千歳家の秘密を知り公言しようとしたものを斬るつもりだ。それだけ重要な秘密なのだろう・・・

光「…分かった…約束する」

他の者達も無言で頷いた。

美春はもう一度皆の顔を見回した後…

美春「…分かりました」

ゆっくりと話し始めた…

美春「それではお話しします…千歳家のことをどうして公にしてはならないかの理由…それは…」

皆「…」

美春「…千歳家は代々一定の年になってから…歳を取らなくなるんです…」

皆「!?」

光「歳を…」

アリシア「とらなくなる!?」

美春「はい…正確に言えば18〜20歳になった時からそれ以降歳をとりません、死ぬまでその姿のままです。故に常に美しくあり続ける千歳家は将軍に人気だったのです。」

光「不老…てこと?」

美春「はい…そしてこれだけではありません…千歳家は普通の人間よりも遥かに長寿なんです…それこそ千歳まで生きたと言う記録もあります…それこそが千歳家と言う名の由縁です」

佐藤「千歳まで生きる…」

田中「マジかよ…」

あまりに衝撃的な事実の連続で全員が呆気にとられる。

美春「千歳家は正に…不老長寿の家系なんです」

アリシア「成る程…公にできない理由も頷けるわね。そんな人間がいるなんてとてもじゃないけど公表なんてできないわ」

光「確かに…千歳家のことは分かったわ。それがあんたら夢咲家とはどう関係してくるの?」

美春「その話をする前にもう一つ話さなければならないことがあるのでそちらから話します。先ほど千歳家は不老長寿であるという話をしましたよね?千歳家がこのような事実があると民衆の間ではある噂が広がりました…それは…」

光「それは?」

美春「千歳家の肉を食べれば同じく不老長寿になれると言う噂です」

光「何それ…」

佐藤「まるで…人魚の伝説みたいだね」

佐藤が言う伝説とは人魚の肉を食べれば不老不死になれると言うものだ。

美春「確かにそれと似ていますね」

田中「なあ…マジで食ったら不老長寿になれたのか?」

美春「そんな訳がありません、不老長寿の人間の肉を食べたところで同じ不老長寿にはなれません」

田中「だよな」

美春「ですがその噂によって千歳家を襲う者は後を経たなくなりました、皆不老長寿になりたい一心で…彼らを殺してでも千歳家の人間の肉を手に入れようとしたんです」

アリシア「酷い話ね…」

美春「全くもってその通りです、こうして千歳家は常に命を狙われるようになりました。そのため千歳家は自分達の一族を守るために強い防人が必要となりました。そこで出てくるのが…」

光「夢咲家…」

美春「その通り。千歳家は腕に自信がある武士達を集め、その中で最も腕の立つものを防人とし、その家系を代々自分達を守り続ける防人の家系としました。そしてそれに選ばれたものこそが夢咲家初代当主、夢咲幻園(ゆめさき げんえん)です」

田中「マジで歴史の授業だな…」

美春「この後幻園は様々な刺客達と壮絶な戦いを繰り広げたり、彼の息子にあたる二人の兄弟は流派の違いで揉めて、弟は新しく独自の流派を継承する桜木(さくらぎ)家を創設しこちらも千歳家の防人の家系、そして夢咲家のライバルになるんですが…これを話すとキリがなくなるので省きます」

光(良かった…ちょっと長いと思ってたのよね…)

光は内心そろそろ終わらないかなと思っていた…光はチラッとフレアの方を見るとフレアは眠ってしまっていた。

美春「ともかく、こうして夢咲家は千歳家を守る防人の家系となり千歳家は夢咲家によって守られより繁栄していきました、もちろん夢咲家も同様に…しかしその繁栄もいつかは終わりが来ました…まるで…桜の花が散るかのように」

アリシア「何かあったの?」

美春「それは今から100年ほど前…夢咲家には一人、初代当主であり最強と謳われた夢咲幻園の再来とさえ言われる程の腕を持った人物、夢咲二千華(ゆめさき にちか)と言う女性がいました、彼女はある日謀叛を起こしある一人の人物を除いて千歳家の人間を一人残らず殺害しました。そして夢咲家の人間も同様に殆どが彼女によって殺されました」

佐藤「なんでその人はそんなことを?」

美春「理由は分かりません、彼女が除け者にされていたりなどもありませんでした。むしろ幻園の再来と讃えられ、待遇も他より良かったと・・・どうして彼女が恩を仇で返すようなことをしたのかは最後まで分かりませんでした…こうして千歳家と夢咲家の繁栄は幕を閉じました…これが千歳家と夢咲家の歴史です」

アリシア「そうだったのね…フレア、起きなさい」

アリシアはフレアの頭を叩いた。

フレア「ふあ!?もう終わったの?」

アリシア「貴方、よくこんな真剣な話の最中眠れるわね…」

フレア「だって難しくて…眠くなっちゃた…てへっ⭐︎」

フレアは舌をだしてごまかす。

アリシア「てへっ⭐︎じゃないわよ…全く」

美春「理解して頂けましたか?」

光「大体わね…そう言えばある一人を除いてって言ってたけどそれって…」

美春「はい、光が想像しているようにそれは未散様のことです。そして私も・・・夢咲家の数少ない生き残りの末裔と言うことです」

アリシア「生き残りの…末裔…」

美春「私は…夢咲家としてもう二度とあんな醜態を晒すわけにはいかないんです、たとえこれからどんなことがあっても…」

美春は刀を手に取り、刀の柄を強く握った。

美春「話が長くなりましたね、そろそろ行きましょうか」

光「そうしましょ」

田中「うへ〜これ持って帰んのかよ…帰った頃には動けないだろうな…」

田中はいくつもある水の入った容器を見てため息をついた。

光「文句言わないの、ほら!さっさと行くわよ!」

田中「へ〜い」

美春「……」

美春は自分の刀を見た。刀身には未だ半人前の自分の姿が写っている。

美春(…もっと強くなって見せます…一人前になって…大切な人を守れるように!そして…お姉ちゃんにお礼が言えるように…もっと強く…)

美春は決意を新たにし一歩を踏み出した。

後ろからは気のせいかもしれないが…姉の声が…聞こえた気がした…

帰り道も特に怪物に出会うことはなく順調に帰路を辿ることができた…あまりにも順調すぎるほどに…

田中「なあ…あまりにも順調すぎねえか?怪物にも全く出くわさねえし…」

光「急にどうしたのよ?順調なのはいいことでしょ?」

田中「いや〜なんかこう順調だとなんか起こりそうだな〜て気がして…」

突然田中が不吉なことを言い出す。

光「ちょっと!不吉なこと言わないでよ!」

田中「だってよ〜」

佐藤「でも確かに何か起きそうな気がするね…僕たちにか…それか…寮のみんなに…」

光「ちょっとあんたらやめなさいよ、そう言うの”フラグ”て言うのよ」

田中「おいおい…死亡フラグだけは勘弁してほしいぜ…」

光「あんたが言ったんでしょ!?」

アリシア「ちょっと貴方達喋ってないでちゃんと警戒を…」

アリシアが光達を注意しようとしたその時…

パーン!!!

乾いた音が響いた。

皆「!?」

光「銃声!?」

田中「うっ撃たれたのか!?」

美春「いえ!私達が撃たれた訳じゃありません!ですがこの発砲音…間違いありません!真鈴の銃の発砲音です!」

フレア「もしかして寮で何かあったんじゃ!?」

アリシア「ッ!」

フレア「お姉様!?」

アリシアは何も言わずに寮の方向へと走っていってしまう。

光「あんたが不吉なこと言うからよ!」

田中「俺のせいかよ!?」

美春「言い合っている場合じゃありません!私達も行きますよ!」

田中「おっおい!待ってくれよ!」

美春達もアリシアの後を追って寮へと急いだ…

……

時間は少し遡る。

アリシア達が水の確保にいってしばらく経った後、寮内ではリオンが退屈そうにしていた。

リオン「暇だな〜休んでろって言われてもこう何もしてないと退屈で仕方ないぜ…」

エレン「退屈の方がいいよ…何も起きてない間は平和でいいし」

リオン「でも暇なんだよな〜」

真鈴「よくお前デスゲームの最中て言うのにそんなこと言ってられるんだぜな…」

真鈴は半端あきれたようにそう言った。

リオン「でも暇なもんは暇なんだよ…よし!」

リオンは椅子から立ち上がる。

リオン「修斗付き合え、外行くぞ」

修斗「なぜ私が貴方の暇つぶしに付き合わなければならないんですか?寮内でじっとしていてください」

リオン「良いじゃねえか、どうせ暇だろ?」

修斗「暇じゃありません、今もこうして外から怪物やあの時の無法者のような輩がやってこないか警戒しています」

修斗は常に外を見渡せる入り口付近に座っていた。そして無法者の輩と言うのは恐らく前に襲撃してきた明日香達のことなのだろう。

リオン「外にでりゃあここで見てるより怪物とかが来てるかどうか分かりやすいだろ?」

修斗「こう言う時は頭が回るのですね…ですが断ります、その場合不意打ちされるリスクが高まります」

リオン「なあそんなこと言わずに頼むよ修斗〜お願いだよ〜30分だけで良いからさ〜頼むよ〜なあなあ」

リオンが修斗に纏わりつく。

修斗「あー鬱陶しいですね!分かりましたよ!」

修斗は根負けしたのかはたまた鬱陶しかったからかリオンに付き合うことにした。

リオン「よっしゃっ!流石修斗だ!」

修斗「全く…貴方にそんな近くでギャーギャー騒がれたら集中できません!30分だけですよ!」

リオン「分かってるって〜」

修斗「はぁ…」

こうして二人は外に出ていってしまった。

グレイ「相変わらず仲良しだね、あの二人は」

真鈴「昔っからずっとあんな調子なんだぜな」

真鈴は彼らが中学時代ほどからあのようだったことを思い出した。もう何年も経っているが二人の関係は全く変わっていない。

エレン「外にいて大丈夫かな?」

真鈴「まあ…あの二人だったらなんかあっても大丈夫じゃないかぜ?」

その頃一方外に出たリオン達は…

リオン「よし!それじゃあ・・・何するか?」

修斗「何も考えずに出てきたんですか?殴りますよ?」

リオン「しょうがねえだろ~暇だったからとりあえず外に出てきたんだし・・・」

修斗「そうですか、殴らせてください」

リオン「そんなに俺のこと殴りたいのかよ!?」

修斗「はい」

修斗が即答する。

リオン「ええ…そういわれてもな~そうだ!そんなに俺のこと殴りたいなら模擬戦・・・」

修斗「嫌です」

修斗はリオンが言い終わる前に答えた。

リオン「はやっ!?」

修斗「なぜあなたと模擬戦などしなければならないんですか?無駄に体力を使うだけですし怪我をする恐れもあります。絶対にお断りです」

彼らが言う模擬戦とは学園の授業の一つとして行われている、お互いの能力や才能を活かして戦う一種の戦闘訓練のようなものだ。この訓練を通してお互いに才能などを磨き合うのが目的・・・らしい。(だが実はこれは学園の副校長の趣味の延長線上である)

リオン「そんなこと言わずにさ~」

修斗「断ります」

リオン(くそ~こうなったら・・・)

リオン「そんなこと言って・・・修斗、お前本当は俺に負けるのが怖いんだろ?」

修斗「は?」

リオン「そうだよな~なんせ俺は主人公で最強だし、挑んだって俺には勝てねえもんな~俺に敵わないなんて分かったらお前のプライドは傷ついちまうもんな~」

リオンはなかなか首を縦に振らない修斗に対しやすい挑発で彼を釣ろうとする。

リオン(どうだ!?)

修斗「・・・」

それに修斗は・・・

修斗「馬鹿なことを・・・私があなたに負けるはずないでしょう?」

リオン(かかったー!)

見事にかかった。

修斗「いいでしょう、すぐにでも自信満々のあなたのその鼻っ柱をへし折ってやります」

リオン「へへっ!めちゃくちゃやる気じゃねえか!いいぜ!かかって来いよ!」

修斗は刀を引き抜き、リオンもこぶしを構えた。

本来なら怪我をしないようにグローブや竹刀を使用するのだが・・・二人には関係ないようだ

修斗「!」

ヒュン!

リオン「うおっ!」

修斗は問答無用でリオンに切りかかった。

リオン「あぶねえ!でもそんなんじゃ俺には当たらな・・・」

ブン!

リオン「ちょっ!」

リオンは再び横に振るってきた修斗の刀を上半身を後ろにそらして回避する。

リオン「おい!最後までしゃべらせろよ!」

修斗「問答無用です」

リオン「ああそうかよ!だったらこっちも・・・エンチャント!」

リオンは能力を使用する。

リオン「おらぁ!」

リオンは修斗にパンチを繰り出す。

修斗「ふっ!」

修斗はそれを最低限の動きで回避する。

リオン「まだまだ!」

リオンは続いて回し蹴りを繰り出すが・・・

修斗「!」

修斗はそれをかがんで回避し・・・

ガッ!

リオン「っ!」

足払いを仕掛けリオンは体制を崩し地面に倒れる。

修斗「終わりです!」

リオン「なんの!」

修斗「!?」

修斗は刀を振り下ろそうとしたがリオンは手を頭の両脇に回し、飛び起きる要領で修斗に両足で蹴りを繰り出す。

修斗「くっ!」

修斗はそれを咄嗟に刀を使って防御するが、大きく後ろへと後退させられる。

リオン「よっ!と・・・なかなかやるじゃねえか、修斗!今のは決まったと思ったんだけどよ」

リオンは立ち上がって体制を立て直す。

修斗「この程度、どうということはありません」

リオン「そうかよ・・・それじゃあこっちも・・・こいつを使わせてもらうぜ!」

リオンは腰に着けていたナイフを引き抜く。

リオン「行くぜ!」

修斗「望むところです!」

リオンは地面を蹴って修斗に突進する。

修斗もリオンと同様の行動をした。

リオン「おらぁ!」

修斗「ふっ!」

ガキィン!

リオンのナイフと修斗の刀がぶつかり合い火花を散らす。

ギリギリと両者の刃が音を立て、睨み合う。

リオン「っ!やっぱり・・・お前との勝負は最高だな!」

修斗「ふん・・・何をいまさら」

その時一瞬・・・

リオン(ん?いまなんか・・・)

視界の端に映る茂みで何かが光った気がした、そして・・・

パン!

乾いた音とともに何かが飛んでくる。

リオンの並外れた動体視力はそれをとらえることができた、それは・・・

リオン(!?)

一発の弾丸だった。

リオン「あぶねえ!!!」

修斗「っ!?」

リオンは修斗を押し返し、銃弾をギリギリで回避する。

修斗「誰だ!」

修斗はすぐさま銃弾が飛んできた方向に刀を構える。

「おい!ちゃんと狙えって言っただろ!」

「狙っただろ!だけど避けられたんだよ!」

「クソッ!」

先ほど銃弾が飛んできた茂みから声が聞こえ二人の男子生徒が出てくる。

一人の手には拳銃が、もう一人の手にはバットが握られていた。

おそらくは彼らもどこかの寮の生徒だろう。

リオン「おい!あぶねえだろ!当たったらどうすんだ!!!」

拳銃を持った生徒「うっうるせえ!いいかお前ら!死にたくなかったら水と食料を黙って渡せ!」

リオン「おいまたかよ!?」

修斗「凝りもせず・・・あなたたち明日香さん達の仲間ですか?」

拳銃を持った生徒「あっ明日香?誰のことだ?」

修斗「ふむ・・・彼女たちが仲間を引き連れてきたかと思いましたが違いましたか・・・」

男子生徒の様子を見て、修斗は彼が明日香達のことは本当に知らないのだと感じた。

リオン「なんでこんなことすんだよ!まずは話し合おうぜ!」

リオンは何とか話し合いの場に持ち込もうとするが…

拳銃を持った生徒は拳銃をリオンに向ける。

リオン「ッ!」

拳銃を持った生徒「話し合ってる暇なんてねえんだよ!水と食料が手に入らないと・・・俺たちが殺されちまうんだよ!」

リオン「殺される!?どういうことだよ!?」

リオンはその言葉の意味を尋ねるが…

拳銃を持った生徒「うるせえ!いいから黙って俺たちに水と食料を渡せ!」

どうやら彼らは話し合うつもりはさらさらないようだ。

修斗「いいでしょう・・・」

修斗はそのことを理解したのか一歩前に出る。

リオン「修斗!?」

修斗「あなたたちのような輩に渡すものは何一つありません。お引き取りください。そうなさらないのならば・・・」

拳銃を持った生徒「ッ!」

修斗は刀を男子生徒たちに向け・・・

修斗「力ずくであなたたちを追い返します!」

そう宣言した。

リオン「そういうことだ!」

リオンも臨戦態勢をとる!

バットを持った生徒「言っただろ?お前ら!出てこい!」

バットを持った生徒がそう叫ぶと、茂みから何人もの武器を持った生徒たちが出てくる。

バットを持った生徒「死んでも恨むなよ?」

修斗「望むところです・・・行きますよ!リオンさん!」

リオン「おう!」

二人は生徒達に向かって駆け出す。

バットを持った生徒「テメェら!やっちまえ!!!」

彼の号令で武器を持った生徒達も一斉に動き出しリオン達に襲いかかる。

「オラァ!!!」

一人の鉄パイプを持った生徒がリオンにそれを振り下ろす!

リオン「!」

リオンはそれを回避し…

リオン「ッ!」

ドゴッ!

「かはっ」

腹部に強烈なカウンターパンチを喰らわせる。

「テメェ!!おぶっ!?」

背後からもう一人の生徒が攻撃を仕掛けようとするが、リオンは振り返ると同時にその生徒の顔面にパンチを繰り出した。

二人の生徒は地面に倒れる。

リオン「舐めんじゃねえ!!!」

一方修斗は…

修斗「ふっ!」

ガキンッ!

ナタを持った生徒が切り掛かってきたが、その一撃を刀で容易く受け止める。

修斗「甘い!」

「!?」

修斗は生徒のナタを弾き飛ばす。

修斗「これで…」

「ホアチャァ!!!」

修斗「!?」

修斗が刀を振り下ろそうとした瞬間、修斗の刀に何かが絡みつきそれを阻止した。

見ると一人の中華服を着てヌンチャクを持った生徒が修斗の刀にヌンチャクを絡みつかせていた。

「そうはさせないよ!」

「ナイスだ!へへっ…ボコボコにしてやる!」

先程ナタを弾かれた生徒はナタを拾わず、修斗に殴りかかろうとするが…

修斗「はぁ!!!」

「なあ!?」

修斗はその細い身体からは想像もできない程の力でそのまま刀を振り下ろす。その生徒は絡ませたヌンチャクごと引っ張られそして…

「あいやぁ!?」

「うお!?」

向かってくる生徒へ投げ飛ばされ、二人は激突して地面に倒れる。

修斗「その程度では私は倒せませんよ」

「くそっ!なんて奴らだ…」

他の生徒達は一瞬たじろぐが…

バットを持った生徒「怯むな!相手はたった二人だ!一斉にやっちまえ」

「おお!!!」

バットを持った生徒の言葉で戦意を取り戻す。

リオン「上等だ!どんどんかかってこい!一人残らずぶっ飛ばしてやるぜ!」

修斗「手加減はしませんよ!」

生徒達は再び二人に襲いかかるが…

リオン「おらぁ!!!」

修斗「はぁっ!」

「うっ!」

「ぐあっ!?」

二人は鬼神の如き勢いで生徒達を返り討ちにしていく。

バットを持った生徒「何手間取ってやがる!おい!」

拳銃を持った生徒「分かってる!」

リオン・修斗「!」

二人は拳銃を持った生徒がこちらに銃を向けているのに気づく。

拳銃を持った生徒「死にやがれ!」

その生徒が拳銃を撃とうとした瞬間!

バーン!

拳銃を持った生徒「うっ!」

重い銃声が響き、一発の銃弾が生徒の拳銃を弾き飛ばす。

リオンと修斗が銃弾が飛んできた方を見る、そこには…

真鈴「援護するんだぜ!」

寮の2階の窓からスナイパーライフルを構えた真鈴がいた!

リオン・修斗「真鈴!」「真鈴さん!」

(今だ!)「うおぉぉぉ!」

リオン「!?」

二人の意識が真鈴に向いた瞬間に一人の生徒がリオンに攻撃を仕掛ける。

リオン「くっ!」

リオンが咄嗟に防ごうとした時

「させない!」

「ぐおっ!?」

突如何者かに右頬を殴打され地面に倒れる。

リオン「グレイ!」

助けに入ったのはグレイだった。

グレイ「大丈夫かい!?リオンくん!」

リオン「助かったぜ!」

グレイ「外が騒がしいから何事かと思ったらまさかこんなことになっているなんてね…僕も一緒に戦うよ!」

どうやら真鈴とグレイは外の騒ぎを聞きつけ助けにきてくれたようだ。

修斗「助かります、それでは…参りましょうか!」

グレイ「うん!」

リオン「いくぜ!」

三人は生徒達に突っ込んでいく。

「くっくそ!うあぁぁぁ!!!」

一人生徒がナイフを持ってグレイに向かってくるが…

グレイ「アイシクルブレード!」

グレイは能力を使用し氷の剣を作り出し…

グレイ「そこ!」

「あっ!」

ナイフを弾き飛ばした!

「おらぁ!」

その時グレイの横からバールのようなものを持った人物がグレイに襲いかかるが…

グレイ「アイシクルシールド!」

グレイは氷の盾を展開しそれを防いだ!そして…

グレイ「はあっ!」

「ぐあっ!」

グレイは氷の盾でバールのようなものを弾き、氷の剣で生徒に攻撃した。

その生徒は地面に倒れる。

「ひぃ!」

グレイ「安心して、峰打ちだよ、それで…まだやるかい?」

グレイは先程のナイフを持っていた生徒に刃を向ける。

「うっうわぁぁぁ!!!」

その生徒は戦意喪失し逃げ出した。

グレイ(良かった…あまり怪我させたくはないからね)

グレイは生徒が逃げ出してくれたことに内心ホッとした。

リオン「喰らえ!」

修斗「!」

その頃修斗達も先程の様に襲ってくる生徒達を返り討ちにしていく。

また真鈴は二人の死角から襲いかかる生徒の武器を的確に打ち抜き、戦う力を失わせていく。

グレイと真鈴の協力もあり半数以上の生徒がいつのまにか地面に倒れていた。

バットを持った生徒「くそ!なんなんだよこいつら!?バケモンか…?」

バットを持った生徒(こうなったら…)

彼は近くにいた坊主頭の男子生徒にアイコンタクトを送る。

その生徒はコクっと頷く。

バットを持った生徒(よし…)

リオン「ん?」

バットを持った生徒「うおぉぉぉ!!!オラァ!!!」

バットを持った生徒はリオンに向かって突進していき、バットで殴りかかる。

しかしその大振りな攻撃はリオンに最も簡単に回避され、バットは空を切る。

リオン「遅え!」

リオンはその生徒の顔面にパンチをお見舞いする!

バットを持った生徒「ぐっ…」

バットを持った生徒はよろめく。

リオン「もう一発!」

リオンがその生徒にもう一撃与えようとしたその時…

バットを持った生徒(ニヤッ)「……今だ!やれ!」

リオン「なっ!?」

いつの間にか近くに来ていた坊主頭の生徒はリオンに向かって両腕を突き出す。

彼が両腕を突き出すと同時にリオンの動きがピタリと止まる。

リオン(体が…動かねえ!?)

リオンは金縛りにあったかの様に身動きが何一つできなくなる。

修斗「リオンさん!」

修斗(まずい!あれは恐らくあの生徒の能力!)

坊主頭の生徒は能力者であり恐らく両腕を対象に向かって突き出すことで、対象の動きを封じる能力を持っている…それが修斗の見解だった。

グレイ「リオンくん!今助ける!」

グレイはリオンの方へ駆け出すが…

拳銃を持った生徒「させるか!」

グレイ「はっ!?」

焦りからかグレイは先程真鈴の狙撃によって拳銃を弾かれた生徒が、その拳銃を拾い直し自分に向けていることに気づかなかった…

拳銃を持った生徒「っ!くらえ!」

バン!

乾いた発砲音が響き弾丸が放たれる…放たれた弾丸は…

グレイ「ッ!」

グレイの左肩に命中した。

グレイ「ぐうっ!!」

グレイは左肩を押さえて膝をつく。

修斗「グレイさん!」

修斗はグレイを助けようとするが…

「行かせねえぞ!」

修斗「ッ!?」

他の生徒に道を阻まれる。

リオン「グレイ…!」

バットを持った生徒「へへっ…さっきはよくもやってくれたな」

バットを持った生徒はバットを構え直す。

リオン「ッ!」

リオンはなんとか体を動かそうとするがやはりピクリとも動かない。

真鈴「リオン!」

修斗「リオンさん!ッ!どけっ!」

修斗はなんとかリオンの方に向かおうとするが、修斗と対峙する生徒は意地でも修斗を足止めする。

真鈴「くっ!」

真鈴はリオンに能力をかけている生徒へと照準を向ける。

真鈴「う…」

しかし真鈴は撃つのを躊躇う、リオンを助けるためには能力を使っているあの生徒かそれかもう一人のバットを持った生徒を撃つしかない。もう一人の生徒のバットを撃って弾いてもあまり意味はないのだ。しかし真鈴撃つことができない…人を撃つことは許されないと言うこと…それは学校で耳にタコが出来るくらい聞かされたことでもあり、そもそも常識だ、怪物を撃つのとは訳が違う。彼女はそれを良く理解していた…故に引き金を引けないのだ…いや…そもそもそんなことを抜きにしても本当は臆病な彼女には人を撃つなどそんな大層なことはできないのだ…そんな度胸など持ち合わせてはいない…ましてや同じ学校の生徒を撃てるはずがなかった。

真鈴(うっ撃つの?人を…それに同じ学校の生徒…そっそんなこと私には…でも…あのままじゃリオンが!)

真鈴は葛藤する…しかしその間にもバットを持った生徒はリオンに近づいていく。

バットを持った生徒「お返しだ…」

生徒がバットを振り上げる…

真鈴「ッ!」

バットを持った生徒「くたばりやがれえぇぇぇッッッ!!!」

その生徒がバットを振り下ろそうとしたその時!

真鈴「うあぁぁぁぁ!!!」

真鈴は…引き金を引いた…

バーン!

放たれた弾丸は坊主頭の生徒の左腕に直撃した…

坊主頭の生徒「あ”あ”あ”あ”ぁぁぁ!!!」

坊主頭の生徒が悲鳴をあげ撃たれた腕をもう片方の腕で抑える。

リオン「!」

それと同時に能力が途切れる!

バットを持った生徒「な!?」

リオンは体が動く様になった瞬間、その生徒の攻撃をすんでのところで体を逸らし回避する!そして…

バットを持った生徒「ぶっ!?」

リオンはバットを持った生徒の顎に強烈な膝蹴りを繰り出す!

その生徒は脳震盪を起こしたのか地面に卒倒した。

拳銃を持った生徒「!?くそ!!死ねぇぇぇ!!!」

拳銃を持った生徒はその光景を目の当たりにし、グレイを殺そうと拳銃を構えるが。

真鈴「!」

拳銃を持った生徒「!ぐあ”あ”あ”ぁぁぁッッッ!!!」

真鈴は再び発砲し今度は拳銃を持った生徒の右腕を撃ち抜いた。

あまりの痛みにその生徒は拳銃を落とし、腕を抑えて悶絶する。

真鈴「はぁ…はぁ…はぁ…」

修斗「グレイさん!」

いつの間にか道を塞いでいた生徒を倒した修斗がグレイの側に駆け寄る。

修斗「大丈夫ですか!?」

グレイ「だっ大丈夫…動けないほどじゃない…」

グレイは肩を抑えて立ち上がる。

修斗「無理はしないでください…それで…まだやりますか?」

修斗は残り数人になった生徒達に振り返り刀を構える

「ひっ!ひぃ!逃げろ!逃げろー!!!」

生徒達はリーダー格の二人がやられたからか…はたまた勝てないと判断したからか倒れた者達を引き摺って逃げ出した。

拳銃を持った生徒「おい…待って…俺を置いてくな!」

拳銃を持ったいた男子生徒は置いて行かれてしまう。

拳銃を持った生徒「ふっふざけんなよ…ヒッ!」

拳銃を持った生徒が逃げ出した仲間達から振り返るとそこには冷酷な表情をした修斗が立っていた。

その生徒は地面に落とした拳銃を拾おうとするが、それよりも早く修斗が拳銃を遠くに蹴り飛ばし、そして生徒に刀を向ける。

拳銃を持った生徒「あっあっ…」

男子生徒は修斗の余りの気迫に声がうまく出ない…

そして修斗の口からは思っても見なかった言葉が発せられる。

修斗「…残念ですが、貴方にはここで死んでいただきます」

拳銃を持った生徒「!?」

リオン・グレイ「なっ!?」

その言葉に男子生徒だけではなくリオンとグレイも驚愕する。

リオン「おい!何言ってんだよ修斗!?」

グレイ「修斗くん!?」

拳銃を持った生徒「おっお願いだ!お前たちを襲ったことは謝る!本当に悪かった!もう二度とこんなことしない!お前達のためになんでもする!だっだから!いっ命だけは…命だけは!!!」

男子生徒は必死に命乞いをする。しかし…

修斗「何を今更命乞いなど…もう遅いですよ」

修斗は聞く耳を持たない、彼は刀を振り上げる。

拳銃を持った生徒「やっやめ…」

修斗「貴方がグレイさんを撃った時点で…もうとっくに…そのラインは超えてしまっているのですから」

拳銃を持った生徒「うわああぁぁぁぁ!!!」

修斗は刀を振り下ろした…

ガキィン!

拳銃を持った生徒「!?」

しかしその刃は何者かの手によって防がれた。それは…

修斗「ッ!何をしているんですか!?リオンさん!」

リオンだった。

リオン「それは…こっちのセリフだろうが!!!」

リオンは修斗を押し返す。

修斗「ぐっ!」

リオン「お前…何考えてんだよ!!!本当に殺そうとするなんて!どうかしちまったのか!?」

修斗「彼は私達を襲い、グレイさんを撃ったんですよ!」

リオン「だからって殺す必要はねえだろ!」

修斗「いえ、彼はここで殺さなければなりません!ここで見逃してしまえば必ずまた襲ってきます!次はもっと狡猾な手段を使って!そうなれば今度は誰かが死ぬかもしれないんですよ!?貴方はその責任が取れるのですか!!」

リオン「そうとは限らねえだろ!こいつは反省してる!もう襲ってなんて来ねえ!」

修斗「それは貴方の希望的観測に過ぎません!」

リオン「それはお前もだろうが!」

修斗「っ!」

予想だにしなかったリオンの反論に修斗は驚く。

リオン「確かにこいつが反省してるかなんて分からねえ…それにまた襲ってこないかも…だけどよ…それだったら…こいつを信じてやろうぜ!こいつはもうこんなことしないって!お前は同じ学校の奴のことを信じてやれねえのかよ!?」

修斗は一瞬沈黙する…リオンは一瞬修斗がわかってくれたのだと思った…しかし

修斗「…私だって信じたいですよ…ですが!もしもそうやって信じて裏切られたらどうするんですか?もしもそう信じたせいで誰かが犠牲になったら…!」

リオン「だからそれは…!」

修斗「だったら!」

リオン「!」

修斗は刀を構える。

修斗「私はたとえこの手を汚すことになっても!将来人殺しのレッテルを貼られるとしても!皆さんを守るために最も確実な手段を執る!!!それだけです!!!」

リオン「ぐっ!」

修斗の覚悟はどうやらもう決まっているようだ。

修斗「退いてください…退かないと言うのなら…貴方であっても容赦しません!リオンさん!!!」

リオン「上等だ…だったら俺も…お前をぶっ飛ばしてでも止めてやるよ!修斗!!!」

修斗・リオン「うおおおぉぉぉ!!!」

二人がぶつかり合おうとしたその時!

「やめろ!!!」

修斗・リオン「っ!?」

一つの声が響いた。二人は声のした方を振り向くそこには…霊華に支えられながら立っているレオがいた。

レオ「お前たち武器を下せ」

修斗「兄上様、ですが!?」

レオ「いいから武器を下ろすんだ!!!」

レオが声を荒げる。

修斗「ッ!…」

修斗は不服そうに刀を下ろす。リオンもナイフをしまった。

レオ「おい、お前」

拳銃を持った生徒「ひっひい!」

レオ「俺の気が変わらないうちにさっさと失せろ、そして二度とここに近づくな、分かったな?」

拳銃を持った生徒「は?えっあ…はっはい!すみませんでしたぁぁぁぁ!!!」

男子生徒はそう言って全速力で逃げていった。そしてそれと同時に…

アリシア「お兄様!」

アリシアが姿を現した。

そしてその後ろから光達も姿を現す。

光「!?グレイ!」

光は負傷したグレイを見つけるや否やすぐに駆け寄る。

光「大丈夫!?貴方左肩が…」

グレイ「これくらい大丈夫…いてて…」

グレイは痛みで顔を歪ませる。

光「大丈夫な訳ないでしょ!?直ぐに穂乃果に見てもらうわよ!」

光はグレイに肩を貸し医務室へと向かって言った。

アリシア「一体何があったの!?銃声が聞こえたから急いで戻ってきたら途中で逃げてくる奴らに会うわグレイは負傷してるわ…訳が分からないわ!」

レオ「話は…寮に戻ってからにしよう、分かったな?」

レオはリオンと修斗の方を見る。

リオン「おう」

修斗「…」

彼らは寮に戻り、リオンはあったことをあらかた説明する。修斗はその間一切口を開かなかった。

大体の話が終わった後レオは修斗に詰め寄る。

レオ「本当に殺そうとするなんて…何を考えているんだ!!修斗!!!」

修斗「私はただ!兄上様達を守るために!」

レオ「だからと言って殺そうとするなんて、どうかしてるぞ!!」

修斗「私は最善の策を執ろうとしただけです!!」

レオ「同じ学園の生徒を手にかけることが最善だと?ふざけるな!!」

レオの怒声が響く、もしもレオが霊華に支えられていないと立っていられない状態ではなかったら今直ぐにでも修斗に掴みかかっていただろう…

しかし修斗もそれに何も臆することなく反論する。

修斗「ではどうしろと!?あのままあの生徒をただ見逃せと?命や物資を狙われた挙句グレイさんを負傷させられたにも関わらず?何もするなと?そんなのおかしいではないですか!?」

レオ「それで殺していい理由にはならないだろ!」

修斗「それだけではありません!私達がそんな甘い対応すれば、彼らはそれに漬け込んで必ずまた襲ってきますよ!」

レオ「そうとは限らないと言っているだろ!お前には信じてやると言う考えはないのか!?」

修斗「兄上様こそ!信じてばかりで人を疑うと言うことを考えたことはないんですか!?裏切られた時のことを考えないほどお気楽な考えしかないのですか!!!」

レオ「なんだと!!!」

光「ちょっとあんた達…」

フレア「ううっ…」

二人の口論はヒートアップしていく。この場にいる全員がほとんど二人の様子に驚き口を挟めないでいた。そもそも二人がここまで感情的になっているのを見たのは初めてだったのだ。

レオはともかくいつもほとんど無表情で感情を全く表に出さない修斗までもが感情をここまで露わにしているのだ。少し前に修斗が美春を叱責したことはあったがこれほどまでではなかった。親友であるリオンどころか、幼い頃から一緒に育ったフレアやアリシアさえこんな様子の修斗を見たことはなかった。

フレアは初めて見る二人の様子に怯えて、アリシアの服の袖をぎゅと握っていた。

修斗「もういいです!これ以上話すことなど何もありません!!!」

痺れを切らした修斗はそう言い捨て自分の部屋へと戻っていってしまった…

レオ「待て!修斗!まだ話は…くそ!」

バン!

レオはテーブルに拳を叩きつける。

フレア「ひうっ!」

フレアの体がそれと同時にビクッと震える。

フレア「ひっく…お兄様達…怖い…」

レオ(ハッ!)

フレアは怯えきり遂には泣き出してしまった。

レオもそんな様子のフレアを見て我に帰る。

アリシア「フレア…部屋に戻りましょ、少しすれば二人ともいつも通りに戻るから大丈夫よ、ね?」

アリシアはフレアを連れて慰めながら部屋に戻っていった。

レオ「…ッ!部屋に戻る、少し…頭を冷やしてくる」

レオもそう言って霊華に連れられ部屋に戻っていってしまった。

しばらくの間沈黙が訪れる…

田中「…なっなあ?どうすんだよこの状況…」

沈黙に耐えきれなかった田中がそう発言した。

光「どうするも何も…どうもできないわよ…」

光はどうしようもないと言ったそぶりを見せる。

エレン「まさかこんなことになっちゃうなんて…」

田中「修斗も悪いけど…会長だって何もあんなにキレることないよな」

美春「…レオにとって同級生や他の学年の生徒達は家族の次に大事なものです。例えどんな理由があったとしても、彼らを殺めようとすることは彼にとって許せないことなのだと思います」

美春の言葉を聞いて少し前に明日香達が乗り込んできた時のことを光達は思い出した。あの時レオは明日香から他の生徒達を殺めたと言う言葉を聞いた途端豹変したのだ。そのことからレオが他の生徒達のことをどれだけ大切にしているかは容易に想像できた。

田中「要は地雷てことだな…」

佐藤「…二人をあのままにしといて大丈夫なのかな?」

光「まあ大丈夫じゃない?」

光は楽観的に答えた。

エレン「いや…絶対大丈夫じゃないでしょ」

光「でもどうもできないわよ、こればっかりは二人の問題だし。私達が口を挟んだところで焼石に水でしょ?」

エレン「それはそうだけど…」

リオン「あー!めんどくせぇ!要は喧嘩したあいつらを仲直りさせればいいんだろ!」

美春「一応なにをするかだけ聞いてもいいですか?」

リオン「何って…二人とも一発ぶん殴ってから部屋から引き摺り出して仲直りさせる!」

美春「はぁ…そんなことだろうと思ってました」

リオンの答えに美春は呆れたようにそう言ったが、そんな美春とは打って変わって光は

光「アリね」

リオンの意見を肯定した。

エレン「いやいやいや!流石になし!絶対なし!それただ火に油注ぐだけでしょ!」

エレンがすかさずツッコむ。

光「やってみなきゃ分からないでしょ?」

エレン「やってみなくても結果は見えてるよ!て言うかさっき自分達が口を出したところで焼石に水って自分で言ってたじゃん!」

美春「光…リオンの馬鹿がうつったんですか?」

光「ちょっと!馬鹿にしないでよ!時には強引な手段を取る必要もあるのよ、それに私達はともかくこいつは一応修斗の親友だし」

光がリオンの肩をポンと叩く。

エレン「分からなくはないけどするとしてももう少し後でしょ…」

光「仲直りは早い方がいいでしょ?」

エレン「早すぎるよ!超特急だよ!」

佐藤「さっさすがに少し待った方がいいんじゃない?二人とも気持ちの整理をつける時間は必要だろうし…」

美春「佐藤の言う通りです」

流石に光以外の者達は反対するがリオンは納得できないようで…

リオン「むー…でもやっぱり今直ぐにでもあいつらは一発ぶん殴らねえと気がすまねえ!」

田中「おいやめとけって…余計に事態が悪化するだけだろ」

リオン「大丈夫なんとかなるって!」

リオンが静止を振り切って二人の部屋に行こうとしたその時…

リオン「それじゃあ行ってく…のわあぁぁぁ!?」

突如何かがリオンに飛びついた。

リオンは反応できずそのまま床に倒れる。

リオン「イッタタ…一体なんだよ?っ…て…」

飛びついてきたのは…

「うう…」

リオン「まっ真鈴!?」

真鈴だった。

真鈴「リオン…うう…うわーん!!」

真鈴はリオンに抱きついたまま泣き出してしまう…

リオン「ええ!?その…!えっと!おおお落ち着け!」

リオンは真鈴が急に泣き出した理由がわからず混乱してしまう。

リオンがあたふたしている間に真鈴は絞り出すように声を出した。

真鈴「わたし…ひっ…ひとを…ヒグッ…人を撃って…どうしよう…わたし…捕まっちゃうのかな…」

リオン「いっいや!大丈夫だって!俺を助けるために仕方ないことだったし!それに別に殺しちまった訳じゃねえんだし!ほら!あれだ!あの…せ…せい…」

光「正当防衛?」

リオン「そうそれ!正当防衛!だから大丈夫だって!」

正直なところ今回の場合正当防衛は成り立つのかは不明だと光は思ったが真鈴を不安にさせないため言わないことにした。

真鈴「でも…うう…」

しかし真鈴は人を撃ってしまった後悔や不安からかなかなか泣き止まなかった。

美春「…今は皆少し休む必要がありそうですね…あの二人をどうにかするのは後にしましょう。リオンも暫くは真鈴の側にいてあげてください」

リオン「おっおう…」

美春「皆さんもそれでいいですよね」

田中「正直俺は1秒でも早く休みたい」

光「まあ今はそれしかないわね」

美春「決まりですね」

こうして光達は汲んできた水を保管し、自室に戻り休むことにした。美春は見張りも兼ねてエントランスで休むことにした。そして真鈴はあれから暫くの間はあの調子だったが、リオンに慰められ、夕方近くには落ち着いて泣き疲れたのか眠ってしまったらしい。

そして夕食の時間になった。

そこにレオと修斗の姿はなかった。

光「まあ…あいつらはいないわよね…真鈴は?」

リオン「落ち着いた後は泣き疲れたのか俺の部屋で寝ちまった…」

光「まあ落ち着いたようなら良かったわ」

美春「ロザリアは…まだ目を覚ましませんか?」

穂乃果「はい…そろそろ目を覚ましてもおかしくはないとは思うんですが…」

ロザリアも未だに目を覚ましてはいないらしい。

美春「…分かりました」

美春はそれ以上は何も言わなかった。

エレン「肩は大丈夫なの?」

エレンが肩に包帯を巻いたグレイに尋ねる。

グレイ「ああ、大丈夫だよ。幸いにも骨に命中はしてなかったみたいだから。」

光「だからて言って無理に動かしちゃだめよ?今日は私が食べさせてあげるから」

グレイ「えっ!光が!?」

光「なによ?嫌なの?」

グレイ「嫌じゃなくて…その…恥ずかしいって言うか…」

光「いいでしょ別に、恋人同士なんだし」

グレイ「でもみんなの前だし…」

光「つべこべ言わないの!私だって…恥ずかしくない訳じゃないんだから…///」

気まずい空気が流れる。

アリシア「ゴホン!とりあえず食事にしましょう」

光・グレイ「そっそうね」「そうだね」

今日の食事は少し前にとった魚を焼いたものだ。腐らないようグレイが能力で凍らせてクーラボックスに保管しておいたのだ。

皆今日あったことからかほとんど会話することなく食事を進める。

暫くしてフレアがポツリとこう呟いた。

フレア「お兄様達…ずっと喧嘩したままなのかな…」

アリシア「そんなことないわ、きっと直ぐに仲直りするわよ」

アリシアはフレアを安心させるためそう答えた。

フレア「直ぐって…どれくらい?」

アリシア「え!?そっそうね…あっ明日にはもう仲直りしてるんじゃないかしら…」

フレア「本当に?」

アリシア「えっええ!本当よ!」

アリシア(多分あり得ないけど…フレアを不安にさせないためにもこう言うしかないわね…)

フレア「…うん…そうだよね、明日にはきっと仲直りしてるよね」

アリシアの心情を知ってか知らずか、フレアはそう言って笑顔になって見せた。

アリシアはその笑顔を見て、嘘をついたことに心が痛んだ。

光「実際そうなればいいんだけどね…レオの様子はどうなの?」

光が霊華に尋ねる。

霊華「ちょっと前に生徒に撃たれた時みたいになってる。あの時とは少し違うけど一人にしてくれって感じ…」

光「なんとなくそうだと思ったわ。立ち直れればいいんだけど・・・それが難しそうだったら…」

リオン「一発ぶん殴る!」

エレン「だからそれはダメだって!」

エレンの高速のツッコミが炸裂した。

リオン「ちぇっ…」

リオンが露骨に残念そうな表情をした。

エレン(もしかしてただ殴りたいだけなのでは?)

光「…まああの馬鹿は放っておいて…」

エレン(あれ?ちょっと前まで光も賛同してなかったっけ!?)

エレンはそう心の中でツッコんだ。

光「また前みたいにあんたがあいつを支えてあげてね?」

霊華「べっ別に・・・言われなくても・・・そうするわよ・・・///」

・・・

霊華「それじゃあレオの分の食事は私が持ってくわね」

光「あら?珍しいわね、ちょっと前までそんなこと絶対に自分からしたりしなかったのに」

霊華「いいでしょ別に!///レオには昨日助けてもらったりしたし…ちょっちょっとした恩返しよ!///」:

光「確かに、あんたが持って行ってあげた方があいつもうれしいでしょうしね。ふふ」

霊華「///」

光が霊華をからかい、霊華は顔を真っ赤にしてむすっとしてしまった。

アリシア「修斗の分は…私が持っていくわ」

美春「大丈夫ですか?もしよければ私が持っていきますが…」

美春はアリシアが修斗と顔を合わせるのは気まずいのではないかと思い気を利かせる。

アリシア「気持ちはありがたいけど大丈夫よ。それに…修斗の様子も見ておきたいしね」

美春「そうですか…分かりました」

エレン「それじゃあ今日はここらへんで解散にしよっか。明日のことは…まあ明日考えればいいよね?」

グレイ「それがいいね」

こうして皆自室へと戻っていった。

アリシアは修斗の部屋に訪れ食事を持ってきたことを伝えたが、修斗からの反応はなく、仕方なく食事をドアの前に置いていく旨を伝えて自室へと戻っていった。

そして…

霊華「レオ、夕飯、持ってきたわよ」

霊華は夕食を渡すため、レオの部屋を訪れていた。

彼は医務室ではなく自分の部屋にいたいと言ったため、霊華がここに連れて行ったのだ。

彼はベッドの上に座っていた。

レオ「霊華・・・すまない、ありがとう・・・今は少し食べる気が起きないからそこのテーブルにでも置いておいてくれ」

霊華「分かったわ」

霊華はレオが指したテーブルの上に食事を置いた。

レオ「・・・」

霊華「・・・その…大丈夫?」

レオ「あっああ…大丈夫・・・とは言えないな」

霊華「・・・」

レオ「なぜ俺は修斗にあんなことを言ってしまったんだ…感情が抑えられなかった…俺はただ・・・はぁ…」

レオは深いため息をついた。

レオ自身あの時自分がなぜあんな行動をとったかが不思議で仕方なかった、明日香たちの時もそうだった。なぜかは分からないが他の生徒たちの生死に関わることになると感情が抑えきれなくなってしまうのだ。

レオ「修斗は…もう俺に口をきいてはくれないだろうな…」

霊華「レオ・・・大丈夫、そんなことないわよ」

霊華はレオの傍に寄り添いそう言った。

レオ「霊華・・・だが・・・」

霊華「修斗は家族なんでしょ?だったら一回の喧嘩ぐらいで一生口を聞いてくれなくなることなんてないわよ。一回喧嘩したことをそこまで気にしてるの?」

レオ「・・・」

霊華「家族だって喧嘩することはあるのよ?ううん・・・家族だからこそ喧嘩だってするの」

レオは何も言わずに霊華の言葉に耳を傾ける。

霊華「家族相手だと友達とかとは違って、ずっと一緒にいたからこそ自分の思いや本音を直接言っちゃうこともあるでしょ?・・・まあ私は関係なく言っちゃうことはあるけど…」

霊華は自分がよく他の生徒と喧嘩をしてはレオに止められていたことを思い出した。

霊華「ともかく・・・それで喧嘩になることもよくあるのよ。私なんてお父さんと喧嘩することなんて日常茶飯事だし」

霊華の父親はよく言う頑固おやじだ。それゆえに霊華とは意見が合わないことが多く、喧嘩になることも多かった。

霊華「この前だってちょっとしたことで大喧嘩になっちゃってさ。でも少し経てば頭が冷えるのかどっちかが謝って大抵は仲直りするのよ。たまに・・・お互い意地はっちゃってなかなか仲直りしなくて、痺れを切らしたお母さんが私たち二人を正座させて説教して仲直りさせることもあるんだけど…ともかく家族だからこそ自分の思いとかがぶつかり合っちゃうことだって少なくはないのよ」

レオは何となく霊華の性格上そう言うことは少なくはないのではないかと思っていたが。やはり本人の口から聞くと意外だと感じた。

霊華「あなたの妹達だって喧嘩することはあるでしょ?」

レオ「確かに・・・ロザリアはともかく・・・アリシアとフレアはよく喧嘩するな・・・前にアリシアのプリンをフレアが食べてしまって喧嘩になったこともあったな」

霊華「でしょ?その時はどうしたの?」

レオ「そうだな…普段は当人同士で解決できるようあまり口出しはしないんだが、その時は確か・・・二人ともなかなか仲直りしなかったから、フレアにちゃんと自分がしてしまったことは謝るように言って、アリシアにも喧嘩の時に言いすぎてしまったと思っているなら謝らないと、と言って二人を仲直りさせたな」

霊華「だったらもう分かるでしょ?家族でも喧嘩することはあるの、どんな些細なことでもね。大切なのはちゃんと謝ることよ。自分が悪いと思うならなおさらね。謝るなら早い方がいいわ。早く謝らないと・・・お互いあやまるタイミングを見失って、ずっと仲直りできないままになっちゃうわよ?それでもいいの?」

レオ「・・・」

霊華「起きてしまったことをなかったことにすることはできない」

レオ「!」

霊華「大切なのは次からどうするか…これはあなたが言ったことよ」

レオ「・・・そうだな、起きたいつまでも後悔していても仕方がない。次気を付ければいいだけだ。今すべきことは…修斗にちゃんと謝ることだな」

レオは霊華の方に振り向く。

レオ「ありがとう霊華、君のおかげで決心がついた」

そして霊華に感謝を伝える。

霊華「どういたしまして」

レオ「それと・・・一つ頼みたいことがあるんだ」

霊華「なに?」

レオ「まだ一人で動くのは難しくてな・・・悪いが修斗のところまで連れて行ってくれないか?」

霊華「もちろんかまわないわよ」

レオ「ありがとう」

こうしてレオは霊華の肩を借り、修斗の部屋に向かった・・・

・・・

修斗は部屋の明かりもつけず真っ暗な自室の椅子に座り込んでいた。

兄上様(レオ)との口論の後、自室に戻ってきてからずっとそうしていた。明かりのない暗い部屋の方が落ち着くからだ。

途中でお嬢様(アリシア)が部屋を訪ねてきたが、とてもではないが彼女と顔を合わせようとは思えなかった。だから彼女の呼びかけにも答えずにいたのだ。

修斗は今日あった出来事を振り返っていた。

自分のしようとしたことは間違っていただろうか?・・・いや答えは決まっている。自分のしようとしたことは間違っているのだ。なぜなら兄上様の・・・レオの判断はいつも“正しい”のだから。

修斗は彼らに拾われてから今までずっとそう信じ続けてきた。主人に従う従者というのはそう言うものなのだ。

だが・・・もしそうだとすれば、自分の兄上様達を守りたいというこの思いさえ間違っていることになるのだろうか?確かに手段は強引なのかもしれない…しかしそんなことを言っている場合なのだろうか?甘い対応をし続ければ必ずそこに付け込まれる。人とはそういうものだ…こんな状況下ではなおさら・・・

だがその考えもきっと間違っているのだ。兄上様は私を否定した。私に間違っているとおっしゃった・・・兄上様はいつも正しい…だから・・・

トントン

修斗「!」

修斗がそんな考えを巡らせていると、不意に背後のドアをノックする音が響いた。

「修斗、いるか?」

ノックの後声が聞こえた。その声はよく知っている・・・声の主は…レオだ。

レオ「部屋に入ってもいいか?」

修斗「・・・」

修斗はなにも答えない。

レオ「・・・カギは…かかってないみたいだな・・・修斗…入るぞ」

レオがドアを開け霊華に支えられながら部屋に入ってくる。

修斗「…」

修斗は振り返らず、背を向け黙ったままだ。

レオ「修斗・・・ここに座ってもいいか?」

レオが近くの椅子を指す。

修斗「どうぞ」

修斗は無機質にそう答えた。

レオ「ありがとう」

レオは椅子に腰かける。

レオ「すまない霊華、少し席をはずしてはくれないか?一対一で話がしたいんだ」

霊華「分かったわ。それじゃあ・・・外で待ってるから」

霊華はそう言って部屋を出て行った。

修斗「何か御用ですか?」

霊華が出て行ってすぐに修斗が口を開いた。

レオ「修斗…すまなかった、あんなことを言って。あの時は少し・・・頭に血が昇っていたんだ」

修斗「謝る必要などありません、兄上様の判断はいつも…”正しい”のですから」

修斗のその回答は無機質のようで…少し不貞腐れているようにも感じた。

当たり前だろう、レオも冷静になって改めて分かったのだ。彼があんな行動をとった根本にある思いは自分たちを守りたいというものだ。

レオ(それなのに俺は…修斗を頭ごなしに否定してしまった・・・)

レオ「修斗…俺は正しくなんてないさ…いつも…間違えを繰り返している…何度も、何度も…」

修斗「…」

レオ「…修斗…お前がしようとしたことは決して正しいことじゃない…だがな…俺がしていることも正しい訳じゃないんだ。お前が俺たちを守るために…そして…自分が手を汚すことで他の誰かが手を汚さなくてもいいように…たとえそれが間違ったことだと分かっていても…そうしようとしたのは分かってる…お前は優しいからな」

修斗「…」

レオ「人生で何が正しくて…何が間違っているかなんて俺には分からない…いや誰にも分からないんだ…なにせ・・・明確な答えなんて存在しないんだ。ほらトロッコ問題と同じだ…どんな選択をとればよいかなんて明確な答えはないんだ。だから・・・」

修斗「何がおっしゃりたいんですか?」

なかなか結論を言わないレオに痺れを切らした修斗が単刀直入にそう聞いた。

レオ「ともかく、俺はお前を否定したい訳でも、間違っていると言いたい訳でもないんだ。俺は誰かを・・・増してや同じ学園の生徒を…殺したり傷つけたりなんかしたくない。そして…誰かがそうするのも見たくないんだ…これは正しいか正しくないかと言うことじゃない…そうだなこれは…ただの俺のわがままだ…だが!もしも…まだ俺のことを想ってくれているのなら…俺のわがままを…聞いてはくれないか?」

レオはそう言って修斗の方を見て頭を下げた。

修斗は少しの間無言だったが、やがて口を開いた。

修斗「…兄上様は甘すぎます、いつかその甘さに…必ずつけ込まれますよ?」

レオ「肝に銘じておく」

修斗「…分かりました…ですが一つだけ」

修斗はレオの方に振り返った。

修斗「私の使命は兄上様達をお守りすることです。もしも誰かの手によって兄上様達の命が脅かされた場合、もしくはその者によって危害が加えられそうな場合は…私は兄上様達を守るためにその者を斬ります。これは…私のわがままです」

レオ「!」

レオは驚いた。そして…驚いたのと同時にうれしくも感じた。修斗の口からわがままという言葉を聞いたのはこれが初めてだった。彼は家族となってから今まで一度もわがままなどいったことがなかったのだ。何かが欲しい、何かをしてもらいたいなど一度も・・・だからこそどんな形であれ、レオは修斗が自分にわがままを言ってくれたことがたまらなくうれしかった。

修斗「聞いていただけますよね?」

レオ「もちろんだ、覚えておく」

レオは微笑んだ。

レオ「それじゃあ俺は行くよ、そうだ!」

修斗「?」

レオ「お前が俺にわがままを言うのはこれが初めてだな、家族なら…わがままの一つぐらい言うものだからな!これからも遠慮なく言ってくれて構わないぞ!フレア程じゃなければな!」

修斗「ふっ…考えておきます」

修斗もレオと同様にほほ笑んだ。

こうしてこの日は幕を閉じた。夜は彼らの仲直りを祝ってか特に何か起きることは無かった…

9日目

光達はいつものようにエントランスに集まっていた。その中には未だに目を覚ましていないロザリア、それとレオと修斗の姿は見えず光は霊華に二人の様子を聞いたが「あの二人なら大丈夫よ」とだけ言われた。それから少しして二人は姿を現した。

レオ「おはよう。皆」

修斗「おはようございます、皆さん」

光「レオ!」

アリシア「修斗!」

皆が二人の方を注目する。

光「あんた達今日は来ないもんかと思ったわ」

美春「その様子だともう仲直りはしたようですね」

レオ「ああ」

フレア「すごい!お姉さまが言ったとおりだね!」

アリシア「だから言ったでしょ、明日にはもう仲直りしてるって」

アリシア(まさか本当にこんなに早く仲直りするとは思わなかった…)

レオ「すまなかったなフレア」

フレア「?」

レオ「昨日は俺たちのせいで怖い思いをさせてしまっただろ?」

フレア「お兄様たちは仲直りしてくれたし、気にしてないよ!」

フレアはそう言って笑顔を見せる。

レオ「そうか、それなら良かった」

リオン「いや~ほんとに良かったぜ!もしお前らがあのままだったら俺が一発ぶん殴らなきゃいけない所だったぜ!」

レオ「???なぜ???」

レオは本気で困惑する。

リオン「いやだってぶん殴った方が早く仲直りできるだろ?」

修斗「その理論はさっぱりわかりませんがほんとにそうならなくて良かったです」

リオン「だな!はっはっはっは!」

修斗「はぁ…」

リオンの笑い声が響き、修斗は溜息をつく。

いつもの光景だ。

田中「なあ…今思ったんだが…会長もう一人で動けるの?」

不意に田中がそんなことを言い出した。

穂乃果「ん?」

佐藤「そう言えば確かに…」

レオ「ああ、もう一人で歩く分には大丈夫だ。まだ戦うことや激しい運動はできないがな」

田中「アリシアちゃんの時も思ったんだけどよ、お前ら怪我治るの早すぎねえか?」

レオ「ッ!」

レオ(ギクッ!まずい!確かに普通の人間と比べてあからさまに治るのが早すぎるか!仮にも骨折してた訳だしな…しかしあの力のことを言う訳にはいかない…どうする?)

レオ「あ〜いや、それは…」

光「あっあれよね!あんた達は怪我が治るのが生まれつき凄く早いのよね!」

レオ「!そうだ!そうなんだ!」

レオ(ナイスだ!光)

レオは心の中で光にグッドサインを送る。

アリシア「そうよ、私達生まれつき怪我が治るのがすっごい早いのよ!そうよね?修斗!」

修斗「はい、その通りです」

アリシアは焦ったようにそう修斗に振ったが、修斗は顔色一つ変えずにそう答えた。

田中「そんなのあり得るのか?」

穂乃果「まあ、確かに生まれつき怪我の治りが早い人はいますね」

光「ほら!それにリオンだって怪我が直ぐ治るでしょ?」

リオンも確かにレオ達程ではないが怪我治りは確かに早かった。

田中「そんなもんか…」

田中は一応納得したようだ。

光「そうよ!それじゃあこの話は終わり!こいつらもいつもの調子に戻った訳だし。早く朝食にしましょ?あんたたちを待ってたからお腹すいたわ!」

レオ「そっそうだな!」

田中「?」

こうしてなんとか話を終わらせ全員で朝食をとり始める、昨日の夕食とは打って変わって雰囲気はとても明るいものとなっていた。

その後は今日の活動を話し合った。今日は昨日水を調達してきたため、食料調達のために釣りをすることになった。

釣りには光・リオン・真鈴・エレン・修斗の5人で行い、残りの者達は寮に残ることにした。(光は田中を連れてこうとしたが、田中は昨日の水の運搬による筋肉痛で腕が上がらなくなったため断念した)

釣りに向かう道中光は真鈴に声をかけた。

光「そういえばあんたももう大丈夫なの?」

真鈴「ん?ああ…まあな」

修斗「?真鈴さんに何かあったのですか?」

修斗はあの場にいなかったため昨日真鈴に何があったか知らなかった。

光「ええ、あんたが拗ねてる時にちょっと色々ね…」

光は説明するのも面倒だったので適当にそう答えた。

修斗「別に拗ねてはいませんが」

エレン(いや間違いなく拗ねてたでしょ…)

エレンはそう思ったが口には出さなかった。

真鈴「色々考えてみたけど、やっちまったことはどうにもならないんだぜ。いくら泣いてたってなかったことになるわけでもないし…それに、ああしたおかげでリオンやグレイを守れたわけだからそれでいいんだぜ、別にあいつらを殺しちまった訳でもないんだし、後はもうどうにでもなれってかんじだ」

真鈴は立ち直ったというよりも開き直ったような感じだと光は感じた。まあどちらにせよ真鈴がいつもの調子に戻ってはいるので問題はないかと光は楽観的に考えた。

リオン「なんかあっても俺がいるから大丈夫だ!」

光「まあ…あいつらがやり返しに来た時ぐらいは役に立てるでしょうね」

リオン「だろ?はっはっは!」

エレン(いやそれ遠回しに喧嘩以外では役に立たないって馬鹿にされてない?やっぱりリオンて能天気だよね…)

修斗「まあ、能天気なのはいいことですね」

エレン「今私の心読んだ!?」

修斗「?」

そんな会話をしながら前回釣りを行った場所に着いた光達は、たわいもない会話をしながら釣りを始めた…

光達が釣りに行ってから4時間ほどたった昼頃、彼女達は釣りから帰ってきた。

帰ってきた彼女達は今回の成果を披露した。

皆何匹化の魚を釣り上げてきたようだ・・・光を除いて・・・

美春「それで光は何匹釣りあげてきたんですか?」

光「え?いや~その~」

霊華「?どうしたのよ?そんなに渋って・・・もしかして…」

美春「まさか…」

光「・・・0よ!0!なんも釣れなかったわよ!なに!なんか文句あるの!?」

光は開き直るようにそう言った。

霊華「はぁ…」

美春「何となくそうだと思いました。銛突きの時も一匹も取れませんでしたし…やっぱり光は魚を獲ることは向いてないんじゃないですか?あの時もグレイが釣った分を分けてもらっていたんですよね?」

あの時はレオが撃たれたこともあってうやむやになってしまったので、今日は魚が獲れると豪語したばかりに、ここぞとばかりに光は美春に煽られる。

光「違うわよ!あの時はちゃんと釣れてたわよ!」

美春「そう言うことにしておいておきます」

光「む~!見てなさいよ!午後は絶っっっ対に魚を釣って見せるんだから!!!」

美春「はいはい」

光「ムキー!!!」

グレイ「あはは…」

レオ「はは…とりあえず昼食にしようか」

修斗「そうですね」

こうして皆で昼食をとり始める。今日の昼食は美春が獲れたての魚を刺身にしてくれた。

綺麗に盛り付けられた魚たちを見て思わず皆が驚嘆の声を上げた。

レオ「・・・すごいな」

アリシア「こんなの私達でもなかなかお目にかかれないわね…」

真鈴「獲れたてって言うのもあるけど、めちゃくちゃ美味いんだぜ!」

美春「ふふ、当然です」

美春はそう言ったが内心はとてもうれしく思っていた。

穂乃果「でも本当に凄いですね…どうしてこんなにお料理が上手なんですか?」

美春「家の家事全般は全て私がしていますから、料理も私がいつも作ってるので慣れているんです」

穂乃果「へぇ~そうだったんですね。うらやましいです、私は全然料理できないので・・・」

光「あんた調理実習で謎の黒い物体作り上げてたものね?」

穂乃果「あっあれはちょっと火加減を間違えただけなんです!」

光「どんな間違え方したらああなるのよ…」

どうやら穂乃果の料理の腕は絶望的なようだ。

リオン「あれなんか炭みたいな味がしたよな!」

レオ「あれを食べたのか!?」

リオン「?おう!捨てるのも勿体ねえしな!」

光「そっちの方が驚きなんだけど…」

リオン「?」

そんな話をしながらも昼食を済ませ、光達は再び釣りに向かう準備をする。

先ほども十分な数は釣ってきたが、海の中にも怪物がいる以上いつまで釣りが行えるかは分からない…なので魚を獲れるうちに獲っておこうという考えだった。余った分もグレイが凍らせるなり干物にするなりすればしばらくは持つ。

修斗「それでは行ってきます」

レオ「ああ、気をつけてな」

光「絶対に釣ってきてやるんだから!」

美春「期待しないで待っておきます」

光「今にみてなさいよ…絶対目にモノ見せてやるんだから!」

修斗「小競り合いはそれぐらいにして行きますよ…ん?」

修斗は入り口の方を見て何かに気づいた。

リオン「どうしたんだ?」

修斗「!なにかがこちらに近づいてきています!」

リオン「!」

リオンも修斗の見ている方を見ると確かにこちらに向かってくる何かが見えた。

レオ「なに!?まさか怪物か!?」

修斗「いえ…怪物ではありません…あれは…人?」

修斗が目を凝らしてみるとそれは怪物ではなく人間だった。

光「まさか…またあいつらが来たの!?」

リオン「でも…二人しか見えないぞ」

リオンはこちらに向かってくる人影が二つだと言うことに気づいた。

修斗「油断しないでください、あの時も最初は二人だけで残りの者達は隠れていたのですから」

リオン「まっ!もう一回来てもまたボコボコにするだけだ!」

アリシア「今回は私達もいるわ、たっぷり分からせてやりましょう?」

レオ「あまりやりすぎないようにな…」

そんな会話をしていると人影も近づいてくる。

修斗達も武器を手に取り警戒体制を取る…が…

アリシア「ねえ…あの二人・・・なんだか様子がおかしくない?」

真鈴「確かに…」

よく見ると人影の片方はもう片方の人影に支えられるようにしてこちらに向かってきていた。

リオン「怪我してんのか?あれ?」

レオ「………」

???「はぁはぁ!」

レオ「!まさか…あれは…」

皆「!?」

寮の入り口付近に来たことで

???「なんとか…着いたか」

その人影の正体が誰かわかった…

レオ「お前達は…!?」

それはよく知っている人物だった、特にレオやアリシア、フレアにおいては、その人物とは…

レオ「湊!?それに薫!?」

湊と薫だった。

二人ともかなりボロボロになっており、薫に至っては腹部が真っ赤に染まっていた。

湊「お前らがいて良かった…」

レオ「一体何があったんだ!?」

レオがすぐに駆け寄る。

湊「悪いが…話は後にしてくれ…!薫が怪我してんだ!直ぐに治療してもらえないか!?」

レオ「分かった!穂乃果!薫の治療を!」

穂乃果「はい!」

修斗「私が医務室までお運びします!」

薫「ごめん…会長…みんなを説得するって…約束…したのに」

薫は振り絞るようにそう言った。

レオ「!?まさか…いや!そんなことはいい!今はもう喋るな!穂乃果!頼んだぞ!」

薫は医務室まで運ばれていった…

光「あんたは大丈夫なの?」

光は同じようにボロボロになっている湊に話しかける。

湊「俺は大丈夫だ、こんなの…ただのかすり傷だ…それに薫の方が重症だからな」

美春「それでもそのままと言う訳にもいきません、待ってて下さい、応急処置ぐらいだったらできますから」

美春は包帯や消毒液などを持ってきて湊に応急処置を行う。

湊「悪いな…」

レオ「それで一体何があったんだ?」

レオが湊に質問する。

湊「撃たれたんだよ!あいつらにな…」

アリシア「あいつらって?」

湊「同じ寮の奴らだ!」

レオ「やはりか…」

レオはなんとなく薫が言っていたことから察しがついていたようだ。

湊「あいつら…おかしくなっちまったんだ。いきなり俺達二人がお前らと結託して自分達から食料を奪おうとしてる、俺達を殺すつもりなんだ…ていきなりいい始めたんだ、薫がなんとか説得しようとしたらあいつら…薫を撃ちやがった…!」

湊は怒りを滲ませながらそう言った。

どうやら彼らの寮の者達は極限状態からか疑心暗鬼となってしまい、薫を撃つという暴挙に出てしまったようだ。

湊「その後はなんとかあいつを連れて寮から逃げ出したんだ。幸いあいつらは追いかけては来なかったしな」

レオ「そうだったのか…」

美春「酷い話ですね…」

湊「全くだぜ…くそ!…なあ会長」

レオ「どうした?」

湊「俺達はもう行ける場所がねえ、頼れるのはお前達だけだ。説得もできなかった上、治療してもらってこんなことを言うのもなんだが…俺達をお前達の仲間に入れてくれないか?頼む!」

湊はそう言って頭を下げた。

レオ「湊…安心してくれ、最初からそのつもりだ!」

湊「!本当か!?」

レオ「ああ!みんなもそれでいいだろ?」

光「私はいいと思うわ」

グレイ「僕も」

リオン「大歓迎だぜ!」

アリシア「まっあんた達は嫌なことしてきた訳じゃないし、構わないわ」

皆が賛同の声を上げる。

湊「お前らも…ありがとな」

レオ「歓迎しよう、湊」

レオが手を差し出す。

湊「ああ、よろしくな!」

湊はその手をぎゅっと握った…

湊「なあ…こんなことの後で言うのは悪いんだが」

レオ「なんだ?」

湊「いや…なんというか…」

湊は言いにくそうな様子だ。

レオ「どうしたんだ?なんでも言ってくれて構わないぞ」

湊「そうかそれなら言わせてもらうが…お前らなんか臭うぞ…」

皆「!?」

湊の思いがけない言葉に皆が驚く。

光「臭うって!失礼な奴ね!」

直ぐに光が怒りながらそう言った。

確かに何日も風呂に入っていないどころかろくに体も洗えないため、臭いは最近気になってはいたが仕方がないと思っていた。

湊「いやまじなんだって…」

レオ「仕方ないだろ、長い間風呂にも入ってないんだ」

湊「はあ!?なんで風呂入ってねえんだよ!?温泉は!?」

湊は心底驚いた様子だ。

レオ「なんでって…風呂の水は出ないし温泉には毒が混ぜられてるかもしれないだろ」

湊「毒ぅ?そんなの混ぜられてねえよ!」

美春「なんでそう言い切れるんですか?」

湊「なんでって…普通に俺らは入ってたし」

レオ「本当か?」

湊「ああ」

光「なんともなかったの?」

湊「見りゃわかるだろ、別に皮膚が溶けたりなんかもしてねえよ!」

光「嘘は…」

湊「俺がついてなんか意味あるか?」

光「確かに」

湊「お前らまさかそれで入ってなかったのか?」

皆「………」

湊「………」

レオ「よし、決めた。今日の予定は変更だ!全員風呂に入るぞ!!!」

皆「おお!!!」

湊「………」

湊はもう何も言わなかった…

光「はぁ〜生き返るわぁ〜」

光は温泉に入りながらそう言った。

光「体の隅々まで綺麗になってくのを感じるわ」

真鈴「まったくだぜ〜」

真鈴も光に同調した。

エレン「温泉に入れることが分かって良かったよ…もし知らないままだったら私達今頃どうなってたか…」

アリシア「耐えられなくなったら川で水浴びをするか、最悪は海水で体を洗うことになってたわね」

エレン「それは絶対嫌だね…川じゃ危ないし…海水じゃ体がベタベタになるし…」

美春「本当に湊さん達が来てくれて助かりましたね」

フレア「だね〜」

光達は湯船の中でくつろぐ。

光「それにしても…」

真鈴「ん?」

光「霊華のやつも一緒に入れば良かったのに…」

光が言うように霊華は光達とは一緒に温泉には入っていなかった。

真鈴「まあいいんじゃないか?あいつが残るって言ったんだし」

全員で一斉に温泉に入ってしまうとその間に何かあっては困るため、レオは自分は最後に入ると言った時に、霊華もレオと同様に最後に入ると言ったのだ。

エレン「それにあれだったら会長とほぼ二人きりになれるし」

フレア「なんでお兄様と霊華が二人っきりになれるといいの?」

事情を知らないフレアは、純粋に疑問に思いそう質問した。

光「それはえっと…アリシア、任せたわよ」

アリシア「私!?ええっとねフレア、それは…あー・・・もう少し大人になれば分かるわよ」

アリシアは回答をはぐらかした。

フレア「ええー!なんで教えてくれないの?ねーねー!」

フレアは答えを知りたくてぶーぶーと文句を言ったが、下手に教えると彼女が悪気がなくても暴露しかねないため教えないことにした。

フレア「もういいもん!自分で考えるから!」

フレアは拗ねてしまった。

アリシア(ごめんなさいフレア…これだけは教えられないの。貴方に話すと直接いいかねないし…)

そんなフレアに対しアリシアは心の中で謝った。

エレン(二人の関係がもっと進展すればいいんだけどな…)

エレンは心の中で二人の関係が上手くいくように願った。

………

霊華「はぁ〜久しぶりのお風呂…生き返るわね〜」

自分の番になった霊華は湯船に浸かりながら独り言言った。

霊華「一人で入ってるとなんだが貸切のような気分になるわね…ふふ」

霊華(私の後に入る人もいないし、ゆっくり浸かっちゃお)

霊華がくつろいでいると…

ガラ…

不意に更衣室の方のドアが開きそして………

「それじゃあ俺も入るとするか…て…え?」

レオが姿を現した。

霊華「へ?」

レオ・霊華「・ ・ ・」

数秒の間お互い目を合わせたままフリーズする。

霊華「ッ!!?!?!?///きゃぁーーー!!!」

そして霊華が顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。

霊華「なんで!?なんで貴方が入ってくれのよ!?覗き!?変態!!!出てって!!!」

霊華はレオに罵詈雑言を浴びせる。

レオ「いや!?君こそなんでここにいるんだ!?」

霊華「はあ!?何言ってるの!?ここは女湯でしょ!!!」

レオ「女湯!?ここは男湯だぞ!」

霊華「嘘つかないでよ!変態!!!そんな訳ないでしょ!!!」

レオ「馬鹿な!?」

レオは急いで確認するが…

レオ「やはり…男湯だぞ」

霊華「へ?」

レオ「途中の標識にも書いてあるぞ、ここは男湯だって」

霊華「ほっ本当に…?」

レオ「ああ…」

レオが嘘をつくような人物ではないと言うことは霊華もよく知っていた。恐らく今も嘘はついてはいないだろう。だとすれば…

霊華「それじゃあもしかして…………」

霊華(私!男湯と女湯を間違えて入っちゃったってこと!?!?!?)

霊華「~!!!///」

霊華の顔が今までないくらい真っ赤になった。

ここの温泉は入り口に暖簾がなく、小さな標識しかついていないのだ。霊華は温泉に入る際よく標識も見ずに女湯だろうと決めつけて入ってしまった。それがこの悲劇を生んだのだ。

霊華(どどどどどうしよう!?レオにあんなこと言っちゃったのに、間違えてたのは私だったてこと!?私のバカーーー!!!!!)

レオ「いや…その…すまない!俺は出ていって君が出るまで待つことにするよ!本当にすまなかった!!!」

レオはそう言って去ろうとするが。

霊華「待って!」

レオ「!」

霊華「その…一緒に入っていいよ?」

レオ「え?」

その言葉にレオもそして言った霊華自身も驚いた。

霊華(わわ私何言ってるのーーー!?!?!?うう…でも間違えたのは私だし、それにレオに酷いこと言っちゃたし・・・)

レオ「いや…だが・・・」

レオもさすがに躊躇するが…

霊華「間違えたのは私だし…それで迷惑はかけたくないから…」

レオ「そっそうか…そこまで言うなら・・・分かった」

レオもやはり男の子というべきなのか、つい己の欲望に負け霊華の言葉を承諾してしまった。

霊華「でも…その…恥ずかしいからあんまりじっとは見ないで…ほしい///」

こうして体を洗ったレオは霊華と一緒に温泉に入った。今もしこの状況を誰かに見られでもしたら、間違いなくとんでもないうわさがたつに決まっているが、全員が入浴を済ませているため幸いにもその危険性は無かった。

ただ・・・

霊華(見られてる・・・タオルで大事な部分は隠しているとはいえ・・・こんな裸同然な姿・・・うう…水着よりも何倍も恥ずかしい///恥ずかしすぎておかしくなっちゃいそう・・・)

レオ(うっ!つい霊華の体を見てしまう…だめだ!彼女の体をそんなに見ては…その…いろいろ抑えられなくなってしまう!)

霊華が恥ずかしさでおかしくなりそうになってる中、レオも必死に欲望を抑えていた。

しかし欲望を抑えようとしても、ついつい霊華の体を見てしまう。白っぽく美しい肌、大きいとは言えないがそれでもタオルの上から分かるほどの十分な胸の膨らみ、そしてタオルの下に見えるすらっとした脚部、どれをとっても素晴らしく、レオの視線を奪ってしまう。

霊華「ッ・・・」

霊華はレオに見られていることに気づいたのか顔を背け、体を縮こまらせてしまう。

レオ「あっ!いや!すまない!」

レオ(これ以上はだめだ!目をつぶってみないようにするんだ!俺!)

レオは目をつぶって必死に欲望に耐え続けた…

しばらくしてレオは温泉から出てきて戻ってきたが霊華の姿はなかった。

光「ねえあんた霊華は見なかった?まだ戻ってきてないのよね…」

光は霊華が戻ってこないことを不思議に思いレオに尋ねる。

レオ「れっ霊華か?それならさっきのぼせたからへっ部屋で少し・・・休むと言ってたぞ」

光「あいつ長風呂しすぎなのよ…分かったわ。ありがとね、レオ」

レオ「・・・」

光「?レオ?」

レオ「ん!?ああ!どういたしまして…」

光「?なんかあなた・・・様子が変よ?」

レオ「そっそうか?」

レオはとぼけようとするが動揺が隠し切れなかった。

光「ええ、いったいどうしたの?」

レオ「いっいやべっべつに何ともないぞ」

光「本当?」

レオ「ほっ本当だ!」

光「ジー・・・」

光が怪訝そうにレオをずっと見る。

レオ「うっ・・・その…すまない!少しのぼせてしまったようだ!俺も部屋で休む!それじゃ!」

光「あっ!ちょっと!」

レオは早口にまくしたて逃げ出すようにその場を去ってしまった。

真鈴「どうしたんだぜ?」

光「なんなの?あいつ?」

真鈴「?」

しばらくの間霊華もレオも部屋から出てくることは無かった。

・・・

「ロザリアさんが目を覚ましました」

日が落ち始めたころ、穂乃果からそう聞いた美春は急いで医務室に向かっていた。

医務室に向かうまでの間、美春はロザリアに何を言うべきかを考え続けていた。お礼?それとも謝罪?それとも眠っている間にあったことから話すべき?美春は何度も頭の中でシミュレーションを行い何を話すべきか考え続けていた。

医務室の前に着いた美春は医務室の扉を勢いよく開け、ロザリアの傍に急いで駆け寄った。

美春「ロザリア!」

ロザリア「美春・・・さん?」

ロザリアは意識は取り戻したものの、まだ起き上がることはできずベッドの上に横たわったままだった。

美春「目を覚ましたんですね!本当に・・・良かった!」

美春はつい泣きそうになってしまったのをぐっと我慢した。

ロザリア「心配してくれてたんですか?」

美春「当たり前です!毎日もしかしたら目を覚まさないんじゃないかって気が気じゃなくて…」

ロザリア「そうだったんですね。ありがとうございます」

ロザリアは微笑みながらそう言った。

美春「ロザリア!その…えっと・・・」

ロザリア「?」

何度もここに来るまでに・・・いやロザリアが目を覚ますまで何度もシュミレーションしていたロザリアとの会話・・・にもかかわらず、いざロザリアを前にすると美春はうまく言葉が出なくなってしまった。

なかなか言葉が出てこない美春に対して、先にロザリアが話しかけた。

ロザリア「そういえば穂乃果さんから聞きましたよ、怪物との戦い・・・美春さん大活躍だったそうじゃないですか?」

美春「え?」

ロザリアの思いがけない言葉に美春は困惑した、怪物との戦いで大活躍?そんな記憶は美春にはなかった、あるのは目の前でロザリアが倒れ、戦意喪失する情けない自分の姿だけだった。

ロザリア「お兄様を救ってくれて、怪物の注意も引いて、それにすごい剣技で怪物に重傷を与えたって聞きましたよ?」

美春「そんなことありません!私は…そんな大層なことはしてません・・・ロザリアがいなかったら今頃・・・私はここにいることさえできなかった…」

ロザリアが言ったことは確かに事実だ、しかし元をたどればレオがピンチに陥ったのは自分を庇って負傷したロザリアと、戦意喪失した自分を安全な場所に運ぶために、修斗とリオンが離れざる負えなくなったからだ。もし自分があの時軽率な行動をとらなければロザリアが負傷することもなかったし、レオがピンチに陥ることもなかった。怪物だってもっと楽に倒せているはずだった・・・

美春「ロザリア…ごめんなさい・・・」

ロザリア「どうして謝るんですか?」

美春「だって!私のせいで!ロザリアは怪我して・・・それどころかレオも・・・全部私のせいなんです!全部私の・・・」

ロザリア「美春さん・・・」

情けなさからか自分を卑下し続ける美春を見てロザリアは・・・

スッ・・・

美春「!」

包帯でぐるぐる巻きになった手で、そっと美春の手に触れそして・・・

ロザリア「そんなに自分を責めなくていいんですよ?美春さん」

優しく微笑みながらそう告げた。

ロザリア「どんな形であろうと、怪物を倒せたのは美春さんのおかげです、お兄様が助かったのも全部」

美春「でも!元をたどれば私が軽率な行動をとったのが原因で・・・」

ロザリア「確かにそうかもしれませんが・・・誰もあの怪物があんな武器を持っているなんて分かりませんでした・・・だから仕方なかったんです。それに・・・もしあの時分からなかったらほかの人が犠牲になっていた可能性だってあるんです・・・結果はどうであれ誰かが死んでしまうことも無かった。それだけでいいじゃないですか」

美春「でも・・・そのせいでロザリアは腕を・・・」

美春はロザリアの包帯で巻かれた痛々しい腕を見た。

美春「綺麗な手だったのに・・・やけどの跡が残ってしまうって・・・それに後遺症も・・・」

ロザリアの腕のやけどはかなり酷く、やけどの跡が残ってしまうだけではなく、後遺症も残るだろうというのが穂乃果から聞いた話だった。

ロザリア「気にしなくて大丈夫ですよ、知ってますよね?私達の・・・“力”のこと」

美春「はい・・・確かに知ってますが・・・」

ロザリア「こんな傷、すぐに治っちゃいますから。だから気にしなくて大丈夫ですよ、穂乃果さんは知りませんが・・・後遺症も残ることはありません」

美春「・・・」

ロザリア「だから美春さん、そんなに自分を責めないでください。そんな美春さんを見ていると、私もつらいです。私は美春さんも、ほかの方たちも無事だった・・・それだけで十分ですから」

美春「ロザリア・・・ッ!」

美春は再び泣きそうになるのを何とか我慢する。

美春「泣いたりは・・・しません。そう約束しましたから」

美春はロザリアの手を握る。

美春「ロザリア、約束します。今はまだ半人前かもしれませんが・・・いつか必ず一人前になって見せます。そして、次は・・・私がロザリアのことを守って見せます!」

ロザリア「!・・・ふふ、分かりました。それじゃあ、約束です」

ロザリアは美春の手を握り返す。

美春は胸に、新しい決意を宿した。ロザリアを守るという・・・新しい決意を・・・

………

そうこうしている内に日も落ち夜になった。明日は森で食料の調達を行うことにした。理由は、短い間なら問題はないが、最短で2ヶ月と言う長い間魚だけを食べていては栄養が偏りビタミンの欠乏による壊血病などの発症のリスクがあるため、それを防ぐために山菜や果物が必要になったからだ。そして幸いにもこの島の森には様々な植物が存在している。探すのにそこまで苦労はしないだろう。

話し合いも終了し、見張りの順番も決め皆自室へと戻っていった…

夜も老けた頃…

レオは妙な胸騒ぎがし眠れずにいた。

レオ(眠れん…)

何故だかわからないが何か悪いことが起きる気がして眠りにつくことができない。

何度か寝返りを打ったのちレオはベッドから起き上がった。

レオ「………」

レオは自室に立てかけてある刀を手に取り、エントランスに向かった。

エントランスには佐藤が見張りをしていた。

レオ「佐藤」

レオが佐藤の肩をポンと叩く。

佐藤「会長?どうしたんだい?こんな時間に」

レオ「いや・・・眠れそうになくてな。どうせ暇だから代わりに見張りをしようと思って来たんだ」

実はこれは嘘だ、本当は妙な胸騒ぎがするため何かあってもいいように代わりに見張りをしようと思ったのだ。

ただそれを言うと心配させてしまうのではないかと思い嘘をついたのだ。

佐藤「でもそんなの悪いよ」

佐藤は断ろうとするが…

レオ「そんなことはない、それに明日はお前も森に食料を調達しに行くだろ?なら今日はしっかり寝て万全の状態にした方がいい。森の探索は危険だからな。俺はまだ充分に動けないから明日もここで留守番だ。多少寝なくても問題はない。だから俺に代わらせてくれ」

レオは佐藤を言いくるめる。

佐藤「う〜ん…会長がそこまで言うなら…善意に甘えさせてもらうよ」

佐藤は承諾してくれた。

佐藤「でももし気が変わったらいつでも言ってね?一応見張りの時間の間は起きてようと思うから」

レオ「分かった」

佐藤「じゃあ…おやすみ。会長」

会長「ああ、おやすみ」

佐藤は自室に戻っていった。

レオ「さて…」

レオ(この胸騒ぎがただの杞憂であればいいんだがな…)

しかし時間が経つにつれこの胸騒ぎはどんどんと大きくなっていった…まるで何かが起こるように…

そして…

レオ(なんだ?今向こうで何か動いた?)

外は月明かりだけでほとんど真っ暗で何も見えないが、それでもレオは窓の向こうの茂みで何かが動いたのを捉えた。

レオ(なにかいる?)

レオ「…確認しよう」

レオは刀を腰にかけ、外へと出る。そして先程何かが動いたのを茂みへと向かっていく。

茂みの前に着いたが特に何もいなかった…

レオ「気のせいだったのか?」

それでもレオは気になり茂みの中を見てみる…

やはり何もいない…しかし地面を見てあることに気づいた…

レオ(これは…足跡?)

地面にはいくつもの足跡が残されていた。そしてそれは明らかに人間のものではない…それは恐らく…獣の足跡だ…そう例えば…狼などの…足跡だ。

レオ(まさか…!?)

レオはそこでようやく気づいた。自分がまんまと罠にハマってしまったことに。

狩人はこの時を・・・気配を消してじっと待っていたのだ…獲物が罠にかかるまでじっと…

無数の気配がレオの周りを取り囲んだ。

辺りの茂みや暗闇からその気配の主達が現れる…

そう…飢えた狼の怪物達が…

レオ「しまった!?囲まれた!?」

レオは辺りを見回す。前に森であった狼の怪物達が自分を取り囲んでいた。

レオ(罠だったのか!?ありえない!?こいつらにはこんな知能はなかったはず!?)

レオ「くっ!」

怪物達がジリジリと近寄ってくる。逃げ道はどこにもない。大声で助けを呼んだとしても果たして寮から離れたこの場所からでは声は届くのだろうか?

レオ(戦うしかない!)

レオは腰にかけた刀を抜き放った。

レオ「来い!!!」

それと同時に一匹の怪物が遠吠えを上げ、一斉に襲いかかってくる!

レオ「!」

レオは襲いかかってくる一匹の怪物の攻撃を回避する!

しかし息を吐く暇もなく別の怪物が襲いかかる!

レオはなんとか体を捩って回避するが…

レオ「うぐっ!」

レオの体に激痛が走る…レオの怪我はまだ治っていないのだ、少しの動きでも傷が痛むには充分だった。

レオ(くそ…傷が痛む…!)

レオ「はっ!?」

痛みに気を取られている内にまた一匹の怪物が襲いかかってくる!

レオ「くっ!」

レオは怪物に向けて刀を振るうが、痛みで鈍った攻撃は最も簡単に怪物に回避されてしまう。

レオ「はぁ…はぁ…」

レオ(ダメだ…このままではやられる!能力を使うか?いやダメだ…能力で、グラヴィティフィールドを放ったところでこの体じゃこっちがピンチになるだけだ…囲まれてる以上、逃げることもできない…かくなる上は…)

レオはポケットからタブレットケースを取り出す。万が一のため彼はこれを肌身離さず持っていたのだ。

レオ(今は夜だ…陽の光もない…周りに誰もいないから見られる心配もない…)

レオはタブレットケースからあの時と同じ赤い錠剤を取り出し、そして…

レオ(お前たちにとって夜は好都合かもしれないが、俺にとっても夜は…)

それを飲み込んだ…

レオ(好都合だ!)

ドクンッ!

その瞬間…レオの目はあの時と同じように赤く紅く…真紅に染まり、背中からは巨大な蝙蝠の羽が現れた!

怪物達はレオの変化を気にも止めず、一斉に何匹もの怪物が同時にレオに飛びかかった!

その刹那…

レオ「!」

一瞬にして怪物達は…バラバラに切り裂かれた!

レオ「はぁ……ここからは…反撃の時間だ!」

レオは一瞬にして姿を消したかと思えば次の瞬間、目の前にいた怪物達がレオの刀によって切り裂かれた!

レオの動きはあまりにも速く、あの怪物達でさえ反応することができなかった。

レオは止まることなく次々と怪物達を切り伏せていく!

もはや傷の痛みなど感じてはいなかった。

負けじと一匹の怪物がレオに飛び掛かるも…

レオ「!」

レオは刀を振い、最も簡単に怪物を一刀両断した!

その時もう一匹の怪物もレオに飛び掛かり、鋭利な鉤爪で切り裂こうとするが…

バゴォッ!!!

レオは目にも止まらぬ回し蹴りを繰り出し、命中した怪物の頭部は粉々に砕け散り、辺りに脳髄をぶちまけた!

狩る側が狩られる側になるとはまさにこう言うことなのだろうか…レオによる一方的な狩は続いた…

怪物達はなす術なく惨殺されていく。そして気付けば…

辺りは怪物達の死体に埋め尽くされ、立っているのは…レオだけだった。

レオは刀を振い付いた血を払った。

レオ「ふぅ…これで終わりか」

レオ(もしも見張りをしているのが佐藤だったら危なかったな…)

レオが安心しきったその時…

ザッ…

レオ「!?」

レオは足跡が聞こえ振り返る…

「…その姿は…?」

レオ「君は…」

そこにはある人物が立っていた…月明かりに照らされ、お互いの姿がはっきりと見えるようになる…いやと言うほど…はっきりと……

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