第27話 くだらない日常

「ただいま」


「あ、おっかえりー」


 秋になり、少しずつ肌寒くなってきた頃。家に帰ると栞が誰かと通話しながらあるものを見ていた。


「紗奈ちゃん帰ってきたからまた後でね~」


 私に気を遣ってか通話をやめ、夕飯の支度に取りかかる栞。流石に申し訳なくなって謝る。


「なんかごめんね」


「いいのいいの。どうせ明日会うからさ」


 テーブルに目をやるとそこに置いてあったのは高校のアルバムだった。


「……見てもいい?」


「いいよ~」


 栞に許可をもらってアルバムを開く。写真に写りたがりな栞は至るところで見切れていた。


「写りすぎじゃない?」


「たまたまですぅ」


 その後もページをめくっていくと体育祭のページにたどり着いた。主に競技の写真なのだがその中に一枚だけ栞が大きく写っている写真があった。


「あんなに嫌がってたのに似合ってるじゃん」


「へ?……あ!!見たな!?」


 その写真を見られた栞はドタバタと台所での作業を中止し、アルバムを取り上げようとしてきた。


「返して!やだ恥ずかしい!」


「いやでーす。返しませーん」


 ソファの上でアルバムを取り合う。栞はずっと私に見せたがらなかった姿を不意に見られて相当恥ずかしいようだ。


「似合ってるって……かっこいいよ」


「紗奈ちゃんに言われても説得力ないよ!」


「はいはい」


 その後も一進一退の攻防は続き、栞は最終奥義を使うのだった。


「かくなるうえは……こちょこちょだぁ!」


「へ!?あ、ちょw危ないからwwやめw」


「ほらほらほら!ギブアップかなぁ!」


「もおwwくすぐりはwww」


「脇腹よわよわなんだから諦めな!」


 耐えられなくなった私はアルバムから手を離し、その隙をついた栞に奪われてしまうのだった。


「わたしの勝ち!」


「ずるじゃん………ほんとに…」


「勝てばいいんです~」



 アルバムを片付け、夕飯の支度に戻ろうとする栞を見て、くすぐりでスイッチが入っちゃった私は後ろから抱きついた。



「わっ!?やめ……やめてww」


「栞も弱いくせに~」


 逃げようとする栞を捕まえておもいっきりくすぐる。


「こらwご飯作れないからww」


「やめなーい」


「……ッ…そっちがその気ならぁ!!」



 私達はしばらくお互いにくすぐり合い、終わる頃にはふたりしてソファの上でぐったりとしていた。



「学生でもないのになにしてんだか……」


「栞がやり返してくるのが悪いんだよ……」


 そう話しつつ、疲れ果てて動けなくなってる栞の脇腹をつつく。


「つつかないの、もうやんないよ」


「…………」


「だからつつかないでって……」


「………………」


「ッ…なぞるのもダメ………あ、そこは……」




 ぐぅぅぅぅぅ………



 栞の体で遊んでいると大きなお腹の音がなり、その音を聞いたとたんに一気に現実に引き戻され、ふたりで顔を見合わせて笑ってしまった。


「はいおしまいwご飯暖めとくからお風呂入ってきなw」


「はーい」



 こんなくだらない事を出来る今の幸せを噛み締めながらお風呂に向かうのだった。

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