第8話 3日後

「……はぁ」

「ラナ様、最近ため息が多いですね」

「そうだね。……はぁ」


 エディスに突っ込まれた通り、ここ数日は本当にため息が多い。

 これもレイ兄様のせいだ、と、絶対に違う言い掛かりをつける。いや、ある意味絶対に違うわけでもないか。

 私のため息の原因はひとつ。


 レイ兄様に会いたいー!!


 これに尽きる。

 今まで何度会いたいと考え、会いたいと言ったことか。しつこいぐらいに言っている気がする。


「……レイ兄様に会いたい」

「心の声が出ていますよ」

「あ、ごめん」


 エディスともノリツッコミ? をするぐらいには仲良くなった。流石に3週間も一緒にいれば仲良くもなるか。

 そんなことを考えている間にも、エディスはお茶を準備してくれている。


「ラナ様、気分転換にお茶はどうですか?」

「うん、いただくね。ありがとう」


 お茶が準備されているテーブルへ向かい、温かい紅茶を飲む。

 ……そういえば、私ストレートで飲んでるけど、多くの4歳児は甘くして飲むよね? 待てよ、そもそも紅茶なんて飲まないような気がしてきた。

 なんだか心配になり、エディスにこれって4歳の私が飲んでいいものなのかな? と聞くと、カフェインが入ってないやつなので全然大丈夫とのことだ。

 たまに思うけど、この世界かなり文明が進んでるよね。雰囲気は中世ヨーロッパなのになぁ。

 まあ、いっか。紅茶飲めない方が嫌だし。

 そんなこんなでリラックスしていると、部屋にノックの音が鳴り響いた。


「どなたでしょうか? 確認して参ります」

「うん、よろしく」


 エディスが扉を開け、入って来たのは執事長のヴィクさんだった。

 お久しぶりだな。診察の時以来だ。


「失礼致します。ラナ様、ご機嫌いかがでしょうか?」


 ヴィクさんはウインクをして言った。ヴィクさんにめちゃくちゃ似合ってた。イケオジ……!

 えっと、ご機嫌、ご機嫌は……。


「リラックスしてます!」

「そうですか。それは良うございました。本日はラナ様が喜ばれるであろう情報を持って来ましたぞ」

「私が喜ぶ情報ですか?」


 はっ、まさか、いや、そんな都合の良いことはない、よね?

 なぜかヴィクさんもエディスもこちらを見てにこにこしている。そんなに変な顔してたかな?


「はい、レイ様に関しての情報です」

「……レイ兄様!?」


 そ、それは……、確かに私がめちゃくちゃ喜ぶ情報! ヴィクさんありがとうございます!


「ははっ、そうですぞ。ラナ様、落ち着いて聞いてください。レイ様が……3日後に屋敷へ帰って来られます!」


 ヴィクさんは私を楽しませるように言った。

 ……レイ兄様が、3日後に、屋敷へ、帰ってくる!?

 ……待てよ、私はレイ兄様に会えるのか!?


「……ヴィクさん、私はレイ兄様に会えるんですか!?」

「もちろんでございます。ただ、3日後の何時に帰って来られるのかは分からないので、少々お待ちいただくかもしれませんが」

「全然大丈夫です! 何時間でも待ちます!」


 被せ気味に言ってしまった。


 ラナ! 会えるってよ! やったね!!


 ナナミ! やったわ! とても楽しみね!!


 そうだね! 夜しか眠れないよ!


 ふふっとが笑う気配がした。

 お兄様のこと、やっぱり好きなんだなぁ。

 ヴィクさんとエディスは相変わらずにこにことこちらを見ている。

 だがここで、私は重大なことに気づいてしまった。


「ねぇ、エディス」

「はい、何でしょうか?」

「私はレイ兄様と、何をお話ししたら良いのかな?」

「……そうですね。時間もありますし、一緒に考えてみませんか?」

「そうだね。ありがとう!」




 そんなこんなであっという間に3日が経った。

 今日はレイ兄様が帰ってくる日。

 夜しか眠れないはずの私だが、なかなか眠りにつけず寝不足気味となっている。まあバレないだろう。そう思っていたが、エディスには速攻でバレた。


「本日はどちらのお召し物に致しますか?」


 ひとつは、紺色の生地に同じ色のレースが散りばめられ、腰の部分に大きな白いリボンが付いているワンピース。可愛いながらも落ち着いた印象を受ける。

 もうひとつは、パステルグリーンの生地に緑の布や糸で装飾されているワンピース。まるで妖精が着ていそうだな。

 緑はレイ兄様の瞳の色。相手の髪や瞳の色を身につけるのはかなりの親愛がないとやらないことらしい。

 ある意味初対面の状況でレイ兄様の色を身につける勇気はない。


「こっちの紺色の方でお願いします」

「かしこまりました」


 エディスに手伝ってもらいながら着替える。


「御髪はどうなさいますか?」

「エディスが似合うと思うものでお願いします」

「はい!」


 毎日色々とやってもらう中で気づいたのだが、エディスはどうやらヘアアレンジをするのが特に好きらしい。その腕前も目を見張るものがある。

 だから最近はおまかせでお願いしている。


「ラナ様、できましたよ」


 そう言って鏡を使い見せてくれる。

 今日は編み込んだハーフアップのようだ。

 いつも思うが、どうしてこんなに綺麗にできるんだろう? 七海もハーフアップはよくやっていたが、こんなに上手くはできなかった。


「今日も素敵にしてくれてありがとう!」

「侍女として当然のことです。さあ、ラナ様、全身もご確認ください」


 嬉しそうに言ったエディスは私を全身鏡の前へ連れて行った。

 美幼女が可愛い服着てる……! 最高に可愛い!

 ……はっ! この幼女、自分だった。

 3週間毎日のように見ていても、自分だと認識するまでに数秒かかる。良い加減なんとかしたい。

 それは置いておいて、今日もエディスは素晴らしい仕事をしてくれた。


「どうでしょうか?」

「最高に可愛いと思う! ありがとう!」

「はい! ラナ様は本当に素敵です! 可愛いです! 最高です! ……突然失礼致しました」

「ううん、褒めてくれてありがとう」


 エディスは時々こうなる。最初の頃は戸惑っていたが、今となってはエディスだなぁと思うようになった。

 そういえばゼロ兄ちゃんも時々可愛いを連呼していたな。

 ……ゼロ兄ちゃん、元気かな。……うん、きっと元気だよね!


「ラナ様、朝食の準備ができましたよ」

「あ、うん! 今行くね」




 ラナ、レイとの対面まで残り約6時間。

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