第4話 転生しちゃった!?

「はいよ、ありあわせのもんでお粗末だけど」


 そう言って恰幅の良い中年女性、プレーは野球ボールほどの大きさの、何やら笹餅のような葉っぱに包んだ何かを渡した。


「ありがとうございます!!

 いただきます!!」


 それが何かは分からない。分からないが、人の優しさに触れたことで安心しきり空腹の限界に達していたアンナは、一切の躊躇いもなくその手渡された何かをたった三口で平らげてしまった。


「あっはっは、いい食べっぷりだねぇお嬢ちゃん!」


 そんなアンナをプレーは豪快に笑い飛ばした。本当に気持ちの良い人だ。


「美味しい・・・!!

 美味しいです・・・!!」


 それが結局何なのかは分からずじまいだったが、それでも孤独と空腹と不安に苛まれていたアンナの心を癒すには十分すぎる美味しさだった。食べ終わる頃には、堰を切ったようにアンナの顔は涙で覆われてしまっていた。


「そんな泣くほどかい?

 ・・・いや、不安だったんだね。安心しなよ、このトラッツの村に悪い奴はいないからさ」


 プレーの優しい言葉に、一層涙が溢れ出る。現状に頭が追いつかないのと、とにかく生きることに我知らず必死になっていたのだろう。彼女の大きな胸に顔を埋め、アンナは咽び泣いた。




 ひとしきり泣くと、澄み渡った空のように心が晴れきった。とにかく、一旦冷静になって現状を把握する必要がある。


「改めてですが、ここはどこの国なんですか?」


 どうも日本ではないらしい。集落のさまざまな特徴や何となく感じる空気感から、アンナは大前提から明らかにすることを決めた。


「ここは『モドグニック王国』の領内だよ。

 まあ領内って言っても、ほとんど国境スレスレだけどね」


 アンナが目覚めた山は、『トラッツの裏山』と呼ばれており、村と反対側の麓は隣国の領内だという。


「あんたのことは、初めは王都の人間だと思ったんだけどね・・・

 まあ記憶喪失なら分からんか」


 プレーの中では完全に記憶喪失扱いらしい。一応記憶がないのは昨日の夕方から今朝目覚めるまでの間だけなのだが、話してもややこしくなるだけだし黙っておこう。


「・・・ちなみに、ヨーロッパのどこかって訳じゃないです?」


 当然ながら、『モグドニック王国』などという名前の国は聞いたことがない。しかしプレーやこの『トラッツの村』の住民の顔ぶれから察するに、どうもスラヴ系民族に近い特徴が見える。ハンガリーとかブルガリアとかある、あの東欧のごちゃっとした辺りの。


「よーろっぱ・・・?

 あんた記憶ない割によくわからんことばかり言うねぇ」


 違うらしい。もしやとは思ったが、やはり伝わらなかった。しかしそうなると、アンナの中で一つの可能性が生じてくる。


「これは夢じゃなく、確かに現実。でも今までに聞いたことのない土地、地名、国・・・。

 私自身も記憶が飛んで、全く知らない場所で目が覚めた・・・。

 これらの要素から推察するに、超常的な何かが起きているのは明白・・・」


 こういった展開は、腐るほど見てきた。トラックに轢かれたり、普通に病気で早くに息を引き取ったり、自⚪︎したり・・・。とにかく何らかの理由で命を落とし、その後とんでもない力を手に入れて第二の人生をスタートさせる、アレである。




「まさかわたし、異世界に転生した!!?」




 アンナはサブカル大好きオタク女だった。

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