第13話 外

「わぁ……!」


 馬車の窓から見えるのは、中世ヨーロッパのような街並み。

 煉瓦色の屋根をしたオフホワイトの建物。建物と同じくらいの高さの樹木は黄色やオレンジに染まっている。

 目に見えるもの全てが新鮮だ。

 張り付くように外を見ていると、ヴィクさんに笑われてしまった。


「ふふ、そんなに面白いものがありましたか?」

「全てが面白いです!」

「そうですか。楽しんでいただけているようでわしも嬉しいですぞ。ブライト公爵領は煉瓦色の屋根の建物が多いですが、地域によっては建物ごとに色が違うところもございます。色とりどりの建物はまるでおとぎ話の世界のようですよ」

「そ、そんな地域があるんですね……! いつか行ってみたいです!」


 ……異世界のおとぎ話みたいな街並みってどんな感じなんだろう? そしてどんな話なのかな? 後で聞いてみようっと。

 しばらく街並みを楽しんでいると、鉄? でできたデザイン性のある柵が見えてきた。端が見えない。

 もしかしてこれが王立学園?

 そんなことを考えていると馬車は止まった。そして窓をノックされる。

 ヴィクさんは慣れた様子で窓を開けた。

 そこには金色のラインが入った黒いブレザーのようなものを着て、腰に剣を下げた門番さん。


「お名前と属性、ご用件をお願いいたします」

「わしはヴィクター・グレイ。ブライト公爵家の者です。学園初等部6年のレイ・ブライト様へお荷物を渡したく参りました。こちらはラナ・ブライト様。レイ様の妹君です」

「ありがとうございます。確認いたしますね」


 門番さんはそう言って小さな建物へ向かった。

 私はホッと息をついた。

 あの門番さんの視線、なんだか嫌な感じがする。敵意というか、蔑むというか、とにかく嫌な感情を向けられているような。


 その後、私たちを乗せた馬車は学園内に入ることができた。

 今はヴィクさんと歩いて移動している。


「ラナ様、何かございましたか?」


 ヴィクさんは心配するように言ってくれた。

 私のテンションがいつもと違うことに気づいた様子だ。

 果たしてこれは言った方がいいのかな? ……私の気のせいかもしれないし、やっぱり言わないでおこう。

 うん、あの門番さんの視線はきっと気のせいだ。


「何もないですよ」


 私は笑顔を作って答えた。

 ヴィクさんはそうですかと疑問を残したように言ったが、それ以上追求してくることはなかった。




 コンコンコン


「はーい」


 レイ兄様がいるという部屋から出てきたのは、青い瞳が印象的な金髪の少年だった。イケメン……! まるで王子様みたいだな。

 ……なんか私の周りの人美男美女率高くない?


「ああ、レイの家の執事か」

「はい、左様でございます」

「少し待っていて、呼んでくるよ」


 そう言ってその少年は部屋の中へ消えた。

 本当に誰だったんだろう?

 待つこと数分、レイ兄様は少年に連れられてやってきた。


「ヴィクター? 何か用? ……! ラナまで、どうしたの?」


 レイ兄様は私に気づき、笑顔になった。私も笑顔を返す。


「レイ様、本日中にお渡ししたいものがございまして——」


 ヴィクさんとレイ兄様は会話を始める。

 そんな中私は緊張していた。なぜかというと例の少年にじっと見られているからである。

 これは、何か話しかけた方がいいのかな? ……この人本当に何者? そしてここは何の部屋なんだろう?

 思い切って少年を見返すと、なぜか驚いた顔をされた。

 もういいや。話しかけよう。


「……何かご用ですか?」

「……ああ、すまない。レイが笑うのが珍しいと思ってな。君を見て笑っていたようだから、気になっていたんだ」

「そうなんですね?」


 この人、レイ兄様を呼び捨てで呼んでるってことは、仲良い人なのかな?

 名前が知りたい。……とりあえず自己紹介しよう。人の名前を知りたいときはまず自分の名前を言うのがいいってどこかで聞いたし。


「……あの、私はラナ・ブライトです。レイ兄様の妹です。あなたのお名前を聞いてもいいですか?」

「……! そうだな。自己紹介がまだだった。私はノエル・ポルアランド。この国の王太子だ。よろしく」


 まさかの!? まさかの王子様!? 王子様じゃなくて本当にそうだった!?

 ……王太子殿下で呼び方合ってるよね? ……たぶん合ってる! そういうことにしよう!

 それにしても、偉い人だ。さらに緊張する。


「よ、よろしくお願いします」


 そこで会話は途切れた。

 ふとレイ兄様たちを見てみると、ちょうど用件が終わった様子。

 少し離れたところで話していた二人がこちらへ近づいてくる。


「ラナ、ノエルに何かされなかった?」

「え? 何もされていませんよ?」

「私が何をするというんだ?」


 王太子殿下と私は同時にはてなを浮かべた。


「いや、ラナがなんだか硬い表情をしていたから……。念の為聞いただけ。気にしないで」

「気にしない方が難しいと思うが……。まあ気にしないでおこう」


 レイ兄様、やっぱり王太子殿下と仲がいいんだね。「ノエル」と呼び捨てで呼んでるし。

 王太子殿下は苦笑しながら言った。


「さて、ラナ様、そろそろ帰りましょうか」


 ヴィクさんの言葉に頷く。ふと外を見てみると日が沈みかけていた。

 もうこんな時間……!

 でも学園に来るのに40分ぐらいはかかったからそんなものか。


「ラナ、近々また帰るからね」

「はい! 待っています!」


 レイ兄様のその言葉で私はご機嫌になった。

 二人に挨拶をし、ヴィクさんと馬車へ向かう。


「ヴィクさん! 連れてきてくれてありがとうございます!」

「いえいえ。ラナ様がブライト公爵領や王都の雰囲気を知れる良い機会だと思いましたので」

「そうなんですね。……ところでここ王都なんですか?」

「はい、学園なのでここは王都ですよ」


 そうなのか……。知らない間に地域を移動していた。

 街の様子を見ていてもそんなに変わったようなところはなかったけど。……でも、門番さんのところで止まる前、一瞬速度がゆっくりになったときがあったような。


「ですが、そろそろブライト公爵領に入ります」


 すると、馬車はだんだんと減速していく。

 ……これかー。これなのかー。……王都に入ったのなんて気づかなかったよ。なんか悲しい。


 そうして、私たちを乗せた馬車は屋敷へと帰って行った。

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