第16話 深まったふたりの日常
色々な事があった文化祭。柊会長との距離もぐんと縮まったような気がしたその翌週の火曜日…わたしは頭を悩ませていた。
「むー………」
目の前には山積みの教科書。そして沢山のプリント。どれから手をつけたらいいのか分からない。
「なにしてんのさ栞」
ひとりでにらめっこしているとマッキーが声をかけてくれた。
「今度また赤点とったら…生徒会はやめろってお母さんが…」
「うわ厳しい……1個でも?」
「いや……3個までは許してくれるって…」
「前言撤回。甘すぎるわ」
呆れた、といった表情でマッキーはどこかへ行ってしまう。
「どこ行くの!!教えてくれないの!?」
「ごめんけど部活行かなくちゃ」
「そんなぁ……」
マッキーは荷物をまとめ、そのまま体育館の方へと歩いていった。
「ぐぬぬ………あ、そっか」
マッキーの言葉を聞いてようやく思い付いた。私には頼れる友達と先輩がいるではないか。
思い立ったが吉日。すぐに教科書達を片付け生徒会室へ急ぐ。瞳ちゃんは分からないけど会長はいるはず!と信じて。
案の定生徒会室の扉の前には「在中」と書かれた板がぶら下がっていた。何もない日にいる人なんて会長しかいない!そう思って勢いよく開ける。
「失礼します!」
「ん?あーごめん今は柊いなくて……」
中には柊会長ではなく、見知らぬ生徒がいた。いや見知らぬというのは嘘になる。柊会長と喧嘩してた実行委員の人だ。
「なにしてるんですか」
「へ?あ、君は生徒会?1年生ってことは…もしかして早川さん?」
「そう……ですが…」
どうしてわたしの名前を知っているのか。そう聞こうとするより前にその人は頭を下げてきた。
「ほんっとにごめん!!」
「………はい?」
その謝罪にわたしは身に覚えがない。なんなら柊会長に謝って欲しいくらいだ。
「文化祭……迷惑かけたって聞いた…あなたに怖い思いをさせちゃったって」
「あー……その話ですか」
「だからごめん!!柊の言うこと私が聞かなかったから……聞いてたらあんな事起こらなかっただろうに…」
実行委員の人はとっても反省してるようだったし、わたしにしてみれば柊会長からおでこキッスを貰えたから問題はない。だからわたしは彼女に頭をあげるように促し、精一杯の笑顔で微笑む。
「わたしは大丈夫です。先輩達が無事で……本当に良かったです」
「…………ありがとぉ!!」
「ちょわ!?」
彼女は泣いて感謝しながらわたしに抱きついてきた。力強いそのハグに抜けられそうにない。
「ありがと…ほんっっとに……」
「分かりましたから……!あの……離して……!!」
柊会長とは違ってものすごい女性らしい胸部が押し付けられる。こんなとこ柊会長に見られたりしたら………
「………ふーん」
背後からいつもより低い声が聞こえてくる。
「あ、おかえり……なんでそんな顔してるの?」
「別に?」
明らかに怒っているその声色にビビりまくって振り返ることが出来ない。
「私帰るね。いいよしばらく居ても」
「いや怒ってんじゃん。なんで急に」
「だから別に怒ってないし…」
「絶対怒ってるって。ねぇ早川さ………ぁ」
抱き締められながらしおらしくなったわたしを見て、やっと怒ってる原因を察知した彼女はわたしからすぐに離れ、鞄を持って逃げの体制に入った。
「ごーーめん!私が帰るね!!お邪魔しました!!!また今度!!」
そう言い残すと、とてつもない速度で生徒会室から逃げた。取り残されたわたしと既に会長席に座っていた柊会長はお互いに目を合わせない。合わせられない。
しばらく沈黙が続くと、柊会長から切り出された。
「………怒ってないから」
「……そうですよね?」
「別に……早川さんが誰とハグしてようと関係ないし」
「………そう…ですよね?」
「別に………桜木さんの方が大きいからって…心配してないし…」
「そう……え?心配?」
明らかに口を滑らせた柊会長は一気に赤面し、机にうつ伏せになった。
「だから違うの……そんなんじゃ………」
「え?もしかして嫉妬してくれてたんですか…?」
「ちがうってば……ちがうの…」
本人からしても予想外の感情だったようで、うつ伏せになりながら足をバタバタさせていた。普段のカッコいい姿から想像も出来ないほどのかわいらしさに今すぐ抱きつきたくなる。
「抱きついていいですか?」
「ダメ!!ホントに今はダメ!!!」
その後もめちゃくちゃかわいい柊会長を弄り続けたのだったが……勉強を教えて貰う約束を取り付けるのを忘れていたのだった。
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