第14話 憧れてる貴女に。
「受付ってこんなに疲れるんだねぇ……」
「そうだね…人も多いし…」
お昼頃。わたし達生徒会の1年生が受付をする時間が終わり、ふたりで溜め息をつきながら歩いていた。
わたしの隣を歩いているのは同じ生徒会メンバーの
のんびり歩き回っていると持たされていたトランシーバーから声が聞こえてくる。
『お疲れ様です。1年生のふたりはこれから先は自由時間とします。楽しんでください』
「はい!!」
聞こえてきたのは柊会長の声。遠くにいても話せるというのが嬉しくて元気よく返事をした。
わたしがニコニコしていると大野ちゃんが不思議そうに尋ねてきた。
「早川さんは……柊会長が怖くないんですか?」
「全然?むしろカッコよくない?」
「それは…そうですけど」
とはいっても大野ちゃんの言いたいことくらい分かる。確かに柊会長は怖いし、厳しい人だけどそれはあの人なりの想いがあるわけで……
「マジでチョロいよなw」
「……ん?」
「どうしたの早川さん?」
とあるクラスの前を通りかかった時、ちょうどそのクラスの店から出てきた男の人ふたりの話が耳に入った。
「いや……なんか…」
男の人達はスマホを見ながら悪そうな顔をしている。ものすごく気になる。そして出てきたクラスはカフェを模した店………中には会長と喧嘩していた実行委員の人がいた。
「……ごめん大野ちゃん。声かけてくる」
「え、え?」
事態が飲み込めない大野ちゃんをその場に置いて男の人達に声をかけようとする。明らかに遊んでいそうな雰囲気。こわい。もし違ったら。なんて考えが頭をよぎる。だけど……
『……生徒を守るためです』
柊会長の言葉を思い出す。そうだ。わたしは生徒会なんだ。違ったら謝ればいい。それでいいじゃないか。
「あのーすいません……」
「ん?なんすか?」
「いえその……スマホを少し貸してもらってもいいですか……?」
「……なんでっすか?」
ふたりの男は少し圧を出しながらわたしに迫ってきた。
こわい。
こわいこわいこわい。
「えっと……お店での…写真撮影は禁止してて…その………」
うまく言葉が出てこない。こわくて、恥ずかしくて、泣きたくなる。
「いやいや撮ってないっすよwなぁ?」
「そうそうwてかキミもかわいいね。どう?この後は暇?」
「いえ……仕事が…」
「あ、生徒会か~。いいじゃん少しくらい。付き合ってくれたらスマホ見せてあげるよ?」
「ぇ……えっと……」
わたしが少し我慢すれば見せてくれる。そうすればみんなを守れる……かも…
「わ…わか………わかり………」
ニヤニヤしてる男達の元に近づこうとする。
すると
「やめなさい」
「へ……」
後ろから腕を引っ張られ、そのままギュッと抱き寄せられる。
「なん……で…」
「私のなんでしょ。勝手な真似はしないで」
抱き締められながら見上げたその顔は、初めてあった日なんかより怒っていて、わたしですら恐怖を覚えるほどだった。
「なんすかそんなに怒って」
「そっちがスマホを見せてくれ~とか言ってきたから見せてあげようとしてただけっすよ?」
「そうですか。では見せてください」
柊会長の引かない姿勢に男達も焦りが出始める。
「……あんたには見せる約束してないし?」
「そうそう。その子を貸してくれるんならその子に見せてあげるよ」
「………だ、そうです近藤先生」
「「は?」」
「すいませんがお預かりしますね」
いつの間にか男達の背後に立っていた近藤先生がスマホを強引に取り上げていた。
「な、なにすんだよ!窃盗だぞ!」
「そうですね。では今から警察を呼びましょうか。文化祭ですのでね。既に学校には呼んであります」
「は……?いやそれは…」
「過去にも似たような事例はありました。確かその時は……スマホを隅々まで調べてもらった結果色んな余罪が出てきたんだったかなぁ」
警察という言葉を聞いた男達が焦りだしたのを近藤先生は見逃さず、少しずつ怒りを露にしていく。
「どうする。このまま付き合ってやってもいいが……残りの人生棒にふりたいか?」
「…………分かりました」
男達は観念したようで、近藤先生に渋々スマホを見せていた。事件が解決したのを確認した柊会長はわたしの手を握ったまま生徒会室へと戻った。
「無茶しすぎです」
「はい………」
「大野さんが私に連絡をくれなかったら今頃どうなっていたことか……」
生徒会室には大野ちゃんもいて、とても気まずそうにしていた。
「ありがと大野ちゃん………」
「いや私は…怖くて……なにも出来なかったから…」
「いいえ大野さん。貴女は正しいことをしたんです。胸を張ってください」
「ありがとうございます……」
「そして早川さん」
「はい……」
まだ柊会長の顔は怒っていた。それだけ危ないことをしたのだ。しばらくは怒られるのだろうと覚悟する。だけど…
「………よく頑張ったね」
「…………はい…」
優しく頭を撫でられ、柔らかい口調で慰めてくれる。予想外の展開に泣きそうになる。
「あなたがいなかったら、恐らくもっと大変なことになってたと思う。桜木さんも責任を感じてしまったかもしれない」
「だから…よく頑張った。えらい。すごい」
「はい…………はぃ……」
「はわわわ………ハッ!?すいません私用事を思い出したので!!失礼しました!!」
わたし達の様子を見ていた大野ちゃんは顔を真っ赤にしてすぐに生徒会室から出ていった。
「………なんか勘違いされてそう」
「……わたしはしてますよ…勘違い…」
「なにその顔」
「…ご褒美待ってる顔です」
柊会長の顔に向かって目をつむり、ちょっと背伸びをする。
「するわけないでしょ」
「でもぉ……頑張ったんですよぉ?」
「だとしてもそれは…」
「『私のなんでしょ。』」
「は……?」
先ほどの騒動で言われたあの言葉をわたしが聞き逃すわけがない。だからおもいっきり茶化す。
「柊さんのですよ……だからいいんですよ…キスくらい…練習です練習……」
「あのねぇ……」
なるべく分かりやすくボケる。今の優しい柊会長も好きだけど、ツンツンしてる方がわたしにとっても諦めがつきやすいから。
デコピンでもしてくれ~と顔を近づける。
「……頑張ったもんね」
「はい……頑張りました」
「………いるよね。ご褒美」
「はい………いりま……へ?」
ちゅ。
「ほ……ぇ…?」
「…………はい終わり」
「へ………ぃや…え……へ?」
「……おでこで我慢してよ」
おでこに待ち望んでいた感覚とは違う、柔らかい感触が伝わってきて、頭がどうにかなりそうになる。
「………ズルいです」
「あなたが欲しいって言うから……」
「だとしても……こんなの…」
誰もいない生徒会室でお互いに顔を真っ赤にし、俯く。そして……
「あの……」
「なに……」
「いい……ですか…?」
柊会長の首に腕を回し、お願いする。何をしたいのかは柊会長も分かっているようで、首を横にふった。
「ダメです…絶対にダメ」
「………我慢出来ません」
「ゃちょっ……!!」
ガタンッ!!「アイタッ!!」
「「え?」」
今まさにふたりの唇が触れ合おうというところで扉が開き、女子生徒が倒れてきた。
「…………何してるんですか大野さん…」
「へぇや!?いや……えっと……覗いてたわけじゃ……違うんです!!!撮ってはないです!!たまたまです!おふたりの邪魔をしようとかは考えてなくて!!どうぞ!!続けて!」
全力で弁明する大野ちゃんの顔はわたし達よりも真っ赤で、倒れたからなのか元からなのか分からないけど鼻血が垂れていた。
「……もぉーー大野ちゃーーーん!」
完全に雰囲気を壊されてしまったわたしは大野ちゃんに駆け寄り、手を貸してあげる。めちゃくちゃ謝られたが、わたしにとっては救われた部分もある。
もしあのまましていたら……
「どうだったの?」
「んー……まずはビンタかな」
「おぅ手厳しいね」
出店のカフェでのんびりしながら昔の事を尋ねてみる。
「でもおでこにキスしてきた方が悪いと思うんだ」
「………うるさい」
紗奈は顔を真っ赤にしながら頼んだコーヒーを口に運んでいたのだった。
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