第23話 夢見た女達の甘い夜

「はぁ…………」


 8月の中頃。

 ご飯も食べ、お風呂にも入って、後は寝るだけ……というタイミングで桜木さんかメッセージが届いた。


『どうしようどうすればいい?』


 というのも今日は初デートとのことらしい。それで私達4人のグループにずっとメッセージが送られてきていた。基本的には榊さんが返してあげていて、私ともう1人はただ傍観していた。


『私がリードするべきなのかな?』


             『知らないよ』


『がんばれ!』



 もういい時間だ。それなのにこういう話題ということはそういうことだろう。流石の榊さんも具体的なアドバイスは出来なかったようだ。


「なーに見てるの」


 その後も桜木さんからの焦ったメッセージに目を通しているとお風呂上がりの栞が後ろから覗き込んできた。


「桜木さんがね、緊張してるんだって」


「緊張?」


「そ。今日が初デートで、そういう感じなんだって」


「初デートでそうなるとは……よっぽど好きなんだねぇ」


「まぁ5年も待てたんだからね」


「………………えいっ」


 桜木さんに返事をしようとしていると栞からスマホを取り上げられた。


「なにするの」


「なんとなく。なんかそんな話してたらわたし達の時を思い出しちゃってさ」


 ソファに座ってる私を後ろからハグし、最初は首の辺りにあった手が少しずつ下の方へと進んでいく。


「………シたくなってきちゃった」


「もぅ……」



 お風呂上がりのふわふわな香りに私も耐えられず、桜木さんの話なんて忘れてしまうのだった。








「うーーーーーん……」


 勝負寸前の深雪からのメッセージ。なんとかアドバイスしてあげたいけどこればっかりはわたしにはどうしようもない。


「うーーーーーーん……」


 紗奈も既読すらつかなくなったし、わたしがなんとかしてあげるしかないんだけど……


「……なに見てんの」


 ベッドの上で悶々と悩んでいるとシャワールームから出てきた彩里あかりが少し怒った声色で尋ねてきた。


「深雪がね。どう勝負したらいいか分かんないんだって」


「くだらな……」


 彩里も自身のスマホを確認すると手早く返事をした。



『勝手にやってろバカ』



「ひどい!なんてこと言うの!」


「うるさい。アイツにはこれくらいが丁度いいんだよ」


 そのままスマホを鞄に直し、わたしのスマホも取り上げられた。


「……あたしだけ見ててよ」


「え?見てるよ?」


「…………チッ」


 悔しそうに舌打ちしながらもわたしの膝の上に乗っかってくる。


「…………ん」


「はーい」


 彩里は同年代に比べれば小柄で華奢な体つきをしている。少しでも力を入れたら脆く折れてしまいそうなほどに。

 そんな彩里の体を丁寧に抱き締め、わざわざ着ていたバスローブを脱がせる。


「…………今日は…激しくてもいいから…」


「ホントに?」


「うるさい…こういう時だけ気遣うな……」


「……分かった」


 デート中にわたしが散々スマホを見ていたせいか彩里は普段よりもツンツンしていた。そんな彩里をほぐすかのようにわたしは沢山の愛を彩里に注いであげたのだった。










「もはや既読がつかない…………!」


 彩里からの辛辣な返事以降、私のメッセージに既読すらつかなくなってしまった。


「どうしよう……とりあえずネットで調べて…」


「さっきから何してたんですか?」


「ひょ!?」


 まだお風呂から上がってきてないと思っていたがいつの間にか裸で後ろに立っていた。


「いや!?別に…てか服着なよ!!ほらあったじゃん!」


「今から脱ぐのにですか?」


「ぇ……いやだって…」


 いつもより咲希の目が怖い。なんだか獲物を前にした肉食獣みたいな……


「どうせ先輩達ですよね。分かってます。デート中もやりとりしてましたもんね」


「あはは…………すいません」


 バレてないと思っていたがそんなことはなかったらしい。


「……とりあえずスマホは没収しますね」


「え、ちょっ………ッ!?」


 スマホを取り上げられるついでに私はベッドに押し倒されてしまった。


「緊張してましたよね…今日ずっと……だから先輩達に助けを求めてたんですよね…」


「………だって咲希がなんだか慣れてたから…私がカッコ悪いとこ見せられないかなって」


「はぁ…………もういいです」


「ちょまって!?まだお風呂入ってない!」


 怒った様子の咲希に服を強引に脱がされようとする。なんとか抵抗していると咲希は涙目になっていた。


「………スマホばっかり見てるからですよ」


「………え?」


「私だって……緊張して…ずっと不安で……楽しくないのかなって……」


「……ごめん」


 咲希の言う通りだ。私が見るべきは隣にずっといた咲希だったというのに……勝手に勘違いして自分の彼女を不安にさせていた。


「ごめん私は……」


「だからいいです。もう怒りました」


「ぇ……いや…ごめ――」


「徹底的に分からせます」


「…………はい?」


 涙目になっていた咲希は不敵に笑っており、明らかにヤバい目をしていた。


「いいですよね。もう私の彼女ですもんね」


「そうだけど……え?」


「深雪先輩が悪いんですよ。折角の初デートなのに私のこと見てくれないから。だから分からせてあげないといけないんです。先輩達より私を見てくれるように、いっぱいの愛を教えてあげます」


「あの……出来るだけ…優しくしてね?」


「もちろんです」



 いつもより強引な咲希の言動に私は驚きつつも、心のどこかで興奮してしまっていた。私にしか見せない顔なのだと。彼女である私だけの特権なのだと。





 その後、冷静になった咲希に目茶苦茶謝られ、私も今日の行いを全力で謝った。そしてもう一回戦をして、初デートは幕を閉じたのだった。

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