第5話

「同じ死に方だった!同じだった!」


死体を見つけた子分が半狂乱で叫んでいる。


「何が、なにがなんだ!」

「あいつ、首がさけ、げえ!」


続く言葉はつぶれていた。その原因はよくわかる。月明りを反射する赤い滴が付く刃が、喋る口から生えたからだ。


「え、うわ。」


意味が解らず目を背けると目の前の男の上に何か居る。それが更に男の頭に何かを突き立て、倒れる最中にこちらにとびかかる。


「わあああああ!」


月明りでよく見えた刃は眼前を覆い尽くし、目がつぶれる感触と共にすべて見えなくなった。


「あいつら、なんだ、何が起きている。」


明らかな異常があれど、何が起きているか一切わからない。だが声の種類が減っている。そして叫んだ後に同じ声が無い。恐怖を怒りで抑え、ゆっくりと叫びの元へ向かう。


「こいつは。」


死体が三つ連なって倒れている。この時点で怒りに恐怖が勝ったのだろう。剣先に震えが見える。


「なんだ!でてこい!」


恐怖と威嚇でそう叫ぶ。そして、


ドム!

頭への重い衝撃と共に、


「はい。」

軽い声が振ってきた。


ギャチ!


「が!」

「あれ。」


親分は子分の死体を見て首元の一撃を恐れたのか、マフラーをつけていた。それのおかげでうまく切れなかった。


しかし大きな血管は裂いたようだ、しばらくすればこの男も死ぬだろう。親分は月明りを返す二つ光る眼を追い、その姿を見る。


「お、おばえば…!」

「仕留めそこなっちゃいましたね。」


頭でっかちの猫が居た。その意味を理解し今一度、怒りが恐怖に勝った。


「がああああ!」

「よっと。」


剣を振るが小さい猫はすぐに目線から消え、その下の死体に刺さる。その剣を再度引き上げた瞬間に、脹脛に鋭痛が走ると立っておられずそのまま仰向けに倒れる。


「うわ。」

「えい!」

「げば!」


しかし倒れ行く背中は地面に着かず、代わりに鋭く刺す短刀が心臓を貫いた。









「にぃ、にゃう!」

「ちびちゃんありがとう。」


少女は怯えながら黒猫の後を進む。黒猫もわかっているのか、彼女を待ちながら少しづつ先を確認して進む。そして少女はもう一匹の猫の事を思い出した。


「ごろちゃんは?」

「にゃあ、なう。」


そう聞くも黒猫は首を振るだけだ。そして薄暗い今は黒猫の表情もよくわからない。そういえば家の前で猫と交換と言っていた。もしかして、あの子が替りに来てしまったのだろうか。迷った挙句に猫好きの彼女は勇敢にも元来た道へと戻った。


「ごろちゃん探してくる!」

「にゃああ!」


黒猫は焦って大声を出して彼女を追いかける。そして慣れぬ森の道を行く少女は、来た道を少し間違えて人の死を見た。


「げば!」


目の前から来た大声は最初変な声と思った。その声の先を見ると、こぼれた月明りを仰ぎ見る男が、腕を気持ち悪く高速で動かした後に力なく下に垂らす。


胸の鋭利な突起が月明りで鈍く輝いた後、その先が銀色に閃き赤い弧を描いた。そして男の影から小さな何かが月明りに出て来ると、それは血の付いた猫だった。


「ありゃりゃ、血がついちゃいました。」

「ごろちゃん?」

「あ、はい。あにゃ!にゃにゃにゃ。」


よほどの痛みだったのだろう、男の死に顔は新鮮な叫びを声無く残していた。そしてそれ以上にいつもの声で話す猫がとてつもなく歪だった。


「あにゃにゃにゃ、ええと、ぼくちょっと後に帰りますので、チビちゃんについていってください。」

「ああ、はい。」


少女の解答に脅えがある事を大きな耳で感じつつ、突然の別れに悲しみながらゴロ猫は月影に消えて行き、少女は後ろに居た黒猫の声に恐怖しながらもついていった。

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