第17話 好かれている幸福
「ねぇ柊…いや紗奈。聞きたいことがあるの」
「なに急に」
昼休み。栞に作ってもらったお弁当を食べようとしていると、桜木さんが神妙な面持ちで話しかけてきた。
「あのさ……紗奈と早川ちゃんってそういう関係なんだよね?」
「そうだけど……」
「………はじめての時ってどうしたの?」
「ブッ!!?」
どうせ惚気話だろうと悠長に牛乳パックを飲んでいたらとんでもない質問をされた。
「ケホッ……なに………びっくりしたなぁ…」
「ごめん……でも大事なことなの!」
「分かった……分かったからとりあえず外で話そ?ね?」
授業が終わった教室には私達の他にも人がいる。桜木さんのとんでもない発言のせいで注目を集めている。
「で?ついにOKしてあげたの?」
場所を変え、外のベンチに腰かけて話を再開する。私の質問に桜木さんは照れながら首を横に振った。
「まだ……応えてはあげられてないけど…」
「だったら先の話じゃん」
「違うのよ……ほらあの子ってさ?私に夢見てる節があるじゃん?」
「……そうだね」
「だからさ?そういう場面になった時に下手だったらさ?幻滅されないかなって考えたら…」
「…………結局惚気話か」
弁当を口に運びながら聞き流す。そう思うんだったら完全に好きじゃん。はやく応えてあげなよ。そしてとっととホテルにでも行けばいい。
「………私達のはじめての時もそんな大したもんじゃなかったよ」
本心では呆れつつも、一応友達なので返答はする。といっても本当に語るような話はない。
「でも大事な話なの!女の子同士ってどうすればいい~とか!あるでしょテクニックとか!」
「うるさい大声で変なこと言わないで」
外とはいえ、そこそこ人通りもある。こんな馬鹿みたいな会話聞かれたら困る。
「で!どうなの!!」
「分かんないよ…………私じゃないし…」
「え?……あ…そりゃそっか……早川ちゃんの方か……」
「なんでこんな辱しめを……」
「じゃあさ!早川ちゃんの連絡先ちょうだい!」
「は?絶対にイヤ」
「なんでよ~いいじゃ~ん」
「桜木さんだってあの子の連絡先ちょうだいって言われたらイヤでしょ?」
桜木さんは「そんなこと…」と言いかけて口をつぐんだ。自分の想いに気付きつつある桜木さんは顔を赤くしながらモジモジし始めた。
「……いいのかな。私なんかで」
「いいんじゃない?ダメだったら別れれば―
「別れたくない!!」
私の雑な返しに桜木さんは声をあらげた。その様子に呆れつつも私は更に返した。
「………だからって応えてあげないの?」
「だって………」
あまりにらしくない悩みをしている桜木さんにそろそろイライラしてきた。
「いつまでも自分の事を好きでいてもらえるなんて甘いこと言わないのよ」
「……あの子だってかわいいし、お淑やかでさ、男の人からも人気はあるでしょうね」
「…………」
「どっちがイヤか考えることね。嫌われるのと、他の誰かに盗られるの」
「………………」
完全に黙ってしまった桜木さんを放置して、手をつけていなかったお弁当を食べ始める。
「……冷めててもおいしい」
本気で悩んでいる桜木さんに、私が今幸せであることを見せつけたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます