第3話 まだ慣れない気持ち

「―――うんうん。それでね」



 朝。目を覚ますと既に隣には栞はおらず、声だけが聞こえてきていた。声のする方向的にどうやら栞は台所で作業をしながら誰かと通話をしているようだ。


 私が起きてきたことにも気付かず、とても楽しそうなその声色に私は少し嫉妬してしまい、こっそりと近づいた。


「そうそう……そうw結構楽しいよw………うん。うんうん。へー…………あ、ごめんちょっと待ってて」


 私が隣で不満そうな顔をして立っていたのに気づいたのか栞は通話を一旦やめ、こっちを見て微笑んできた。


「おはよ」


「………おはよう」


「とりあえず顔洗ってきなよ。すごい顔してるよ?」


「…………」


 栞の手元を見るとどうやら朝ごはんを作っているところらしい。そしてその傍らにはスマホが置いてあった。


「……あ、もしかして話し声大きかった?」


「違う……けど………」


 流石に通話の相手に嫉妬していたとは言えない。言えないがどうにもモヤモヤしてしまう。


「………仕方ないなぁ」


「え…………んっ……」


 そんな私を察してくれたのか栞は優しくキスをしてくれた。


「大丈夫。好きだよ」


「………分かってる」


「じゃあそんな顔しないでさ、早く顔洗って歯を磨いてきなよ」


「……うん」


 付き合い始めてもう3年経とうとしている。それだというのに未だにどこか不安になってしまうのだ。


 いつか栞が私の事を見てくれなくなる。


 そう考えると心がズキズキしてしまう。




 栞に促されるように顔を洗い、歯を磨き終わると台所に栞の姿は無く、机にトーストを並べ、朝ごはんの準備をしていた。


「うん。今日もかわいい」


 そうやって笑顔で褒めてくれる栞に私からも返すかのように照れながらも口に出す。


「……栞もかわいいよ」


「やだなぁ恥ずかしい~」


 その後、朝ごはんの準備を手伝い、ふたりで食卓を囲んだ。こうしてゆっくり朝を共にするのも久しぶりな気がする。


「そういえば…さっきは誰と話してたの?」


 焼いてくれたトーストを齧りながら気になっていた事を聞く。すると栞はニヤニヤしながら答えてくれた。


「気になるぅ?紗奈ちゃんってばわたしのこと好きすぎかぁ?」


「うん。大好き」


「おぅ……そこまでハッキリ言われると流石に照れる…」


 栞は顔を赤くしながらもトークの履歴を見せてくれた。


「覚えてる?高校の友達のマッキー。今度ふたりで遊び行こーって言われてさ」


「それで?行くの?」


「わたしとしては久しぶりに会いたいんだけど……紗奈ちゃんが嫌なら行かないよ?」


「別に…そんな束縛強い女じゃないよ」


「さっきまでぷくーってしてたくせにぃ」


「してない」


「してた」


「してない!」


「してました!」


 照れ隠しのためについつい言葉に熱が帯びてしまう。しかしそれはどうやら栞の方も同じなようでさっきよりも顔が赤くなっている。



「……お土産期待してるから」


「分かった。何が良い?」


「んー……プリン?」


「それならいつでも食べれるじゃん」


「……私が大事に取ってた高級プリン」


「あぅ………買ってきます…」



 こうしてふたりきりの朝をのんびりと満喫しながら、昼からのデートの予定を話し合うのだった。

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