第4話 初の依頼!

 ドノセスの町は、王都から離れている割にはそこそこの規模の町だった。人口や建物の数からすれば、およそ田舎の学園都市くらいなものだろうか。そこそこ人がいて、トラッツではほとんど見かけなかった若い面々も散見される。


 そして何より、いわゆる異世界感が強いのだ。道ゆく人々は武器を背負っていたり、簡単な防具に身を包んでいたり、テンプレートのような魔法使いの格好をした者もいれば、本当にそれで戦えるのかと疑わしいほど薄着の戦士もそこらを歩いている。


 だが、それがいい。それでこそ、元いた世界で散々見てきた異世界ファンタジーだ。こんな冒険者がうじゃうじゃいて、現にエウクセルという指折りの戦士に同行している時点で、どうやらゆるふわお花畑ストーリーではなさそうだが。






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 町の真ん中には大きな教会のような集会所が建てられ、その中に商人や戦士など、様々なギルドが設営されていた。ギルドには、戦士や商人など様々な職業の人間を一括で管轄し、また同時に一般から多種多様の依頼を募集して、それぞれに適当な依頼を仲介する役割があるらしい。個人同士で契約すると、報酬のトラブルなどが絶えないためギルドがまとめて管理することになったのだとか。


「現在エウクセル様が受注可能なご依頼は、こちらのリストになります」


 そう言ってギルドの役員が手渡した黒板には、3つほどの依頼が書かれていた。


「せゔろう ふぉ くきゃっぷ・・・?」


 だめだ、わからん。文字はほぼローマ字のようだが、まるで見たことのない単語ばかりだ。ドイツ語とかフランス語とかみたいに、英語とちょっとスペルを変えただけで全く読めなくなるのと同じだ。


 ・・・ってあれ? なんか普通に文字出てきてない?


「ふむ・・・、すまないが、王都ラティパックが目標点となる依頼はないかね?」


 エウクセルは普通に読めるらしい。三つの依頼では意に沿わなかったのか、役員にもう少し依頼の検索幅を広げて尋ねた。


「少々お待ちくださいませ。

 護衛依頼以外のものも探してまいります」


 そう言って役員が再度受付に戻った後。アンナは小声でエウクセルにどうしても気になったことを尋ねた。


「エウクセルさん、あの、ここって普通に文字があるんですね・・・?」


「ああ、そうか。トラッツの村には文字表記が無いからね。

 ここは見ての通りそこそこの規模の町だ。住んでいる人も、やってくる人も幅広いんだよ。だから文字での伝達が重要なんだ」


 気になっているのはそこではない。なぜトラッツでは一切文字がなかったのか。いくら小規模な村といえど、文字が必要ない理由としては弱すぎる。


「・・・あの、ひょっとしてドノセスや王都のような都市部には、教育機関が充実してたりしますか?」


「教育機関? 何を指しているのかは知らんが、『グニニアート』のことを指しているのなら、それは王都にしかないよ」


 またよくわからん単語が出てきた。


「えっと、つまりですね・・・」


 識字率、と言いかけて言葉を詰まらせた。思えば、元いた日本という国は、そもそも国民の識字率が異様に高いのだ。国によっては一切文字を読めないまま話し言葉のみで生活している人間もいるし、実際大戦直後の日本でも字が読めない子供が多く存在したことくらいは知っている。


 だが、その識字率が高いのかどうかを問うのは中々にデリケートな話だ。そもそも上からの物言いになってしまうし、エウクセルが識字率を理解しているのかもわからない。


「・・・いえ、何でもないです」


 迷った挙句、自分で分析することにした。






 少しして、ギルド役員が戻ってきた。


「大変お待たせしております、エウクセル様。

 護衛以外の依頼内容となってしまいますが、こちら一件のみございました!」


 探すのに難儀したのだろうな。ドノセスの町から王都まではかなり遠いと聞くし、そんな王都を目指す依頼が、普通こんな地方で募集にひっかかるわけがない。


「・・・逃げた脱獄犯の捕縛?」


 脱獄犯。とてつもなく嫌な予感がする。


「はい、こちら依頼難度が⭐︎4となっておりまして・・・。

 このドノセスにいらっしゃる方々ですと、エウクセル様以外では受注資格すら・・・」


 ちょっと待って。エウクセルってそんなにすごい人なの? 国でも指折りとは聞いていたけれど、このギルド内や町中を歩いているどの冒険者よりも、この陽気なおじさんの方が強いの?


 あっけにとられているアンナをよそに、エウクセルは話を進める。


「捕縛、というのは要するに脱獄犯を捕まえるということだよね?

 それに⭐︎4というと、モンスターでもかなり高位にあたる難度だけれど、そんなのが脱獄しちゃったの?」


「・・・こちら、国からの極秘依頼となっておりまして。

 高レベルの冒険者の方にのみご案内させていただいております」


 要は指名手配ということだ。だが大々的に公表しないのは、無駄に上昇志向の強い無鉄砲な輩が下手に手を出して犠牲になってしまわないためなのだろう。


「最新の情報では、このドノセスの町から北に向かった先にある『エヴァックの洞窟』に潜んでいるとのことです。

 近々、王都から直接使者が送られるとのことですが、実質はその方々がいらっしゃるまでの足止めをしていただきたいという次第でございます。

 また報酬に関しては王都の方で直接お渡しするとのことですので、その際に王都へ赴くことも可能で御座います」


 王都から直々の使者が、こんな端っこの地方に送られて来るということはだ。尋常でないほど危険な依頼ということでは?


「足止め程度ならば、何とかなるかもしれませんな。

 よろしい、お受けしましょう」


 本気か? ⭐︎4がどのくらいなのかはよくわからないが、少なくともまだ駆け出しのチート能力もない冒険者が同行していい依頼でないことくらいはわかる。


「いきなり⭐︎4か! くぅ〜、腕がなるな!!」


 この隣の鳥頭は考えなしに興奮している始末だし。とにかく嫌な予感しかしない。

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