第3話 優しい人だ!

 それは、町というには程遠い、とても小規模な集落だった。


「・・・どこだろう、ほんとに」


 集落を形作る、人々の家。それらはどれも、茅葺き屋根の大きな家だった。ソロキャンの際に岐阜の白川郷を訪れたこともあったが、まさにそんな感じの建物だ。


「古き良き日本の田舎・・・って訳でもないのかな?」


 しかし決定的に異なっていたのが、茅葺き屋根を支える肝心の家自体は、木製ではなく石造りだった。風通しもクソも無さそうな、まるで城壁のように大小さまざまな石がパズルのように積み上げられた無骨なデザインだ。


 よくよく見渡せば、集落を行き交う人々の顔も皆日本人離れ、、、というか明らかに外国人ばかりだ。なんだここは。


「あのっ、すみません・・・って、日本語通じるのかな・・・?

 ・・・Where is here?」


「なに言ってんだいあんた?

 うぇーあずひー? ほんとになんだって?」


 あ、普通に日本語で通じるのか。それも、まさに日本人そのものの発音と抑揚じゃないか。


「えっと・・・、あの、ここってどこですか・・・?

 ていうか、ここ日本・・・ですよね?」


「どこって・・・、ここは『トラッツの村』だよ。

 ニホン? なんのことか知らないけど、あんたそういや格好も変だし・・・。

 もしかして、王都の人間かい?」


 適当に近くを通りかかった恰幅の良い中年の女性に話しかけてみたが、どうにも話が見えてこない。トラッツの村? そんな地名、聴いたことがない。


「えと・・・、実は・・・」


 とりあえず、ダメ元でこれまでの経緯を話してみた。


 大学を出て家に帰るところから記憶が無く、気がついたら山奥で倒れていたこと。持ち物が全てなくなっていて、そのせいで現在地も分からないこと。必死で山を下って、ようやくこの集落に辿り着いたこと。


 女性は何が何だか分からない、といった表情を浮かべていたが、それでもアンナの話を真摯に、最後まで口を挟むことなく静かに聴いていた。


「ふ〜む、つまりあんたはちょっとした記憶喪失ってことかい?

 なんでトラッツの裏山で倒れていたかも、何が起きたかも思い出せないってことだろう?」


 若干違うが、まあそういうことにしておこう。


 ふとそんな折だった。アンナの腹の虫が、思い出したように大きな雄叫びをあげたのだ。


「あらあら、まあとにかく困ってるんだろう?

 とりあえずウチにおいで。簡単なものでよければ食べさせてあげるよ」


 なんて懐の大きい人なんだろう。威嚇中のハリセンボンのようだった心が、彼女の優しい気遣いによってまりものようにふかふかになるのを感じた。


「あたしはプレーってんだ。

 あんたは?」


「あっ・・・、アンナです!」


「アンナか。ま、話は食べながら聞こうかね」

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