第8話 女の自慢はハムスターも食わないでち

神田川も鈴木が心配で来たらしい。


頼むから仕事しろ。ただですら不況で人員削減されている中、鈴木と八代は優秀だから残されているんだ。


「ちょっと!」

鈴木達の話に夢中になっていたら、5段腹、否、エリザベスお姫様を忘れていた。


エリザベスの鳴き声に顔を赤くした神田川が振り返り「おやおや、お二人はいい感じですねえ♪ぐひひ♪」


どう見りゃ、いい感じに見えるんだ。「おやおや」って見合いばばあか。


神田川はニヤつきながらまた背を向ける。


気持ちがおさまらず俺は気がつくと背中から白玉(人権を守るための自重している表現だ)まで丁寧に毛づくろいしていた。ハムスターな俺。


「最低!女子の前で毛づくろい」

横のケージを見ると、思春期の女子高校生が父親を見るような冷たい視線を感じた。


5段腹をこちらにむけ、エリザベス嬢は怒っている。


面倒くさいが、サラリーマン時代の営業の職業病がぬけず、鈴木が可愛いと言ってくれた上目遣いをする。



「他のハムも可愛いじゃない。でも私はもっと可愛いから有名なの。知りたい?」

知りたくもなければ聞きたくもない。


「有名とは?俺はハムスターになってから...産まれてから1週間もたっていないの」

上目遣いのまま聞くとまんざらでもない顔で話し始めた。


よし!今から気持ちに鍵かけろ、俺。愛想笑いと気持ちをオフにするのは得意だ。


こんな所で職業をいかせるとは。


「色白で美人で可愛いじゃない?」色白しかあってねぇ。それにハムスターの脳化しているのか前職がいかしきれてねえ。


「ミサキは毎日、私の写真を撮って、SNSにあげるの。ミックスではフォロワーが二千人、インストグラムでは千人、顔BOOKでは4千人もいるのよ!」

ずいぶんと暇な奴らがいるもんだ。ハムスターになってからSNSのわずらわしさから開放されて良かった...。


「可愛い子もたくさんいるわよ?でも私ほど色白で可愛くて映えるハムスターはいないの。大量のいいねがつくとミサキは言うわ」

謙遜かと思いきや会社の一部の女子と同じく自慢だ。逃げたい。



「可愛い子供はいつかしらとコメントに書かれるわ」

5段腹の色白子ハム大量生産だな。


「だから、今はSNS活動で私は忙しいの。あなたみたいにケージで満足していないの。私は世界を目指してるわ」

ボロいケージでも、働かず、食べて、回し車走って、鈴木のイビキにもなれれば、ここは天国だ。


ハムスターもSNS時代なんだと思っている間に俺は座ったまま夢の中へ。


その間もエリザベス嬢のご自慢は神田川が帰るまで世界へと突っ走っていた。







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