第3話 ポンコツ太郎!

 異世界での戦闘、、、というよりもエウクセルの戦闘シーンは凄まじかった。


 エウクセルは棍ほどの長さの短槍を得物としていて、その槍捌きたるや、目を見張る迫力だった。前から後ろから押し寄せてくる狼のようなモンスターの群れを華麗な槍捌きを持って一匹残らず迎撃したのだ。


 とんと現実の武術には興味がなかったが、今こうして実際に目の当たりにするとやはり凄い。何というか、かっこよくて、その、すごい。


「すっっっゲェぇ!!

 セルさん、めっちゃかっこいい!!」


 ただ、隣で一緒に見ていた鳥頭がうるさすぎて感動も半減したが。


「キミも鍛錬すれば私くらい簡単に超えられるさ!」


「え〜、ほんとかなぁ?

 そんなこと言って、レッスン代。お高いんでしょう・・・?」


「ところがどっこい、今なら三ヶ月間無料! この素晴らしい戦闘技術が何とただで学べてしまいます!

 さあどうするね若者!」


「ぐあああ、悩むうぅぅ!!」


 エウクセル、本当はこんなノリの人だったのか。どうもこういう体育会的なノリは昔から苦手だ。正直かなりウザい。




「ねえ・・・。アンタ、町についたのにまだついてくんの?」




 ドノセスの町に着き、護衛任務の確認のため町の商人ギルドを訪れた。その受付を済ませ、依頼がないか確認してもらっている間にも、この男二人はしょうもないコントを延々と繰り広げていた。


「だって、何の手がかりもないんだもん!

 セルさんだってついてきていいって言ってるし、もうちょっとだけお願い!」


 そう言って彼は両手を合わせ頭を深々と下げた。この軽い感じで言ってくるのが何よりムカつくのだ。


「・・・エウクセルさんがいいって言ってるから、私は何も言えないけど。

 せめて名前くらいははっきりさせてよね」


 楽しかった異世界生活が、この鳥頭の青年が加わったせいで急激にストレスを感じるようになった。この感覚は、あれに似ている。


 そう、サークルクラッシャー。


 似たもの同士で集まって楽しんでいたのに、そこに一人の異物が混じったことでどんどんサークル内の空気や人間関係が変わっていき、最終的に皆バラバラになってしまう・・・。それに似た感覚を覚える。


「名前ねぇ・・・。

 そうだ、アンナちゃんがつけてよ!

 俺にぴったりの名前!」


 そう言って、彼は身を乗り出して無茶振りをしてきた。陽気なお調子者というのは、異世界においてもやはり距離感がバグっているらしい。普通、付き合ってもない異性相手に顔を10cm間隔まで近づけるか?


「そうねぇ・・・。

 アンタってば鳥頭でポンコツだから・・・」


 こいつはやたらに燃費が悪い。体力だけは確かに底無しだが、その分食べる量も多く、エウクセルが余分に持ってきていた保存食まで全部平らげてしまった。


 その上、使えないのだ。槍を持っても全然当たらないし、すぐ道に迷うし、拾い食いして勝手に腹壊すし、泳げないし・・・。まだ体力でも筋力でも劣るアンナの方が旅の役に立っていた。




「決めた。

 アンタは今日から“ぽん太”って呼ぶ」




 ぽんこつ太郎、略してぽん太。たぬきの名前のイメージもあるが、まあどちらにせよ有能そうな名前ではない。そういった精一杯の皮肉を込めて、そう言い放った。憂さ晴らしも兼ねて、敢えて一番あり得ない名前を叩きつけてやったのだ。


 しかし、彼は顎に手を当て、少し考えたのち。


「ポンタ、か。なんか可愛い名前だな!

 いいね、ポンタ! 気に入った!」


 などと、大きな声で嬉しそうにはしゃぐのだ。


「うんうん、まあ男の子らしくはないが、いいんじゃないか?

 改めてよろしくねぇ、ぽん太くん」


「ハイッ、ポンタです!!」


 しかもエウクセルもそれで納得してしまった。しまった、この世界の価値観をまだ甘く見ていた。冗談が全て本気でとられてしまいかねない。


「・・・え、ほんとにいいのそれで?」


「え? だって可愛いし」


 きょとんとした顔で、平然と答えるポンタ。それが何となく癪にさわったが、まあもうどうでもいいや。どうせこのドノセスの町か、王都までの付き合いだ。


「それにさ」


 しかしそこで終わらず、ポンタはなおも言葉を続けた。


「?」




「アンナちゃんが、俺のためにつけてくれた名前だからね」




 キュンとはしない。しないが、そう言ったポンタの声色と表情は、とても温かくて心地の良い包まれるような優しさを帯びていた。絶対に、キュンとはしないが。


「・・・そーですか」


 プイッとそっぽを向く。そのタイミングで、王都ラティパックまでの護衛依頼の説明のためにエウクセルの名を呼ぶ声が響いた。

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