第28話 憧れは恋に。

「遅いなぁ……」


「遅いね……」


 瞳ちゃんと生徒会室でのんびりしながら柊会長を待つ。来週からはいよいよ体育祭の練習期間に入る。そうなれば生徒会室にも先輩達が来るようになり、忙しくなるだろう。長門先輩っていう明らかな爆弾も増えたし……



 コンコンコン



 しばらくするとようやく生徒会室の扉がノックされた。


「はいはーい」


 あちらから開けられる様子もないのでわたしが迎えに行く。


「どうしまし――」


「あ!早川ちゃん!今日もふわふわだね!」


 扉を開けると目の前には背の高い女の人が立っており、わたしであることを確認するとほっぺたをムニムニしてきた。


「やめ……なんですかぁ……」


「もちもち~いいなぁ~」


「榊さん?やっぱりこの話は無かったことにする?」


「それはやめて!」


 その女の人の隣には柊会長もいて、めちゃくちゃ怒っていた。そのままふたりは生徒会室へと入ってきて、さらに後ろからもう1人やってきた。


「あ……どうも」


「……………ん」


 榊先輩と違って小柄なその女の人は、わたしの顔をじっと眺め、ため息をついた。


「アンタも大変だね」


「へ?」


 先日睨まれたのもあって少し警戒していたが渡辺先輩は意外と優しい声色で話しかけてくれた。



「あ、あの……この人達は…?」


 そもそも誰が誰だか分かっていない瞳ちゃんは困惑しながら柊会長に尋ねた。柊会長が説明をしようとすると榊先輩が割って入った。


「体育祭実行委員だよ!わたしは榊優依!よろしく!こっちは渡辺彩里!」


「どうも」


「あ、なるほど…私は大野瞳です!よろしくお願いします!」


 話を聞くかぎりつまりはこのふたりも実行委員会に入ってくれるということなのだろう。先日の長門先輩に比べれば取っつきやすくて良い先輩達かもしれない。


 なんてことを考えていると大事なことを思い出した。そういえばこのふたりは……


「榊先輩……ちょっと…」


「ん?どうかした?」


 優しそうな榊先輩に声をかけ、生徒会室の外に呼び出す。


「その……渡辺先輩とは………」


「彩里がどうかしたの?」


 言いづらそうにしてるわたしを見て榊先輩はキョトンとしていた。隠してないことらしいのだが流石に聞きにくい。


「………つ、付き合って…るんですよね?」


「え、うん」


「おぉ……!」


 さも当たり前かのように即答され、思わず感動してしまう。すごくカッコいい。


「まさか早川ちゃん彩里のこと狙ってる!?」


「違いますよ!?」


 榊先輩に勘違いされないようにすぐに断る。すると榊先輩は楽しそうに笑いだした。


「冗談冗談ww………柊さん狙いだもんね」


「なんで……!?」


 柊会長への好意を見透かされて驚いていると榊先輩はドヤ顔しながら語りだした。


「……恋してる顔だった。からかな」


「おぉ……流石です…」


「なに後輩に変なこと言ってんだバカ」


 ふたりで盛り上がっていると、榊先輩の後ろにいつの間にか渡辺先輩が立っていた。


「だって早川ちゃんが柊さんみてる時の顔が彩里にそっくりだったもん」


「……うるさい」


 渡辺先輩は顔を赤くしながら榊先輩をバシバシと叩いている。目の前にわたしの理想としている関係のふたりがいて、とても羨ましく思ってしまう。


 そこでわたしは思いきって聞いてみることにした。


「あの!榊先輩はどうやってOKを貰ったんですか!?」


「へ?」

「…………チッ」


 流石に唐突すぎたのか榊先輩は首をかしげ、渡辺先輩に至っては舌打ちされた。


「あ、ごめんなさい……突然こんな…」


 落ち込むわたしを見て榊先輩は気を遣ってくれたのか渡辺先輩に確認をとると、優しく話をしてくれた。


「ちょっとそこら辺は複雑なんだよね。だからあんまり言いたくないんだ」

「でもね、わたしがOKした理由は簡単だよ」


 榊先輩は渡辺先輩の手をギュッと握り、満面の笑みで答えてくれた。


「好きだったから。彩里とならずっと居てもいいって思えたから」


「………なる…ほど……」


 そう語る榊先輩の顔はとてもカッコよくて、本当に愛してるんだなっていうのを感じ取れる最高の笑顔だった。



「おけ?それじゃあ戻ろっか!」


 一通り話が終わったのを確認すると榊先輩は手を握ったまま生徒会室に戻っていった。




(わたしも…本気になっていいのかな……)



 半分冗談めかしてしていた告白。でもそれで良いって思ってた。柊会長はそういうのじゃないから。迷惑かけちゃうかもって。


 でもこのままいけば半年もたたずに卒業する。なんなら生徒会も体育祭で代替わりする。会長じゃなくなれば会うことも少なくなるだろう。



 そう考えると胸がズキズキして、とても寂しくなってくる。会えないのは嫌だ。ずっと同じ場所にいたい。柊さんにもたくさん愛してほしい。ふたりでご飯食べて、お風呂に入って、同じベッドで寝たい。


 考えれば考えるほどやりたいことが増えてくる。憧れに留めておくつもりだった感情は、この数ヶ月で我慢できない想いに昇華していた。




(わたし…は……)




「なにしてるんですか?」


「はい!?」


 唐突に声をかけられ、ビックリして思わず変な声で返事をしてしまう。目の前には心配そうな顔をした柊会長が立っていた。


「どうしました?具合でも……」


 好きな顔を見て、好きな声を聞いて、好きな人がそこにいて、我慢できなくなって、



「好きです」



愛を告げた。



「……知ってますよ」



 柊会長はいつものようにあしらった。いつもはこれでよかったのに、今日は我慢できなくて、そのまま抱きついてしまう。


「ほんとに…好きなんです……」


「……分かってます」



 柊会長の細い指がわたしの髪を梳かしながら頭を撫でてくれる。とても安心する。やっぱりわたしは柊さんのことが…………



「あのさぁふたりとも」



 幸せな時間はそう長くは続かないようで、完全に呆れられている声で話しかけられた。


「やるなら中でやった方がいいよ?」


 そこにいたのは桜木先輩で、なんなら生徒会室の扉から瞳ちゃんと榊先輩も覗き込んでいた。


「もう!邪魔したら駄目だよ桜木さん!」


「そうです!良いところだったのに!」


「私が悪いのこれ!?」


「ち、ちが………」


 一部始終を見られていたのに気づいた柊会長は一気に顔を真っ赤にし、恥ずかしさを声にのせて叫んだ。



「絶対に!!!違いますから!!!!!」



 過去一大きな声にその場で聞いていた全員に、しばらくネタにされていじられ続けるのだった。

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