第2話 集落(?)だ!

 どれくらい歩いたろうか。進めど進めど、一向に人の痕跡が見つかることはなく、結局斜面を下っているうちに森林を抜け、どうやら麓らしき盆地に出た。


「はぁ・・・、はぁ・・・」


 元々アウトドア派でソロキャンなんかも夏休みに敢行した経験があるが、あくまでそれはきちんとトレッキング用の装備を揃えた上での話だ。こんな普段着の日常装備で、道もわからない、地図もない状況から麓まで出られたこと自体が奇跡に近かった。


 とはいえ体力の限界だ。何より水分が欲しい。途中沢の湧いた岩場なども見かけたが、幼い頃に聴いた、兄が登山中に湧き水をそのまま飲んで腹を下し入院沙汰になった話を思い出して、ぐっと思いとどまった。


「くっそぉ・・・。

 煮沸なんて火種も無しにできるわけないしなぁ・・・」


 お腹も空いた。太陽の傾き具合から察するに、およそ14時くらいだろうか。昨日の大学帰りから記憶が飛んでいるから、もしその間なにも食べていないのだとしたら、およそ20時間ほどなにも摂取していないことになる。


「カバンにおやつとか入れてたのにぃ・・・」


 おのれ、ひったくり犯。許すまじ。絶許。食べ物の恨みは怖いんだぞ。


「・・・ん?」


 ふとそんな時だった。


 山から下った先に広がる現在地の盆地。そこから更に同じ方向へ進んだ先に、なにやら人工物が見えた。


「集落・・・? 小規模な村・・・?」


 まあこの際どちらでも良い。とにかく、数時間かけて山を下ったその先に、ようやく人の気配を発見したのだ。これで現在地もわかるし、交番にでも行けば荷物の行方や今後の対応にもサポートしてくれるに違いない。


 唸れ、我が両脚よ。今その力を発揮せずして、何時役立つというのか。中高と陸上で鍛えに鍛えたこの健脚をナメるなよ。


 先ほどまで感じていた体力の限界はどこへやら、アンナはその全力を振り絞り、数キロ先に見える集落に向けて駆け出した。


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