第9話 鈴木の母とご対面でち

死ぬ...。

寒くて冬眠しそうな俺、元人間の佐々木進35歳、転生して現職ハムスターな俺。


部下の鈴木ルカに飼われているが、性格がガサツで、2日に1回はクソ寒い真冬に暖房をつけずに仕事に行く。


悲しいかな俺に出来るのは毎日伸び続ける歯を削るためにりんごの木をかじっている。


鈴木はテレビとパソコンはつけっぱなしだ。節電しろ。ハムスターになってまでなんで俺は部下の生活を心配している。


体がぷるぷる震えるが、ガリガリ木を削る歯も止まらない。それなりに給料はもらっているはずだ。ヒーターの1つでも買ってくれ、鈴木。



ドアの鍵がガチャガチャと開く音がした。本能的に俺は小さな木の家、ハムちゃんハウスに入りヒゲを張り神経をとがらす。


ハムスターになってから五感がやたら鋭い。


真冬の冷たい風と共にやたら甘ったるい加齢臭が部屋に入ってくる。


おえっ、動物病院の先生のおっさんの加齢臭もしんどかったが甘い匂いもキツイ。動物も大変だよな。


「あらあら、ルカったらまたテレビつけっぱなしにして。社会人にもなってまだ子供なんだから」

俺がえずいている間にもどすどすという音と共に鈴木を3倍に太らせて、30歳年を摂らせたおばさんが入ってくる。


テレビを消し、こちらを見た。八代とエリザベス嬢の件から生き物にやたら過敏になっている。



「あら、これがあのガサツなルカが初めて飼ったハムちゃんかしら?」


ガサツ!そうだ!鈴木はガサツだ!気があうじゃねーか!おばさん!


部屋から顔だけ出すと、鈴木を丸々させたような顔がにっこり笑いこちらを見ている。


「あの子、動物は好きじゃないのに、ペットショップでサムちゃん見て飼うんだって電話してきた時にはびっくりしたけど。似てるわ」

動物好きじゃない?鈴木が?俺のために泣いてたのに?


「あらっ寒いと思ったら暖房つけてないじゃないあの子」

鈴木の母親らしい。確か実家は地主だと言っていただけあって甘ったるい香水はたえがたいが品がいいお義母さんだ......否、おばさんだ。


「でも、本当にくりっとした黒い瞳とスマートな体型が佐々木課長に似ているわね...あらやだ、課長になる前に亡くなったのに、佐々木平社員かしら?」

鈴木の口が悪いのは母親ゆずりらしい。


ん?俺に似てる?何で?まさか......。


「でも、亡くなった人を好きでいるのも見てられないわ....」

なですと!?


「佐々木平社員、ルカの好みだったのにねえ」

「キューーーーーキューッ!」

おばさんの一言と俺の鳴き声が暖房でぬるくなりだした部屋中にハミングした。





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