弐 激動の時代と波乱に生きる
「清さんは本当に面倒見のいい人で、多くの人に
カヲルさんは、コーヒーをすすりながら語りはじめた。
細く神経質そうな眼も今では、目尻が垂れ下がり
「ただ、時代のせいか、本当に大変な思いをしたんだ……。
私がはじめて清さんと出会ったのは学生時代。
その当時はね。いわゆる戦争の真っただ中。
そんな中でも仲間想いでね。本当に明るい人だった……。
私の仕事やレイとの出合いだって、清さんのお陰だったんだよ……」
あんなに神経質で、礼義にうるさかったじいちゃんが仲間想いで、明るい人?
まったくイメージができない。
でも、常に「お前は、一人か? 仲間はいるか?」と問われていたことを思い出す。
今目の前にいるカヲルさんも、じいちゃんの「仲間」だったのだろうか?
「私と出会うより前に『色々なことがあった』と、酒を飲んだ時によく話をしてくれた……。
養子に出されたこと。若いながらに店主になったこと。知合いに
でも、学校に通い続けたこと。
赤紙が送られてきて、
……本当に波乱万丈というにふさわしいよ。
戦後に一緒に入った新聞社では、ずば抜けた交渉力で取引先や仲間を作っていったんだ。
清さんみたいな人のことを
そして、清さんがいつも自慢気に話をしていた
本当にこうして会えてよかったよ……」
え? ちょ、ちょっと待って。
確かに養子になったのは知っていたが、店主? 学校に通っているときに徴兵?
戦争の話しは少し聞いたことがあるが、新聞社での仕事は、まったく聞いたことがない。
そして星? 私が星? じいちゃんは一体カヲルさんに何を話していたのだろうか?
「
実は、サイドワークで私、作家をやっているんです。
今回、祖父の遺品整理をしていて、いろいろなものが出てきたんですよ。
私、本当に祖父のことが大好きで、どうにかして祖父の生きた証みたいなものを残したいんです。
お会いして間もないのに、こんなことをお願いするのは失礼なのはわかっています。
話せることで構いませんので、どうかよろしくおねがいします!」
普通だったら、
自らの厚かましさに
じいちゃんを深く知っている人に会えた。
それだけでなくカヲルさんは多分、じいちゃんの親友だ。
できうる限り話を聞きたい。
そう。
じいちゃんをもっと理解したい。
心からそう思った。
「まったく…。
熱量と頑固さは、清さん
君を見ていると、本当にあの頃の清さんを見ているようだよ。
そして……、作家といったか? なんとも因果なもんだよ。
今の君を清さんが見たら何と言うか……」
カヲルさんは腕を組み困ったような仕草をしているが、その顔が全く困っていない。
むしろ悪巧みをする少年のような表情が、目の前にいる九十前半の老人の顔に浮かんでいる。
この人はいま、心から楽しんでいる。
そう私は、確信する。
「好き嫌いは、なにかあるかね?
レイ、『おざわ』に上握りを三つ注文しておきなさい。
食事でもしながらあなたもここで、一緒に清さんの昔話をしようじゃないか。
そう。あの頃のように……」
レイさんは、目を
「さて。白明くん、君は清さんの自慢の孫なんだ。
イケるくちなんだろ?」
カヲルさんは右手の人差し指と親指で作った盃を、笑みがこぼれる口元に運んだ。
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