第17話 リアルの兄妹

「だ、大丈夫?」


 レイ兄様はその袖で優しく涙を拭ってくれた。

 それがなんだか嬉しくて、温かくて、また涙が出てくる。

 どうすればいいの?! と慌てているゼロ兄ちゃん。その様子を見て私はふふっと笑顔になった。


「だいじょぶ、です。これは、嬉しいから泣いてるんです」

「そっか、それなら良かった」


 心底安心したようにゼロ兄ちゃんは微笑んだ。

 さて、何をどのように話そうか?

 聞きたいことはたくさんある。

 いつ転生? していることに気づいたのか?

 ゼロ兄ちゃんとしての記憶はいつまであるのか?

 レイ兄様としての記憶はあるのか?

 転生? について知っていることはあるのか?

 ゼロ兄ちゃんと呼ぶべきか? レイ兄様と呼ぶべきか?

 などなど。


「……あ、そうだ。初めまして。レイ・ブライトこと、ゼロです。リアル? で会ったんだから改めて自己紹介しないとかな、って思って」

「ふふっ、そうですね。初めまして。ラナ・ブライトこと、ななです。この事実が夢じゃないかと心配になってます」


 緊張して驚いて嬉しくて。感情が忙しくて今の状況に実感がない。

 話していたら少しは実感湧くのかな?


「……ななだね」

「え? どういうことですか?」

「なんというか、発言がななって感じがする」

「なるほど? 確かにその発言はゼロ兄ちゃんって感じがしますね……?」


 「らしい」というのも違うかもしれないが、ゼロ兄ちゃんならこういう言い回しを使うよねっていうものがある。

 きっとそういうことだろう。


「……ところで、なな、はどうして敬語のままなの?」

「えっと、なんとなく、ですかね?」


 オフ会とは全く違う形だが、ネットで知り合った人とリアル? で会うのは初めてで、正直距離を測りかねている。それに加えてとして接してきた数日間もあるわけだし。

 通話の時と同じテンションで話して良いものか……?


「できるのなら通話してる時みたいにタメ口で話してもらえると嬉しいな」


 そっちのほうが落ち着くからとレイ兄様は付け加えた。

 それならばタメ口で話そうじゃないか! そんな何目線なのかわからないようなことを考える。


「うん、わかった! じゃんじゃんタメ口で話すね!」

「じゃんじゃんって、ふふっ。うん、そうだね」

「ところでさ、ゼロ兄ちゃんって呼んだほうがいいのかな? それともレイ兄様?」


 気になっていたことの一つを聞いてみる。

 私的には、この世界での名前、つまりレイ兄様と呼んだほうが良いのではないかと考えているけど。ゼロ兄ちゃん的にはどうなんだろう?


「……うーん、レイ兄様でお願いしようかな。今の俺はレイ・ブライトだから」

「そうだね。じゃあ私もラナ呼びでお願いします」

「わかった。話は変わるけど、ななとしての記憶はいつまであるの?」

「えっとね。寝落ち通話をして、異世界行って本当の兄妹になりたいよねっていう話をした時ぐらいかな」

「俺も同じくそれぐらい。寝落ちしたななにおやすみって言ったのは覚えてるけど、いつの間にか寝てた」


 レイ兄様も気になっていたポイントだったのか。

 そして、あの時おやすみって言ったのはやっぱりゼロ兄ちゃんだったか。

 同じタイミングでリアルの兄妹に転生。不思議なこともあるものだ。

 ……そもそも異世界に転生ということ自体が不思議すぎるんだけどね。


「そうなのかー。……謎だね」

「うん、謎すぎる。考えてると頭が痛くなりそうなくらい謎すぎる」

「確かに。それなら、別の話しない?」

「そうだね」


 とは言ったものの話題をすぐに思いつくわけでもないんだよなぁ。

 あ、レイ兄様が妹大好きという点について深掘りする話、良いかもしれない。意外とすぐに思いついたな。

 私基準だと、ゼロ兄ちゃんの時よりレイ兄様のほうが心の声が溢れる現象、頻発させている気がするし。

 その心をぜひ聞いてみたい。


「ねえねえ、レイ兄様」

「何かなラナさん?」

「ぶっちゃけ、私のこと大好きだよね?」

「うん、大好きだよ? それがどうかしたの?」


 どストレートなの来たー!

 いやまあ私もかなり直球に聞いたけどね。

 面と向かって言われるとちょっと照れる。今、私の顔は少し赤くなっていることだろう。


「あ、ありがとう。ゼロ兄ちゃんの時とレイ兄様の今を比べると、今の方が心の声が溢れやすくなっていると思いますが、ご本人としてはどうお考えですか?」


 照れているのを隠すようにインタビューっぽく聞いてみた。

 隠しきれてなかったようで、レイ兄様は肩を震わせて心の声を溢しているが。

 可愛い。何それ可愛すぎる、と。


「こほん、そうですね。わたくしとしては、それは合っているのではないかと考えます。なぜなら、目の前に可愛すぎる妹がいて、この心の声を隠すことなどできないからです。通話している時ならばなんとか隠せたものも、目の前にいたら隠せないものなのです」

「そ、そうなんですね。勢いと熱量がすごいですね」

「それはそうです。可愛すぎる妹に関してのことなんですから。……これで伝わったかな?」

「めちゃくちゃ伝わったと思います……」


 自分で聞いておいてこんなに恥ずかしくなるとは思わなかった。

 正直、侮ってましたね。


 そんなこんなで楽しく雑談をして過ごした。




 コンコンコン


 ノックの音でうっすらと目が覚める。エディスかな?

 ふと身じろぎすると、隣に誰かいることに気づく。

 レイ兄様だ……! あ、そうだった。昨日一緒に雑談してて、いつの間にか眠ってたんだ。


「失礼致します。……おや」


 エディスは驚きながらもカーテンを開け、朝の光を入れてくれた。

 レイ兄様を起こさなければ。


「レイ兄様、朝だよ」

「ん……。ラナ? ……おはよう」


 何この笑顔!? 可愛すぎないか!? 流石レイ兄様!


「おはよう、レイ兄様。……朝から幸せだなぁ」


 おっと、心の声が溢れてしまった。きっとレイ兄様に引っ張られたのだろう。

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