第10話 異世界生活のはじまりはじまり

 異世界に目覚めてから、ちょうど一週間。色んなことがわかった。


 まず、文明レベルは元いた世界に比べかなり遅れていること。特に科学文明に至ってはほとんど陰も無く、電気という概念すらないらしい。


 そして文化。トラッツの村を見た限りだと、建物や食生活など、かなり日本に近い暮らしをしているようだ。はじめにプレーに食べさせてもらった笹餅のようなものも、小麦のような穀物を挽いて粉にし、それに水を混ぜてこねて焼いたものだそうで、まあほぼ団子みたいなものだ。原材料違うけど。


 またトラッツの村は採集文化らしい。狩猟や採集によって食料を調達し、その余った資源で民芸品の布や小物を作り、それを他の村や町に売って生活をしているようだ。他の村や町がどんな生活をしているのかも、気になってくるところだ。


 さらに、暦や度量衡も元いた世界とほとんど変わらない。なぜこんなにも似通ったものさしを持っているのか少し気になったが、まあその分不自由も無いし、今はまだ気にしないでおこう。


 問題は、言語だ。話し言葉は何不自由なく扱える。日本語のつもりで話しているが、もしかしたら自分で認識していないだけで、この異世界の言語を自分も話しているのかもしれない。がしかし、日常的に気にならないレベルでしかない。


 それよりも、この村には「文字」が無い。書き言葉も存在せず、伝言は全て口伝で行われているのだ。試しにかな文字、漢字、ローマ字、ギリシア文字、アラビア文字、デーヴァナーガリー文字、キリル文字・・・、と思いつくだけの文字を書いて見せてみたが、村いちばんの賢人である村長すら、一つも読めなかった。


 王都に行きさえすれば、わかることも多いだろう。そんな期待が胸を高鳴らせる。エウクセルに鍛えられ、魔法も火に関しては焚き火ができるくらいにはなった。そう、実際に魔法が使えるようになったのだ! これほど心躍ることはない!


「では、行こうか」


 プレーにあしらってもらった旅の装具は、まさに異世界冒険ファンタジーといった、かっこいいデザインだ。おしゃれかどうかはおいておいて、とりあえず一端の旅人っぽくはなった。エウクセルにも護身用に刃渡り15cmほどのダガーを貰った。元の世界じゃおっかなくてモテた物ではなかったろうけど、今はこれほど心強い装備もない。


「はい、お願いします!」


 国でも指折りの戦士ということもあり、頼もしい背中だ。そして、その戦士に守られて旅に出るからこそ、不安や恐怖は最小限に、期待と興奮がただただ胸を突き上げ、これから始まる冒険に目を輝かせていた。

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