第2話 謎の青年?

「いやぁ、助かった!!

 ほんっとうにありがとう!!」


 出逢った時点で今にも死にそうだった男、、、改め青年は、弾けんばかりの笑顔で礼を言った。


「いやむしろよく水と団子三つだけであの状態から回復したね・・・」


「まあ、間に合ってよかったよかった。

 ところで、キミはどこからやってきたんだい?」


 エウクセルがいなかったら、てっきりモンスターと間違えて、ダガーで刺し殺してしまっていたかもしれない。危ない危ない。


「それがね〜、ぜんっぜんわかんないんだよ!

 な〜んにも思い出せないんだ!」


「思い出せない・・・?」


「驚いた、キミも記憶喪失なのかい?」


 思い出せない、というフレーズに引っかかる。いや厳密にはこっちは記憶喪失ではないんだけれども。


 この青年、ひょっとして転生者なのではないか? 確かに異世界モノでも、転生者が複数いるパターンは割と見たことがある。


「・・・ねえ。

 ・・・貴方は、?」


 まだこの世界のことなんてほんの一握りしかわからない。なぜこの世界に来たのかもわからない。そんな中で、もう一人転生者がいるとなれば、これほど心強いことはない。プレーやエウクセルとは違い、の人間となれば、本当の意味で孤独を脱することができる。


「ん〜・・・」


 アンナの問いに、青年は俯き頭をボリボリと掻いた。少し圧が強かっただろうか。つい真剣になり、語調が強くなってしまっていたかも知れない。


「えっと、その、ね」






「わっかんない! ごめん!

 やっぱな〜んも思い出せない!」






 しかしそんな彼女の思いやりも甲斐なく。青年はあっけらかんとした調子で、キッパリとそう答えた。


 ・・・なぜだろう、本来なら肩を落とすところなのに。なんかムカつく。


「名前も覚えていないのかい?」


「覚えてないなぁ、そういえば。

 俺って一体誰なんだろ?」


 名前も覚えていないとなると、本当に記憶喪失なのか。だとしたら自分が何者かで、今どういう状況で、何を忘れてしまっているかなど不安で不安で仕方ないはずなのに、なんでこの青年はこんなにも能天気でいられるの?


「名前もか・・・。じゃあアンナちゃんよりも重症だねぇ」


 こっちは記憶喪失じゃないけどね。


「なぜここに来たのかも覚えていないのかい?」


「いや、実際には一週間くらい前から記憶があってさ。

 そこからはずっとただただ彷徨ってたんだよね」


 聞けば、目が覚めてから一週間近く行くあてもないまま彷徨っていたらしい。水辺も見つけられなくて水分は摂れないし、その辺に群生していたキノコを食べたら腹を下してむしろ腹は減るしで、ほぼ飲まず食わずで一週間歩き回っていたのだとか。


「町に行くんだっけ?

 よければ、俺もついていっていいかな?」


 こいつ、同い年くらいだろうか。およそ20歳くらいに見えるが、同年代だからこそなのかな。自分よりも酷い境遇なのにこんなに底抜けに能天気なのがすっごくムカつく。ポジティブシンキングには自信があったのに、こいつのせいで霞んでしまってるし。


「ああ、構わないよ。ただキミは話を聞いていると、体力には相当秀でているんだねぇ。

 どうだい、町についても特に行くあてがないなら、私と一緒に用心棒をやってみないかい? 戦う技術なら私が教えよう!」


「本当ですか!? ヤッタァ、ぜひお願いしまぁす!!」


 勝手に男どもで話が進んでしまっている。というか、喜び方が絶妙に似ていて余計にムカつく。この青年、生理的に合わないかもしれない。


「アンナちゃん、ていったっけ?

 よろしくね!」


 不意に、目の前に手が差し出される。きっと、悪い人ではないのだろう。ただ馬鹿っぽいだけで、ただ純粋すぎるだけで、嫌味なわけでもない。なんかムカつくけど。


「・・・ハイハイ、ヨロシクネ」


 腑には落ちていないし内心一緒にいたくはないのだが、護衛のエウクセルが意気投合してしまったのなら仕方がない。ドノセス、ひいては王都ラティパックに着くまでの辛抱だ。


 そう自分に言い聞かせ、歩を進めた。

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