第25話 熱に浮かされて
熱い。
思考がまとまらない。
体もいうことをきかない。
もしかして死ぬのかな。
やだな。
まだやりたいこといっぱいあったのにな。
しおり………
「紗奈!!!大丈夫!!?」
朦朧とする意識の中、寝室の扉を勢いよく明けて栞が入ってきた。
「はいこれ!飲んで!無理してでも飲んで!」
栞は私の体を起こすと、手に持っていたコンビニの袋からスポーツドリンクを取り出し飲ませてくれる。
「ゆっくりでいいから……こういう時こそちゃんと飲まないとダメだからね…」
「ん……っ………」
「明日は寝てるんだよ……わたしも午後は休みもらってきたから…」
今にも泣きそうになっている栞の顔。それでも私の為にと色んなことをしてくれている。
「汗やば…タオルと着替え持ってくる」
その後、タオルで体中を念入りに拭かれ、違う寝間着に着替えさせられた。一通りの流れが終わった後でも栞は私の隣から離れようとしなかった。
「だめだよ……うつっちゃう…」
「でも……でも!」
「しおりにうつしたら………わたしがいやだから……おねがい…」
「……分かった。じゃあせめてお粥作ってくる!」
納得してくれた栞はすぐに部屋から出て、リビングでバタバタとお粥を作ってきてくれた。
「良い感じに冷ましてはあるけど、気を付けてね?」
「ぅん…ありがと……」
お粥を手渡した栞はそのまま不安そうに寝室から出ていった。私だって本当はずっと隣にいてほしい。ひとりだととても寂しい。でも栞にうつしてしまってはよくない。
作ってくれたお粥を食べ、薬を飲む。そのおかげかしばらくすると熱も下がってきたような感じがして、私はすぐに眠りについた。
「……うん。熱も下がってる」
その翌日。栞が仕事から帰ってきたタイミングでちょうど目を覚ました。半日寝たことでどうやら体調も回復したようだ。
「ありがと…」
「どういたしまして…ぷふっw」
ふたりで互いを見つめあっていると突然栞が笑いだした。
「なに急に……」
「ごめんw………でも思い出しちゃってさ」
「……何を?」
栞は一瞬ムッとした顔をしたがすぐに柔らかくなり、私の手を握りながら囁いてきた。
「先輩って意外と甘えんぼですよね」
「へ?」
「文化祭の時もそうでしたし、すぐわたしを勘違いさせようとしてきます」
「なにを……」
敬語になり、3年前のような口調になる栞。そしてどこかで聞いたことのあるセリフを発している。
「………柊先輩。大好きです」
そう告げられた私は一瞬戸惑ったが、自然と言葉が出てきた。
「…ありがと。いつも私の側にいてくれて」
「私も………大好きだよ」
伝えるべき言葉を伝えた私は安心しきったのかまた深い眠りについたのだった。
「ほんとズルいなぁ…………」
スヤスヤと眠っている紗奈の寝顔を見ながらそう呟く。まさかこうしてあの日の続きが聞けるとは思わなくてドキドキしっぱなしだ。
「お粥でも作りますかぁ」
疲れきった紗奈がいつ起きてもいいように、わたしは台所に向かい、買ってきた食材で美味しいお粥を作り始めるのだった。
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