第13話 ふたりの愛の形

「懐かしい……」


「わたしはこの前遊びに来たからそうでもない!」


「そんなこと言わなくていいの」


 懐かしい路線の電車に乗り、駅からそこそこの距離を歩き、たどり着きました我らの母校。文化祭真っ只中の立花女子高校。


「受付は~あそこだね~」


 栞が楽しそうに受付に向かう。今の1年生とも面識はあるようで、お互いに笑顔だ。私の時の生徒会とは違ってほんわかしてる。


「……ほら紗奈ちゃん!はやくはやく!」


「ごめん…すぐ行く」



 本当に楽しそうな栞と生徒会の面々に少し嫉妬しつつ、受付を済ませる。


 とりあえず校内に入ると色んな出店があってどうしたものかと悩んでしまう。それは栞も同じようで、もらった地図を見ながら「むむむ」と唸っていた。


「どうしよっかー……まずは食べ物?」


「クレープとかいいんじゃない?」


「それだ!よし行こう!」



 そんなこんなで私にとって初めてとも言うべき文化祭巡りがスタートするのだった。


 クレープを食べ、バルーンアートで遊び、カフェに寄ったり、焼きそばを食べたり、古本を見たり、有志によるライブを見たり……高校時代では楽しめなかった事をめいっぱい楽しんだ。



「カッコ良かったねぇ!わたしもギター始めようかなぁ!」


「近所迷惑になるから駄目」


「いいじゃーん…紗奈ちゃんボーカルでさぁ?メジャーデビュー目指そうよー」


「夢が壮大すぎるでしょ」


 体育館を出て、ふたりで次の場所を目指してのんびり歩く。すると目の前に見覚えのある先生と、小さな子供を抱えた女性が話をしていた。


「………もしかして」


「近藤せんせーーーい!」


 栞も先生の隣に立っている女性が誰なのか気づいたようですぐさま駆け寄っていった。


「ん?おう早川よく来たな」


「もちのろん!それより……はじめまして!わたし!早川栞っていいます!」


「はじめまして……近藤静香です。そしてこっちは娘の響香です」


「あぃ」


「はぁぁぉかわいいいいいい!」


 テンションがおかしくなってる栞を注意するついでに私も近藤先生に挨拶をする。


「お久しぶりです」


「全くだ。少しくらい顔出せよ」


「……忙しかったもので」


 しっかりと奥さんと娘さんにも挨拶をし、先生と大学に入ってからの話をする。その間栞は娘さんと楽しそうに遊んでいた。話も一段落つき、娘さんと離れるのが名残惜しそうな栞を無理やり剥がしつつ、その場を後にした。



「かわゆかった……天使…はぁわぁ」


 蕩けきった栞の顔を見ながらついつい聞いてしまう。


「赤ちゃん好きなんだ」


「まぁねぇ…かわゆいじゃん?」


「………欲しい?」


「ぇ………ぁ…」


 私達にとっては大事な話だ。

 どれだけ綺麗事を並べたところで越えられない壁はある。……私達では子供はつくれない。


 栞もその事は分かっているようで、少し申し訳なさそうに返してきた。


「……ごめん」


「謝らないでよ…ただちょっとね……」


 しおらしくなってしまった栞を元気付けるかように手を握り、本音を語る。


「栞があんまりにも響香ちゃんかわいいって言うからさ、嫉妬してただけ」


「赤ちゃんに!?」


「そ。赤ちゃんに」


「紗奈ちゃんって……やっぱり嫉妬深いよね?」


「……そんだけ好きなの」


「うぇへへへ……」



 いつもみたいな無邪気な笑顔に戻ってくれた栞の手を離さないようにしっかりと握り、その後の文化祭も満喫したのだった。

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