彩られていく恋の形

第15話 私の普通の日常

 懐かしい母校の文化祭に赴き、栞とのデートを楽しんだその翌週。私は悩んでいた。


「んー………」


 目の前には山積みの問題集。どれから手をつけたものかと、大学の図書室でにらみあっていると、突然後ろから肩をつつかれた。


「なんです……」ムニッ


「……ひっかかった」


 後ろを振り向こうとするとちょうど頬の辺りに指が置いてあり、グリグリと押し付けられる。


「………なに…邪魔しにきたの?」


「いや?堅苦しい顔してるからついさ」


 その女性はそのまま私の隣に座り、同じように問題集を取り出した。それに乗じて私もとりあえず一番上に置いていた問題集を開く。


「珍しいね。図書室で勉強なんて」


 女性は問題集を開きながら私に尋ねてきた。


「……仕方ないの。家だと栞が寂しそうな目で見てくるんだもん」


「私といちゃつけ~って?」


「………まぁそんなとこ」


「熱々だねぇ」


 一通り世間話も済ませ、後はひたすらに問題と向き合う。今度のテストは頑張らなきゃいけない。もう3年生なのだ。今更単位なんて落としてられない。



 しばらくふたりで集中していると、後ろからパタパタとこちらに歩いてくる音が聞こえてきた。それを聞いた隣の女性は問題集を片付けだし、帰る支度を始める。


深雪みゆき先輩。授業終わりました」


「ん。お疲れ。じゃあ帰ろっか」


 クールな見た目の女性から声をかけられ、楽しそうに席を立つ。その帰り間際、隣の女性から耳元で囁かれる。


「大変なのは分かるけど…早川ちゃんをかまってあげなよ?」


「分かってるってば……」


「ならいいけど」


 少しニヤニヤしながら図書室を後にする女性。ふと隣の席を見ると机の上におもいっきりスマホを忘れていた。「仕方ない」と私も荷物を片付け、図書室を出て追いかける。




「桜木さん」


「ん?どうした?」


「これ。忘れてる」


「うわマジか……助かったよ柊」



 スマホを手渡し、「また明日ね」と告げて桜さん達とは反対の方向に帰ろうとすると、桜木さんの隣の女性がいつの間にか私の前に回り込んでいた。



「……深雪先輩は私のですから」


「だから……そういうのじゃないって」


「なにしてんの帰るよ咲希」


「あ、はい。今行きます」


 毎度毎度私に絡んでくるあの子にもそろそろ慣れてきた。にしてもすごい。まさか好きな人を追って同じ大学にくるなんて……


「…………はやく帰ろ」


 ちょっと羨ましいとも思ってしまうが、栞も栞でやりたいことがあるのだと理解している。なので深く言及するつもりもない。というか私が追ってくる事をやめさせたんだから。


「貴女もいい加減向き合いなさいよ~」


 桜木さんが遠くにいったのを見計らって呟く。私が言えた義理ではないが、そんな私だからこそ言えるものもあるってもんだ。



 その日はそのまま家に帰り、しばらく早めに帰らなかったお詫びに、栞の大好きなケーキを買ってあげて、ご機嫌をとるのであった。

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