第2話 2日目~7日目
2日目
気づけば朝になっていた、見張りが終わった後いつの間にか眠っていたようだ。
隣で寝ているフレアに目を向ける、フレアは変わらずスヤスヤと眠っていた。
レオはフレアを起こさないようそっとベッドから立ち上がる。
そしてフレアに布団をかけ直した後部屋を出た。
エントランスに出ると修斗が見張りをしていた。
修斗は直ぐにレオに気づいた。
修斗「おはようございます、兄上様」
レオ「おはよう修斗、よく眠れたか?」
修斗「ええ…まあ」
修斗は歯切れの悪い返事をした。
レオ「…」
レオは察してそれ以上は何も聞かなかった。
レオは修斗の近くの椅子に座る。
レオ「アリシアは大丈夫だったか?」
修斗「お嬢様は…しばらく悲嘆に暮れていましたが、その後はご就寝なされました」
レオ「そうか…」
しばらくの沈黙の後。
修斗「どうして…私に任せたのですか?」
レオ「どう言う意味だ?」
レオは質問の意味が分からなかった。
修斗「私がお嬢様のお側にいるよりも、兄上様がお側にいた方が良かったと思います…私は!私は…悲しんでいるお嬢様を見て…何もできませんでした…」
レオ「…変わらないさ、俺がいたって…」
修斗「!そんなことはありません!兄上様ならばきっと…」
レオ「修斗!」
修斗「!」
レオは修斗の言葉を遮る。
レオ「俺は完璧じゃない、例え俺がアリシアの側にいたとしてもお前と同じで何もしてやれない…むしろ…俺にその権利はない、ああなったのも全ては俺のせいだ…俺のわがままが…」
レオはそれ以上何も言わなかった。
修斗「…すみません兄上様私は…」
レオ「いいんだ修斗、気にしなくていい…それよりも、もうしばらくの間…アリシアのそばにいてやってくれ」
修斗「兄上様…分かりました」
レオ「ありがとう、修斗」
二人はそれ以上何も喋らなかった。
しばらくして他の者達も目を覚ましエントランスに集まる、表情はあまり明るくなく皆あまり眠ることができなかったことは容易に想像できた……一人を除いて。
リオン「おはよう!みんな!」
真鈴「相変わらずお前は元気なんだぜな」
リオン「当たり前だろなんたって…」
光「はいはい…朝は元気が一番、でしょ?」
リオン「おう!その通りだ!」
光「はぁ…全く…能天気で羨ましいわ」
光がつぶやくように言う。
リオン「なんか言ったか?」
光「なんでもないわよ、ほら行きましょ」
そうして全員が食堂に集まり朝食をとった…昨日と同じ缶詰めだったが、何もないよりはマシだった。
朝食を済ました後全員がエントランスに集まり会議を始める。
レオ「それじゃあ今日の行動だが、昨日決めたように、海で食料を確保することと、川を探すことだ」
グレイ「どちらも僕達が生き残るために重要なことだね」
レオ「ああ、だからしばらくはこの二つを最優先事項にする」
光「でも全員をそれに割くわけにはいかないでしょ」
レオ「その通りだ、だから川を探すグループと海で食料を探すグループ、そしてここを守るグループの3つに分かれる。何か意見はあるか?」
この案に対して全員が納得しているようだ。
レオ「よし、なら早速グループを分けよう」
しばらくしてグループが決まる。
グレイ・光・ロザリア・美春が海での食料調達。
レオ・霊華・リオン・真鈴が川の捜索。
残りのもの達が寮の防衛に決まった。
修斗「皆さんお気をつけください」
レオ「ああ、ここの防衛は任せたぞ」
修斗「はい!」
エレン「任せてよ!」
田中「なっなあ…俺銃の使い方なんてわかんねぇんだけど…」
光「簡単よ、ただ狙いをつけて引き金を引くそれだけよ」
光はそうとだけ答えた。
田中「ほっ本当かよ…」
光「詳しいことは佐藤にでも聞きなさい、じゃあ頼んだわよ」
田中「あっああ!そっちも気をつけろよ!」
全員が行動に移る。
……
光達は水着に着替えて浜辺に出た、幸い道中で怪物に出会すことはなかった。
浜辺で準備をしていると…
「なに?あんた達もここで魚をとりに来たの?」
何者かが話しかけてくる。
光が振り向くとそこには茶髪のショートヘアの競泳水着を着た少女が立っていた。
光「あんたは確か…水宇、だったかしら?」
水宇「ええ、覚えてたのね」
池田水宇 (いけだ みう)
幻想学園の二年生、水泳部のエースであり50mを15秒切るほどの速さで泳ぐことができ、水の中で彼女より早く泳げる者はいない。
光「それで?何の用なの?」
水宇「何の用?そんなの見ればわかるでしょ、私達はここで魚をとるの、だから邪魔しないでちょうだい」
水宇の後ろには二人の取り巻きの男がいた、二人とも名前は知らないがおそらく水宇と同じ水泳部の人間だろう。
光「はあ!?いきなり来てなんなのよ!!」
水宇「だから、貴方達みたいなノロマがいたら邪魔だって言ってるのよ」
水宇は高圧的に言い放つ。
光「あんた…言わせておけば!」
グレイ「光、押さえて!」
グレイが掴み掛かろうとした光を止める。
ロザリア「えっえっと…何か勘違いされてるんじゃないでしょうか?私達は邪魔する気はありませんし…そうだ!協力してお魚をとりませんか!そうすれば…」
水宇「お断りするわ」
ロザリア「え?」
美春「お前!せっかくのロザリアの誘いを!」
今度は美春が食って掛かろうとする。
水宇「ふん!貴方達ノロマがいたんじゃ効率が落ちるだけだわ!それに…貴方達が私達を襲ってこないなんて保証もないでしょ?」
ロザリア「私達はそんなことしません!」
水宇「どうだか…他のところじゃもう食料を巡った殺し合いが始まってるって聞くしね…」
ロザリア「え?」
水宇の口から無視できない言葉が聞こえた。
水宇「ともかく!私達の邪魔はしないで頂戴!まああんた達ノロマじゃ3日かけても捕まえられないでしょうけどね、まあせいぜい頑張りなさい。ほらあんた達!行くわよ!」
ロザリア「あっ!待ってください!」
そう水宇は吐き捨て取り巻きの男を連れていってしまった。
光「もう!なんなのよあいつ!腹が立つわね!」
光は怒り心頭といった様子だ。
グレイ「同感だけど、手を出すわけにはいかないよ」
光「分かってるわよ!ああー!でもやっぱり腹が立つわ!ロザリア!あんたも何か言い返しなさいよ!」
ロザリア「…」
光の声にロザリアは何も反応しない。
光「ロザリア?」
ロザリア「えっ!?あっ!ごめんなさい!」
もう一度声をかけてようやく気づく、明らかに様子がおかしかった。
光「どうしたの?」
ロザリア「いえ…その…彼女が言っていたこと本当なのでしょうか?他のところでは殺し合いが始まってるって…」
ロザリアはその言葉がずっと気になっていた。
光「…分からないわ、でも可能性がないわけじゃない…とにかく今は食料を確保することに集中しましょ」
ロザリア「そうですね…」
ロザリアの頭の中では彼女の言葉がなん度も反復していた…
………
水宇は漁師の家庭に生まれた一人娘だった。
幼い頃から親の漁の手伝いをしていたため、素潜り漁の知識も技術もあった。それに才能も加わり魚を獲ることには全く苦労しなかった。
気づけば小一時間程度で袋はとった魚でいっぱいになっていた。
水宇(これくらい獲れば十分かしらね)
水宇は辺りを見まわし一緒に連れてきた二人の部員を探した。
直ぐに一人は見つかった。
水宇「山下!来なさい!」
山下と言われた部員は直ぐに水宇の元に泳いで行く。
山下「水宇さん!どうしましたか?」
水宇「山下、あんたはどれぐらい獲れたの?」
山下「俺はこれだけ獲れました」
山下は魚が入った袋をみせる、水宇には及ばないがそれなりには獲れていた。
水宇「まあ合格ね、そろそろ上がるわよ、あいつらが奪いに来る可能性もあるし」
山下「分かりました!」
水宇「…ねえ、そう言えば中島はどこに行ったの?」
水宇は辺りを見渡してもう一人の部員がいないことに気づいた。
山下「えっ?中島ならさっきまで近くにいたんですが…」
山下は辺りを見渡すが中島の姿はなかった。
山下「おーい!!中島!!どこにいるんだ!!!」
山下は声をあげて中島を呼ぶが返事は返ってこない。
山下「一体どこに……」
水宇「ねえ…あれじゃないかしら」
水宇が差した方向を見ると少し離れた場所に何か浮かんでいるものが見えた。
山下「アイツあんなところに…俺呼んできます!」
水宇「私も行くわ、どうせ後は戻るだけだし」
山下と水宇は中島の方へ向かっていく…
しかし近づいていくほどある違和感に気づいた。
それは…
水宇「ねえ…なんであいつ…あんな格好で浮かんでるの?」
中島は水面にうつ伏せになって浮かんでいた。
山下「きっとふざけてるだけでしょう、おい!中島!さっさと行く……うわぁあああああっっっ!!!」
中島の体をひっくり返した山下が悲鳴をあげる。
水宇「どうしたの……ひぃっ!」
水宇も中島の姿を見て理解した。
中島の体にはそこら中に食いちぎられた跡があり、ところどころは骨や内臓が露出し見るも無惨な姿になっていた。
水宇「なっなによこれ!どうなってるの!?」
山下「おっ俺にだって分かんないですよ!!!あれ…なんか下から……」
水宇「え?」
山下は気づいた、自分の下…海中から何かが向かってきていることに…それは………
魚の大群だった。
山下「魚?なんでこっちに向かって…!」
山下がそう疑問に思った瞬間。
山下「あ"あ"あ"あ"ぁぁぁっっ!!!」
魚の1匹が山下の足に噛みついた。
その魚には到底魚には考えられないような鋭利な牙を持っていた、その牙が山下の足に突き刺さる。
山下「やっやめろ!!はなれ…っ!!!」
それを合図にしたかのように無数の魚の姿をした怪物が山下に噛みついていく
山下「い"だい"!!!い"だい"!!!助け…」山下は水宇に助けを求めようとするが、水宇は既に逃げ出していてその場にはいなかった。
山下「そん…な"…あ"あ"あ"ぁぁぁ!!!」
水宇の後ろから山下の断末魔が聞こえてくる しかし水宇は振り返らない。
水宇(あんなの勝てるわけがない!!!逃げなきゃ!!!逃げなきゃ殺される!!!)
水宇は必死に泳いだ、目の前に先程馬鹿にした光達の姿が見える。
水宇(あそこまで行けば!!!)
しかし彼女は気づいていなかった、魚の群れはあっという間に先程の獲物を食べ尽くし、次の獲物を狙っていることを。
彼女は知らなかった、いくら泳ぐのが凄まじく速かったとしても、この海が主戦場の彼らには勝てないと言うことを……
………
時間は少し遡る。
光「はあ〜駄目!!ぜんっぜん獲れないわ!!」
海の中を自由自在に動き回る魚を素人の光が捕まえるのはかなり難しかった。
かなり粘ったが今だに1匹も獲れてはいなかった。
光「これなら釣りのほうがまだマシだわ!!」
光が悪態をついていると。
グレイ「どうしたんだい光?」
グレイが話しかけてくる。
光「どうしたもこうしたもないわよ!!1匹も捕まえられないのよ!!」
グレイ「ああ、それに怒ってたんだ…」
光「全く!そもそも初心者が使い方教えてもらったぐらいで取れるわけないじゃない!!はぁ…そう言えばあんたはどれぐらい獲れたの?」
グレイ「僕はまあまあかな」
グレイはそう言って何匹か魚が入った袋を見せる。
光「そんなに獲れたの!?あんた才能あるんじゃない?」
グレイ「才能ていうか…どちらかと言うと能力かな…」
光「ああなるほど…そう言うことね」
どうやらグレイは近づいてきた魚を凍らせて獲っていたようだ。
光「私もあんたみたいな能力があれば楽なんだけどね」
グレイ「あはは…」
光「まあいいわ、そう言えばあいつらの成果も気になるわね…そろそろ聞きに行きましょうか」
グレイ「そうだね」
光とグレイは別の場所で魚を獲っていたロザリアと美春と合流する。
ロザリアの魚を入れる袋はかなりの量の魚が入っており美春の袋にも何匹か魚が入っていた。
光「1匹も捕まえられてないの…もしかして私だけ?」
美春「そうみたいですね、光ってなんでもできるように見えてこう言う才能はないんですね~」
美春が光をからかう。
光「うっさい!!」
光が頬を膨らませる。
グレイ「えっと…とりあえずそれなりには獲れたみたいだから…とりあえず一回陸に上がらないかい?」
美春「確かに!そろそろ休憩したいと思ってました!」
ロザリア「私もそれがいいと思います」
光「む〜!私だけ成果無しなんて認められない…」
光だけ不満そうだったがとりあえずは陸に上がって休むことにした。
そうして陸に向かおうとした時…
美春「ん?あれは…」
何やらこちらに向かって泳いでくるものが見える。
美春「ねえ、あれって水宇じゃないですか?」
それは水宇の姿だった。
光「ちょっと!今あいつの話をしないでよ!どーせ私達をバカにしに来たんでしょ!そうに決まってるわ」
美春「いや…それがなんか…すっごい必死にこっちに向かってきてないですか?」
光「え?」
水宇「はぁ!!はぁ!!」
グレイ「なんだか様子がおかしくないかい?」
水宇「はぁ!はぁ!ねえ!!助け!!助けて!!」
四人「!?」
グレイ「待ってて!!直ぐにそっちに行く!!」
グレイは直ぐ様水宇の元に泳いでいく。
光「待って!」
光達もグレイの後を追う。
水宇「たすけ…ひぃ!!いやあ"あ"ぁぁぁ!!!」
グレイ「な!?」
水宇は悲鳴と共に水中に引きづり込まれる。
光「一体どうなってるの!?」
グレイ「くっ!」
グレイは水中に潜るそこには……
グレイ「!?」
無数の魚の姿をした怪物に食い殺されている水宇の姿があった。
グレイは直ぐ様海面に浮上する。
美春「一体なにが…」
グレイ「直ぐに浜辺まで泳いで!早く!!!」
グレイの必死の形相にただ事ではない気配を感じ光達は直ぐ様浜辺へと泳ぎ出す。
しかし魚の怪物達も獲物の動きに気づき光達に向かって泳ぎ出す。
光「なんなのあれ!?こっちに向かってきてる!」
美春「すっすごい速さです!!このままじゃ追いつかれちゃいますよ!」
グレイ「くそっ!」
グレイ(駄目だ!このままじゃ追いつかれる!こうなったら!)
グレイ「アイシクル・グランド!」
グレイは能力を使い氷の足場を作り出す。
グレイ「みんな!乗って!!」
グレイが作った足場に皆がよじ登る。
間一髪なんとか魚の怪物に噛みつかれる前に登ることができた。
美春「危なかったです…」
光「なんなのよこいつら!!」
グレイ「ふぅ…!美春君!危ない!!!」
美春「え?」
しかし安心したのも束の間だった、魚の怪物は水面から飛び上がり美春にその鋭い牙で噛みつこうとしていた。
美春「っ!」
ロザリア「スパーク・ショット!」
ロザリアの腕から魔力で作られた電気の弾丸が放たれ、すんでのところで怪物を撃ち落とす。
ロザリア「美春さん!大丈夫ですか!?」
美春「た…助かった…」
美春はロザリアの手を借り立ち上がる。
光「油断しないで!まだ来るわよ!」
グレイ「僕が浜辺まで道を作る!ついてきて!」
グレイは能力を使い氷の道を作っていく、怪物たちは何とか光達に食らいつこうと水面から何匹も飛び出してくる。
ロザリアは魔法を使い飛び掛かってくる怪物たちを打ち落とす。光と美春も銛を使って怪物を迎撃する。
光「くそっ!こいつら…!何匹いるのよ!」
光が飛び掛かってくる怪物を迎撃しながら悪態をつく。
美春「魚のエサになるなんて御免です!」
グレイ「浜辺までもう少しだよ!頑張って!」
徐々に浜辺が近づいてくる、そして・・・
グレイ「着いた!」
浜辺に着き全員が転がり込む。
光「はぁ…はぁ…怪物どもは?」
光は急いで振り返るがどうやらあの怪物たちは陸には上がっては来ないようだ。
美春「し…死ぬかと思いました」
全員満身創痍だ、しばらくは全員その場を動けないでいた。
ロザリア「あの水宇さんは…」
ロザリアがグレイに水宇がどうなったかを聞く。
グレイはただ首を横に振っただけだったがそれだけでどうなったかは容易に想像することができた。
ロザリア「っ!そんな…また…」
ロザリアは彼女を助けられなかったことに涙を流す。
美春「ロザリア…」
美春はそっとロザリアに寄り添った。
光「あんな怪物がいるなんて…これじゃあ素潜りなんて危険すぎてできやしないわ。それに…はぁ…」
光はため息をつくその理由は先ほど逃げる際に魚が入った袋を全て置いてきてしまったからだ。
光「取りに行くのは…無理よね…はぁ…今日ぐらいはおなか一杯になれると思ったんだけどね」
グレイ「仕方ないよ…あんな状況じゃ…」
光「そうね…」
グレイ「寮に戻ろう、このことも報告しないと」
光「そうね、いきましょう」
美春「ロザリア、立てますか?」
ロザリア「はい…大丈夫です」
光達は寮に戻っていった…
そのころ一方森に向かったレオ達は…
レオ「よし、この木でいいだろう」
レオはナイフを使って木に印をつけた。これは森で迷わないようにするための目印だ。
これをたどっていけば迷わず寮に帰ることができる。
霊華「それにしても…結構奥に来たのに全然見つからないわね」
かれこれ1~2時間程度は歩いているが一向に川が見つかる気配はなかった。
リオン「おーい!!!川!!!どこにあるんだーー!!!」
真鈴「リオン…川は呼んでも答えないんだぜ」
リオン「分かってるけどよぉ…こんだけ見つからないと気がめいってくるぜ」
リオンが愚痴をこぼす。
確かに先ほどからほとんど同じ景色で何の代り映えもなかった。
レオ「確かにな」
レオもそれには同意する。
霊華「それで?どうするの?このまま進み続ける?それとも方向を変えてみる?」
レオ「むやみに方向を変えて迷いたくはない、もう少しだけこのまま進もう」
三人「分かった」
そのまま進み続けることにした。
ふと霊華は昨日から考えていることをそれとなく聞いてみることにした。
霊華「ねえレオ?ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
レオ「なんだ?」
霊華「いや…その…レオは妹のことをどう思ってるのかな~て…特にロザリアとか…」
レオ「妹達を?そうだな…あの子たちは俺の最も大切な宝でもあり家族だ、父さんたちが残してくれたかけがえのないものだ。ロザリアは確かに血こそ繋がってはいないが、それでも大切な俺の妹だ。アリシアもフレアも、そしてロザリアも俺は兄としてあの子たちを守ってやりたい」
レオの言葉から妹達をどれだけ大切にしているかを感じられた。
そしてもう一つ分かったことがある。それは…
霊華(レオにとってロザリアは家族!つまりあくまでも家族として大切だということ!少なからずレオはロザリアを家族ではなく異性としては見てはいないということ!)
これは霊華にとってはとても大事なことだ!レオがそう思ってないならまだチャンスはあるはずだからだ!
しかしレオにその気がなくてもロザリアがそうだとすれば彼女は恋のライバルということになる!しかもかなりの強敵だ、正直勝てる気がしない…しかし今となって考えればもしかしたらそれは勘違いなんじゃないかとも思えてきた…だが油断するわけにはいかない!やはり・・・
霊華(ロザリアにレオのことをどう思っているかそれとなく聞いてみよう)
霊華はそう考えた。レオは続けて何か言っていたが霊華の耳には入っていなかった。
レオ「ただ…俺は少し、過保護すぎるかもしれないな、妹達を見ているといつまでも傍にいて守ってやりたいって、そう思うんだ…だがそういう訳にもいかないだろう。あの子たちもいつかは独り立ちするんだ、俺がずっと傍にいる訳にもいかない…そうと分かっていてもやはりそう考えてしまうんだ…俺もそろそろ妹離れしないとだな、はは…」
レオは自嘲気味に笑う。
ふと途中である言葉耳に入ってきた。
レオ「でも時々こうも考えるんだ。俺があの子たちの重荷になってしまっているんじゃないかって、俺の‘’わがまま‘’が…あの子たちを苦しめてしまっているんじゃないかって…そう考えるんだ」
霊華はその言葉の一つに疑問を覚えた。
霊華(わがまま?レオが妹たちに?)
霊華には想像がつかなかった、普段の姿を見るにどちらかというと妹たちの方がレオにわがままを言っていそうだったからだ。フレアなどの態度を見ると特に…だからこそ霊華はその言葉に疑問を持ったのだ。
霊華「レオそれってどういう…」
霊華がレオにその言葉の意味を問おうとしたが。
レオ「!止まれ!」
突如レオが皆を制止する。
リオン「お!なんか見つけたのか?」
レオ「静かに!…何かいる」
レオは近くにいる何かの存在に気づき警戒する。
真鈴「ただの動物じゃないかぜ?」
レオ「いや…!霊華!危ない!」
霊華「え?」
突如として茂みから何かが霊華に向かって飛び掛かってくる、すんでのところでレオが霊華を押し倒し、それの攻撃をかわした。
押し倒されたことでレオと霊華の顔が急激に接近する。
霊華「ひゃっ///」
霊華(はわわわ…!わわわ私///!レオに押し倒されて///!ちっ近い///!)
霊華の顔が一気に真っ赤になる。
レオ「霊華、大丈夫か?」
霊華の目にはレオの顔がキラキラして見える。
霊華(れっレオ///だっだめ!///こんなところでそんな///)
霊華はあまりの突拍子もない出来事に妄想の世界に入ってしまうが。
レオ「霊華!大丈夫か!?霊華!」
霊華「///…はっ!だっ大丈夫!」
レオの焦った声で霊華は現実に戻る。
レオ「良かった…少しぼうっとしていたから頭を打ってしまったのかと思った…本当に大丈夫か?」
霊華「えっええ!」
霊華(言えない!妄想に浸ってたなんて絶対に!!!)
霊華「そっそれよりもさっきのは?」
霊華が立ち上がると真鈴とリオンが銃とナイフを抜いて辺りを警戒していた。
真鈴「どこに行ったんだぜ!?」
リオン「くそ!見つからねぇ!」
二人は焦った様子で言う。
レオ「落ち着け!」
レオは神経を集中させあたりに気を配る。
真鈴の後ろで茂みが動く音が聞こえた。
レオ「真鈴!後ろだ!」
真鈴「そこか!これでもくらえ!」
真鈴は茂みに向かって和也の形見のサブマシンガンを乱射する。
その瞬間それは茂みから姿を現した。
レオ「こいつは!?」
茂みから出てきたそれは狼だった、だが様子が明らかにおかしい、目は血走り、口からはよだれを垂らし、異様に発達した牙と爪が見て取れた。
霊華「狼?」
レオ「それにしては様子が変だ」
さらにその狼のような怪物が姿を現したのと同時に周りから何匹も同じ怪物が姿を現した
レオ「囲まれた!?」
真鈴「いつの間に!?」
怪物はレオ達を包囲する。
レオ「くっ!どうする…?」
包囲を突破するのは難しそうだ、それに突破したとしても逃げ切れるとは思えなかった。
怪物達はじりじりと近づいてくる。
そして一匹が遠吠えを上げる。
レオ「来るぞ!」
それを合図に次々と怪物が飛び掛かってくる。
レオ「くっ!」
レオは飛び掛かってくる怪物に対して刀を振るうが怪物は俊敏な動きで回避する。
レオ(速い!?)
真鈴「これでもくらえ!」
真鈴はサブマシンガンを乱射する、しかし怪物は無数の弾丸の中をすり抜け真鈴に飛び掛かる。
真鈴「っ!」
あまりに素早い動きに真鈴は回避ができない。
リオン「真鈴!あぶねえ!」
間一髪リオンが真鈴と怪物の間に入り怪物の攻撃をナイフで防ぐ。
真鈴「リオン!」
リオン「真鈴に…手ぇ出すんじゃねえ!」
リオンは怪物に対して蹴りを放ち、怪物は吹き飛ばされる。
霊華「そこ!」
霊華はリオンに吹き飛ばされた怪物に電気で追撃する…が怪物はすぐに立ち上がり霊華の攻撃を回避する。
霊華「すばしっこい!」
真鈴「どうする!?このままじゃやられちまうんだぜ!」
レオ「…くっ!今は耐えるしかない!」
レオ達は怪物たちと戦い続けるが怪物たちは連携してレオ達に波状攻撃を仕掛け徐々にレオ達を追い詰めていく。
真鈴「近づくんじゃないんだぜ!」
真鈴は再び怪物たちに向かって発砲するが怪物は弾丸を回避し飛び掛かる。
真鈴「うわっ!」
真鈴が咄嗟にしゃがみ怪物は真鈴の頭の上を通り過ぎる。
霊華「喰らえ!」
霊華は電撃を放ち怪物に攻撃するが、怪物は俊敏な動きで回避しそれと同時に近くにいた数匹の怪物が同時に攻撃を仕掛ける。
霊華「うっ!」
霊華は攻撃を回避しようとするがよけきれず、怪物の鋭利な爪が霊華の肩を切り裂く。
レオ「大丈夫か!?」
霊華「大丈夫…かすっただけ」
霊華はそう答えるが傷はあまり浅そうではなかった。
レオ(くそ!このままじゃやられる!なにか方法はないのか…!)
レオは必死にこの状況を打開する術を考え続ける。
しかし怪物たちはその間にもじりじりと負傷した霊華に近づいていく・・・
レオ(まずい!あのままでは霊華が!)
霊華「っ!」
リオン「エンチャント!」
リオンは能力を使い身体能力を強化し霊華に近づく怪物に攻撃を仕掛けようとした時、怪物は霊華を無視し振り返ってリオンに飛び掛かった!
リオン「うおっ!」
リオンは突然のことに対応しきれず怪物に押し倒される。
リオンは怪物の口を押え何とか噛みつかれないように耐える。
リオン「離れろ!離れろって!俺は食ってもうまくねえぞ!」
レオ「リオン!」
レオはリオンに噛みつこうとしている怪物を刀で切りつける。
怪物は切り飛ばされるが再び立ち上がる。
レオ「無事か!」
リオン「たっ助かったぜ!レオ」
リオンは立ち上がる、どうやら怪我はしていないようだ。
しかしこのままでは追い詰められていく一方だった…
レオ(どうする?あの力を使うか?いやだめだ!霊華の前ではあの力は使えない…そもそも使ったとしてもこの状況を打開できるかどうか分からない…能力を使うか?いやリスクが大きすぎる、下手に能力を使えばさらに不利になる可能性もある…どうする!?)
レオは必死に考えを巡らせる。
レオ(考えろ!考えるんだ!この状況を打開する方法がなにか…!)
レオはその時怪物たちのある行動パターンに気づいた。それは怪物たちが優先的に動いたものに対して攻撃しているということだ。
先ほども狙っていた霊華を無視しリオンに飛び掛かった、それが何よりの証拠だろう。
レオ(奴らは動いた者に対して優先的に攻撃しているのか?だとしたらその習性を利用すれば…一か八かだ!やるしかない!)
レオは覚悟をきめる。
レオ「みんな聞いてくれ!」
リオン「なんかいい案があるのか!」
レオ「ああ!一か八かだけどな」
霊華「この際なんでもいいわ!」
レオ「リオン!俺と一緒に奴らを一か所におびき寄せるぞ!」
リオン「一か所に?どうやってやるんだよ!」
レオ「奴らは動くものを襲う習性がある!それを利用すれば奴らを一か所におびき寄せることもできるはずだ!」
リオン「なるほど!どうゆうことなんだ?」
レオ「とにかく奴らをおびき寄せる囮になるんだ!動きは俺に合わせろ!」
リオン「よくわかんねえけど囮になれってことだな!主人公の俺に任せとけ!」
レオ「真鈴!俺たち二人の援護を頼む!」
真鈴「OK!」
レオ「霊華!奴らが一か所に集まったら特大の一撃を食らわせてやれ!」
霊華「分かった!」
レオ「よし!行くぞ!!!」
レオの合図でレオとリオンの二人が飛び出す。
霊華は電気をチャージし始める。
レオ「怪物ども!こっちだ!」
リオン「へへ!追いついてみろよ!」
怪物たちは全員レオ達を追っていく。
レオ(やはりか!奴らは集団で襲ってくるが知能は高くない、だから動くものを優先して襲うんだ)
レオ達は怪物たちの攻撃を搔い潜り、時折反撃しうまく怪物たちを誘導していく。
しかしレオもリオンも後ろに目があるわけではない、怪物たちはがら空きの背中に対して攻撃を仕掛けようとするが、真鈴の援護によって阻まれる。
そうしてレオとリオンは怪物たちに囲まれるような形になる。
リオン「それでここからどうするんだ?」
レオ「俺が合図したら奴らの攻撃を回避して奴らの囲いを出るんだ、ここが正念場だ!ミスするなよ!」
リオン「ああ!任せとけ」
レオ達は怪物たちを見据える。精神を集中させ一つの動きも見逃さないようにする。
怪物たちが徐々に徐々に囲いを小さくしていく。
レオ「まだだ…」
囲いがさらに小さくなる。
レオ「あともう少し…!」
真鈴と霊華が固唾をのんで見守る。そして…
レオ「今だ!」
リオン「!」
レオが合図すると同時に怪物たちが一斉に飛び掛かる!
レオはスライディングし怪物たちの下を潜り抜け、リオンは地面を蹴って上空に飛び上がる。
二人はうまく怪物の攻撃を回避し、怪物たちは一か所に集められるような形になる。
レオ「もらった!グラビティフィールド!」
グラビティフィールド、それはレオが能力によって半円状の重力空間を作り出す技だ、この空間内の重力をレオは自由に増やしたり減らしたりすることができる。
怪物たちは突如として強い重力に押しつぶされ動けなくなる。
レオ「霊華!今だ!」
霊華「これで終わりよ!雷撃砲!」
霊華の雷撃砲は生成した電気を使って巨大な電気の球体を作り出し相手に放つ大技だ、電気のチャージに時間はかかるもののその威力は彼女の技の中でも屈指の威力だ。
凄まじい電撃が走り、一瞬視界が白く染まる。
視界が鮮明になったころには立っている怪物は一匹もおらず、焦げ臭いにおいが漂っていた
レオ「はあ…はあ…何とかなったな」
真鈴「さすがに今回はやばかったんだぜ」
霊華「そうね…うっ!」
霊華が負傷した肩を抑えてうずくまってしまう。
レオ「霊華!」
レオがすぐに霊華に駆け寄る。
霊華「大丈夫、ちょっと…痛むだけだから」
レオ「そんなわけあるか!見せてみろ!」
レオは霊華の肩の傷を見る
霊華の肩の傷からはかなりの血が流れていた、抑えていた霊華の手も真っ赤に染まっている。
レオ「こんなに血が出てるじゃないか!すぐに寮に戻るぞ!」
霊華「でっでもまだ川を見つけてないし…」
レオ「そんなもの後でいい!こんな状況だ、傷から細菌なんて入ったら命に関わる!川なんて明日にでもまた探しにくればいい!今は寮に戻って怪我を治療してもらうのが優先だ!分かったな?」
霊華「うん…分かった」
レオ「よし、少し待ってろ…」
レオはカバンから包帯を取り出し霊華の肩に巻き付ける。
レオ「動かないでくれ…よし!これで応急処置はいいだろう」
霊華「あっありがとう///」
霊華の顔が赤くなる。
真鈴「ひゅ~熱いんだぜな」
リオン「ん?熱い?動いたから暑いのか?」
真鈴「いや…お前は気にしなくていいんだぜ」
真鈴はいろいろと面倒だったので説明はしないことにした。
リオン「え?」
リオンはなんだかもやもやしたがそれ以上は聞かなかった。
レオ「二人とも、寮に戻るってことで言いな?」
真鈴「ああ、もちろんそれでいいんだぜ!」
リオン「俺もかまわないぜ!」
レオ「それじゃあ長居は無用だ、行こう。霊華、立てるか?ほら」
レオが霊華に手を差し出す。
霊華「あっありがとう…」
霊華はレオの手を取る今度は放電することはなかったが心臓は今にも破裂しそうなくらい脈打っていた。
霊華(レオ…///うう///ドキドキする///)
霊華の顔は寮に戻るまでのしばらくの間は赤いままだった。
…
レオ達が寮に戻ってきたときにはすでに、魚を捕りに向かった光たちも戻ってきていた…
しかし表情を見るにいい結果ではなかったことが容易に想像できた。
霊華を医務室に送り、あったことを話すことにした。
まず光たちから海で怪物に出会ったこと、水宇達が死んだこと、魚が一匹も取れなかったことを話した。
レオ「そんなことがあったのか…」
光「とてもじゃないけど素潜りなんて危険すぎてできやしないわ、今回も奇跡的に助かったようなものだし…」
レオ「そうだな、食料の確保は別の方法を考えないとな…」
光「あんたたちはどうだったの?」
レオ「ああ、俺たちは…」
レオは川の捜索中にあった出来事を話した。
レオ「と…いうわけだ」
美春「海にあんな怪物がいるぐらいだから予想はできてましたけど…やっぱり一筋縄じゃいかないみたいですね…」
真鈴「毎回あんなのと出会ってたら命がいくつあっても足りないんだぜ」
光「そうね…」
レオ「…思ってた以上に状況は厳しいな…水と食料はどれぐらい持つんだ?」
ロザリア「もって一週間ぐらいだと思います」
レオ「一週間か…」
レオは考え込んでしまう。
光「あっ!そういえば…」
不意に光が何かを思いだす
レオ「どうした?」
光「水宇が言ってたことで気になったことがあるのよ」
レオ「なんだ?」
光「なんでもほかの奴らがもう食料や水をめぐって争い始めてるって…」
レオ「なんだと!?どういうことだ!?」
さすがのレオもこれにはかなり驚いたようですぐに光に詰め寄る。
光「ちょっちょっと!落ち着いて!私だって水宇がそう言ってただけで本当かどうかなんてわからないわ!」
レオ「!すっすまない…」
光「でも嘘とも言い切れないわ…こんな状況だもの、そうなってもおかしくないわ。グレイ、あんたはどう思う?」
グレイ「…」
グレイは何も答えなかった。
光「グレイ?ねえ、何とか言ってよ…」
グレイは答えない、思い返せばグレイはこの話し合いが始まってから一言も声を発していなかった。よく見るとグレイの顔は生気がないように白っぽくなり、唇は真っ青になっていた。
様子がおかしいのは明らかだった。
光「グレイ?」
光がグレイに近寄ろうとした瞬間・・・
グレイ「うっ…」
グレイは床に倒れてしまった。
皆「!?」
光「グレイ!?」
光がすぐさまグレイに近づき体に触れたとき。
光「冷たっ!?」
グレイの体は異常なほど冷たくなっていた。
光はすぐさまそれがグレイの能力の使い過ぎによる副作用だと分かった。
グレイの冷気を操る能力、それは冷気を発生させる過程でグレイ本人の体温を奪ってしまうのだ、少しの間の使用なら問題ないのだが飲み水のための氷の生成や魚を捕るためと能力の使用、さらに怪物から逃げるために陸までの氷の道の作成まで行ったのだ、明らかに能力を過剰に使用していた。
今のグレイの状況はかなり危険だすぐにでも体を温めなければ命を失いかねない。
田中「いったいどうしちまったんだよ!?」
光「能力の副作用よ!すぐに体を温めないと!あんたたち二人はグレイを運ぶのを手伝って」
光が田中と佐藤に向かってすぐに指示を出す。
田中・佐藤「分かった!」
二人はグレイを持ち上げ医務室へ運んでいく。
ロザリア「私温かい飲み物を用意してきます!」
エレン「私も温まれそうなものいろいろ持ってくるよ!」
光「お願い!」
ロザリアは厨房へ向かい、エレンはとりあえず温まれそうなものを探しに行った。
光も急いで田中達についていく。
リオン「だっ大丈夫なのかよ?俺たちにできることは…」
修斗「何人も動いては邪魔になるだけです、今は光さんたちに任せましょう」
修斗がリオンを諭す。
リオン「そっそうか…そうだな…」
レオ「…」
しばらくして光たちが戻ってきた、幸い命に別状はなく今は眠っているようだ。
光「大事にはいたらなくてよかったわ」
光はとりあえず一安心といった様子だった。
レオ「しかしあそこまで無理をしていたとは」
光「私がもっと早く気づいてあげられれば…ううん…気づいてあげられたはず…私が…」
光は異変に気づけなかった自身を攻めている様子だった。
真鈴「そっそこまで自分を責めなくてもいいんじゃないかぜ?」
光「責めるわよ!私は今日ずっとあいつのそばにいたのよ!それに私は…あいつの彼女なのよそれなのに…」
真鈴「光…」
レオ「起きてしまったことを責め続けても意味はない」
光「でも!」
光は何か言おうとしたがレオが遮る。
レオ「大切なのは次からどうするかだ。光、もしもグレイのことで申し訳ないと思っているなら、次から気を付ければいい。起きてしまったことをなかったことにすることなんてできないんだ」
レオの考え方は長年生徒会長を務めてきたゆえのものだ。多くの成功や失敗を経験してきた彼だからこそ言えることなのだろう。
光「…」
レオ「それでもまだ後ろめたく感じるなら、看病でもしてやればいい、お前がそばにいてくれることは、今のグレイにとって一番嬉しいことだろう」
光「…そうね、そうすることにするわ」
レオ「ああ、そうすればいい。さて、それじゃあそろそろ話を戻そう」
佐藤「そういえば大切な話の途中だったね」
修斗「結局のところ水宇さんの言葉が本当かどうか分かりませんね」
リオン「でもよぉ、嘘つく必要なんてあんのかよ?」
確かにリオンの言うようにあの時点で水宇が嘘をつく必要があったとはあまり考えられなかった。
修斗「忘れたんですか?あくまでも水宇さんは“聞いた”といっただけです。実際に“見た”という訳ではありません。水宇さんが聞いた話がデマだったという可能性もあります」
光「結局いまの状況じゃ本当かどうか分からないわね…」
レオ「どちらにせよ確認する必要がある・・・決めたぞ」
光「どうするの?」
レオ「他の寮の様子を見に行く、それと同時に協力を仰ごうと思う」
美春「協力を?」
レオ「ああ、今は何をするにも人手が足りない状況だ、少しでも人手が欲しい」
光「でも人が増えたらその分水も食料も必要になるのよ?大丈夫なの?」
レオ「人が増えれば川や食料を探す効率も上がるはずだ。見つかるまでは厳しいかもしれないが将来的に見ればメリットしかないはずだ」
光「…見つからなかったら?」
レオ「それだったら人を増やさなくても変わらないだろう。どちらにせよ・・・死ぬだけだ。だったら少しでも確率が上がる方を選ぶ。それにもしも水宇の話が本当なら…黙ってみているわけにはいかない」
光「あんたはそういうやつだったわね」
美春「でもだれがいくんですか?」
レオ「もちろん俺だ、俺が行けば他のみんなも話を聞いてくれるはずだ」
佐藤「確かにそれは言えてるね、僕たちが行くよりは会長が行く方が信頼されるはずだし」
レオの人気と生徒会長という立場があれば他の生徒達に信頼してもらえるのは確かであった。
レオ「そういう訳だ」
真鈴「あとは何人ぐらいで行くんだぜ?」
レオ「俺が一人で行くつもりだ」
レオの一言に他の者達は衝撃を受ける。
光「はあ!?あんた本気で言ってるの!?」
レオ「ああ、グレイは動けないし霊華も明日動けるかは分からない。魚が捕れないといった以上食料も森で探す必要があるとなれば人数もさらに必要になる。それに寮の防衛もだ。人数はできる限り割きたくない」
光「でもさすがに危険すぎるわ!外には怪物がうようよしてるのよ!」
修斗「その通りです、兄上様。私が同行します」
レオ「だめだ」
修斗が同行しようとするがレオは拒否する。
修斗「なぜ!」
レオ「お前にはここを守ってもらわないといけない、俺が離れる以上何かあった時に冷静に対処できる人間はお前しかいない」
それはレオから修斗への信頼から来るものだろう。信頼しているからこそここに残って寮を守っていてほしいのだ。
修斗もそのことは理解していた。
修斗「…ですが…」
「だったら私たちが行くわ」
その時通路の方から声が聞こえてきた。声がした方を向くとそこには。
レオ「アリシア!?」修斗「お嬢様!?」
部屋で寝ていたはずのアリシアがいた。
フレア「私もいるよー」
アリシアの後ろからフレアも出てくる。
レオ「お前たち怪我は大丈夫なのか?」
アリシア「ええこの通り何の問題もないわ」
アリシア達は軽やかに動いて見せる。
光「確かにもう問題なさそうね、流石はレオの妹だわ」
アリシア「ふふん!褒めたって何にも出ないわよ」
アリシアが自慢げに胸を張る。
光「いや別に褒めてはないのだけど…」
レオ「あー…話を戻してもいいか?」
アリシア「そうだったわ、とにかくお兄様には私たちがついていくわ、お兄様の妹の私達だったらそこまで警戒されないし、実力だって申し分ないわ」
レオ「確かにその通りだが…」
フレア「お願い!私達お兄様の役に立ちたいの!だから一緒に連れてって!」
フレアが懇願する。
レオ「う~ん…」
レオは少しの間考えたのち・・・
レオ「分かった、なら一緒に来てくれ」
二人の意思を尊重することにした
フレア「やったー!」
アリシア「ふふん!そう来なくっちゃ」
レオ「ただし俺の言うことはちゃんと聞くこと。分かったな?」
二人「はーい」
光「大丈夫かしら?」
美春「あの二人なら大丈夫なんじゃないですか?仮にもレオの妹ですし」
光「いや実力の方じゃなくて、アリシアのやつすぐにムキになるから…」
どうやら光はアリシアが問題を起こさないかが心配のようだ。
美春「ああ…まあレオがいるし大丈夫なんじゃないですか?」
光「確かにレオがいても食って掛かるどっかの誰かさんとは違うものね」
・・・
霊華「ハックシュン!」
穂乃果「霊華さん大丈夫ですか?」
霊華「誰かが噂してる気がする…」
・・・
レオ「それじゃあ明日についてだが、俺とアリシア・フレアの三人で他の寮を回る。リオンと真鈴、ロザリア・美春の四人が森での川の捜索と食料の調達、他の者達はここの防衛、これでいいな」
全員がうなずく。
レオ「よし!それじゃあ今日は解散!皆明日に備えるように」
会議は終わり各自が明日に備え自由行動をとる
ロザリア「それにしても二人はとても優しいですね」
ロザリアがアリシアとフレアに話しかける
アリシア「まあね、フレアがど~してもお兄様の役に立ちたいって言うから仕方なくね」
フレア「ええ!?お兄様の役に立ちたいからお手伝いしようっていったのはお姉さまじゃん!それにそうすれば修斗が褒めてくれるって…」
アリシア「ふっフレア!それは言わない約束だったでしょ!」
フレア「だって!」
ロザリア「ふふ…」
ロザリアは二人のやり取りを見てとても愛おしく感じた。
ロザリア「二人ともとってもいい子ですね」
ロザリアは二人の頭をなでる。
フレア「ロザリアお姉さま…えへへ~」
アリシア「///」
フレアは嬉しそう笑い、アリシアは顔をそむけているものの満更でもなさそうだった。
・・・
3日目
昨日の夜は特に何も起こらず無事に朝を迎えることができた。
レオ「それじゃあ行ってくる」
霊華「気を付けてね」
レオ「ああ」
アリシア・フレア「分かってるわ」 「まかせてよ!」
レオとアリシア・フレアの三人が他の寮に向けて出発する。
森の探索のメンバーはすでに出発していたため、寮に残るメンバーがそれを見送る。
霊華「・・・私も一緒に行けたらよかったのだけど…」
光「心配なのは分かるけどそんな状態じゃ無理よ、今は怪我を治すことに集中しなさい」
霊華の左肩の怪我は軽くなく、動かすのは難しかった。
霊華「・・・分かった・・・」
そういいながらも霊華はしばらくの間、遠ざかっていくレオの姿を見つめ続けていた。
・・・
昼過ぎごろ光はグレイの様子を見るため医務室に来ていた。
光「グレイ体調はどう?」
グレイ「光?はは、この通りもう大丈夫だよ」
グレイは笑って見せる。光も彼の様子を見て心配はなさそうだと判断した。
光「そう、それなら良かったわ。ここ座ってもいい?」
光がグレイの隣を指さす。
グレイ「もちろんいいよ」
光がグレイの横に腰掛ける。
グレイ「ありがとう、光」
光「え?」
グレイ「穂乃果君から聞いたよ、僕が倒れた後ずっと看病してくれてたって」
光「あっ当たり前でしょ!私はあんたの彼女なんだから!///」
光は顔を赤くしながら言う。
グレイ「それでもだよ」
光「///」
光は恥ずかしさからか顔をそらしてしまう。
光「・・・ねえグレイ?」
グレイ「どうしたんだい?」
光「・・・あんまり無茶しないで、あんたに何かあったら私は…耐えられないわ」
グレイ「光・・・」
光「グレイ…約束して、次は絶対無茶しないって、それと…もし体調が悪かったりしたら私に相談するってそう約束して、それができないなら…私はあんたをロープでこのベッドに縛り付けて動けないようにするわ」
光はどこから持ってきたのか分厚いロープを手にしながら言う。
グレイ「ええ!?それはさすがに勘弁してほしいかな……分かったよ光、約束する何かあったらすぐに光に言うし無茶したりもしない」
光「本当?」
グレイ「本当さ」
光「分かった・・・それじゃあはい」
光はグレイに小指を向ける。
グレイ「え?えっとこれは?」
光「指きりよ、約束をする時はみんなこうするの」
グレイ「そうなのかい?」
どうやらロシアから来たグレイにはなじみがないようだ。
光「ええ、ほらあんたも小指を出して」
グレイ「うっうん」
グレイが小指をだす。
光「指切りげんまん嘘ついたら針千本の~ます指切った」
二人は指切りをする
グレイ「これはどういう意味があるんだい?」
光「そのまんまよ、約束を破ったら針を千本飲ませるってことよ、あとは一万回殴るって意味もあるわね」
グレイ「そんな意味があるのかい!?ほっほんとにやらないよね?」
光「さあ?それはあんた次第よグレイ」
光はいたずらっぽく言う
グレイ「そっそんな~」
光「ふふ」
グレイ「あはは」
二人はその後しばらくの間他愛のない話をつづけた
・・・
そのころ一方レオ達は…
レオ「どうしても無理なのか?」
薫「ごめん会長、どうしても無理なんだ」
薫と話をしていたがなかなか協力を得られていなかった。
アリシア「どうしてお兄様に協力してくれないのよ!」
フレア「そうだそうだ!」
二人が文句を言う。
薫「僕だってできることなら会長に協力したいよ、でも…こんな状況でみんな疑心暗鬼になってるんだ、会長でも信じられないって」
水宇が言っていたように実際に食料をめぐっての生徒同士の争いはすでに始まっており、中には協力しようといって相手をだまし食料を根こそぎ奪われたというケースもあったらしい・・・生徒たちはそれを警戒し自分たち以外の者との協力を避けている状態であった。
薫「もちろん僕は会長がそんなことしないって分かってる。でも僕の一存で決められることじゃないしそれに…下手にみんなを刺激するわけにはいかないんだ」
下手に行動を起こせば分断を起こしかねない、そんな理由もあり薫は首を縦に触れずにいた。そしてそのことはレオも理解していた。
フレア「なんなのそれ!お兄様たちはそんなひどいことしないのに!どうしてわかってくれないの!そんな分からず屋は私が…」
レオ「フレア!」
レオがフレアを制止する。
フレア「!お兄様…」
レオ「いいんだ…すまなかったな時間をとって、俺たちは行くことにする」
薫「会長・・・でも約束するよ!みんなを説得できたら必ず会長たちに協力する!必ずだ!」
レオ「薫…ありがとな」
湊「おい!薫!まだ話は終わんねえのか!?他の奴らが苛立ってきてる、そろそろ切り上げてくれ!」
湊が薫を呼び出しに来る。
薫「湊、分かったよ、もう戻るってみんなに伝えてきてくれ。それと会長・・・気を付けて、ここは僕たちがいたから話ができたけど中には問答無用で攻撃してくるところがあるかもしれない…」
レオ「分かった、忠告ありがとな。アリシア・フレアいくぞ」
アリシア「・・・うん」
フレア「・・・分かった」
二人はまだ納得はしていなかったがレオについていった。
レオ達三人は寮を去った・・・
・・・
森の中で乾いた発砲音が連続で響く。
無数の弾丸に貫かれ狼の怪物が地面に倒れる。
真鈴「ふう・・・今のが最後かぜ?」
美春「おそらくそうですね」
辺りを見回すと数体の狼の怪物の死体が転がっていた。
真鈴たちが森を探索している途中、昨日と同様の怪物に襲われたのだ。
幸いにも数は昨日よりも少なく弱点も知っていたため負傷することなく倒すことができた。
ロザリア「こんな怪物がいるなんて…実際に会ってみるまで信じられませんでした…」
美春「私もです」
二人は怪物に遭遇するのはこれが初だったというのもあり信じられないという様子だった。
真鈴「まだこの怪物でよかったんだぜ、半透明の触手をたくさん持ってるやつは獲物を見つけたら触手で捕まえてドロドロに溶かされちまうんだぜ」
ロザリア「こっ怖いですね…美春さん・・・美春さん?」
ロザリアが美春に声をかけるが反応がない。なぜなら・・・
美春「触手・・・ドロドロに溶かす…」
美春(ロザリアの服だけがドロドロに溶かされて触手であんなことやこんなこと…ムフフ…)
美春はピンクな妄想を膨らませていたからだ…
ロザリア「あの…美春さん?大丈夫ですか?」
ロザリアが口からよだれを垂らしている美春に声をかける。
美春「え?あ!大丈夫ですよ!怖いですよね!服がドロドロに溶かされたら」
ロザリア「服?」
美春「あっ…」
真鈴「お前…こんな時に何考えてるんだぜ…」
真鈴はこんな時でもくだらない妄想をする美春に心底あきれた。
ロザリア「?服がどうしたんですか?」
真鈴は理解していたが、純粋無垢なロザリアにはわからないといった様子だった
美春「えっと……あ!あっちにクマがいました!」
ロザリア「え!?」
真鈴「は?熊なんてどこに…」
リオン「え!まじ!よっしゃー!とっ捕まえて熊鍋だー!今日は腹いっぱい食うぞー!」
リオンは美春が指さした方に走って行ってしまう。
美春「ああ!リオンが行っちゃいました!この話は終わりです!リオンを追いかけないと!」
美春は強引にごまかしてリオンを追って走って行ってしまう。
ロザリア「あっ!待ってください!」
ロザリアも急いで追いかけていく。
真鈴「はぁ…美春の奴ほんっと、むっつりスケベって感じなんだぜな…まったく…おーい待ってくれなんだぜ!」
真鈴はあきれながら三人の後を追いかける。
「・・・」
そんなやり取りを木の上から監視する一つの人影には誰も気づかなかった…
その後も川などは見つかることはなく、時間だけがいたずらに過ぎていき真鈴たちは寮に戻った。
修斗「そうですか…川は見つからなかったんですね」
真鈴「川のかの字も見当たらなかったんだぜ」
修斗「やはり一筋縄ではいきませんか…」
エレン「ねえねえ今思ったんだけどさ…森に入って川を探すより島の外周を回って探す方が早くない?だって川って海とつながっているんでしょ?しかもそっちの方が絶対安全だし」
エレンの言うことはもっともであった。
川は海とつながっている場合がほとんどのため、森に入るよりも島の外周を探す方が森と比べても比較的簡単で安全ではあった。
霊華「確かに!というか…私達この島で遊んでる時にいくつか川を見つけたわよね…」
真鈴「そう言えば…リオンの奴泳げないくせに川に飛び込んで溺れかけてたんだぜな…そう言えばあの川は海に繋がってたはずなんだぜ」
霊華「ちょっとあんた!なんでそんな大事なこと今まで黙ってたのよ!」
真鈴「色々あって忘れてたんだぜ!」
霊華「え?いやちょっと待って!じゃあ私達のこれまでの捜索はなんだったの?もしかしてこんな簡単なこともレオもあんたも思いつかなかったわけ!?」
霊華が修斗に詰め寄る。
修斗「私も最初はそう考えていました…しかしそれは不可能です」
霊華「どうしてよ?」
修斗「そのような川は…存在しないからです」
霊華「は?」
修斗の思いがけない返答に霊華は素っ頓狂な声を上げる。
霊華「・・・いやいやいや!真鈴が海とつながる川もあったて言ってるのよ!実際に見てもいるんだし…ないなんてありえないでしょ!」
修斗「・・・私がこのゲームが始まった初日に別行動をとったのは覚えていますか?」
リオン「そう言えばお前あの時何やってたんだよ!聞いても全然教えてくれねえし…」
修斗「あの時私は今後に備え島の外周で河川を探すことにしたのです。どこが一番近いのか、どのようなルートを通れば安全に行けるのか、怪物はどれほどいるのか…それらが分かればその分負担も少なくて済みますから。それに河川の場所は大体の目星はついていましたから」
美春「そうなんですか?」
修斗「はい、この合宿が始まって3日目ほどに私は島の外周をあらかた確認しましたから」
真鈴(いまなんかさらっと言ったけど修斗の奴この島の外周一日で回りきるって普通にやばくないかぜ?)
真鈴はこうツッコミたかったがぐっと我慢することにした。
修斗「それによって大体の場所の分かっていました。むろん海に繋がる河川があることも」
修斗の口からあの日別行動で何をしていたかが語られた。
修斗「しかし結果を言えばそのような河川は見つけることはできませんでした」
エレン「島全体を確認したの?」
修斗「さすがにそれはできませんでしたがそれでも半分ほどは確認しました。」
この島の面積は400㎢以上はありその外周を数時間で回りきるのは流石の修斗でも無理なようだった。
霊華「そうなると見つからないのはおかしいわね…あんたが勘違いしてたって可能性は…ちょっと考えずらいわね」
ロザリア「じゃあどうして見つからないのでしょうか…?」
修斗「話を戻しますね、その後私は兄上様にこのことを報告しました。そして今後どうするのかも、最初はまだ確認していない外周を捜索しようとも考えましたが、もし見つからなかった場合その日の捜索が無駄になってしまうこと、そして寮から遠く離れた場所を捜索するリスクも考慮しそれは行わないことにしました。」
霊華「それで森の中を捜索することにしたわけ?」
修斗「闇雲に捜索しようと考えたわけではありません。これを見てください」
修斗は机に一枚の地図を広げた。
エレン「これってたしかこの島の地図だよね?」
修斗「はい、そしてここを」
修斗は地図のある場所を指さした。
リオン「ん?ここがどうかしたのかよ?」
修斗「覚えてませんか?この合宿が始まって5日目にここにある千年滝という滝を見に行ったことを」
この合宿の5日目に観光ということで、この無人島で最も有名な千年滝と呼ばれるもの見に行ったのだ。なんでも千年も前から存在したという理由でこのような名前になったらしい。
真鈴「そういえばそんなの見に行ってたんだぜな」
修斗「ここならば確実に水が見つかると考え、ここに向かうことにしました、それが2日目です。」
霊華「ちょっと待って、その話が本当ならおかしいわ!だってそんな滝見つからなかったもの」
2日目の捜索で何も見つからなかったことはあの時のメンバーだった霊華はよく覚えていた。
霊華「途中で怪物に襲われて私が怪我しちゃったから寮に戻ちゃったけど…でもそこだったら見つけられてたはずよ」
地図にある滝の位置はこの寮からはそこまで離れていない、警戒しながら進んでいたとはいえ、ついていないとは考えづらかった。
修斗「何かありませんでしたか?」
霊華「そういえば…でっかい崖があったような…あんな高い崖あったかしらとは思ったけど」
修斗「その崖がおそらく滝があった場所です」
霊華「嘘でしょ…じゃあ何?私たちが見た滝や川が一日足らずで全て消えたって言いたいわけ?」
修斗「はい、その通りです」
修斗はなんのためらいもなくそう答えた。
霊華「ありえないでしょそんなの!?」
修斗「ですがこの状況を見るにそう考えるほかはありません」
ロザリア「でもそんなこと実際に可能なんでしょうか?」
たとえ能力や魔法を使用したとしても一日で河川や滝を消滅させられるとはさすがに考えづらかった。
修斗「この島を捜索して一つ気づいたことがあります。」
霊華「なに?」
修斗「それは…この地図と島の形状が一致しないということです」
美春「そうなんですか!?」
美春が驚きの声を上げる。他の者達も驚いた表情をした
修斗「大まかな部分は地図と同様です、しかし細かく見てみると地形がかなり異なっています」
エレン「それにはいつ気づいたの?」
修斗「確信を持ったのは5日目ほどの時です、その際に教員の方達にこのことを聞いてみましたが…」
霊華「なんて言われたの?」
修斗「地図は古いもので多少の誤差はあるものだろうといわれました、私もこの時はそれで納得しましたが、今回のこともありやはりおかしいと感じました。そこで私はある考えに至りました」
修斗はそれを言うのをためらったのか少しの間沈黙したがやがて口を開いた。
修斗「・・・ここから話すのはあくまで私の憶測にはなりますが、この島は私たちが来る予定だった当初の島とは異なる島です、そしてこの島はおそらく・・・人工的に作られた、または改造された島です」
ロザリア「それって…」
修斗「はい、私の推測が正しかった場合、私たちは偶然デスゲームに巻き込まれたのではなく、最初から・・・計画されていたということです」
皆「!?」
修斗の口からでた衝撃の言葉、その場で話を聞いていた誰もが驚愕する。
修斗「そしてその場合、この学園に協力者・・・あるいはゼロ本人がいると考えられます」
真鈴「ありえないんだぜ!先生たちや生徒の中に、ゼロやその協力者がいるなんてそんなの・・・」
真鈴は口ではそう否定したが修斗の憶測が本当だった場合、教師や生徒達の中にゼロ本人または協力者がいなければこのようなことをするのは不可能としか思えなかった。
霊華「私たちをこんな目に合わせたやつがいる・・・いったい誰?」
ロザリア「本当にそんな人が…」
不穏な空気があたりに蔓延し始める。
修斗「・・・先ほどもおっしゃいましたがこれはあくまでも私の憶測です、それに不可解な点もいくつもありますので間違っている可能性もあります、これ以上この話を続けても何の答えも得られません、この話はここまでにしましょう」
下手に憶測だけで話すのは不安をあおるだけ、そう考えた修斗はこの話を強引に終わらせることにした。
しかし皆の中には自分たちの中にゼロやその仲間がいるかもしれないという言い知れぬ不安が残ってしまった。
それから少ししてレオ達が帰ってきた。
レオ「結論から言えば水宇が言っていたことは本当だった、それと誰一人からも協力は得られなかった」
光「噓でしょ…同じ学校の生徒同士で争うなんて…」
佐藤「それで協力を拒まれたのかい?」
アリシア「その通りよ!全く!私達がそんなことするわけないのに!」
アリシアは怒り心頭といった様子で地面をガシガシと蹴った。
光「どれぐらい回ったの?」
レオ「半分程度だ…」
穂乃果「まだ半分は残っていますから!きっと協力してくれる方はいますよ!」
レオの声に力はなくいつもの覇気も感じられなかった。おそらくレオも心のどこかでは「信頼されている自分だったら皆すぐに協力してくれる」とそう思っていたのだろう。しかし現実はそう甘くはなかった。穂乃果はレオを励ますためにわざと明るくふるまう。
光「そっそうね!今回は運が悪かっただけだわ!それに薫は説得できたら協力してくれるって約束してくれたんでしょ!なら大丈夫よ!」
レオ「そう…だな…」
しかしレオの顔が明るくなることはなかった。
レオ「すまない…少し疲れた…俺は部屋で休ませてもらう」
レオはそう言って部屋に戻ってしまう。
フレア「お兄様…」
フレアが心配そうにする。
穂乃果「あんなに落ち込んでいる会長初めて見ました…」
穂乃果以外もレオがあそこまで落ち込んでいるのを見たのは初めてであった。
光「そうね…あいつにとって今回の結果は想像以上にショックが大きいみたいね…」
フレア「なんとかできないかな?」
光「せめて“あいつ”が少しぐらい気の利いたことでも言ってあげられたら元気になるかもしれないのだけれどね…」
そう言って光は横目で霊華の方を見る。
穂乃果「こればっかりは難しそうですね…」
光「そうね、とりあえず今は協力してくれる奴が一人でも現れることを願うしかないわ」
アリシア「最悪の場合は脅してでも・・・」
アリシアが一瞬不穏なことを口走るが・・・
光「やめておきなさい、こんな状況じゃ脅しても逆効果よ、下手すれば攻撃されかねないし二度と信用されなくなるわよ、それでもいいの?」
光がその考えをすぐに否定した。
アリシア「む~」
光「とにかく今は話し合って何とか信用してもらうしか方法がないわ。下手なことを考えるのはやめておきなさい」
アリシア「分かった・・・」
光(とは言ったものの・・・話し合って信用してもらえるなら今頃こんなことにはなっていないわよね…何とかなるのかしら?)
光達の中には不安だけが残った・・・
夜が更け皆が寝静まったころレオ達の寮を遠くから見る怪しげな3つの影があった。
「・・・あそこが…」
「ねえ?ほんとにやるの?」
「やるしかないよ…もう後には引けないんだ」
「・・・そうね…これも私たちが生きるため・・・仕方ないことだもの」
そんな不穏な言葉を残し3つの影は闇夜に消えていった…
4日目
朝となり皆が朝食をすまし、今日の行動について話し合う。
レオ「今日の探索を行うメンバーだが修斗・エレン・光・グレイ・田中の五人でいいな?」
五人がうなずく。
レオ「グレイ、お前は病み明けだが大丈夫そうか?」
グレイ「もちろん、たくさん休んだからね。休んだ分は頑張らせてもらうよ」
グレイは体長は万全といった様子だ
光「そうは言っても無茶しすぎちゃだめよ」
光がくぎを刺す。
グレイ「分かってるよ、約束だからね」
光「ならよろしい」
レオ「修斗、探索時の指示はお前に任せる」
修斗「お任せください兄上様」
レオ「俺とアリシア・フレアは昨日に引き続き・・・」
レオが次の言葉を発しようとしたその時!
ガシャン!
派手な音を立て窓ガラスが割られる。
レオ「なんだ!?」
光「なに!?何なの!?」
割れたガラスに全員の注目が集まった瞬間、レオ達を取り囲むように武器を持った小さな何かが現れる。
修斗「これは…人形!?」
それは小さな人形達だった。
かわいらしい見た目をしているがその見た目とは裏腹に、人形は銃やらナイフやら物騒なものを持っていた。
「動くな!」
正面の入り口からそう声が響く、見るとそこには三人の女性が立っていた
一人は黒髪のショートヘアで手に槍を持った少し小柄なボーイッシュな感じの少女、もう一人はピンクのミディアムヘアで手にはナイフを持った背の高めな大人っぽい少女。そして最後に金髪のロングヘアーで頭にリボンを付けたまるで童話の登場人物のような見た目をした少女だ。よく見ると金髪の女性の手には糸のようなものが巻き付いている。おそらくこの人形は彼女のものだろう。
美春「なっ!なんなんですかあなたたち」
美春は刀に手をかけようとするが。
一体の人形が持っていた銃の銃口を美春に向ける
「動くなっていっただろ!もし動いたらこの人形たちがお前たちを攻撃するからな!」
美春「くっ!」
レオ「お前たちは…」
レオは知っていた彼女たちが何者なのかを。
レオ「何が目的なんだ!?桜!明日香!アリス!」
黒髪の少女が明日香、ナイフを持った少女が桜、人形を操っているのがアリスと言う名前らしい。
明日香「さすが会長だね、僕たちの名前ちゃんと覚えてたんだ」
レオ「当たり前だ、俺は生徒会長だからな、生徒の顔と名前は全部把握している」
明日香「え!?生徒の名前も顔も全部覚えてるの!?こわ…」
真鈴「まあ確かに生徒数百人全員の顔と名前覚えてるのは普通に怖いんだぜ…」
一瞬変な空気になる。
レオ「そっそれよりも!お前たちの目的はなんだ!何しに来たんだ!?」
レオが明日香達に目的を尋ねる。
明日香「あっそうだった!僕たちの要求はこうだ!お前たちの持っている食料と水を全部渡せ!そうすれば何もしないでやる!」
霊華「そういわれてはいそうですか…って渡すと思う?」
明日香「渡さないなら…」
人形たちが武器を構える。
明日香「どうなっても知らないよ!」
修斗「霊華さん!下手に動いてはだめです!今は私たちが完全に不利な状況、下手に動けば怪我人や最悪死人が出る可能性があります」
修斗が霊華を制止する。
霊華「わっ分かった・・・」
霊華は明日香たちをにらみつけるそれが今できる唯一の抵抗だった。
エレン(超能力を使えば人形ぐらいならどうにかできるけど…変に動いたらみんなが怪我しかねない…どうしよう…)
レオ「待て!話し合おう、食料や水が足りないなら分けてやる!だから武器を置いてくれ!」
明日香「今の状況を分かってる?会長?これは取引じゃなくて要求!会長たちは従うか従わないかどっちかの選択肢しかないの!」
桜「従わないという選択肢はありませんけどね…」
彼女が持っているナイフがまっすぐとレオに向けられる。
レオ「待ってくれ!頼む!話し合おう!そうすればきっと…」
明日香「だ!か!ら!話し合いなんてできないって言ってるじゃん!なに?もしかして僕たちが攻撃なんてできっこないとでも思ってるの?舐めないで!僕たちはもう何回もこうしてきたし!逆らった奴はみ~んな“殺して”やったんだから!」
レオ「!なん…だと?今…なんて言った?」
明日香「だーかーらー!僕たちはもう何人も人を殺したことがあるの!だからお前たちを殺すのも戸惑ったりしない!」
光「あんたたち!よくもそんなことを平然と!っ!」
レオが光の前に出る。
光「レオ?」
レオ「そうか…よく…分かった…」
明日香「ふん!分かったなら早く水と食料を…」
レオ「お前たちとの話し合いはもう不要だ!!!グラビティフィールド!!!」
三人「!?」
レオはいきなり重力場を生成し三人は一瞬で床に伏せさせられ身動きが取れなくなる。
エレン「今だ!」
エレンはそのすきを見計らい超能力を使って人形たちを制御不能にする。
霊華「ナイスよ!エレン!」
アリス「しっしまった…!」
三人は何とか動こうとするが凄まじい重力に押しつぶされ身動き一つできない
光「形勢逆転ね…レオ?」
レオが何も言わず三人の方に歩いていく。
アリシア「お兄…様?」
その様子は明らかに異様だった。
レオが明日香の前に立つ。そこはレオ自身が作った重力場の中だ…レオの能力は自身にも影響がある。本来ならばレオにも重力がかかっているはずだが…レオは何事もないようだった。
レオは刀を引き抜く、そして…
明日香「あっまっまってやめ…!」
レオはそれを容赦なく振り下ろした…
皆「!?」
刀は明日香の顔のすぐ横に突き刺さった。
明日香「あっあ…」
ショロロロロ…
明日香は恐怖のあまりに失禁する…
明日香「ひっ!」
レオが明日香に顔を近づける。
レオ「いいか?今すぐここから消えろ!そして…二度と俺たちに近づくな!次に来たら…俺はお前たちに容赦しない…!」
レオは鬼の形相でそう言ったのち重力場を解除する。
明日香「あ…?うっうわあああああああああぁぁぁ!」
三人は一目散に逃げて行った。
皆「…」
全員がレオの気迫に気圧され言葉を発せないでいた
レオ「…うっ!」
レオが頭を押さえて膝をつく
霊華「!レオ!」
霊華が一番に駆け寄る。
霊華「大丈夫!?」
レオ「ああ…少し…能力を使いすぎただけだ…」
穂乃果「すぐに医務室運びましょう!」
修斗「私が兄上様を運びます!」
修斗がレオに肩を貸す。
レオ「すまない…修斗」
レオは医務室に運ばれていった。
フレア「あんなに怒ったお兄様、初めて見た…」
フレアは少しおびえた様子でそう言った。
美春「本当に殺しちゃうんじゃないかってドキドキしました…」
光「それだけあいつにとっては許せないことだったてことよ」
ロザリア「えっと…これからどうしますか?」
光「とりあえず…掃除しないとね…」
その後レオは医務室で寝てしまったため寮を巡るのは中止となり、アリシアとフレアはレオの看病をした。
夕方あたりになったころレオが目を覚ました。
フレア「あ!お兄様目が覚めたんだ!」
レオ「フレア?」
フレア「よかった…全然起きないから心配したんだよ?」
レオ「俺は…寝てしまっていたのか…ずっと看病してくれたのか?」
フレア「うん!お姉さまと交代しながら看病してたんだよ!」
レオ「そうか…ありがとな、フレア」
レオはフレアの頭をなでる。
フレア「えへへ~そうだ!お兄様が目を覚ましたら呼んでほしいって穂乃果が言ってたんだった、私呼んでくるね!」
そう言ってフレアは行ってしまった・・・
少しして穂乃果とともにフレアも戻ってくる。
穂乃果「会長、お体は大丈夫ですか?
レオ「ああ問題ない」
穂乃果「そうですか、それなら良かったです。でももしものことがありますから今日は安静にしててくださいね?」
レオ「分かった…」
穂乃果「…本当に大丈夫ですか?随分と暗い顔をしてますけど…」
レオ「…少しやりすぎてしまったと思ってな…ついカッとなって…彼女たちを必要以上に怖がらせてしまった」
どうやらレオは明日香たちにしたことを気にしている様子だった
フレア「お兄様は悪くないよ!悪いのはあんなことしたあいつらだもん!」
穂乃果「そうですよ会長、あまり自分を責めないでください」
レオ「それでもだ…彼女たちはもう俺とは口をきいてもくれないだろうな…」
フレア「お兄様…」
レオ「すまない、こんなことを言ってても意味がないな、後悔したところでもう後の祭りだ、今はこんなことを気にしている場合じゃなかったな」
レオは無理に明るくふるまって見せる。
穂乃果「そっそうですね!今はみんな無事だったことを喜びましょう!あっそうだ!探索に行ってた修斗さんたちが食べられる果実を持って帰ってきてくれたんですよ!今日は久しぶりに缶詰め以外が食べられますよ!」
レオ「そうかそれはよかったな!久しぶりの缶詰め以外の食べ物だ、期待できるな!」
フレア「そうだね!お兄様!」
場の空気は少しだけよくなった。
その後夕食の時間になり食卓には缶詰めと一緒にいくつかの果実が置かれていた。果実は甘くなかなかにおいしかった。
美春「結構いけますねこれ!なんて果物なんですか?」
修斗「さあ?分かりません」
美春「え?」
美春が驚愕の表情を浮かべる。
修斗「安心してください、毒見はしましたし姉上様の魔法で安全性も確認しました」
光「ちなみに誰が毒見をしたの?」
修斗「リオンさんです」
リオン「なかなかいけたぜ!」
リオンが親指を立てる。
真鈴「・・・まあロザリア魔法で確認してるから大丈夫なんだぜ」
光「魔法って便利よね~その食べ物が安全かどうか分かるなんて」
ロザリア「魔法ですからね」
光「ねえ、そんな魔法があるなら満腹になれる魔法はないの?」
ロザリア「満腹になった気分になれる魔法ならありますよ、でも実際には食べていないので体には悪いですが…」
光「オッケー多分使わないから大丈夫よ」
リオン「うーんでもやっぱり果物と缶詰めだけじゃ腹いっぱいにはならねえな~、肉とか魚が食いたいぜ」
エレン「そういえば森に兎がいたよ!」
レオ「この島には兎がいるのか?」
エレン「うん!この目でしっかり見たから間違いないよ!」
ロザリア「うっ兎さんを食べるんですか?それはちょっとかわいそうです…」
光「でも食料は限られてるからそんなこと言ってられないわ」
ロザリア「そうですね…」
ロザリアには可愛い兎を食べるというのは抵抗があるようだった。
レオ「まあ兎がいるくらいだ、もしかしたら他の動物も探せばいるかもしれない」
リオン「熊とかか!?」
真鈴「お前どんだけ熊を食いたいんだぜ!」
真鈴がすぐさまツッコミを入れた。
皆「ははははは!」
リオンと真鈴の会話で笑いが起きる今回の食事はいつもより少し楽しいものになった。
その後は明日のことを話し合い、レオとアリシア・フレアは今日できなかった寮巡りを行い、明日の探索は霊華の傷も動かせるほどには回復したため霊華・エレン・修斗・美春・佐藤の人で行うことにした。また光とグレイは寮の近くで釣りを試してみることにした。
その日の夜は何もなく安全に過ごすことができた…
5日目
レオ達が寮を出発ししばらく時間がたった昼頃・・・
グレイと光が釣りから戻ってくる。
ロザリア「あ!光さんグレイさん!どうでしたか?」
光「ふっふっふ!これを見なさい!」
光が自信満々に何匹か魚が入ったバケツを見せる。
光「すごいでしょ!」
ロザリア「わあ!たくさん釣れましたね!」
グレイ「あんまり大きくはないけどこれだけいれば今日はお腹いっぱいになれるかもね」
光「美春のやつ「光はどうせ一匹も釣れませんよ~」なんて馬鹿にしてきたけど、これを見たらもう偉そうな口叩けないわよ!」
ロザリア「あはははは…」
寮内は明るい雰囲気で満たされていた…彼らが帰ってくるまでは…
光「ん?あれは…」
光は遠くからこちらに向かってくる3つの人影を見つける。
光「レオ達が帰ってきたのかしら?」
グレイ「随分と早いね…」
グレイはレオ達がこんなにも早く帰ってきたことを疑問に思ったが…
光「そんなことどうでもいいでしょ?あいつらこれ見たら絶対驚くわよ~」
光は早く自分たちの成果を見せたいといった様子だった。
グレイ「あはは…上機嫌だね、光」
3つの人影のうち一つがこちらに走って向かってくる。
グレイ「あれはアリシア君かな?あれ?こっちに走って向かってきてるけど…」
光「もしかしたらあいつらも何か進展があったのかもね」
アリシア「はあ…はあ…!」
アリシアが息を切らしながら寮に入ってくる。
光「お帰りアリシア、見なさい私たちの今日の成果を…」
アリシア「そんなことしてる場合じゃない!すぐに穂乃果を呼んできて!!」
光「どっどうしたのよ急に?」
アリシアの必死の様子に光は困惑する。
アリシア「どうしたもこうしたもないわよ!!お兄様が…お兄様が撃たれたのよ!!!」
光・グレイ「!?」
光「撃たれたって…!いったい何があったのよ!?」
アリシア「説明は後でするわ!!今は穂乃果を呼んできて!!」
グレイ「僕が穂乃果君を呼んでくるよ!」
グレイは穂乃果を呼びに行った。少ししてフレアに担がれたレオが運ばれている。レオの脇腹の部分は真っ赤に染まっていた。
リオン「おっおい!なにがあったんだよ…!?レオ!」
真鈴「うっうそ…」
部屋にいたリオンと真鈴も騒ぎに気づき飛び出てくる。
穂乃果「すぐに治療します!ロザリアさん!手伝ってください!」
ロザリア「分かりました!お兄様!しっかりしてください!お兄様!」
レオは医務室運ばれていった。
他の者達は治療の邪魔になってしまうため医務室には入れず外で待機することにした。
田中「会長が撃たれるって…なにがどうなってるんだよ!?」
光「何があったのか教えて、アリシア」
アリシア「ええ」
アリシアがあったことを話し始める。
それはレオ達が3つ目の寮に来た時だった、ここまでも前回と同じように協力してくれるものは誰もいなかった…
「おっお願いです!もう帰ってください!」
レオ「頼む!話だけでも聞いてくれ」
レオは目の前にいる茶髪のロングヘアーで蛇の髪飾りを付けた女性を必死に説得しようとしていた。
彼女は何か最近あったようで酷くおびえている様子だった。
「むっ無理なものは無理です!」
レオ「俺たちは君たちを襲ったりしない!信じてくれ幸実」
幸実「くっ口だけならいくらだって言えます!会長の言うことでも信じられません!もういい加減帰ってください!」
レオ「話を聞いてくれるだけでいいんだ!お願いだ!」
レオはここまで何の成果もあげられてないことに焦り、つい詰め寄るように前に一歩出てしまう。
幸実「いや!来ないで!来ないでっ!!!」
バン!
レオ「!?」
乾いた発砲音が響く。
レオの行為が引き金となり、幸実は恐怖のあまり拳銃を引き抜きレオに発砲したのだ。弾丸はレオの脇腹に命中した。
レオ「かはっ!」
フレア「お兄様!!!」
幸実「あっ…ちが…そんなつもりじゃ…」
アリシア「お前ッッッ!!!」
幸実「ひっ!!!」
アリシアが怒りを露わにし、槍を持って飛び掛かろうとするが…
レオ「やめろ!アリシア…!」
アリシア「!?」
レオによって静止させられる
アリシア「でも!!!」
レオ「いいんだ…すまなかった…怖がらせてしまって…俺達はもう行く…アリシア・フレア行くぞ…」
レオは脇腹を抑えながらふらふらと歩きだす。
アリシア「お兄様…っ!」
アリシアは幸実をにらみつける
アリシア「あんただけは!絶対に!許さないからッ!」
アリシアはそう言い残し、レオについて行った。フレアも涙目で幸実をにらみつけアリシアについていく。
幸実はその光景をうわごとを言いながらただ見ていることしかできなかった。
…
グレイ「そんなことが…」
アリシア「あいつだけは…絶対に許さない!」
アリシアは怒りでわなわなと震える。
アリシア「…っ!」
光「ちょっと!どこに行く気!?」
アリシアは飛び出していきそうになるが光に腕をつかまれる。
アリシア「決まってるでしょ!あの幸実とかいう女のところよ!あいつには同じ目に合わせてやらないと気が済まない!!!」
光「何言ってるの!?馬鹿な真似はやめなさい!そんなことしたらどうなるか分かってるの!?」
アリシア「うるさい!!放して!!」
アリシアは必死に抵抗する、そんなアリシアを光は押さえつける。
グレイ「光!」
光「黙ってて!!!」
グレイ「!?…」
光「いい!なんでレオがあんたを止めたかわからないの!?あんた達を守るためよ!もしその時その幸実て奴に攻撃してたらどうなってたか分かる!?あんたたち全員がその寮にいたやつらに攻撃されてたかもしれないのよ!!そうなったら怪我をするだけじゃすまない!!死んでたかもしれないのよ!!」
アリシア「でも!」
光「それだけじゃない!もしやり返しなんてしたら寮を襲ってるやつらと何も変わらなくなるのよ!レオはあんたたちのそうなってほしくなかった!今あんたがやり返せばレオのそんな思いはすべて無駄になるのよ!あんたがやり返したなんて聞いたらレオはきっと悲しむでしょうね!いいえ悲しむだけじゃないわ、あいつはこれからずっと自分のことを責め続けるでしょうね!あんたはそれでいいの!?レオをそんな目に合わせたいの!?」
アリシア「私は!…わたしは…うう“ぅ…」
アリシアはぽろぽろと泣き出してしまった
光「悔しいのは分かるわ、私も悔しい…!本当だったらそいつの顔面を一発はぶん殴ってやりたいわよ…でも!あいつのことを思うなら…そうするわけには…いかないのよ…!」
気づけば光の目からも涙がこぼれていた。
その場にいる者達は誰一人が何か言うことはできなかった。ただアリシアの泣き声だけが聞こえ続けていた…
夕方になり森に探索に行った修斗達も帰ってきたため今日あったことを共有する。
結局今回の探索でも川を見つけることはできなかった。ここまでくると本当にこの島にはそんなものはないのではないかとさえ思えてくる。
光達からもレオが撃たれたことを聞き、霊華はそれを聞いた途端に飛び出していこうとしたがエレンの超能力で止められ今は部屋でおとなしくしている。
修斗は話を聞いても思ったよりは冷静で、「兄上様が望まないのであれば報復はしない」と言ってくれた。しかし彼も表には出さなかったが心の内では耐えがたい怒りがわき続けているようだった…
佐藤「それでレオ君は大丈夫なのかい?」
光「命に別状はないみたいよ、怪我も数週間もすれば治るって、でも…」
佐藤「何かあったのかい?」
光「一人にしてくれって言って誰とも会ってくれないのよ…」
美春「ロザリアたちでもですか?」
光「ええ…妹達とさえ会ってくれないみたいだわ」
佐藤「会長にとって今回のことはこれまで以上にショックが大きかったみたいだね」
光「いままで自分のことを慕ってくれてた奴に撃たれたのよ?どれだけショックかなんて想像がつかないわ」
今まで自分を慕っていてくれた者に撃たれる、それがレオにとってどれだけショックが大きかったかは光達には到底想像できるものではなかった。
美春「今はそっとしておくしかないんですかね?」
光「それしかないわ、下手に慰めの言葉をかけたって逆効果になるだけよ」
佐藤「会長…立ち直れればいいんだけど…」
結局それから夕食の時間になったがレオが来ることはなかった。
そして今回は釣ってきた魚も食卓に並び久しぶりに満腹になれる食事だったが誰もそれを喜ぶものはいなかった。
その後はレオの代わりに修斗が指示を出し明日の探索のメンバーだけを決め就寝することにした。
結局レオは・・・今日姿を現すことはなかった…
夜が更けたころ…霊華はベットの上で何度も寝返りを打っていた。
霊華「眠れない…」
霊華の中でレオが撃たれたということが何度も反復していた、そしてそのたびに煮えかえるような怒りを感じていた。正直に言って今すぐにでもレオを撃った奴のところに行って痛い目に合わせてやりたいぐらいだった…
しかし霊華自身も分かってはいた。そんなことをしても誰も喜ばないし意味もないと、分かってはいるがそれが余計に霊華をいら立たせていた。
霊華(ああー!イライラする!)
霊華はベッドから起き上がる。
霊華「はぁ…少し夜風にあたってこよ…」
霊華は部屋を出てエントランスに着く。
霊華「あれ?」
霊華はエントランスについて異変に気付く、見張りが誰もいないのだ。
本来この時間の見張りはレオであったが今回の事件もあり確か修斗が代わりに見張りをしているはずだった…
霊華(どこ行ったんだろう?まあいいか…)
霊華は特には気にせず外に出る。
外は静寂に包まれており、波の音だけがかすかに聞こえていた。
霊華(浜辺でも散歩しよう…寮からあんまり離れなければ大丈夫よね?…ん?)
霊華が浜辺の方に目をやると月明かりに照らされ、ぼんやりと人影が見えた。
霊華(あれは…レオ?)
近づいてみるとそれは部屋にいるはずのレオだった。
霊華(何してるんだろう?)
レオ「…ん?」
霊華「!」
レオも霊華に気づいたようだ。
レオ「霊華か…どうしたんだ?こんな時間に?」
霊華「///あっ…その…眠れなくて…そっそれよりレオの方こそ何してるの?」
レオ「ああ…少し夜風にあたりたくてな・・・」
霊華「そっそうなんだ…」
レオ「・・・」
霊華「・・・」
二人はしばらくの間無言でその場に立っていた。
静寂を破ったのはレオだった。
レオ「俺が今までしてきたことは…無駄だったのだろうか?」
霊華「え?」
レオはぽつりぽつりと話し始める。
レオ「俺は今まで生徒会長として努力し続けてきた。学園のためというのもあったが…俺はただ…みんなと仲良く過ごしたかったんだ…俺たちのような奴は・・・普通の学校じゃ煙たがられるからな・・・時には化け物でも見るような目で見られる。だから・・・そんなことにはならないこの学園生活を最高のものにしたかった…ただ…それだけだったんだ…そのためなら…なんだってしてきた…多くのことを成し遂げ・・・頼れる生徒会の仲間に囲まれ・・・みんなにも慕われるようになった・・・みんなが俺を信頼してくれた・・・俺はその時初めて生徒会長になって良かったって思えたんだ…俺がやってきたことは無駄じゃなかったって」
霊華はこの時初めてレオが生徒会長になった理由を知った。今まで霊華はレオがどうして生徒会長になったのか…そんなことを考えたことは一度もなかった。ただやってみたかったから責任感が強いからそんな理由だと思っていたのだ。
霊華は自分がどれだけ浅はかな考えだったかも実感した。
レオ「でも…それは俺のただの勘違いだったんだ…今日のことで分かった・・・俺は誰からも…信頼なんてされてなかったんだ!誰も俺のことなんて信じてはいなかったんだ!」
レオは胸の内に秘めていたことを全て吐き出すように言う。
レオ「なあ…霊華・・・教えてくれ…俺がやってきたことは…全部無駄だったのか?」
霊華はレオを見る。今までの強い意志を持っていた時とは違い、今のレオはすぐにでも壊れてしまいそうだと…霊華は感じた。
霊華「違う…」
レオ「?」
霊華「無駄なんかじゃない!あなたが今まで頑張ってきたから私たちがいるの!」
霊華は力いっぱいレオの言葉を否定した。
レオ「!」
霊華「他の奴らはどうか知らない…でも!私たちは信じてる!あなたがすることは正しいって…そう信じてるの!あなたがどれだけ頑張ってきたかも、あなたが他人のためにどれだけ尽くしてきたかも、あなたが誰よりも優しいことも、全部私たちは知ってるから!だからあなたについていってるの!」
レオ「霊華・・・」
霊華「だから…無駄なんて思わないで…少なくとも私達だけはあなたを信じているから!」
レオ「俺は…」
レオは必死に泣きそうになるのをこらえる。
霊華「レオ、泣きたかったら泣いてもいいのよ、つらいときは…大声で泣いていい…私も胸ぐらいだったら貸してあげられるから」
霊華は優しくそういった。
レオ「っ!う…うあ“あ”あ“あ”あ“ぁぁぁぁ!!!」
レオは泣いた、霊華の胸の中で…今まで溜めていたものを全て吐き出すように・・・ただ大声で泣いた。
霊華はそんなレオを母親のようにただ優しく抱きしめていた…
しばらくしてレオもだんだんと落ち着いてきたようだ。
霊華「落ち着いた?」
レオ「あっああ…すまない、恥ずかしいところをみせたな///」
レオは普段見せないような姿を見せてしまい少し恥ずかしそうにする。
霊華「気にしなくて大丈夫よ」
霊華(それに…頼ってくれたのは嬉しかったし)
霊華はそれは口には出さなかった。
霊華「そうだ!」
レオ「どうしたんだ?」
霊華「あなたが落ち着いたら言おうと思ってたのだけど…あなたを信用してるのは私たちだけじゃないわ、みんなあなたのことは信用してる。ただ…今はこんな状況だからみんな混乱してるのよ。しばらくすれば…みんな協力してくれるはずよ」
レオ「霊華・・・ありがとう」
霊華「ふふ…どういたしまして」
レオ「それじゃあそろそろ寮に戻ろう、長い間留守にしてしまったからな」
霊華「そうね…あ!レオ!あれを見て」
霊華が指さした方を見るとそこには。
レオ「日の出か…」
地平線から太陽が顔を出し始めていた。
霊華「綺麗ね…」
レオ「そうだな…」
二人は寮に戻るのはやめもう少しの間ここで日の出を見ることにした。
日の出はまるで新しい始まりを祝福するように輝いていた…
霊華(あれ?今思ったけど…さっきてもしかして…めちゃくちゃ告白のチャンスだった!?なんで告白しなかったのよ!もーーー!私のばかぁーーー!!!)
霊華の心からの叫びにレオが気づくことはなかった…
6日目
二人が寮に戻ったころには皆エントランスに集まっていた。
皆がレオを見るなり集まってくる。
光「レオ!もう大丈夫なの?」
レオ「ああ、すまない、みんなに心配かけて」
リオン「まったくだぜ!ま、レオが元気そうで安心したぜ!」
真鈴「お前昨日、まあレオなら心配しなくても大丈夫だろ!・・・とか適当なこと言ってなかったかぜ?」
リオン「え?そんなこと言ったっけ…まあ小さいことは気にしなくていいだろ!はっはっはっ!」
光「相変わらず調子いい奴」
レオ「はは…みんな、昨日情けない姿を見せてすまなかった。こんな俺だが…お前たちはまだ俺を信じてついてきてくれるか?」
そう聞かれると他のものは一瞬顔を見合わせたのちすぐに
リオン「何言ってんだよ!レオ!そんなの当たり前に決まってんだろ!」
エレン「そうだよ会長!私たちはどこまでも会長についていくよ!」
ロザリア「私たちもずっとお兄様を信じていますよ」
アリシアとフレアがうんうん!といったように頷く。
修斗「私は生涯この命が尽きるまで兄上様にお従えします」
皆口々にそう言ってレオについていく旨を伝える。
レオ「みんな・・・」
レオはうっすらと目に涙を浮かべる。
霊華「ね、だから言ったでしょ?みんなあなたを信じてるって」
レオ「そうだな…信じられていなかったのは俺の方だったみたいだな・・・」
レオは袖で涙をぬぐう。
レオ「みんなありがとう!よし!それじゃあ今日も…生き残るぞ!!!」
みんな「おお!!!!!!!!!!!!!」
皆が活気を取り戻した。
朝食をすまし今日の行動を再確認する。
レオ「他の寮に協力を求めに行くのは一旦やめることにする。」
光「本当にいいの?」
レオ「ああ、今日までのことで分かった。みんなこんな状況で混乱して疑心暗鬼になってる。無理に協力を求めるのは逆効果だ。今は皆がある程度落ち着くまでは待つことにする」
グレイ「それがいいかもね」
ロザリア「でも、少し心配ですね…」
レオ「あいつらだって何もできないわけじゃない、自分の身を守る術は持っているはずだ。あいつらもきっと生き残れる、そう信じるしかない。それに今は俺たちが生き延びることも大切だ、食料はある程度何とかなりそうだが水はそうじゃない、早く川か何か見つけないと俺らも長くは持たない」
光「確かにそうね」
レオの言う通り水はかなり減ってきていて持ってあと1~2日といったところだった。
レオ「そこで今日からは俺も川の探索に加わる」
霊華「え!?探索に加わるって…怪我は大丈夫なの?銃で撃たれたのよ?」
レオ「大丈夫だ、動くのに支障はない」
霊華「本当?」
光「ま、本人が大丈夫って言ってるんだから心配しなくても大丈夫よ、それにこいつは昔から頑丈で怪我の治りも早いし、どっかの馬鹿と同じでね」
そう言って光はリオンの方をちらっと見る。
霊華「それならいいけど…」
こうしてレオも川の探索に加わることなった。
レオを含む修斗・ロザリア・美春・霊華・光・グレイの7人が森に入ってからしばらくたったころ、光が霊華に話しかける。
光「そういえばあんた、少しレオとの距離が縮まったみたいね」
霊華「え!?あっまあ…うん///」
光「良かったわ、でもその様子だとまだ告白はしてないみたいね」
霊華「うん…チャンスはあったんだけど…」
光「それでも今までに比べればだいぶ関係は進んだ方じゃない?このままいけばきっとうまくいくわ」
霊華「そっそう…かな?」
光「ええ!私の感はよく当たるから信用しなさい」
霊華「分かった」
光(それに…今あいつの支えになれるのはあんたしかいないからね)
そんな会話をしながらまた何時間か経過した。幸いにも怪物と遭遇することはなかったが長時間の探索で疲弊したため少し休憩をとることにした。
修斗「兄上様、少しお話が」
レオ「どうしたんだ修斗?」
修斗「このデスゲームが始まって今日で6日目です、つまり明日は…」
レオ「7日目・・・強力な怪物が放たれるということか…」
修斗「はい、その通りです、どうしますか?兄上様」
レオ「・・・俺はそいつと戦おうと思う…」
修斗「・・・」
修斗は何も言わずにレオの話を聞く。
レオ「そんな怪物を野放しにすれば何人死人が出るかわからない、それにその怪物は間違いなくいつかは俺たちの脅威になる。だったら先にその怪物をたたく方がいい…だがこれはあくまで俺の考えだ…寮に戻ったあと皆とまた話し合うつもりだ」
修斗「分かりました。怪物と戦う場合、私は兄上様にお供します」
レオ「修斗・・・ありがとな」
修斗「それが私の使命ですので」
レオ「そうか…」
レオにとって修斗が自分のことを慕ってくれるのはうれしかった、しかし修斗のそれは家族としてではなく主人に従える従者としてだった。レオは少し複雑な気持ちだったがそれを口に出すことは無かった。
時間がたち再びレオ達は探索を再開する…しかし一向に川は見つからなかった。
美春「全然見つかりませんね…」
光「やっぱり修斗の言ったようにこの島に川なんてないのかしら…」
レオ達に最悪の考えがよぎる。もしそうだった場合水の確保はかなり難しくなる。グレイのおかげである程度水が確保できるとはいえ、それでも二か月を生き残るというのはかなり難しかった。
光「川を探すより雨乞いする方が何とかなるんじゃないかしら?霊華、あんた巫女なんでしょ?雨乞いの儀式の一つぐらいできないの?」
光は霊華に無茶ぶりをする。
霊華「そんなのできるわけないでしょ!」
光「冗談よ、でも…このままじゃ本当にそうせざる負えなくなるかもね…」
霊華「・・・」
雨乞いすらせざる負えなくなる、そんな自分たちの絶望的状況を理解し皆黙ってしまう。
レオ「・・・もうすぐ日が落ちる今日はもう寮に…ん?」
ロザリア「どうしたんですか、お兄様?」
レオ「静かに!・・・この音は…」
美春「もしかして怪物!?」
美春は腰に下げた刀に手をかける。
レオ「いや…違う…この音は…水の流れる音だ!こっちだ!」
レオはそう言うと走り出す。
光「あっ!ちょっと待ちなさいよレオ!」
他の者達もレオを追いかける。
レオは藪をかき分けながら進んでいく…
レオ(こっちだ!間違いない!こっちから水の音が聞こえる)
レオは必死に藪をかき分けていくそして藪をかき分けた先には・・・
レオ「これは…」
光「はあ…!はあ…!やっと追いついたって…これって!?」
他の者達もそれを見るそこには・・・
レオ「川だ…川があったぞ!!!」
長い間探し続けた川が流れていた。川の大きさはそれなりにあり、澄んだ水が流れていて、魚が泳いでいるのも見えた。
光「ついに…見つけたのね…!」
光はうれしさのあまり涙を流す。
霊華「ちょっと…なに泣いてるのよ…」
光「あんただって泣いてるじゃない…」
霊華「こっこれは…目に…ゴミが入っただけよ…」
美春「やりましたね!ロザリア!」
ロザリア「はい!」
美春とロザリアは抱き合ってそのことを喜んだ。
グレイ「ここまで長かったね…」
レオ「ああ、だがこれで俺たちはまだ生き残れる・・・希望はまだ残ってる」
修斗「そうですね、兄上様」
その場にいる者達がしばらくの間歓喜に慕っていた。
その後は地図にある程度の位置を記入し、木に目印を残し寮へと帰った。
そのことを寮にいる者に伝えると、他の者達も大いに喜び寮内は一気にお祝いムードになった・・・
しかしずっと喜んでいるわけにはいかなかった。
レオ「みんな、喜んでいるところ水を差すようで悪いが少し聞いてほしいことがある」
リオン「どうしたんだ、レオ?そんなに改まってよ~」
レオ「重要な話だ、しっかり聞いてほしい」
リオン「おっおう…」
レオ「このデスゲームが始まって、明日で7日目になる」
エレン「7日目・・・それって確か…!」
レオ「ああ、強力な怪物が放たれる日だ」
皆「!」
アリシア「強力な・・・怪物」
アリシアとフレアは自分たちの寮を襲った怪物のことを思い出す。あの時のことを考えると体が勝手にこわばってしまう。
レオ「その怪物を放っておけば多くの死者が出る、それに…その怪物は間違いなく俺たちの脅威にもなるはずだ。だから俺は…その怪物と戦おうと思う!」
全員がレオの話を黙って聞く。
レオ「だがこれは俺の考えだ。だからみんなの意見を聞きたい」
光「私は賛成よ、レオの言う通りどっちにしろ私たちの脅威になるなら犠牲者が出る前に倒した方がいいわ」
グレイ「僕も賛成だよ」
霊華「私も賛成よ、強力な怪物が何?そんなの私の電撃で消し炭にしてやるわ!」
霊華は怪物など怖くはないといった様子だ。
エレン「う~ん、ほかの人が倒してくれるのを期待するのは…無理だよね…うん!決めた!私も怖いけど怪物と戦うよ!」
エレンも覚悟を決めたようだった。
リオン「俺も戦うぜ!怪物と率先して戦うのはヒーローの仕事だからな!」
真鈴「ま、こうなったら私も付き合ってやるんだぜ!」
リオンと真鈴も賛同する。
ロザリア「私も戦います!もう・・・誰かが傷つくのは嫌ですから!」
美春「私も戦います・・・本当は怖いけど…ロザリアが戦うのに私が戦はないわけにはいきませんから!」
アリシア「私たちも戦うわ!もう誰も…私たちのような目に合わせたくはないわ!」
フレア「私も!」
ロザリア達も怪物と戦うことを決める。
修斗「私の答えはもう決まっています。兄上様」
修斗は先ほどレオに話したように怪物と戦う覚悟はできていた。
穂乃果「私は…戦うことはほとんどできませんが治療ならできます!私もできる限り役に立ってみせます!」
佐藤「僕も、頼りないかもしれないけどできる限りは頑張って戦って見せるよ!」
ほとんどのものが賛同する後は…
田中「俺も?…あー!くそ!分かったよ!戦えばいいんだろ!戦えば!こうなりゃやけだ!付き合ってやるよ!こー言うのはあれだ!勢いで何とかなるだろ!」
田中は半分やけくそだった。
レオ「お前たち・・・本当にいいのか?かなり危険なんだぞ?」
全員が覚悟はできているといったように頷く。
レオ「分かった。なら決まりだ!俺たちは明日、怪物と戦う!厳しい戦いになるかもしれないが…俺達だったら必ず勝てるはずだ!勝って・・・生き残るぞ!」
「おお!!!」
その後全員が明日に備えて準備を行うことになった。
また怪物と戦うといっても寮を留守にするという訳にはいかないため最低限の戦力は残すことにし、レオ・修斗・ロザリア・美春・リオン・真鈴・グレイ・霊華・エレンの九人で怪物と戦うことにした。
だが簡単にメンバーが決まったわけじゃなかった、主にアリシアとフレアから異論があった。
フレア「お兄様!どうして私たちを連れてってくれないの!」
アリシア「フレアの言う通りよ!私たちも行くわ!」
アリシア・フレアは自分たちを連れて行ってくれないことに文句があるらしい。
レオ「アリシア・フレア、さっきも言ったが全員を連れて行くわけにはいかないんだ」
アリシア「穂乃果たちを連れていかない理由は分かるわ、でも私たちは戦える!お兄様は私達じゃ足手まといだと思ってるの!?」
穂乃果や田中など戦闘能力の低いものを連れて行っても怪物と十分に戦えるとは考えずらい、だから彼らのようなものは寮で待っていてもらうという結論に至ったのだ。
光「ちょっとあんた達・・・」
光が二人に何か言おうとするがレオが制止する。
レオ「アリシア・フレアよく聞いてくれ、俺はお前たちのことを足手まといなんて思ってない、もちろんほかのみんなのこともな。だがな、寮を留守にするわけにもいかないんだ。それに相手はただの怪物じゃない、無理に戦いが苦手なものを連れて行くわけにもいかない。これはお前たちも分かるだろ?」
アリシア「それは分かってるわ!でも私たちは戦える!」
フレア「そうだよ!」
レオ「確かにそうだ、だがなもしも俺たち全員が出払ったら誰がここを守るんだ?」
アリシア「それは…」
レオの質問に二人は黙り込んでしまう。
レオ「もしも俺たちが怪物と入れ違いになって、怪物がここに来た時、戦える者が残ってなかったらそれこそ終わりだ。ここに残ってみんなを守る者も必要なんだ。アリシア・フレア、俺はお前たちのことを信用してないわけじゃない、むしろ逆だ、お前達だったら怪物が来てもみんなを守れるって信じてるんだ。だからお前たちを置いていくんだ。」
レオは優しく二人を諭すようにそう言った。
アリシア「・・・ごめんなさいお兄様…私達・・・全然わかってなかった…」
フレア「うう…」
レオ「いいんだ、お前たちのみんなと一緒に戦いたいという気持ちも分かる。ただ今回だけは我慢してくれないか?」
アリシア「・・・分かった」
フレア「うん…」
レオ「いい子だ」
レオは二人の頭をなでる。
アリシア「///」
フレア「えへへ///」
レオ「光、もしもの時はお前も頼んだぞ」
光「ええ、任せておいて」
光は力強くそう答えた。
真鈴の部屋にて・・・
真鈴は自室で一つの銃を組み立てていた。
美春「今回はそれを使うんですね?」
真鈴の手伝いをしていた美春が真鈴に質問する。
真鈴が組み立てているのはスナイパーライフルだった。
真鈴「ああ、サブマシンガンだと大人数で戦う場合に流れ弾が誰かに当たっちまう可能性があるんだぜ、だけどこいつだったらその心配は少ないんだぜ、それに・・・」
真鈴が組み立てたライフルを構える。
真鈴「私の十八番は狙撃なんだぜ!」
真鈴は得意げにそう答えた。
同時刻、レオの部屋にて・・・
光「わざわざ場所を変えるってことは、あの二人の前では話せないことなの?」
レオ「ああ、お前にだけ話しておこうと思ってな。光、もしもここに怪物が来た時は戦うことなんて考えずに逃げろ。」
光「やっぱりそうなるわよね。正直分かってたわ、私達が残ってたとしてもアリシアたちの時に来た怪物が来たら勝てっこないわ。」
アリシアとフレア達が束になっても手も足も出ないような怪物が来るのだ、レオ達がいない状況でそんな怪物が来れば勝ち目など到底なかった。
レオ「ああ、だからもし怪物が来てると分かったら全員を連れて逃げるんだ。」
光「分かったそうするわ、でもどこに逃げればいいの?」
レオ「もしも怪物がここに来た場合、薫か…もしくは九尾のところに行くんだ。」
光「薫か九尾ね…確かにあいつらなら信用できるわね…」
彼ら言う九尾とはレオの親友であり、それなりに長い付き合いの人物で信用に足る人物ではあった。
光「でも九尾てあんたが寮を回った時にはいなかったんでしょ?それにあんたが協力を求めてるって聞いたらすぐにでも飛んできそうなものなのにいまだに来てないし…大丈夫なのかしら?」
レオ「何か事情があるんだろう、だが少なからずあいつなら信用できる」
レオはそう断言する。
レオ「それと・・・もしも俺たちが帰ってこなかった時も同様だ」
光「分かったわ、でも絶対に死んだりなんてしないでよね?」
レオ「ああ、誰一人死なせるつもりなんてない、もしもの場合はあの力を使う」
レオはそう言ってあの赤い錠剤が入ったタブレットケースを取り出す。
レオ「だがこの力を使うのは、その場から全員逃げさせた後だ…俺たちの秘密を…知られるわけにはいかない…」
光「レオ・・・あんたがその力を使わなくてもいいことを祈っておくわ」
レオ「ありがとう、光」
レオの視線はしばらくの間手に持っているタブレットケースから離れなかった。
7日目
時間が経つのはあっという間だった、気づけばすでに朝を迎えていた。
怪物と戦うメンバーはそれぞれ準備を済ませてエントランスに集合していた。
霊華「そう言えば、怪物っていつ頃現れるの?」
エレン「確かに・・・何か予兆とかあるのかなそれとも探さなきゃだめ?」
アリシア「私たちの時は…9時を過ぎたあたりであの怪物がカプセルに入って空から降ってきたわ」
美春「あれって空から降ってきたんですか!?」
美春が驚愕する。
修斗「怪物は輸送機か何かで運ばれて来たということですか…」
アリシア「そのはずなのだけどね…」
あの時もそうだったが今回も外から輸送機や何かが来てる音もなく、影も形もなかった。
レオ「・・・待っていても仕方がない…外に探しに・・・」
レオがそう言いかけた瞬間突如として放送が入る。
皆「!?」
ゼロ「おはよう諸君いい朝だな」
レオ「ゼロ・・・!」
レオが怒りをにじませた声でゼロの名を呼ぶ。
ゼロ「私が送った試作品は楽しんでくれたかな?」
アリシア「あいつ・・・!」
ゼロ「ふふ、どうやら大勢のものが死んだみたいだな…だが中には怪物に殺されたわけでないものもいるみたいだな…自殺したかはたまた・・・誰かに殺されてしまったのだろうか?」
ゼロはとぼけたように言う。
ゼロ「まあそんなことはどうでもいい…今日で一週間だ宣言通り強力な怪物を一体放つ。せいぜい殺されないように努力することだな。はっはっはっは!」
ゼロそう言って笑いながら放送を切った。
リオン「むかつくぜ!あのくそ野郎!」
光「同意見ね」
レオ「まったくだ、だが今は奴が言っていた怪物を倒すのが優先だ」
レオは椅子から立ち上がる。
レオ「みんな行くぞ!」
みんな「おお!!!!!!!!」
こうしてレオ達は怪物の討伐に向かった。
ゼロの放送から少し経った頃。森の中に二人の青年がいた。
一人は坊主頭で少し小柄であり手にはバットを持っている。もう一人は背は普通の短髪で手には拳銃が握られている。
「なっなあ…悠太、ほんとに大丈夫なのかよ?」
短髪の青年がおびえた様子で言う。
どうやら坊主頭の青年の名前は悠太というらしい
悠太「なにがだよ?ロゼ?」
悠太が質問を返す。ロゼそれはもう一人の青年のあだ名だ。本名は優斗という。由来は彼はバラ色を表すRoseからきていると思っているが、本当は悠太が彼をゲームで煽るために
LOSER、日本語で敗北者という意味を込めてロゼと呼んだのだが彼はそれに気づいてはいない。
ロゼ「なにって…今日は強い怪物が放たれてるんだろ?危険じゃないか…」
悠太「馬鹿かお前、そいつが放たれてるからここに来たんだよ!」
ロゼ「なんでだよ!」
悠太「いいか、そいつが放たれてるってことはほかの奴らはおびえて寮から出てこない、そうなりゃ森の中で他の奴らと食料の争奪戦にもならず、全部俺たちが手にいられるじゃねえか!それにな森の中の方が隠れる場所も多い、むしろ安全じゃねえか」
ロゼ「確かに!お前天才だな!」
悠太「だろ!分かったならさっさと行くぞ!」
そういうと二人はさらに奥に入っていく。
道中で他の人物に会うことは無かった。
二人は木の実や山菜などを集めていく。
ロゼ「結構集まったな」
悠太「こんだけありゃしばらく持つだろ…ん?」
ロゼ「どうしたんだよ?」
悠太「いや…あっちになんかいねえか?」
悠太が指さした方を見ると人のようなものが見えた。そしてそれはこっちに向かってきていた。
ロゼ「人か?それにしては大きいような…」
悠太が「同業者かもしれねえ…ん?こっちに向かってきてねえか?隠れるぞ!」
ロゼ「おっおい!」
二人は近くの茂みに隠れる。
人影はこっちに近づいてくるそして近づいてきたことで分かったことがある。
ロゼ「なっなあやっぱりでかくねえか?それにあれ・・・」
その人物の背丈は優に2メートルを超えていて、体格も人間とは思えないほど巨大だった。顔にはマスクのようなものが装着されているため見えなかったがマスクの間から見える眼光はまるで獣のようだった。肩に何かの装置?のようなものがついているが何より目を引いたのは、右腕に装着されたガトリングのようなものだった。
悠太「なんだよあれ?ガトリングか?あんなのゲームでしか見たことねえよ…」
ロゼ「あれって…もしかしてゼロが言ってた怪物じゃないのか!?」
悠太「かもな・・・」
ロゼ「どっどうすんだよ!?」
悠太「馬鹿!大きい声出すな、幸いまだ気づかれてない。ばれないうちにここを離れるんだ」
ロゼ「くそ・・・こんなことならついてこなきゃよかった。」
悠太「文句言うな!いいか…ゆっくりだぞ…」
二人はゆっくりとその場から離れていく…しかし・・・
パキ
不幸なことに落ちていた枯れ木を踏んでしまう。
ロゼ「あっ…」
悠太「ばっ…!」
怪物はその音に気づき、音のした方を振り返り二人を視界にとらえる。
悠太「やっやべぇ…」
ロゼ「うっうわぁああああああああああああああ!!!」
悠太「おい!」
ロゼは持っていた拳銃を怪物に向かって乱射する、何発かの弾丸が怪物に命中する。
しかし怪物はまるで何事もなかったようにガトリングを構える。
怪物の右腕に装着されたガトリングがうなりを上げる。
ロゼ「いっ嫌だ!死にたくない!!!」
ロゼは脱兎のごとく駆け出した。
しかし次の瞬間。
ロゼ「あ“っ」
無数の弾丸が放たれ。ロゼの体に無数の風穴を開ける。
ロゼは地面に倒れ動かなくなった。
悠太「ひっ!」
悠太(こっこんなところで死んでたまるか!)
悠太は走り出す。
しかし無情にも怪物はガトリングを逃げだした彼に向ける。
悠太(おっ俺はメジャーリーガーになるんだ!年俸も数十億を超える世界一の!そして世界一かわいい女と結婚するんだ)
ガトリングがうなりを上げる。
悠太(それなのに…こんなところで死ぬなんてそんな…)
次の瞬間無数の発砲音と同時に無数の弾丸が悠太の体を貫く…
悠太「…」
彼は声を発する間もなく地面に倒れ動かなくなった…
そのころレオ達は…
霊華「見つからないわね…どこにいるのかしら…」
レオ「分からない…犠牲者が出てなければいいんだが…」
その時森の中から無数の発砲音が聞こえてくる。
九人「!?」
レオ「なんだ!?」
美春「じゅっ銃声!?」
グレイ「森の奥からだ!」
レオ「まさか!?みんな行くぞ!!」
レオ達は森の奥に入っていく。
そこで見たのは、穴だらけになった二人の死体と右腕にガトリングを装着した怪物だった。
レオ「なっ!くそ!!もう犠牲者が…」
真鈴「あの怪物が腕に着けてるのって・・・まさかガトリングか!?」
怪物はレオ達に気づき、彼らに向かってガトリングを向ける。
レオ「まずい!みんな避けろ!!!」
レオの声に反応して全員がその場を飛びのく。
次の瞬間無数の弾丸が空を切った。
全員が木の後ろに隠れる。
リオン「まじかよ!あんなもん装備してんのか!」
修斗「どうしますか!?」
真鈴「私が狙撃するんだぜ!」
真鈴がスナイパーライフルを構える
真鈴「くらえ!」
真鈴が発砲する。
弾丸は見事に怪物の頭部に命中する。
しかし…
真鈴「嘘…」
怪物にはほとんど効いていない様子だった。
怪物がガトリングを連射する。
リオン「真鈴!」
真鈴「あっ…」
無防備な真鈴に無数の弾丸が迫る!
グレイ「アイシクルシールド!」
間一髪、グレイが間に入り氷の盾を展開し弾丸を防ぐ。
グレイ「くっ!」
しかし怪物は弾丸を放ち続ける。グレイの生成した氷の盾では限界があり、徐々にひび割れていく。
グレイ「まずい…!防ぎきれない…!」
エレン「させるか!これでもくらえ!」
エレンは周囲の小石を超能力で浮かびあがらせると、弾丸のようなスピードで怪物に向かって射出する。
エレンの攻撃は怪物に命中するが・・・
エレン「やっやぱり効いてない…」
怪物には効いてない様子だった、しかし怪物の注意を引くことには成功する。
グレイ「!」
グレイはその隙をついて真鈴とともに近くの木の陰に隠れる。
エレンも撃たれる前に木の陰に隠れた。
真鈴「たっ助かったぜ!グレイ…」
グレイ「無事でよかった。油断しないでね、あの怪物は普通じゃないみたいだ」
真鈴「ああ、今のでよく分かったんだぜ…」
レオ「くっ!」
そのころレオ達は怪物に攻撃を仕掛けようとするがガトリングによる攻撃により、近づくことすら困難だった。
レオ「くそ!だめだ!近づくことすらできん!」
修斗「このままではジリ貧ですね…」
霊華「ねえレオ!あんたの能力で動けないようにできないの?」
レオ「無理だ、奴の力が強すぎる!動きを少し鈍くするのが限界だ!」
ガトリングを片手で平気で扱うことができるほどの化け物だ、レオが能力を使用しちょっとやそっとの重力をかけたところで意味はなかった。
ロザリア「私が拘束魔法を試してみます!」
ロザリアが木の陰から飛び出し魔法を詠唱する。
ロザリア「ライトニングチェーン!」
無数の雷がロザリアの周りから出現し、形を変えいくつもの鎖となって怪物に巻き付く。
「!」
怪物が一瞬拘束される。
真鈴「今だ!」
グレイ「これでもくらえ!アイシクルショット!」
真鈴は放った弾丸とグレイの氷の弾丸が怪物の体を貫く。
しかしこれも怪物にはあまり効いていなかった。
そして…
「!」
ロザリア「うっ…!きゃあ!」
ロザリアの拘束魔法を怪物は引きちぎる。そしてロザリアを脅威と感じたのか、はたまたうっとおしいと感じたのか、ロザリアに向かってガトリングを乱射する。
美春「ロザリア!」
ロザリア「っ」
リオン「エンチャント!」
リオンが能力を使って身体能力を強化し、ロザリアを抱きかかえて回避する。
リオン「大丈夫か?」
ロザリア「あっ…ありがとうございます」
美春「良かった…」
修斗「安心してる場合ではありませんよ」
レオ「下手な遠距離からの攻撃じゃ奴にはほとんど効果がないか…」
リオン「なあ霊華!あの前に使ったあの雷…なんちゃらて技は使えねえのか!?」
霊華「どれのことよ!?」
リオン「犬に使った奴だよ!」
霊華「雷撃砲のこと?あれは使うのに時間がかかるの、それに電気をチャージしている間は無防備になるし…それに仮にチャージできたとしても放つ隙がないわ」
確かにあの強力な技ならば奴にでもダメージを与えられる可能性はあった、しかしとてもではないがガトリングを掃射してくる怪物相手にそんなことをしている暇はない。一箇所に止まり続ければたとえ木の裏に隠れていてもあっという間に木ごと蜂の巣にされてしまうだろう。
それに怪物も馬鹿ではない、自分に危害を与えようとする者がいれば優先して攻撃してくるだろう…
レオ「注意自体は俺達が引けるが、放つ時が問題だな…せめて隙を作れればいいんだが…」
弾切れを狙う…そう一瞬考えたが、奴にそんな兆しは一向に見えなかった。奴の背負っている巨大な容器のようなものにはかなりの寮の弾丸が入っているのだろう…
真鈴「一つ方法があるんだぜ!」
レオ「本当か!?」
真鈴「ああ!あいつのガトリングあれは多分無尽蔵に打ち続けられるわけじゃないんだぜ。打ち続ければ砲身に熱が溜まって弾が撃つ前に中で発火しちまう可能性があるんだ。だから奴が砲身を冷やすために撃つのをやめた時がチャンスなんだぜ!」
それは銃の知識を多く持つ真鈴だからこそ浮かんだアイデアだった。
レオ「なるほど…だがそれには奴にあれを打ち続けさせなければならないのか…よし!修斗!リオン!俺たち三人で奴の囮になる!奴があれを打てなくなるまで打ち続けさせるんだ!」
修斗「了解です!」
リオン「分かったぜ!」
レオ「他のみんなは俺たちを援護してくれ!」
皆「了解!」
レオ「霊華!君は雷撃砲のチャージを!俺たちが隙を作ったら奴にでかいのをお見舞いしてやってやれ!」
霊華「分かった!」
霊華は電気をチャージし始める。
レオ「よし!行くぞ!」
レオと修斗・リオンの三人が飛び出す。
怪物は三人に向かってガトリングを打つが、交互に場所を入れ替えながら動き続ける三人にはなかなか当たらなかった。
しかし怪物はレオ達が攻撃して来ないのを理解したのか否か、他の者達に狙いを変えようとする。
レオ(奴は知能があるのか!?)「リオン!」
リオン「おう!」
怪物が他の者達ガトリングを打とうとした瞬間リオンが勢いよく飛び出しそして…
リオン「くらえ!」
怪物の顔面に蹴りを叩き込む。
エンチャントによって強化されたリオンの蹴りは重く、流石の怪物も少しよろけるがすぐさまリオンに標的を変える。
しかし…
真鈴「!」
エレン「させないよ!」
怪物の体を無数の小石と弾丸が襲う
リオンは怪物の意識がそれた瞬間に距離をとる。
怪物はそれにいら立ったのか雄たけびを上げエレン達に向かってガトリングを乱射する。
エレン「わわわ!」
二人は木の陰に隠れるが、怪物は木ごとエレン達を穴だらけにする勢いだ。
真鈴「やば…!」
レオ・修斗「!」
その時いつの間にかレオと修斗が怪物の懐まで入り込んでいた。
二人は刀で怪物の体を切り裂く!
怪物は低いうなり声をあげよろけるがすぐに二人に向かって攻撃を仕掛ける。
しかし二人はすぐさま距離をとり、ガトリングでの攻撃を回避する。
怪物は激高したのか無我夢中であたりに弾丸をばらまき始めた。
レオ(奴は今冷静さを失っているこのままいけば…)
レオの思惑通り突如として怪物のガトリングから弾が発射されなくなる。安全装置でもついているのだろうか…怪物の意思とは関係ないようだった。
美春(今だ!)
美春は怪物がガトリングを使えなくなったのを見計らい、隠れていた茂みから飛び出す。
それは霊華の雷撃砲で怪物を確実に仕留められるよう、更にダメージを与えておこうと言う考えの元にとった行動だった。
美春「もらった!」
「!」
しかしその時、怪物の肩についていた装置が、突っ込んでくる美春に向けられた…
皆「!?」
美春「え?」
そしてその装置から何かが放たれた…
レオ「美春ッッッ!!!」
美春が先ほどいた場所で爆発が起きる
修斗「なっ…」
エレン「嘘…」
一瞬その場にいた者達全員が美春が怪物に殺されたと思った…
しかし
美春「!ロザリア…」
煙が晴れた瞬間そこには美春を庇うようにロザリアが立っていた。
ロザリア「よかっ…た、無事…で」
ロザリアは攻撃を受ける瞬間に防御魔法を使用したが、完全に防ぐことはできなかったようだ。
よく見るとロザリアの両腕は爆炎によって焼けただれていた・・・
ロザリアは美春の無事を確認すると地面に倒れてしまう。
美春「あっ…ああ…」
美春は戦意喪失して膝から崩れ落ちてしまう。
霊華「まずい…!」
霊華(どうするチャージはまだ完全じゃない…でも奴にこれを打てば注意ぐらいは…)
霊華がそう考えた瞬間…
霊華「え?」
怪物は戦意を喪失した美春ではなく…あろうことか霊華に狙いを変えた。
怪物の本能が戦意を喪失した美春よりも行動を起こそうとした霊華を危険と判断したのだ。
怪物の肩の装置から何かが発射される。
今度はそれをはっきりとみることができた。それはロケット弾だ。
あの怪物の肩についている装置はロケットランチャーだったのだ。
霊華「しまっ」
完全に不意を突かれた。
霊華は動くことすらままならない…
霊華「うっ!」
突如として霊華に謎の力が働き吹き飛ばされる。
そしてすぐに先ほどまで霊華がいた場所が爆発する。
霊華「!エレン!」
エレン「良かった…何とかなった」
エレンは咄嗟に超能力で霊華を弾き飛ばしたのだ。
霊華「助かったわ!エレン!あの怪物は…!」
霊華が怪物の方を見ようとしたとき。
グレイ「美春君!逃げるんだ!!!」
グレイの声が響く。見ると怪物は冷却が終わったガトリングを美春に向けていた。
しかし美春は動かなかった。今の美春にとってはすべてがどうでもよくなってしまっていたのだ。
美春はただ怪物のガトリングがゆっくりとうなりを上げていくのを見ていることしかできなかった。
そしてガトリングから弾が発射されそうになった時。
レオ「うおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」
レオが怪物に切りかかった。
怪物は咄嗟にガトリング部分でレオの刀を受け止める。
レオ「よくも…俺の妹をッッッ!!!」
レオの怒声が響く。
怪物はレオを弾き飛ばし、ガトリングを構えるが。
レオ「!」
ガトリングから弾が発射されるより早くレオが凄まじい速さで怪物に接近し切りかかる。
怪物は左腕でガードする。
レオの刀が左腕に深々と突き刺さる。
怪物はレオにガトリングをハンマーのように振り下ろす。
レオ「ぐうっ!」
レオは左腕でもう一本の刀を引き抜きそれをガードする。
そんな光景を眺めていた美春だったが突如として体を誰かに引っ張られる。
美春「え?」
修斗「何してるんですか!?兄上様が注意を引いているうちに離れますよ!リオンさん!姉上様を安全な場所に!」
リオン「おう!」
リオンは倒れているロザリアを抱え上げ安全な場所まで運ぶ。
修斗も動かない美春を強引に連れていく。
修斗「まだ戦いは終わっていませんよ!早く立ってください」
美春「だって…ロザリアが…っ!」
修斗が美春の胸ぐらをつかむ。
リオン「おい修斗!」
修斗「あなたは黙っててください!」
リオン「っ!…」
修斗の普段聞かないような荒げた声にリオンも黙ってしまう。
修斗「くだらない泣き言を言っている暇があったら戦ってください!それが姉上様に庇われたあなたができることなんじゃないんですか!!!」
修斗は美春を𠮟責する。
美春「でも…うっ!」
修斗は美春を突き飛ばし、美春は地面に尻もちをつく。
修斗「もういいです…勝手にしてください、夢咲家の名が聞いてあきれますね…あなたがこんなヘタレだとは思いませんでした。あなたを庇った姉上様が不憫でなりません」
修斗は美春に背を向ける。
修斗「今のあなたは…ただの足手まといです。いきますよリオンさん」
リオン「おっおう」
そう冷酷につげ、修斗は怪物の方に向かっていった。
リオンはちらっと美春の方を見たが何も言わず修斗についていった。
美春はただそれを見ていることしかできなかった…
レオ「ぐはっ!」
レオは怪物に吹き飛ばされる。
先ほどまでレオと怪物はぶつかり合っていたが力では怪物の方が強く、純粋な力勝負で勝てる相手ではなかった。
怪物のガトリングがうなりを上げる。
グレイ「アイシクルランス!」
真鈴「!」
真鈴の狙撃が怪物の背負ってる弾倉に命中しグレイの氷の槍が怪物の右肩に突き刺さる。
しかし怪物の背中の弾倉に弾が貫通することは無く、グレイの槍も大したダメージにはやはりなっていない。
しかし幸いにも、怪物の注意がグレイたちに向き、怪物は二人に向かってガトリングを乱射する。
レオも少し冷静になったのかそれを見て急いで怪物から距離をとった。
二人も木の陰に隠れる。
怪物は二人が隠れたのを見るとすぐさまガトリングを打つのをやめ、ロケットランチャーを放つ。
真鈴・グレイ「!」
二人は転がるように木から離れる。
ロケット弾は木に直撃し爆発を起こし、木はいとも簡単にへし折れた。
真鈴「くそ・・・あんなの当たったら木端微塵になっちまうんだぜ…」
修斗「兄上様!」
レオ「修斗!それにリオン!ロザリアと美春は?」
リオン「ロザリアなら安全な場所に置いてきたぜ!」
修斗「美春さんは…戦力になりそうではなかったのでおいていきました」
レオ「そうか…分かった、ともかく二人安全な場所に運んでくれてありがとう」
リオン「どうってことねえよ!それよりどうするんだ?ガトリングだけじゃなくてロケットランチャーまであるなんてよ…あれじゃ不用意に近づけねえぜ…」
修斗「せめてロケットランチャーだけでも何とかできればよいのですが…」
真鈴「私に考えがあるんだぜ…」
レオ「本当か?」
リオン「もしかしてあの背中にある弾倉をぶっ壊すのか?」
真鈴「いや、それはさっき試したけどびくともしなかった、相当な装甲で守られてるみたいだぜ」
リオン「じゃあどうするんだ?」
真鈴「あいつが私に向かってロケットランチャーを撃ってくるように誘導してほしいんだぜ」
修斗「正気ですか?」
真鈴「ああ、あいつがあれを撃ってくる瞬間に私がロケット弾を狙撃するんだぜ。そうすればあれを破壊できるし、怪物にもダメージを与えられるんだぜ」
真鈴の案は確かに怪物の持っているロケットランチャーを破壊することができた、しかしそれは狙撃する真鈴の役目があまりにも危険すぎた。
レオ「危険すぎないか?下手をすれば木端微塵だぞ」
真鈴「私の狙撃の腕を信じてないのかぜ?」
レオ「…」
リオン「俺は真鈴を信じるぜ!」
レオ「リオン…」
リオン「大丈夫!なんたって真鈴は学園一の射撃手だからな!」
その言葉からはリオンから真鈴への強い信頼が表れていた。
真鈴「へへ・・・その通りなんだぜ!」
真鈴は自信満々に胸を張った。
レオ「分かった、その作戦に賭けよう」
真鈴「そう来なくっちゃ」
レオ「真鈴、狙撃の準備を頼む!」
真鈴「オッケー!」
レオ「グレイ!あのロケット弾の攻撃は防げるか?」
グレイ「最大限の力でアイシクルシールドを張れば一発ぐらいだったら…」
レオ「分かった、もしもの時はそれで真鈴を守ってくれ」
グレイ「了解!」
レオ「霊華!雷撃砲はまだ撃てそうか?」
霊華「あと一発ぐらいだったら」
レオ「十分だ、奴へのとどめは君に任せる」
霊華「分かった、任せておいて」
レオ「エレン!君は真鈴と霊華の援護を!」
エレン「分かった!」
レオ「修斗!リオン!」
リオン「あいつの注意を引く…だろ?」
レオ「ああ、もう一度奴のガトリングを撃てなくする、奴がガトリングを撃てなくなってロケットランチャーを撃とうとしたら…最後は俺が注意を引いて真鈴の方向に誘導する!」
リオン「おう!」
修斗「了解しました!」
レオ「よし!行くぞ!!!」
六人「おお!!!」
全員が行動を開始する。
霊華(さっきも言ったように今の体力では撃ててあと一回…絶対に失敗はしない!)
霊華はもう一度電気をチャージする。
真鈴(グレイが守ってくれるとは言え…ほかの奴らの体力を考えたらチャンスは一回なんだぜ…大丈夫…わたしだったら絶対に当てられる!)
真鈴は全神経を集中させチャンスを待つ。
グレイは真鈴のそばに立ち有事の際に備える。
エレンは超能力を使い時折攻撃を仕掛け、真鈴と霊華に怪物の注意が向かないようにする。
修斗「三ノ太刀…焔火!」
リオン「これでもくらえ!」
修斗は刀から火球を放ちリオンは拳銃を使ってある程度の距離を保ちながら攻撃する。
レオ「こっちだ!」
二人の攻撃で怪物の注意が引かれた瞬間レオが怪物に接近し攻撃を仕掛ける。
しかし深追いはせず一撃を与えたら離脱するというヒット&アウェイを繰り返す。
それを繰り返すと怪物は再びいら立ち、獣のような方向を上げ、狂ったようにガトリングを連射し始めた。
しかし見境のない攻撃には精度がなく容易に回避することができた。
そして再びガトリングから弾が発射されなくなる。
レオ(ここだ!)
レオ「こっちだ!!!来い!!!」
レオはタイミングを見計らい最大限に怪物の注意を引く。
怪物はレオの思惑通り、注意をレオに向けた。
レオ(後は奴にあれを撃たせるだけ!)
レオが怪物の肩についているロケットランチャーを見る
レオ(さあ…来い!)
真鈴(来る…!)
真鈴は引き金に指をかける…
そして怪物はレオに向かってロケットランチャーを撃った………
訳ではなかった…
レオ(な!?)
六人「!?」
怪物はロケットランチャーを撃つのではなく、レオに向かって突進した。
そして先ほどのようにガトリングをハンマーのように使い薙ぎ払うように攻撃を仕掛けた。
レオ「くっ!!!」
レオは咄嗟に刀でガードしようとするが…
バキン!
レオ「!?」
負荷に耐えられなかったのか…レオの刀は芯から折れてしまった。
レオ「がっ!」
怪物の攻撃はレオの直撃し、レオが吹き飛ばされる。
修斗「兄上様ッッッ!!!」
霊華「レオッッッ!!!
レオ「がはっ!」
レオの口から血があふれる、横腹からは凄まじい激痛が生じる
レオ(骨が…折れたか…)
レオは何とか立ち上がろうとして気づいた。
レオ「!」
怪物のロケットランチャーの砲身が…自分に向いていることに。
レオ「ぐっ…」
レオは動こうとするが激痛からかうまく体を動かせない。
エレン「会長!」
修斗・リオン「っ!」
修斗とリオンが同時に駆け出す。
修斗(だめだ…!)
リオン(間に合わねえ…!)
修斗・リオン「兄上様ッッッ!!!」「レオッッッ」
レオ(サプリメントを飲むのも間に合わない…!ここまでか…すまない…みんな)
レオは死を覚悟する…
・・・
美春はただ座り込んでいるだけだった…
先ほどの修斗の言葉が何度も繰り返される…
美春(不憫…その通りですね…ロザリアは私なんか庇って…お姉ちゃんも…私を庇いなんてしなければ…)
美春「…」
美春の目から涙がこぼれそうになる
美春(いつもそう…私は誰かに守られてばっかり…)
美春は幼いころのことを思い出す。
幼いころ美春は気弱だった、ほかの子たちからはよくいじめられたりもしたが、そのたび姉の妖華が守ってくれた。
妖華は美春と比べ気も強く何より剣の天才だった。美春も才能がないわけではなかったがそれでも姉の足元にも及ばなかった。
美春は姉を尊敬していた、いつかは姉のようになると心に決めていた。
そんなある日、妖華は死んだ…
その日の帰り道、道路を渡ろうとした美春は気づかなかった。対向車線からきている一台の車に…妖華は美春が轢かれる寸前に彼女を突き飛ばし、代わりに妖華が車に轢かれたのだ。
美春(あの時…轢かれたのがお姉ちゃんじゃなくて私だったら…)
美春は自責の念に駆られる。
美春(お姉ちゃんじゃなくて…私が死ぬべきだった…今回も…)
美春は倒れているロザリアを見る
美春(私なんか…)
その時ふともう一つの記憶を思い出した。
それは妖華が死んだ日の夜。
美春は自室で泣いていた。
最愛の姉が自分のせいで死んでしまった悲しみと後悔から、ただ泣き続けてた…
「美春…入るわよ」
部屋に一人の白髪の女性が入ってくる。
美春「千歳…様…」
彼女は親を亡くした美春と妖華を引き取った人物だ。
美春「千歳様…どうしてでしょうか…」
千歳「え?」
美春「どうして…私が生き残ってしまったのでしょうか…」
千歳「どういう意味?」
美春「私なんて…生きるべきじゃなかったんです!私なんかより…才能も何もかも私より優れてる…お姉ちゃんが生きるべきだったんです!私なんか…私なんか!」
美春は刀を抜いて首筋にあてようとする、その時
パン!
美春「!?うっ…」
千歳が美春に平手打ちをする。
千歳「馬鹿なことをしないで!あの子がどうして…あなたを庇ったのかわからないの!?あの子はただ姉としてあなたを守りたかったのよ!あなたに生きててほしかった!それだけなのよ!それなのに…あなたがそんなことしたらあの子のそんな願いもすべて無駄になってしまうのよ!それでもいいの!?」
美春「千歳様…!?」
その時美春は気づいた、千歳が自分と同じように涙を流していることを…
美春「どうして…泣いているんですか?」
千歳「痛いからよ…我が子同然のあなたを叩いてしまったことが…とても…痛いからよ」
千歳は涙を流しながらそう美春に言った。
美春「千歳様…っ!」
千歳は美春を抱きしめる。
千歳「ごめんなさい…美春…でも聞いて…あなたは生きていなければならないの…それが…あなたがあの子にできることだから…それに…私はどうすればいいの…?あなたまで失ったら…私は…お願い…これは私のわがままかもしれない…でも…あの子のためにも…私のためにも…ずっと生き続けて…私を…一人にしないで…」
美春「千歳…様…うう…うあ“あ”あ“ああぁぁぁぁん!!!!!」
美春は千歳の腕の中で大声で泣いた、涙が枯れて声が出なくなるまで泣き続けた。
千歳はそれをただ強く抱きしめ続けていた。
美春「千歳…様…約束…します…私は…もう泣きません…絶対に泣いたりなんてしません!そしていつか…お姉ちゃんみたいに…強く…一人前になって…胸を張って…お姉ちゃんに…ありがとうて…そう言えるようになってみせます…!」
美春は幼いながらもそう千歳に強く告げた。
・・・
美春(そうだ…あの時、約束した…もう泣いたりなんてしないって、いつかお姉ちゃんに胸を張ってお礼が言えるようになって見せるって…そう決めた!だから…!)
美春は零れそうになった涙を必死にこらえる。
美春「こんなところでくじけたりなんてしない!私は戦う!ロザリアのためにも!私はあの怪物と戦って…みんなを守って見せる!」
目には決意が宿り美春立ち上がる。
美春「ロザリア…かっこ悪いところ見せちゃいましたね…あなたのためにも、私はみんなを守って見せます!だから…待っててください」
美春はロザリアにそう告げると、怪物の方に向かっていった…
・・・
修斗・リオン「兄上様ッッッ!!!」「レオッッッ」
レオ「くっ…」
レオが死を覚悟したその時!
美春「はあああああぁぁぁ!!!」
突如として美春が現れ怪物に後ろから切りかかった!
突然の奇襲に怪物は反応することすらできず、右肩を深く切り裂かれる。
修斗・リオン「美春さん!」「美春!」
美春「私は夢咲家だ!私は…逃げたりなんてしない!!!」
美春はそのままの勢いで怒涛の攻撃を怪物に仕掛ける。
怪物は美春の攻撃の勢いに反撃さえできない。
修斗「今です!リオンさん!」
リオン「おう!」
美春が怪物の注意を引いている間に二人が負傷したレオを安全な場所に運んでいく。
レオ「すまない…助かった…」
リオン「大丈夫か?」
レオ「悪いが…動けそうにない」
修斗「美春さんが来てくれて助かりました」
リオン「美春のやつ立ち直ったんだな!」
今なお美春と怪物は激戦を繰り広げていた。
至近距離での戦闘では自爆を恐れているのか、それとも美春の動きが捉えられないのか怪物はロケットランチャーを撃とうとはしなかった。
美春「はぁああああ!!!」
美春の刃が再び怪物の体を切り裂く。
しかし強靭な肉体を持つ怪物への有効打としては欠けていた。
怪物は切られながらもガトリングを美春に向かって振り下ろす。
美春「くっ!」
美春はそれを回避する。
美春(やっぱり私の攻撃じゃこの怪物を倒すことはできない…)
悔しいが美春はそう実感した。
美春は怪物のガトリングを見る。
美春(もう少しで怪物はガトリングを使えるようになる…どうすれば……)
美春が考えを巡らせていると
(美春!聞こえる!)
脳内に直接声が聞こえてくる。
美春(この声は…エレン!)
エレン(今テレパシーを使ってあなたに話しかけてるの!聞いて!あの怪物のロケットランチャーを真鈴に向かって撃たせて!)
美春(正気ですか!?)
エレン(今は説明している暇はないから兎に角信じて!)
美春(…何か策があるんですね、分かりました!)
美春は怪物を見据える。
そしてわざと距離をとるように動いた。
美春(あいつには知能がある、だったら私との近距離戦は避けようとするはず…)
エレン(美春!気をつけて!)
エレンの声が再び脳内に響いたと同時に怪物はレオの時と同様、ロケットランチャーを撃つのではなく突進してきた!
美春「!」
怪物はガトリングを薙ぎ払うように振り下ろすが美春はそれをバク宙で華麗に回避する。
エレン「わっ!すご…」
エレンは美春の動きについ心の声が漏れてしまう。
美春(そう言う動きもできるんですね…ですが…)
美春「貴方のそんなノロイ攻撃、私には当たりませんよ?」
美春は挑発するように怪物にそう言い放つ。
美春(こいつに言葉が通じるか分からないけど一か八か…)
美春「さっきみたいにそれで私を撃ってみたらどうですか?ノロマ」
その言葉を聞き怪物は挑発に乗ったのか…はたまた近距離戦は不利と思ったのか怪物はロケットランチャーを撃とうとし始めた。
美春(今だ!)
美春は駆け出し真鈴の前に立つ。
美春はチラッと真鈴の方を見る…どうやら準備万端のようだ。
美春「ゴクッ…!」
美春は息を呑む。
真鈴(さあ…いつでも来い!)
真鈴は全神経をこの一発に集中させる。
そして…
美春(ここ!)
怪物のロケットランチャーが発射される瞬間美春がしゃがみ、真鈴のスコープに怪物が映る。
真鈴(!)
真鈴は引き金を引いた。
弾丸は真っ直ぐと飛んでいきそして…
怪物が放った瞬間のロケット弾に命中した!
爆発が起きる!
爆発によって後ろの弾倉に引火したのか、続けて怪物の背負っていた弾倉も爆発を起こし、一際大きい爆発音が響き爆煙が上がる!
エレン「やった!成功した!」
グレイ「よし!」
真鈴「派手に爆発したな、あれだったらあの怪物はもう死んじまったんじゃないかぜ?」
とてつもない爆発だったのもあり、その場にいるもの全員が怪物は死んだのではないかと考えた。
真鈴「へへ!霊華の出番はなかったんだぜな!」
真鈴は勝ち誇るようにそう言ったしかし…
グレイ「!どうやらそう簡単にはいかないみたいだよ」
真鈴「え?」
爆煙が晴れていく…そこには…
真鈴「っ!化け物が…」
怪物は立っていた。
肩のロケットランチャーは完全に破壊され、背中の肉は爆炎によって焼けただれてダメージは与えたようだがそこに立っていた。
怪物はガトリングを構えようとする!
エレン「まだ戦えるの!?」
真鈴「撃ってくるんだぜ!」
真鈴達が怪物の攻撃に備えようとしたその時!
修斗「そうはさせません!」
リオン「終わらせてやるぜ!」
修斗とリオンが現れ怪物の方へ向かっていく!
美春「!」
美春も怪物へと突っ込んでいった!
修斗「行きますよ!リオンさん!美春さん!」
リオン・美春「ああ!」「はい!」
修斗「壱ノ太刀…」
美春「夢咲流…」
修斗の刀に風が、美春の刀には剣気が纏う!
リオン「うぉおおお!!!」
リオンは限界までエンチャントで身体を強化する!
修斗「風牙岩裂刃!!!」
美春「桜花一閃!!!」
リオン「喰らいやがれッッッ!!!」
修斗の斬撃は無数の風の刄となって全身を切り裂き、美春の剣気を纏った刃は腹部を横一閃に、リオンの全力のナイフの攻撃は首元から下腹部まで縦に深く切り裂いた!
怪物は苦しげな呻き声を上げ片膝をついた。
三人は怪物から距離をとる
修斗「今です!霊華さん!とどめを!」
霊華「これで終わらせる!喰らえ!雷撃砲ッッッ!!!」
霊華の腕から巨大な電気の塊が放たれる。
三人の攻撃を受けた怪物は動くことができず、霊華の雷撃砲が命中する!!!
バリバリバリ!!!
凄まじい音と共に閃光が走る!
怪物は断末魔のような叫びを上げそして…
地面に倒れた…
真鈴「やったか!?」
怪物は動かない
エレン「やった…勝った!勝ったー!!!」
全員が歓声を上げる
リオン「よっしゃあああ!!!やったなお前ら!」
修斗「ええ、やりましたね」
美春「ロザリア…仇は討ちました」
三人も勝利の喜びに浸る。
修斗「美春さん」
少しして修斗が美春に話しかける。
美春「あっ…」
美春は先ほどの件もあり少し気まずくなる。
修斗「兄上様を救っていただきありがとうございます、それと…すみませんでした」
美春「え?」
美春は修斗に謝罪されたことに困惑した。
修斗「貴方を立ち直させるためとはいえ…少しいい過ぎてしまいました」
どうやら彼は美春にあの時美春に言ったことを気にしているようだ。
美春「そっそんな!謝らなくていいですよ!むしろお礼を言いたいぐらいです。それに…貴方のおかげで大切なことも思い出せました」
修斗「そうですか…お役に立てたならよかったです」
二人はお互いに笑って見せた。
リオン「おっ?なんだお前ら、仲直りしたのか?それなら良かったぜ!」
修斗「ええ」
美春「はい」
和やかな雰囲気が訪れる…
しかし…
エレンはふと怪物の方を見た…
エレン「えっ?」
エレンは自分の目を疑った…
怪物はなんと再び動き出していたのだ…そう…
怪物は生きていたのだ!
全身を切り刻まれ、深く切り裂かれた腹部からは腸が飛び出だし、霊華の攻撃で全身が焼けただれていて、普通では生きているはずなどないほどの傷を負っているにも関わらず、怪物は…生きていた。
エレン(あいつ…不死身なの…!?)
そしてエレンはもうひとつのことに気づいた。怪物はガトリングを構えていたのだ。
エレン(まずい!)
エレンは咄嗟に声を上げる。
エレン「皆!!!気をつけて!怪物は!怪物はまだ生きてる!!!」
皆「!?」
全員が怪物の方に振り向く。
グレイ「なっ!?」
修斗「しまった!?」
勝利の確信からか完全に油断していた、誰もすぐに行動することはできなかった。
そして怪物は既に標的を定めていたそれは…
霊華「!?」
霊華だった…
エレン「霊華!逃げて!」
霊華「うっ…」
霊華は体を動かすことができない。
霊華(能力を使い過ぎて…体が…動かない…)
霊華は電気を生み出す過程で体力を消耗する。
それ故に電気を生み出し続ければいずれ体力を使い切り、動くことができなくなってしまうのだ。
そして雷撃砲は霊華の技の中で最も電気を消費する技であり、それを短時間で2回も使用したのだ。電気を生み出すために体力を使い切るのは避けられなかった。
怪物のガトリングがうなりを上げる…
修斗「ッ!」
グレイ「間に合え!」
修斗とグレイは霊華を守るため同時に駆け出すが、とてもではないが間に合う距離ではなかった。
霊華は雷撃砲を撃つ都合上、怪物の注意を引かないために皆からは離れた場所にいたのだ…それが仇となった。
エレン(超能力でなんとか…だめ!距離が離れすぎてて間に合わない!?)
エレンの超能力も間に合わない。
霊華の目に映る光景がスローになっていく。
霊華の目に走馬灯が浮かぶ。
今までの人生の様々な思い出が浮かんでは消えるそして…
レオの顔が浮かんだ。
霊華(私…死ぬの?こんなところで…まだレオに…想いを伝えてすらいないのに…)
エレン「霊華ッッッ!」
霊華(いや…怖い…死にたくない…助けて…レオ!)
ガトリングから弾丸が放たれようとしたその瞬間…
「させるかああああぁぁぁ!!!」
霊華「!?」
霊華(レ…オ…?)
負傷して動けなかったはずのレオが霊華の前に現れた!
レオ「グラヴィティウォール!!!」
レオは能力を使い重力の壁を生み出した!
ガトリングから無数の弾丸が放たれ、重力の壁にぶつかる!
ぶつかった弾丸は空中で停止した!
レオ「ッ!お前には…もう誰も傷つけさせん!!!」
レオは能力を全力で使い弾丸を受け止めていく!
だがレオの力にも限界はある。
レオの重力を操る能力は体力を大きく消耗し、また体への負荷も大きい。満身創痍の状態のレオが能力を維持し、無数に降り注ぐ弾丸を全て防ぐのは…不可能であった…
レオ「ごほっ・・・」
レオの口から血があふれ・・・徐々に弾丸を止める力が弱まっていく。
霊華「レオ…だめ!私のことはいいから逃げて!」
このままでは自分だけではなくレオまで巻き添えになってしまう。
霊華はもう自分のことは見捨てるようにとレオに叫ぶ。
レオ「ぐうっ!こと…わる!」
霊華「!?」
レオ「もう・・・誰一人…死なせたりなんてするものかあああぁぁぁッッッ!!!」
だがレオは気力を振り絞り無理やり能力を維持する。
エレン(会長っ!一か八かやるしかない!)
エレン「とまれえええぇぇぇッッッ!!!」
エレンは全力で超能力を使用して、怪物の動きを止めることに成功する!
リオン(!今しかねえ!)
リオン「うおおおおおおおぉぉぉ!!!」
リオンはチャンスを逃さず怪物に突進する。
リオン「くたばりやがれええええぇぇッッッ!!!」
そして全身全霊の力を込め、ナイフを怪物の脳天へと突き刺した!
怪物は断末魔を上げ地面に倒れた。
リオン「今度こそ…くたばっただろ…」
怪物はピクリとも動かない、今度こそ間違いなく…怪物は死んだのだ。
美春「はあ…よかった…」
美春が安堵の息をつく。
レオ「終わった…か…………」
レオの鼻…そして目や口から血が溢れる。
レオ「っ…………」
バタッ
レオが地面に倒れた。
霊華「!レオッッッ!!!」
修斗「兄上様ッッッ!!!」
霊華はまだうまく動かない体でなんとかレオに近づく。
霊華「レオ!しっかりして!レオッッッ!!」
修斗「兄上様!すぐに穂乃果さんのところに運ばなければ!グレイさん手伝って下さい!」
グレイ「分かった!」
修斗とグレイの二人がかりでレオを寮へと運んでいく。
霊華「レオ…ううっ…」
エレン「霊華!落ち着いて、会長ならきっと大丈夫だから!とにかく私達も寮に戻ろ!」
霊華「ぐすっ…うん」
エレンはなんとか取り乱す霊華を落ち着かせ寮へと連れていく。
美春「リオン!ロザリアを運ぶのを手伝って下さい!」
リオン「おう!任せとけ!」
真鈴「周りの警戒は任せるんだぜ!」
幸いにも怪物に襲撃されることはなく無事に寮に辿り着くことができた。
負傷したレオとロザリアは穂乃果によって治療が施された。
こちらも幸いなことに命に別状はないようだった。
田中「ガトリングとロケットランチャーを装備した怪物て…ゲームのボスキャラかよ…」
光「あんた達よくそんな怪物に勝てたわね」
修斗達の話を聞いていた田中や光がそう反応した。
真鈴「まっ私達にかかれば楽勝…て訳にもいかなかったんだぜ…」
修斗「全滅する可能性も大いにありました、誰も死ななかったのは…正直奇跡です」
美春「ロザリアがいなかったら今頃私は…」
美春はロケット弾の爆発により肉片と化す自分を想像したのかそれ以上は何も言わなかった。
エレン「会長とロザリアには感謝しても仕切れないよ」
アリシア「私達がいたとしても…結果はあまり変わらなかったかもしれないわね」
グレイ「これからどうなるんだろうね…」
不安からかグレイの口からそんな言葉がこぼれた。
修斗「分かりません…しかしこれからも怪物と戦うとなれば…厳しい戦いになると思います。」
皆「・・・」
全員が沈黙する。
光「…そう言えば霊華は?」
光はこの場にいない霊華の居場所をエレンに尋ねる。
エレン「霊華は…会長のところだと思うよ」
光「まあ…そうよね」
…
エレンの言うように霊華は医務室のベッドで眠っているレオの側にいた。
霊華は自分のせいでレオが倒れてしまったことに対する自責の念によって自分を責め続けていた。
霊華「レオ…」
霊華(私があの時動けていれば…ううん…そもそも私がもっと強くてあの怪物をあの時倒せていれば…)
霊華「ッ…」
その時…
レオ「ん…」
レオが目を覚ました。
霊華「!レオ!目を覚ましたの!?」
レオ「霊…華…?ここは?」
霊華「寮の医務室よ」
レオ「そうか…無事に帰って来れたんだな…ロザリアは?」
霊華「隣のベッドで寝てる、両腕にひどい火傷を負ってるけど命に別状はないって穂乃果が言ってた」
レオ「それなら…良かった…君も無事だったみたいだな…」
霊華「うん…レオのおかげで…」
少しの沈黙が訪れ再び霊華が口を開いた。
霊華「…レオ」
レオ「?」
霊華「…その…庇ってくれてありがとう…それと…ごめんなさい…」
レオ「どうして謝るんだ?」
霊華「だって!私のせいでレオは倒れたのよ!私があの時動けてれば…あの時……」
霊華はそこで言葉を詰まらせた。
レオ「霊華?」
霊華「あれ…?」
その時霊華の目から涙が溢れ出してきた。
霊華「なんで…私…泣いて…」
霊華の涙は悔しさや不甲斐なさからでもあったが、大部分を占めていたのは…生まれて初めて味わった…純粋な死への恐怖であった。
怪物に殺されかけたあの時の恐怖が、霊華の心を蝕んでいたのだ…
霊華「泣いてる場合じゃないのに…なんで…」
霊華の目から止めどなく涙が落ち、手が震えはじめる…
霊華「わた…し……ひぐっ…ぐすっ…」
スッ…
霊華「!」
震える霊華の手を何かが包んだ。それは…
レオの温かな手だった。
霊華「レ…オ……」
レオ「怖かったんだな、もう大丈夫だ、霊華」
レオは優しくそう言った。
霊華「レオ…わたし…うゔ…怖かった…怖かったよう…」
霊華はそれから堰を切ったかのように泣き始めてしまった。
レオは霊華が泣き止むまでそっと手を握り続けていた。
しばらくして
レオ「落ち着いたか?」
霊華「うん…」
レオ「それなら良かった」
霊華「庇って貰うだけじゃなくて…慰めても貰うなんて…」
レオ「気にしなくていい、俺も少し前に君に慰めてもらったからな」
霊華「そう…だったわね」
レオ「ああ、それと」
霊華「?」
レオ「庇われたことを謝らなくていい、俺が君を守りたいと思ったからしたことだ、君のせいじゃない」
霊華「でも…」
レオ「それに、俺も君もこうして生きてるんだ、それだけで十分だろ?」
霊華「そう…だね」
霊華は少し笑ってみせる。
レオ「!やっぱり君は…笑ってる姿が似合うな」
レオは無意識にそう口走ってしまう。
霊華「!///何言ってるのもう!」
霊華は突拍子のないレオの言葉に驚き怒ってしまう。
レオ「すっすまない!つい…」
霊華「もう!…でも…ありがとう…レオ」
レオ「どういたしまして」
二人の距離はこの出来事を通して今までとは比べられないほど近づいた…ドアの隙間から見ていた穂乃果はそう思ったのであった。
佐藤「あの…福井さん?なにしてるんだい?」
穂乃果「ひゃぁあああああぁぁぁ!」
突然背後から佐藤に話しかけられ穂乃果は驚いて声を出してしまう。
霊華「誰かいるの!?」
それによって霊華達に気づかれてしまう。
穂乃果「あ…えっと・・・」
霊華「あ…あんた達・・・いつからいたの?」
穂乃果「その…会長が目を覚ました時ぐらいから・・・」
霊華「っ!///」
霊華の顔がみるみる真っ赤になっていく。
穂乃果「その…いい雰囲気で…邪魔しない方がいいかな~なんて思って…ねえ佐藤さん!」
佐藤「ええ!?僕は…」
霊華「なるほど…盗み見とはいい度胸ね?」
霊華の怒りを表すかのように電気がバリバリと音を立てる。
穂乃果「あっ!私用事を思い出しました!すみませんが佐藤さん後はお願いします!」
佐藤「何を!?ちょっと!福井さん!?」
穂乃果は逃げ出した。
佐藤「あ…えっと・・・それじゃあぼくもお暇しようかな…会長お大事に!」
佐藤も逃げ出した。
霊華「待ちなさーい!!!」
霊華は二人を追いかけて行った。
レオ「ははっ」
そんな光景を見てレオは苦笑いを浮かべた。
穂乃果「許してください!!!悪気はなかったんです~!」
佐藤「なんで僕までー!!!」
光「・・・元気そうねあいつ・・・」
エレン「うん…」
真鈴「はぁ・・・なんかあいつら見てたら何とかなりそうな気がしてきたんだぜ」
田中「右に同じく」
美春「確かに」
霊華「逃がすかー!!!」
佐藤・穂乃果「ひえ~!!!」
こうしてこの悪夢のような一週間は終わりを告げた。しかしこれはまだ始まりに過ぎない。この先もこの悪夢は続いていく…彼らは果たして生き残ることはできるのだろうか?
次回に続く・・・
コツコツコツ
無機質な金属でできた床を歩く音が空間に響く・・・その人物は無機質な灰色の空間に出た。
「よお、戻ってきたぜ」
「状況は?」
「特に問題はねえよ、いたって順調だ」
「そうか…なら引き続き続けろ」
「分かってるよ…それにしても…あいつら結構やるみたいだな、A003を倒しちまうなんて。それも一人も死なずに」
「・・・」
「俺の予想じゃ2~3人はくたばると思ったんだけどよ」
「当たり前だ、彼らは“箱舟”に選ばれた者達。そう簡単に死んでもらっては困る」
「箱舟ね…」
「雑談はここまでだ、任務に戻れ」
「あいよ。じゃまたなんかあったら呼んでくれ」
その者は再び来た道を戻っていった。
・・・
怪物紹介
タイタン(A001)
初日にアリシアとフレアを襲撃した怪物。
ある実験の副産物で生まれた存在であり、複数の人間の部位がつなぎ合わせられているため体中に縫い合わされた跡がある。
つなぎ合わせた人間にある細胞を与えたことによって体が巨大化した。
強靭なパワーと高い身体能力を持つが欠点として身体能力を維持するために弱点である心臓部も巨大化し体外に露出してしまっているため、兵器としての価値は低い。
知能はなく目も見えないが聴覚と嗅覚が以上に発達し、本能のまま獲物を刈り取るその姿はまさに獣そのものである。
執行者(A003)
タイタンを改造したものであり、弱点であった心臓部の巨大化を抑え、武器を扱えるほどの知能を有することに成功した。
耐久力が高くまた再生能力もあり、少しの傷なら瞬く間に再生するため兵器としての価値はかなり高い。
また今回のタイプはもう一つの弱点である頭蓋骨を鉄板で覆っているため、頭部への攻撃も有効打にはなりにくいなどかなり厄介である。
怪物タイプ1(M031)
触手が生えた半透明な怪物。
斬撃や体術・銃撃などに強いが炎や電気など熱にはかなり弱い。
また体内にある数センチほどの球体が核であり、これを破壊されると活動が停止する。
体内は強力な溶解液で満たされていて、触手で獲物を捕まえ体内に取り込みドロドロに溶かしてしまう。
怪物タイプ2(F009)
ピラニアの様な鋭い牙を持つ魚の怪物。
耐久性が低いが水中での機動力は目を見張るものがある。
また常に数十匹が群れになっているため数も厄介である。
水中ではまず勝ち目のない生物である。
怪物タイプ3(W101)
狼のような怪物。
以上に発達した牙と爪が特徴であり、これを使って獲物を切り裂く。
1匹ではさほど脅威ではないが群れでの連携で来られるとかなり厄介な相手となる。
知能は低く、動くものに優先して襲い掛かるという習性をもっている。
αρίομ ητ όπα ςονέμαρατακ ιανίε
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