第4話 慣れてない想い
「ここか……」
とある日の放課後。
用意したプリントを持って廊下の端っこにある部屋の前までやってきた。扉にかけられている札には「在中」と書かれてあり、誰かいるというのが一目で分かる。
「大丈夫………怖くない……こわくない…」
緊張する自分自身を鼓舞するように呟く。ちょっと前までわたしには縁がないと思っていた扉をノックし、「失礼します」と、たどたどしく声に出しながら扉を開けた。
「どうかしましたか?……ってあなたは…」
部屋の中に居たのはたったのひとりだけ。たくさんの席が並んでいるというのに座っているのはここにくるきっかけをくれた柊先輩だけだった。
「あ、あの……わたし…その…」
あまりの緊張にプリントを持つ手が震えてしまう。こんなカッコ悪い姿を見せに来たわけじゃない。そう考えるほど余計に緊張してしまう。
「……お預かりしますね」
そんなわたしの緊張を察してくれたのか柊先輩は作業をしていた手を止め、わたしの方に近寄ってきてくれて、プリントを受け取ってくれた。
「確かに受け取りました………あ、ごめん。担任の先生の印鑑押してきてもらってもいいかな?」
「へ……どこですか!?」
良いところを見せようと頑張って綺麗な字で書いたのに初歩的なミスをしてしまっていた。恥ずかしさを誤魔化すように勢いよく渡した入部届けを覗き込む。
「ほらここ。今日だともう部活に行ってるかもしれないから……明日でもいいよ」
「いえ!今日!行ってきます!」
「そう?」
「はい!……………ぁ」
返事をしながらプリントから目線をあげると、柊先輩の綺麗な顔がすぐ近くにあることにようやく気づいた。吸い込まれそうなほどの力強い瞳。
「………どうしたの?」
完全に固まってしまったわたしを気にかけるかのように先輩は語りかけてくる。その声を聞いてようやく現実に引き戻され、すぐさま離れるように飛び退いた。
「なんでもないです!では行ってきます!」
そのままの勢いで生徒会室を飛び出し、担任の先生を探し回った。
先輩の予想通り既に職員室にはおらず、となりの席の先生からバレー部の顧問であることを伝えられ、急いで体育館へと向かった。
「先生!」
「ん?なんだどうした?」
体育館に着くと、ちょうどバレー部は休憩中なようで、担任の茜先生が部活生と話をしていた。
「あのっ……ここに……印鑑ください……」
「え?わざわざ来てくれたの?」
「はい………今日が…よくて……」
「分かった。ちょっと待ってね………」
ここまで早歩きでやってきたからまだ息が整わない。茜先生が筆箱の中をがさごそと漁りながら印鑑を探しているのを眺めながら心のなかで「はやくはやく」と急かす。
「あったあった………ほい」
「ありがとうございます!!それでは!!」
「おぅ……廊下は走んなよー」
「分かってまーす!」
ようやく印鑑を貰えたわたしは急いで生徒会室へと戻る。なるべく早く。他の人が来る前に。
ふたりっきりで、もっと話をしたい。
わたしの頭の中はその想いでいっぱいだった。
やっとの想いでたどり着いた生徒会室の扉をノックし、今度は元気よく「失礼します!」と挨拶しながら扉を開けた。
「……はやかったね」
「もちろん廊下は走ってないです!」
「ふふw……そんな律儀に守らなくてもいいのに…」
「だって約束ですから!」
わたしのその言葉に先輩は少し驚いた表情をした後、微笑みながら再び入部届けを受け取ってくれた。
「はい。確かに受け取りました」
「ということは!!」
「…ちなみにまだです。一応生徒会ですので」
「そんなぁ………」
その日はそこで帰されてしまい、ひとりでトボトボと肩を落としながら帰路についた。
そしてその翌日、わたしはとりあえず仮入部という形で生徒会メンバーへとなることが決定したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます