第20話 わたしたちの場所
夏休み。
起きなくてもいい朝を起き、制服に着替え、いつもの電車に乗る。照りつける日差しに不満を感じながらもこれからの幸福に心を踊らせる。
高校の周りは運動部が走っている。その中にはマッキーもいて、わたしに気付くと手を振ってくれた。マッキーに手を振り返しながら校門を通り、誰もいない校内へと入る。なんだか少し悪いことをしてるみたいでドキドキする。
そのまま階段を上り、廊下を歩き、お目当ての場所にたどり着く。期待に胸を膨らませて扉を開き、中にはいる
「くぅ~~~~涼しいぃ~~」
中は冷房が効いており、火照った体に染み渡るようだった。
「……おはようございます」
いつもの席に座っているわたしの好きな人が声をかけてくれる。
「おはようございます!」
わたしはそれに元気良く答え、いつもの席に座る。鞄を開け、夏休みの課題を取り出し、早速取りかかる。なるべく彼女の邪魔はしないように、あくまでもこの快適な空間を利用しているだけなのだと。
そのままふたりとも淡々と課題に向き合っていた。疲れる度に横をチラ見して大好き成分を補給する。完璧な作戦だ。
夏休みに学校にくるのも悪くない。誰にも邪魔されない。この時間があと1ヶ月もあると思うと幸せすぎてどうにかなりそうだ。
なりそうだったんだけど………
「失礼しま…って涼し!?え!?クーラー使いたい放題!?」
突然生徒会室の扉が開かれ、テンションの高い人がズカズカと入ってきた。
「ちょっと桜木さん。一応許可は取ってもらわないと」
「あ、ごめん。入ってもいい?」
「……いいですよ」
「ありがと」
その人……桜木先輩はクーラーの下に陣取ると、全身で冷気を浴びていた。
「ズルいことしてるねぇ…」
桜木先輩はわたしや柊会長の手元を見ながらそう呟いた。
「有効活用と言って。校則にのってないからいいのよ」
「お、意外とそういうとこあるんだね~」
柊会長は普段の敬語をやめ、とても楽しそうに会話をしていた。わたしの知らない所で仲良くなっていたらしい。
「私も有効活用させてもらおっかな~」
「どうぞご自由に」
柊会長のその言葉にわたしは少しムッとしてしまった。ちょっとくらいわたしとふたりきりなのを楽しんでると思ってたのに、そんな即答するなんて…
「……じゃあ早川ちゃんの隣に失礼!」
「え……それはちょっ…」
動揺する柊会長を無視してわたしの隣に座った桜木先輩。そしてニヤニヤしながら小声で話しかけてきた。
「………嫉妬させちゃお」
「………一生ついていきます」
すぐに意気投合したわたし達はすぐに作戦を開始した。ペンを持ち、課題を再開する。そこでわざとらしく質問をする。
「ここなんですけどーむずかしくてー」
「どれどれ~。えっとそれはね~」
「………っ…んん~~」
わたし達の距離の近さに声にならない声をあげながら悶えている柊会長。めっちゃかわいい。
それにしても……
「ついでに教えてあげる。これはね~……」
桜木先輩は見た目どおりのギャルだと思っていたのだけど、どうやら勉強は出来るらしい。だがしかし距離感そのものは見た目どおり。なんだか爽やかな匂いがするし、わたしよりおっきい。自信あったんだけどな。
「コホッ……コホン!」
完全に蚊帳の外にされていた柊会長はいつの間にかわたし達の後ろに立って話に割り込んできた。
「流石に近すぎ……てか今更だけど桜木さんはなんで学校にいるのよ」
「後輩の様子を見にね。んで、昼休憩に入ったから暇潰しに来てみたら見事にアンタらが居たってわけ」
基本的に今の時期は3年生は引退している部活がほとんどだ。桜木先輩の部活も例外ではなかったらしい。
「そういえば何部だったんですか?」
「テニスだよテニス。まぁお遊びみたいなもんだったけどね」
テニス……ちょっと痛そう…
「……こらっ。失礼なこと考えてたでしょ」
「すいません…」
ジロジロ見すぎたのか普通に怒られてしまった。
「慣れてるけどさ……まぁ早川ちゃんならいいよ。なんなら揉んでみる?」
「え……じゃあお言葉に甘えて…」
「ダメです!!」
桜木先輩の甘い誘惑にのろうとすると流石に耐えられなくなったのか、わたし達の間に無理矢理割り込んできた。
「ダメ!絶対に!」
「えぇ~?女の子同士だし私はいいよ~?」
「そういう問題じゃない!というか出てって!やっぱり部外者はダメ!」
「さっきと言ってること違いすぎるでしょw」
「いいから!ここは私達だけの場所なの!」
「………だ、そうだよ早川ちゃん」
「らしいですねぇ……」
「え、なに……なんでふたり揃ってそんな変な顔してるの…ねぇ何?何かおかしなこと言った?」
柊会長が勢いのままに放った恥ずかしい台詞をわたし達は聞き逃さず、ふたりでニマニマしていた。
「じゃあ私はお邪魔みたいですし?部活に戻ろうかなw」
「お疲れ様で~すw」
「ねぇ待って!教えて!ちょっと!」
そんな彼女の悲痛な叫びは聞き入れてもらえず、桜木先輩は足早に生徒会室を出ていった。
その後、わたしもしばらく問いただされたが、その度に思い出してずっとニマニマしていた。
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