第8話 現状把握ヨシ!
思えば、そもそもなぜこの異世界に転生したのだろうか。そもそも転生なのかすら怪しい。転生モノにも色々あるが、定番としては何らかの原因で命を落とし、そこから神様にチート能力を与えられた上で異世界に転生するものだと認識している。
しかしそもそも死んだ覚えはない。目覚めた場所こそ死んだ場所のような雰囲気ではあったが、直前の記憶がない以上、あの大学の帰り道で何があったのかはわからない。
そしてもう一つの定番は、生前大好きだったゲームや小説などの物語の世界に転生するというパターンだ。令嬢モノなんかはこれが大半だし、実際そういった作品を好んで読んでいた。
しかし知らない。こんな世界は、一切記憶にない。要素を一つずつピックアップすれば、似たような世界は見たことがある。だが総合的に見た時には、この世界は知らない。
「記憶喪失とは、これまた困ったねぇ」
プレーの夫、エウクセルもまた優しい人柄だった。帰ってくるなり家にいる不審な女を怪しがりもせず、妻の話を一から十まで信じきって、その上で気遣ってくれている。他人ながら、この夫妻が悪い人間に騙されないか心配になってくる。
「少し先にはなるけれど、もしよかったらおじさんと一緒に王都に行ってみるかい?
王都の人間なら、多少キミの話がわかる人もいるかもしれないし」
エウクセルは『トラッツの村』と『王都ラティパック』との間の道中で、行商人などの警護をするのが仕事だという。トラッツの村から直接王都ラティパックまで行く者はほとんどいないが、その道中に位置する様々な街や村からは、幾多の行商人が行き来しているらしい。そこにおける、いわゆる用心棒ということだ。
「やっぱり、山賊とか出るんですか?」
「山賊も盗賊も、モンスターだってうじゃうじゃいるね。それこそこの辺じゃ絶対に見かけない強い個体もたくさんいるよ」
なんでも、エウクセルは王都まで名が知れるほど腕が立つ武人なのだとか。いよいよ話が異世界らしくなってきた。でもなぜだろう、今は異世界感が増せば増すほど自分の存在の矮小さが際立って哀しくなってくる。
「まあ大丈夫さね。旦那が用心棒を受け持って最後に犠牲者を出したのも、もう二年前くらいの話だし」
年に10回程度、護衛依頼を受けるらしい。その依頼の中でどこを移動するかによって期間が異なり、最長で一ヶ月も護衛し続けることもあるのだとか。そんな中、二年間も一人も犠牲を出していないというのは、確かにすごいことのように聞こえる。
「次の出発は来週あたりになる予定だよ。それでもよければ、一緒に連れて行ってあげよう」
そう言って、エウクセルは優しく微笑んだ。
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