第12話 初恋の真実
「紗奈ちゃんってさぁ…」
「んー?」
「ズルい人だったよねぇ…」
「なに急に」
とある日曜日。絶賛文化祭真っ只中の母校に訪れる為にふたりで電車に揺られていた。
懐かしそうに窓の外の景色を眺めている紗奈を見て、わたしは1年生の頃に起きた文化祭直前の事件を思い出していた。
「あれいつだったっけ……前日とか?」
「だから何の話?」
「……桜木先輩に泣かされた日の話」
「なっ……!?泣かされてはないけど!?」
動揺しまくった紗奈が大きな声を出したので周りの目がこちらに集中してしまう。「すいませーん」と平謝りしつつ、紗奈にデコピンする。
「まぁそれはいいんだけどさ……その後だよその後」
「その後……?」
「わたしがめっっちゃ我慢してたのにさぁ…『今日は言ってくれないの?』っておねだりしてきてさぁ」
「そんな言い方はしてない……はず…」
紗奈も何があった日なのかを思い出したようで顔を赤くしている。
「あんな弱ってた紗奈ちゃんに漬け込むなんて良くないよなーって思ってたのにさぁ?自分から誘ってきておいて結局断るんだもん」
「だからごめんって……あの時も謝ったじゃん……」
「ズルいなぁ…わたしの体をあんなに濡らしておいて……」
「変な言い方しないの………今は付き合ってるんだからいいでしょ」
「……それもそうかもねぇ」
そう返しつつ紗奈の手を強く握る。わたしのものだって。わたしの彼女なんだって自慢するために。
とかなんとか考えていると紗奈が「そういえばずっと気になってたんだけど」と尋ねてきた。
「なんで私なんかをあんなに好きだったの?」
「私なんかって……デコピンが足りないようですなぁ?」
「そういう意味じゃなくて……出会ってまだ間もなかったじゃん?それに出会い方だってお世辞にも良かった訳じゃないし…ちゃんとした理由聞いてなかったなって」
「あーーーー……それはーー…」
純真無垢な瞳で見つめられる。意地悪とかじゃなくてホントに疑問だったのだろう。
仕方がないと腹を括り、前置きをしながら説明を始める。
「まずね、大事なのは、昔の話だからね。今はもっとあるからね」
「え?うん」
「きっかけの話だからね?あくまできっかけね?」
「……いいから教えてよ」
「………………顔」
「……はい?」
聞こえなかったのか、意地悪なのか、どちらにせよちゃんと言わないと逃がしてくれなさそうだ。
「最初に会った時……顔近くて………怒ってる顔がホントにタイプで…………だからその…」
「だから?」
「………一目惚れです……性格とかじゃなくて……顔が好きだったんです…」
「へー………」
わたしへの仕返しなのかおもいっきり顔を近づけてくる。あまりの顔面の強さに思わず目をそらす。
「あれー?この顔が好きなんじゃないのー?」
「好きだけど……好きすぎて………恥ずかしい…」
「今更?あんなにキスしてるのに?」
「それとこれとは……あとその……」
「んー?どしたのー?」
「ここ電車……です…」
「…………ほぇ」
流石にイチャイチャしすぎたのか周りからチラチラ見られていた。その事に漸く気づいた紗奈はわたしと一緒に顔を真っ赤にして下を向いた。それでもしっかりとわたしの手を握ったままだった。
その後、ふたりで恥ずかしさを共有しながら、早く電車から降りたいと願うのだった。
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