第7話 兄を知り隊

 お父様、お母様、そしてレイ兄様に会いたいと言ってから数日が経った。

 エディスによるとまだ調整中らしい。


「——様? ラナ様?」

「あっ、ごめんなさい」

「今日はやけにぼーっとしているけれど、何かあったのか?」


 今はアマーリ先生が遊びに来てくれているんだった。

 楽しく話していても、脳裏にレイ兄様のことがちらつく。顔も知らないのになー。

 いや、顔や姿を知らないからこそ妄想が捗る。

 ……レイ兄様の髪はどんな色なんだろう? 私と同じ銀髪かな? それとも他の色かな? 長さはどうしているんだろう? ショートヘアかな? それとも結べるくらいに伸ばしてるとか?

 どうなんだろう? 早く会ってみたいな。


「——きて。ラナ様、戻って来て」

「はっ、ま、またもや、ごめんなさい」

「うん、それで、何かあったのかい?」


 これは……、嘘をつくと一瞬でバレるやつでは!? まあ、嘘をつく気なんてさらさらないんだけど。

 そんなことを考えながら話す。

 お父様とお母様のこと、レイ兄様のこと。そしてレイ兄様がどんな人なのか気になること。


「──そうなのか。……レイ様について少しでも知ることができたら落ち着けそうかい?」

「今よりは落ち着けると思います!」


 落ち着けて、レイ兄様のことも知れる。これは大チャンスなのでは!?

 私の中で兄を知り隊が結成されたよ!? 隊員は私とだけだけど。

 だけど、この感じだと落ち着くどころかテンションが更に上がるような気もするんだよなぁ。

 でもレイ兄様について知りたい! ここまできて知れないなんてなったらテンション下がる!

 それは微妙だ。


「うーん、……そうだね」


 アマーリ先生は少し考える素振りを見せた。

 医者として私のテンションを心配してくれているのかもしれない。


「……とりあえず、僕の知っているレイ様について話すよ」

「ありがとうございます……!」


 やった! レイ兄様について聞ける!

 アマーリ先生はゆっくりと話し出した。


「レイ様はとてもお優しい方だ。使用人や平民にも分け隔てなく接してくださる。僕が考えるに、貴族には珍しい方だね。だが、優しいからこそ心が繊細だ。旦那様と奥様、ラナ様がすれ違っている空気感に耐えられなかったんだろう。いつの間にか学園の寮に入られていたよ」


 そうなのか。レイ兄様、優しいのか。そしてなんだか苦労人の予感がした。


「……そして、ここ1年ぐらいかな。レイ様はほとんど笑わなくなってしまった。会う度に暗い顔をしている。何かを思い詰めるようにね」


 会ったことのないレイ兄様だけど、心からの笑顔を見せて欲しいな、不思議とそう思った。

 きっとは関わったことがほとんどないながらも、お兄様が好きだったんだろう。


「……そうなんですね」

「ああ……。そうだ。どんな姿なのかも話さないとな」

「……! お願いします!」


 アマーリ先生はにこりと笑って雰囲気を変えた。

 気遣ってくれたんだろう。

 ありがとうございます! と念を送る。


「レイ様の髪はラナ様と同じ色をしている。瞳はエメラルドのような色だね。ちなみに、髪色は奥様から、瞳の色は旦那様から受け継いだものだ」


 私の髪と同じ色……! お母様もそうなんだ!

 レイ兄様の瞳の色がお父様譲りなら、私の瞳の色はお母様譲りなのかな?

 会ってみたいという気持ちがまた増えてしまった……!


「そして、レイ様とラナ様の二人が並ぶと、まるで一枚の絵のようになるんだ。ぜひまた見たいものだね」


 アマーリ先生は「ここ1年ぐらいはずっと見ていないから」とも付け加えた。

 絵のようになるってどういうことだろう?

 あ、そういうことか。容姿の整った子どもが並ぶと絵になるってこと。

 我ながらラナの容姿はかなり整っていると思う。

 まあ、一瞬忘れていたけど。


「ますますレイ兄様に会ってみたいなぁ……!」


 おっと、うっかり心の声が溢れて、早口で言ってしまった。

 アマーリ先生は驚いた表情をしている。

 仕方がないんだ……! 私もだけども会いたいと言っているから!


 ナナミ! ラナのせいにしないで! ラナも確かに会いたいけど、一番会いたいと思ってるのはナナミでしょ?


 そうだね。ごめん、言い訳した。もうしないよ。私は……、レイ兄様に……、会いたいのです!!


 うん、それで良いのです!


 が笑顔で頷いている気がした。

 思考の世界から戻ってくると、アマーリ先生は笑顔になっていた。

 それに対して私が不思議そうな顔をしていると、答えてくれる。


「ラナ様がレイ様に会いたいと言うのが嬉しくて、微笑ましくてね」

「そんなに微笑ましいところはありましたかね?」


 嬉しいのはなんとなくわかる。

 あまり仲の良いとは言えない兄妹が仲良くなろうとしていると聞いたら、私でも嬉しくなる。そして応援したくなる。

 きっとこんな気持ちだろう。

 だけど、微笑ましいポイントはあったかな?


「大ありだよ! 可愛い妹が兄に会いたいというどこが微笑ましくないんだい?」

「……確かにそうですね」


 私はアマーリ先生の勢いに驚いて言った。

 何か妹に思い入れでもあるのだろうか?


「ああ、驚かせてすまないね。僕には弟が3人いるんだが、生意気で生意気で、僕の言うことなんか聞いたこともないんだよ。だから可愛い妹が兄に会いたいと言っているのが微笑ましくてね。うちの弟たちにも見習わせたいぐらいだ」

「ふふっ、弟さんたちのことをお話ししているアマーリ先生も微笑ましいですよ。なんだか愛情を感じます」

「そ、そうか? ……でも、確かに愛情はあるね。ラナ様が笑ってくれたなら良いか」


 その後、しばらく雑談をして、アマーリ先生は去って行った。


 レイ兄様のこと、知れてよかったな。

 だけど、会いたい欲求が強まってしまった!

 そしてテンションはあまり変わっていない。まあ、色々と知れたから良しとしよう。うん、そうしよう。

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