第24話 明けました

 明けました! 新年になりました! いつの間にかなってました!

 はい、そうです。今日は新年の宴当日。

 私の起床時間はいつもより1時間早い7時。

 なぜかって? 準備があるからです。


「ラナ様、おはようございます。明けましておめでとうございます」

「うん、おはよう。エディス。明けましておめでとう」


 眠たい目を擦りながら日が昇ったばかりの外を見る。カーテンはエディスが開けてくれた。

 眩しい。初日の出だ。


「さて、宴の準備を致しましょう」

「うん」

「……では、お願いします!」


 エディスは扉の向こうへ声をかけた。

 ちょっと前もこんなことあったような……。あ、衣装合わせの時か。

 その時と同じように5人の侍女さんが入って来た。


「それでは準備を始めさせていただきますね」

「はい、よろしくお願いします」


 まず、お風呂に入れられ3人がかりでピカピカにされた。残りの2人は何かを用意しているようだ。

 お風呂から上がると保湿クリーム的なものを塗られ、服を着せられる。

 どうして何々と言っているのかというと、その言葉の通りの状況だからだ。

 髪の毛も何かを付けられながら念入りにとかされる。

 この前試着した上品な黄色に白のレースが散りばめられたドレスを着せられ、ヘアアレンジをされた。


「終わりましたよ。……どうでしょうか?」


 その言葉を聞くときには私はなんだかくたくたになっていた。

 自分では何もしなかったが、流石に気を使ったり緊張したりで疲れたな。

 鏡の前でふわりと一回転すると、5人の侍女さんたちは嬉しそうな顔になった。

 おっと、これは本心の伝え甲斐がありそうだ。


「とても素敵です。まるで光の妖精みたい……! ありがとうございます!」


 私は満面の笑顔で言った。

 侍女さんたちは本当に嬉しそうだ。中には嬉しさのあまり泣き出しそうになっている人もいる。

 そんなに破壊力あったかな?

 ……まあ、いいか。


「喜んでいただけて私たちも嬉しいです! それでは、失礼致します」


 彼女たちはそう言って去って行った。

 ふとエディスのほうを見てみると、なぜか手で顔を隠し、いかにも感動していますといった雰囲気を出している。


「……エディス? 大丈夫?」

「可愛い! 本当に光の妖精のよう……! ラナ様にお仕えできてよかった……!」

「エディス!?」


 心の声が溢れ出ている。しかも放置していたら昇天しそうな勢いだ。……昇天は少し言いすぎたかもしれない。

 と、とりあえず現実に戻ってもらおう。


「戻って来て! 心の声が溢れ出てるよ!」

「……はっ! も、申し訳ございません。ラナ様があまりにも素敵で、見惚れておりました」

「そ、そっか。……素敵って言ってくれてありがとうね」

「いえいえ、事実ですから。さて、食堂へ行きましょう」

「うん!」


 そういえば朝ご飯食べてなかったな。

 今何時だろう? ふとそう思い、外を見てみると青空が広がっているではないか。結構時間経ってるんだね。


 食堂に着いた。

 ビシッと礼装を着こなしているお父様、美しさと可愛さが引き立つドレスを着ているお母様、中性的な魅力を引き出すような礼装を着ているレイ兄様が揃っている。どうやら私が最後だったよう。


「お父様、お母様、レイ兄様、おはようございます! 明けましておめでとうございます!」

「うん、おはよう、ラナ。明けましておめでとう」

「ふふっ、朝から元気ね。ラナ、明けましておめでとう」


 お父様、お母様の順に挨拶をしてくれた。

 レイ兄様に注意を向けると、何かぶつぶつと言っている。


「……可愛い。可愛すぎる。どうしてそんなに可愛いの? まるで光の妖精みたい。ラナ可愛い」


 ……やっぱりか。

 新年一回目、レイ兄様から心の声が溢れる現象いただきましたー!

 はっ、現実逃避をしている場合ではない。お父様とお母様がにこにことこちらを見ているんですよ!

 レイ兄様止まって!

 ……なかなか止まらない。いつもならこれぐらいで止まるはずなのに。

 いい加減話しかけよう。


「レイ兄様。……レイ兄様!」

「……ラナ、おはよう。新年になっても可愛いね」

「あ、ありがとうございます」


 心の声が溢れる現象では何回も言われているけど、面と向かって可愛いと言われたことはほとんどないかもしれない。

 ちょっと照れる。


「さあ、ラナ。座って」


 お父様に促されて私は椅子に座った。


「朝食をいただこう」


 その合図で朝ご飯を食べ始めた。




「3人とも、準備はいい?」

「ええ、もちろんよ」

「はい、大丈夫です」

「たぶん大丈夫です!」


 新年の宴、開始直前。私たちは舞台裏にいた。

 今からブライト公爵領のみんなの前でお父様がプレゼンするらしい。私、お母様、レイ兄様はその隣に立っているという役割がある。


「お時間です」

「そうか、じゃあ行こう」


 ヴィクさんの言葉にそう返したお父様は舞台へ向かって歩きだした。

 私は右手でお母様、左手でレイ兄様と手を繋いで舞台へと上がる。


「「「わぁぁぁぁぁああぁぁあ!!」」」


 ものすごい歓声と共に見えてきたのはあたり一面の人の海。どこを見ても人、人、人。

 ……思った以上に人が多い。流石に少し緊張する。

 歓声がだんだんと収まり、静かになる。お、お父様が話し出すようだ。


「……我が領地の皆! 明けましておめでとう! 今日は、新年の宴によく集まってくれた! 共に新しい年を祝おう! この宴が終わるまではルールを守った無礼講だ! ぜひ楽しんでくれ!」


「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉ!!」」」


 歓声がわぁーからうぉーに変わった。なんか面白い。

 私たちは舞台裏へと行くお父様に続いた。

 お父様は一仕事終わった感を出しているのかと思いきや、全くそんなことはなく、いつも通りだった。


「ラナ、大丈夫だった?」

「うん、少し驚いたけど大丈夫だったよ。心配してくれてありがとう、レイ兄様」

「いえいえ、それならよかった」

「レイ、ラナ、パレードに出るよ」

「「はーい!」」


 お父様とお母様に連れられてパレード用の馬車に乗り込んだ。

 この馬車は、例えるならオープンカーのような形をしている。

 また街の様子が見られるんだよね。わくわくするなぁ。

 そんなことを考えていると馬車は動き出した。

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