第16話 ゼロ兄ちゃん
「ありがとう。……今日は一緒に眠れるね」
……うん、思ったより衝撃の発言だね。
これは流石になしだよね。ねぇ、ラナ?
ごめん、ナナミ。……これはありだよ。
どうして!? 何で!?
どうしてって、物語の中の兄妹は一緒に眠っていたんだもん!
……そうなんだ。ちなみにラナは物語以外の兄妹を知らないの?
うん、知らないと自信を持って言えるよ。
そ、そっか。
ラナが知ってる兄妹は時々一緒に眠っていたよ。お母様やお父様も一緒の時もあったなぁ。
……そうだよね! 毎日一緒じゃないよね!?
う、うん、そうだね。
ありがとうラナ! そう考えたらなんか大丈夫な気がしてきた。
出来る限りはラナの希望を叶えたい。
だけど中身が高校生の私からしてみれば、誰かと一緒に眠るのなんて考えられない。恥ずかしいし落ち着かないしで眠るなんて出来ないと思うからだ。
あ、でも実の兄で11歳の子どもだったら大丈夫なのか? そうだ、そう考えれば良い、よね?
レイ兄様は子どもだから大丈夫。子どもと一緒に眠るだけ。
何が大丈夫なんだ!? という声が自分の中から飛んできているが、この際気にしない。
「……ラナ? ごめん、衝撃の発言過ぎたね。最近までほとんど関わってこなかった兄から突然こんなこと言われたって答えられないよね」
「……眠ります」
「……え?」
「一緒に眠ります」
ラナが喜んでいる。良かったね。
一方、レイ兄様は驚いたような表情で固まっている。
どうして驚いているんですか? レイ兄様が言い出したことでしょう?
一種の意趣返しになったようで謎の優越感? がある。
「……ありがとう」
驚きから解放されたレイ兄様はとても嬉しそうな笑みでそう言った。
謎の優越感を持っていた自分が少しだけ恥ずかしくなった。
夜、夕食を食べてお風呂に入って歯磨きをして……。
後は眠るだけとなった時、レイ兄様が私の部屋を訪れた。
「お邪魔します」
その手には枕が。白いネグリジェの下にズボンを履いているレイ兄様はかなり、かなり、かなーり可愛い。
ただでさえ中性的なレイ兄様。この服装と相まって少年でも少女でもない不思議な可愛さを醸し出している。
「いらっしゃいです」
「可愛い。可愛すぎる。え? どうしてこんなに可愛い?」
……言うと思った。
もはやレイ兄様の持ちネタと化した心の声が溢れる現象。
本当にゼロ兄ちゃんみたいなんだから。ふと思い出してしまう。
あれは通話をしている時。
「──ねぇ、なな」
「なーに?」
「俺たちさ、ネットでだけど兄と妹なわけじゃん?」
「そうだね?」
「ふと思ったんだけどななはお兄ちゃんとやりたいこととかあるの?」
それは唐突な質問だった。
お兄ちゃんとやりたいことか……。何かあるかな?
……とりあえず、物語の中の兄妹がやってるようなことを挙げてみよう。
「頭をなでなでされるとか?」
「なるほど、他にはある?」
「うーん、膝の上で一緒に本読んだりとか?」
「うんうん、他には?」
「手を繋いでお散歩とか?」
「いいねぇ、他には?」
「子どもの頃だったら──というか今まで言ったの全部もそうだけど、一緒にお絵描きとか?」
「おお、他にある?」
「……あ、一緒に眠るとか?」
「憧れるね、他には?」
「……絶対面白がって言ってるでしょ。もう答えない」
気づいてはいたが、他には? 他には? と、これは絶対に面白がっている。
まあ、しばらくは答えてたけどね。
パッと思いつくやりたいことのストックが切れたというのもあって、この辺で答えるのをやめた。
「お、面白がってなんてないよ?」
「そうなの?」
「たぶん」
ゼロ兄ちゃんがたぶんと言う時は可能性が0じゃない時、しかもかなりの確率である時だ。
嘘はつかないからなぁ。
「答えてくれてありがとね」
「どういたしまして?」
はぐらかされた気もするけど、まあいっか。
「……可愛い。可愛すぎる。ななが最高に可愛い」
「え!? いつ可愛いポイントがあった!?」
まさかここで発動するとは……。
必殺! ゼロ兄ちゃんの心の声! が。ちなみに、このよく分からない必殺技名は私が適当に考えたものである。
「ななは何しても可愛いけど、今のはどういたしましての後にはてなが付いていたという可愛いポイントがあるね」
「そ、そうですか。ありがとね」
そんなこんなで雑談は続いた。
……あれ? ゼロ兄ちゃんに話した「お兄ちゃんとやりたいこと」、レイ兄様と全部やってない?
不自然な程にやってることが重なってるし、心の声が溢れる時があるという特徴。
レイ兄様ってゼロ兄ちゃんなのかなぁ?
その可能性はもうほとんど捨てたようなものだけど、それでも縋りたくなる。
良いのかな? これを口に出してしまったら、私の心的に後戻りは出来なくなってしまう。もしかしたら二度と立ち直れなくなるかもしれない。
……ううん、もう大丈夫だ。
例えゼロ兄ちゃんじゃなくても、レイ兄様はレイ兄様だから。
いつの間にか隣に座っていたレイ兄様に向き合う。
心臓バクバクしてるけど、大丈夫。今は根拠の無い自信を信じよう。
さあ、私。勇気を出して。
「……ゼロ兄ちゃん?」
やっとのことで出した言葉は自信なさげで弱々しかった。
レイ兄様の様子をそっと伺うと、何ともとれない表情をしている。
……1秒が永い。確実に過ぎていっているはずなのに、途方もなく永い時間を過ごしているように感じた。
返事を待つのってこんなに緊張することなのか。
「……なな?」
思わず下を向いていた顔を上げ、驚いた表情でレイ兄様を見つめる。
もう一度、もう一度聞いてみよう。聞き間違いじゃないように。
「……ゼロ兄ちゃん、なの?」
「……う、ん。なな、だよね?」
「っ! うん! そうだよ!」
聞き間違いじゃなかった……! 本当にゼロ兄ちゃんだった……!
頬を伝うこの温かいものは何だろうか?
それはきっと溢れ出した
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