第7話 初めての魔法・・・!
庭の真ん中でボウルを片手に、その上にもう片手をかざす形でアンナは構えた。
「そういえば、魔法って呪文の詠唱とかあるんですか?」
「強い魔法使いとかはするらしいけどね。まあ適性検査程度ならいらないよ。
とにかく大事なのはイメージさ。
・・・まあどうしてもってんなら適当でもいいだろうけど」
あまりに自信満々なアンナにプレーも興味が湧いてきたのか、料理の手を止めて土間から彼女の様子を眺めていた。
「イメージね。オッケー・・・!!」
イメージするのはとんでも高火力を放つ自分・・・、ではなく、適度な威力を持った魔法である。もし本当にとんでも高火力が出てしまったら、恩人ごと家を消しかねない。いくら転生したからって、その辺はきちんとわきまえないとね!
「よーし・・・」
ドキドキしてきた。動悸が高まり、全身が脈打っているのが嫌というほど実感できる。そうか、これが魔力の奔流か。
そんな高まる思いを胸に、アンナは明確な火のイメージ、例えるならガスバーナーのような火が掌からボウルの中へと伸びるイメージを強く念じた。
「いでよ炎!!
“
高らかに発せられたその呪文は、あたり一帯に響き渡り。かざされた彼女の掌は仄かに輝きを放つ。その輝きは段々と増していき、やがてボウルの中の影を全て打ち払い。
次の瞬間。ぽんっ、と間抜けな破裂音と共に、輝きは一瞬にして消え去ってしまった。
「ナニコレしょぼい!!」
思わず叫び、勢いよく振り返ると、土間で眺めていたプレーは腹を抱えてその場にうずくまり、小刻みに震えていた。
「・・・いっ、いやいやいや!!
ももももしかしたら他属性の適性があるかもですし!!?」
つい数分前、自信満々に勇足で庭に出た矢先のコレである。恥ずかしさのあまり、むしろ顔から火が出そうだった。
「“
叫んだ瞬間、かざした掌がじんわりと湿り気を帯びた。滴るほどではなく、長時間握手をし続けた時に滲み出る汗くらいの。
「“
湿った掌を乾かすかのように、仄かに涼しい風が肌をくすぐった。多分湿ってなければわからなかった程度の。
「“
乾ききっていない湿った掌を、薄く砂が覆う。長距離を走り終えて汗だくの状態でグラウンドに手をついた時のような、絶妙な不快感。
四属性、全てがしょぼい結果に終わった。先ほどまでの威勢と自信はどこへやら、がっくしと肩を落としてすごすごと戻ってきたアンナに、プレーは笑いを堪えきれなかった。
「いやいや、そんなにがっくりすることはないさね!
何せ四属性全部に反応があったろう!?
程度は低い・・・というかほぼゼロみたいなもんだけど」
慰めなのか罵倒なのか分からなかったが、いずれにせよチート能力なんてものが備わっているわけではないことだけは分かった。
きっと、この物語は異世界ほのぼのゆるふわお花畑スローライフものなのだろう。そりゃそうか。仮にチート能力があったとして、魔王なんかに立ち向かいたいとは微塵も思わないし。うん、そう思うことにしよう。そうでないとやってらんないわ。
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