第一章 ポンコツ戦士ご登場!

邂逅する二人

第1話 旅のはじまり!

 旅は徒歩で向かう。まずはトラッツの村から最寄りの『ドノセスの町』がとりあえずの目標だ。


「ドノセスの町までは、このペースなら三日ほどで着くだろうね」


 焚き火を囲み、採れた山菜を串に刺して炙りながら、エウクセルは笑って答えた。


 このペースで三日? 今日だけで体感40kmくらい歩いた気がするけど。元陸上部だったこともあり体力と健脚には自信があるが、これを三日連続となるとちょっと話が変わってくる。


「・・・乗り物とかって、ない感じですかね?」


「乗り物? 馬車のことかい?

 そうだね、ドノセスの町からなら出ているだろうけどねぇ」


 基本的にこのモグドニック王国の、国が運営する物流は王都ラティパックを中心に広がっている。だが単純に王都からの距離が一番遠いトラッツの村までは、その国営の物流が行き届いてないわけだ。だから、トラッツやドノセスといった王都から遠い町村では、独自の物流サービスが繁盛しているらしい。


「トラッツは特に端っこだからね、ドノセスからでも月に二回ほどしか物流が通らないんだよ」


 おそらく、需要と供給のバランスがとれないんだろう。地方でバスや鉄道が廃線になって、そこの住民が困るのと同じだ。住民からすればなくてはならないけれど、いかんせん利用者数そのものが少なすぎて採算に合わない。


「まあこうして距離があるおかげで、ドノセスの町周辺の生態系の影響も少なくて済んでいるんだがね」


「生態系の影響?」


「トラッツの周辺域には、強いモンスターがほとんどいないんだよ。キミが初めてウチに来た時も、大きなモンスターには出くわさなかっただろう? 」


 なんでも、そもそもトラッツ周辺域は土地が細く、作物も育たないらしい。だから農耕もできないし、採集に頼るしかない。毎年越冬は命懸けだそうで、晩秋までにとにかく食料を蓄えておかないといけないのだとか。


 土地が細いから栄養価の高い植物が育たず、栄養価が低いから大型の草食動物も寄りつかない。大型の草食動物がいないから、それを食べに大型の肉食動物がやってくることも繁栄することもない。だから、村人は安全に暮らすことができる。


 なるほど、よくできている。


「要するにあそこは秘境ってことですか」


「もうちょっと言い方なかった?」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 トラッツを出て二日目。


 エウクセルはさすが歴戦の戦士だ。これだけ長距離を歩いてるにも関わらず、一切の疲れが見えない。多分ペースを合わせてくれているだろうから、本来は一日半とか二日で行けるんじゃないだろうか。


「少し休憩しようか」


 明らかに歩くペースが落ちたのを察してくれたのだろう。エウクセルは不意に振り返り、そう提案してきた。プレーがあんなにも彼のことを信用しているのもよくわかる。間違いない。このおじさん、スパダリだ。


「すみません・・・、こんなにずっと歩き通したの初めてで・・・」


 すっかり息の上がった私を、エウクセルは川縁に案内してくれた。そして肩パッドを片方外し、水を一口分だけ掬い上げた。


「飲みなさい。楽になるだろうよ」


 う〜ん、、、川の水そのままかぁ・・・。しかも、いくら優しくて頼もしいとはいえ、おじさんが身につけていた肩パッドに汲んだ水かぁ・・・。いや、ありがたいんだけどね、せめて煮沸消毒くらいは・・・。




その時だった。






「み・・・、水・・・・!!」






 今にも消え入りそうな、か細い声がどこからか聴こえてきた。まるで蚊の鳴くような、これ以上ないくらい弱々しい声が。


「だっ、だれ!?」


「む? 旅人か?」


 エウクセルの振り向いた先。そこには樹にもたれかかり、全体重を預けつつようやく立っているような、今にも死にそうな男が立っていた。


「ヒィッ!!?」


「み・・・ず・・・」


「落ち着きなさい、まずはこれを飲んで!」


 まるで幽霊のように頬をこけさせ青白い顔をしたその得体の知れない男に、エウクセルは何の躊躇いもなくアンナに渡す予定だった水を飲ませた。


「ああ・・・、しあわ、せ・・・・」


 一口だけ水を飲んだその男は、静かに目を閉じ、よわよわしくそう呟き。


 そのままうつ伏せに倒れ込んでしまった。

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