第26話 新メンバー来る

 体育祭。


 基本的には文化祭と同じで生徒会主体で運営が行われる。学校の方針が生徒の自主性を尊重するだとかいっているからだ。おかげさまで文化祭ではあんな事件も起こった。


 しかし、今回ばかりは生徒会だけではなんとかならない。柊会長と他の3年生がバチバチで、険悪なムードが更に増しているのだ。やる気がないのに仕事をされても最悪怪我をしたりするかもしれない。というわけで急遽新しい委員会が用意されました。



「本当によかったの?入っちゃうとチアとか出来なくなるけど…」


「大丈夫大丈夫。こういうのやってみたかったしさ」


 体育祭の練習が本格的に始まる前の週。体育祭実行委員の設立を発表するとその日の放課後に桜木先輩が飛んできました。


「なによりチアとか私には似合わないよ」


「いやいや絶対似合いますよ~わたし見てみたかったな~」


「…………」


 生徒会室にいるのは柊会長とわたしと桜木先輩。瞳ちゃんはお仕事で先生の元へ。他のメンバーは当然のようにいません。


 そして……


「……えっと、あなたも委員会に入ってくれるってことでいいんですか?」


「はい。長門咲希ながとさきです。お願いします」


 桜木先輩の隣をピッタリとマークし、離れようとしない清楚美人がいた。


「ほら咲希ちゃん。もうちょい笑いなよ」


「いえ、仕事の付き合いですので」



 キリッとした目に長い黒髪のポニーテール。シュッとしててカッコいい。身長は桜木先輩より少し低いくらいで柊会長と同じくらい。リボンはわたしたちの誰とも違う色。つまりは2年生だ。



 …………ちょっと好き



「……ふたりともありがとうございます。仕事については来週から任せると思いますので、その時はお願いします」


 柊会長は真面目な口調でふたりに感謝すると、生徒会室から出ていくように促した。のだが


「……どこ座っていい?」


「いや帰ってください」


「じゃあ早川ちゃんのとーなりー!」


「だからぁ!!」


 桜木先輩は楽しそうにわたしの隣に座った。


「一応そこは他のメンバーの席だから……」


「え?来てないからよくね?しかもここアイツの席でしょ?なら大丈夫大丈夫友達だから!」


 アイツ……というのは文化祭の時に柊会長に内緒で桜木先輩のクラスの出し物に許可を出した3年生だ。柊会長にめちゃくちゃ怒られてから一度も姿を見せていない。


「だとしても!他の席用意するから!とりあえずどいて!」


「え~ケチ~」


「あの」


 ふたりがイチャついているのに割り込むように長門先輩が柊会長を睨み付けた。


「このくらい良いじゃないですか。会長は固すぎます。そんなことだから人手が足りなくて委員会を作ったんですよね」


「………何が言いたいんですか」


「別に。ただ会長って噂通りの頑固者なんだって分かっただけです。折角深雪先輩が協力してあげようって言っているのにそんな態度をとるなんて……信じられません」


「言っときますけどね。私は正しいことを言っているつもりです。だいたい生徒会たるもの厳しいくらいが丁度良いんです。それを固いだの間違ってるだのと……」


「間違ってるとか言ってませんけど?あ、誰かに言われたことがあるんですか?すいません気を遣えなくて。私は間違ってるとかは思ってませんよ。真面目すぎてもよくないとは思いますけどね」


「…………なんですか貴女」


「…………これからの仕事仲間ですよ会長」


 まさに一触即発。「なんでこんな人を連れてきたんだ桜木先輩は!」と心の中で叫んでいると、黙ってみていた桜木先輩はようやく仲裁を始めた。


「はいはいそこまで。なんで柊にそこまで怒ってんの?」


「だって………」


「桜木さん。その子は部活の後輩なんでしょ?しっかりしてください」


「いや普段はこんなんじゃないんだけど…柊が嫌なら入るのやめとけば?」


「深雪先輩が辞めるのならば辞めます」


「え、辞めない」


「なら辞めません」


 これまためんどくさそうな人が増えたなと思いつつも、こっそり柊会長の方に近づき、後ろに隠れた。


「ほら早川ちゃんビビらせちゃったじゃん…落ち着きな?おっぱい揉む?」


「揉みます」



「「え?」」



 すごい発言が飛び出したかと思えば、当たり前かのように長門先輩は桜木先輩の胸に顔を埋めて揉み出した。その光景にわたしたちふたりは思考が追い付かずにいた。


「えっと………なに…してるの?」


「ん?いやルーティーン的な?こうすると安心するんだって。ね?」


「ふぁい。そぅでふ」


 さっきまで発されていた怒りオーラはいつの間にか幸せオーラに変わっていた。


 というかあの目と手つきは……



「まぁ今日のとこは帰るよ。明日には席用意しといてね~」


「あ、うん……分かった…」



 唐突に意味の分からない展開を見せつけられたわたしたちはふたりが生徒会室から出ていくまで固まったままだった。


 そしてふたりが出ていった後、流石に柊会長も気づいたことがあるようで……


「あの…早川さん。あの子って………」


「……多分。あんまり決めつけるのはよくないですけど、そうでしょうね」



 だけどそういうことにするなら辻褄が合うことが多い。柊会長に喧嘩を売った理由も、委員会に入った理由も。そして胸にうずくまっているときの恍惚としたあの表情も。


「桜木先輩は気づいてないでしょうね。気づいててあんなことしてるならスゴいですけど」



「………体育祭も大変そう」


「…………みんなで頑張りましょう」



 まだ練習も始まってもいないのに疲労がたまったわたしたちは、これから幾度となく起こるであろう事件を想像しながら頭を抱えるのだった。

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