第22話 忙しい
「——エディス、今日は何するの?」
朝ごはんを食べて少しした後、今日は忙しくなると言っていたエディスに聞いてみた。
予定がない日々を過ごしていたから、忙しいというのが新鮮で正直わくわくしている。
「はい、本日は新年の宴とパーティーの衣装合わせ、当日の流れの確認。そしてマナーのお勉強の時間があります」
「そうなんだ」
衣装合わせと流れの確認はなんとなく想像が付くけど、マナーのお勉強ってどんな感じなんだろう?
貴族のお嬢様がやっていそうなスカートを摘んだ挨拶とか教えてもらうのかなぁ?
わくわくだ! ……上手くできるかどうかは別だけどね。
「早速ですが、衣装合わせを始めましょう。お願いします」
エディスが扉の外に向かって言うと、ずらずらと侍女さんたちが入ってきた。5人もいる……!
彼女たちは二着のドレスと一着のワンピースを持っていた。
「ラナ様、おはようございます。それでは、衣装合わせを始めさせていただきます」
「は、はい」
まず一着目は、ブライト公爵領に住んでいる人たちの前に立つ時用らしい。
上品な黄色に白のレースが散りばめられたドレス。いつもは寒色系しか着てないから、暖色の黄色を珍しく思う。
着心地もよく、見た目ほど重くない。そして私にぴったりの大きさだ。
鏡で見てみると、ちゃんと似合っていた。流石美幼女。……自分のことだけどね。
次に二着目。これは公爵領に住んでいる人たちとの交流用らしい。
ブルーグレーの生地に金のボタンが規則的に並んでいるワンピース。どことなく軍服のような印象を受ける。
こちらも着心地が良いし、大きさもぴったり。
頭には、この服の雰囲気に合うベレー帽を被る。
まるで、小さな軍人さんだ。……自分のことだけどね。
最後に三着目。新年のパーティーで着る用らしい。
空色の生地に白のレースが幾重にも重ねられたドレス。素人が見てもかなり手間が掛かっていると分かる。あの二着も素敵で手間が掛かっているんだろうけど、これが一番手間が掛かっているように見える。つまり、一番高級なんじゃないかと思う。
これももちろん着心地良し、大きさ良しの素晴らしいドレスだ。
本当にお姫様みたいだなぁ。……自分のことだけどね。
「——以上で衣装合わせは終了です。お疲れ様でした」
そう言って侍女さんたちは去って行った。
……はぁ、疲れた。エディスがいつもより簡素な服装を選んだのは着脱がしやすいようにするためだったのか。
これで一つ用事が終わった。
次は、当日の流れの確認だったかな?
「ラナ様、お疲れ様でした。次の予定まで少し時間がございますので、お休みください」
「うん、そうするね。ありがとう」
忙しいのって楽しいけど疲れるね。
……あ、なんだかうとうとしてきた。寝てしまいそうだ。まだ午前中なのに。
「横になっても大丈夫ですよ」
「うん、ありが、と」
本格的に眠い。よし、寝よう。
「——ラナ様。起きてください。次の予定の時間ですよ」
もうそんな時間なのか……。
寝てたのは体感で30分ほどだ。
「……うん、起きる」
「はい。……御髪を整えましょうね」
「お願いします」
エディスに髪を梳かしてもらう。
まだ眠いなぁ。
昨日は色々あったから疲れたんだろう。夜寝る前もテンションがいつもより高めだったし。
熟睡できなかったのかもしれない。
「はい、できましたよ」
「ありがとう」
エディスはにこりと笑った。
「では、次の予定、当日の流れの確認をしましょう。付いて来てください」
「? うん」
流れの確認ってここでするんじゃないのか。
……私たちはどこに向かっているんだろう? アマーリ先生と一緒に1階の探検はしたことがあるけど、2階はノータッチだからなぁ。
うん、2階も広い。流石公爵家。
1階と比べると物が少ない。見た目より実用的かどうかを意識してるのかな?
エディスはある扉の前で止まった。
コンコンコン
「はーい」
中から女性の声が聞こえてくる。
エディスに続いて私も部屋に入った。
この部屋の主はお母様のようだ。
「ラナ、エディスもいらっしゃい」
「お邪魔します?」
「失礼致します」
もしかして、当日の流れの確認ってお母様と一緒にするのか?
お母様は私に手招きをして、椅子にどうぞと言う。私は用意されていた椅子に座った。
テーブルの上には文字が書かれている紙と写真のようなものが置いてあった。
「さて、ラナは新年の宴とパーティーについてどれくらい知っているのかしら?」
「えっと……」
エディスに説明してもらったことを思い出す。
「……確か、新年の宴が新しい年を祝うお祭りで、新年のパーティーが貴族同士の交流の場、でしたよね?」
「そうね、更に付け加えるのならば、宴は各領地で同じ日に行われるわ。そして新年のパーティーは辺境伯以外の貴族が全員集まると言っても過言ではない場よ。王城で開かれるパーティーね」
そういえばエディスも各領地で行われるって言ってたっけ。
新年の宴の方は良いとして、驚きなのがパーティーの方だ。
異世界の貴族なんだなぁと改めて思った。
「それで当日の流れだけど、まず宴ね。宴は1月1日にあるわ。場所はここ、ブライト公爵邸よ。昼の12時から日付が変わるまで開催されるのが特徴ね」
お母様は何をするのか一つずつ説明してくれた。
私に関係があるのは二つのイベント。
一つは開始してすぐにあるブライト公爵の演説。私は隣に居れば良いらしい。
もう一つはその後にあるパレード。馬車の中から領民のみんなに手を振るらしい。
「——どちらも多くの人に見られるものだけど、ラナは大丈夫かしら?」
「多分大丈夫だと思います」
人の前に立つのは七海の頃から得意な方だった。楽しんでいたぐらいにはね。
「……! それはよかったわ。ここまでで何か質問はある?」
「……ないと思います!」
「良い返事ね。ありがとう。当日はラナがやらなければいけないことが終わり次第、好きなことをして良いのよ」
「好きなこと、ですか?」
「ええ、当日のお楽しみね」
なるほど、お楽しみか。
何があるのかな? そういえばエディスが、一定のルールに準ずる無礼講の場って言ってたよね? それと関係がありそうな予感。
何はともあれ、楽しみにしておこう。
「宴の流れはここまで。次にパーティーの方だけど、——」
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