第15話 衝撃の発言

 どうしてこうなったんだっけ?

 私は今、レイ兄様の膝に座っている。……あの時までは良かったんだけどなぁ。




 遡ること5分前。


「レイ兄様! 一緒にお茶を飲みましょう!」

「ラナ……、ありがとう」


 私はレイ兄様の手を引きお茶のセットができたテーブルまで連れて行く。どうぞと椅子を進めるが、なぜか座ってくれない。


「……この椅子に何かありますか?」

「いや、この椅子には何もないよ」


 なかなかに含みのある言い方をしますね。言いたいことがあるのなら言ってくれたほうが楽だし嬉しいんだけどね。

 ……もうこの際、直接聞いても良いかな?


「何か言いたいことがあるのなら言って欲しいです」

「……! そうか、そうだね。俺もまどろっこしいのはあんまり好きじゃないから。ラナにお願いしたいことがあるんだけど、良いかな?」

「内容によりますが、聞きますよ」

「ありがとう。……ラナ、膝に乗ってくれない?」

「……え!?」


 衝撃の発言。なるほど、これは含みのあることを言うわけだ。納得。

 ……じゃなくて、レイ兄様の膝に乗る!? ……すごい兄妹っぽい。いや兄妹なんだけどね。

 でもちょっと恥ずかしい……。でも兄妹っぽいことしてみたい……。

 恥ずかしがっている私と兄に憧れている私が勝負している。あ、そうだ。の意見も聞いてみよう。


 ラナー! この状況どう思う?


 ……正直に答えて良いの?


 もちろん! 正直にお願いします。


 兄妹っぽいこと、やってみたい。今までやったことがなくて、物語でしか読んだことがなくて……。実は憧れていたの!


 ラナもなのか!? これはもう決まりだね。


「……良いですよ!」


 おっと、少々食い気味に言ってしまった。

 まあ、レイ兄様嬉しそうだし良いか。




 そうして今の状況になった。

 冷静に考えると恥ずかしい。実の兄とはいえ、中身は高校生だからなぁ。


「ラナ? これ食べる? はい、あーん」


 目の前にお茶菓子が差し出された。

 こ、これは、めっちゃ美味しいフィナンシェじゃない!? た、食べたい。でもあーんでしょ?


「食べないの?」

「……いただきます」


 半ばやけになってフィナンシェをかじる。甘さが口の中に広がり、ほろほろと溶けていく。

 甘い。美味しい。幸せだ。

 思わずにこにこ笑顔になる。


「……可愛い。ラナ可愛い。最高に可愛い」


 また心の声が出てる。

 私は苦笑しながら心の声が出てますよと言った。レイ兄様は驚いたように謝る。

 なんだかその姿に毒気を抜かれてしまった。




「ラナー! 帰ってきたよ、ただいま」

「レイ兄様! おかえりなさい!」


 あれからレイ兄様は毎日のように帰ってきてくれるようになった。もちろん、授業が終わった後に。

 そして甘やかしてくれる。今もなぜか抱っこされている。

 正直、満更でもない。兄に憧れている私と的に甘やかしてもらえるのは恥ずかしいながら嬉しいのだ。


「今日は何しようか? お絵描きする? お散歩する? それとも本を読む?」

「うーん、本が読みたいです」


 こんな感じでいつも私をかまってくれる。

 一昨日は絵を描いて、昨日はお散歩をした。その流れでいくと今日は本を読む日だ。

 中身が高校生の私からしてみれば少々物足りない部分もあるけれど、レイ兄様に甘やかしてもらえるのなら何だか楽しいな。そう思っている自分がいる。

 数日前までは膝に乗せられるのだけでも恥ずかしいと思ってたはずなんだけどなぁ。……慣れっておそろしい。


「何の本読む?」

「レイ兄様が選んだ本が良いです!」


 こう言ったら喜んでくれるかも。そう思って発言をしてみた。

 その効果は想像した以上にてきめんのよう。

 レイ兄様は手で顔を覆い、何かを呟いている。


「……可愛い。ラナ可愛い。俺の妹可愛すぎないか? 大丈夫か俺? 本当はぎゅってしてなでなでしたいんだけど。ああやばいやばい欲望が溢れてしまう」


 耳を澄ませて聞いてみると、レイ兄様は早口でこんなことを言っていた。

 ……そんなことを思ってたんですね。……なでなでされたいと思ってしまった私は何なんだろう?

 レイ兄様、そろそろ戻ってくるかな? あ、戻ってきた。


「……こほん。じゃあ、この本を読もうか」


 わざとらしく咳払いをしたレイ兄様はひとつの本を取った。

 その本のタイトルは「リング物語」。神話をもとにしたおとぎ話、らしい。

 もしかしてこの前ヴィクさんが言ってたおとぎ話なの?

 ソファに座ったレイ兄様に手招きをされた。近づくと、ひょいと膝に乗せられる。

 そしてレイ兄様の読み聞かせは始まった。


 ——リング物語

 初めに、仲の良い二柱の兄妹神がいました。

 兄神は世界カイルデを。妹神は世界ラーニャを見守っていました。

 ですが、離ればなれの世界を見守るということは兄妹神も離ればなれになるということ。

 悲しみに暮れた神々の世界は暗く冷たく寂しいものでした。

 そこで、それを可哀想に思った始まりの神が二つの世界をまとめます。

 そうして世界リングは誕生しました。

 リング物語はまだまだ続く——


「——おしまい」

「読んでくださりありがとうございました。この世界って元々二つの世界なんですね」

「どういたしまして。……うん、そうらしいね」


 なんだか一瞬間が合ったような? レイ兄様転生者疑惑がまた深まってしまった……!

 このおとぎ話は、貴族も平民も関係なく子どもの頃に読むらしい。だから知っていて当たり前のことだとか。

 ……そういえば、時間は大丈夫なんだろうか? 昨日も一昨日もこれぐらいの時間になったら学園へ戻ってたよね?


「……レイ兄様、時間は大丈夫なんですか?」

「うん、大丈夫だよ。学園には屋敷から通うことにしたから」


 衝撃の発言……!

 それはつまり、屋敷に住むということですか!?

 そうしたらレイ兄様にたくさん甘やかしてもらえるかも……、いやだめだめ、羞恥心ここにあるでしょ!?


「……そ、そうなんですね?」

「うん、そうだよ。……ラナ、衝撃の発言していい?」


 レイ兄様は様子を伺うようにに言った。

 衝撃の発言その2があるのか!?

 聞きたいような聞きたくないような。……怖いもの見たさがかなりあるし、聞かないほうがもやもやするし、聞いて良いよね? うん、良い!


「良いと思いますよ?」

「ありがとう。……今日は——」

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