第4話

「おい!この八百屋!」


ある日の夜に大声が響き渡る。


「てめえクソみたいな猫飼っているだろう!そいつをよこせ!」


なんだなんだと顔を出すと、昔悪たれで有名だった男とその子分と思われる男三人が店の前で屯している。店の主人は焦りつつ店前へと出て行った。


「いや、そう言われましても。何のようですか。」


「てめえの猫が俺の子分を殺したんだよ!」


その声に屋根裏に居た猫二匹は瞬時に反応し、事前に決めた場所へと向かい、身構える。


「そんな、あいつらがそんな事できる訳ないでしょう。」

「うるせえ!黙って言う事を聞けばいいんだよ。いいからよこせ!コイツと交換だ!」

「んー!」

「お前!」


子分の一人が少女を抱えている。そういえば配達に行ってから帰りが遅かった。短い距離なので任せていたが迂闊だった。


「まあいい、森前の大樹に猫二匹をつないで置け。そうしたらコイツを返してやる。」

「そんな!」


夜の大声に人の眼が出始めた所で四人は去っていった。八百屋夫婦は焦り、猫を探す。


「クソ、あんな猫、つれてこなければ!」


そういって店主の男は猫を住まわせている屋根裏部屋に向かう。しかしそこには猫の姿は無く、とても汚い字でいってきますと書いてある紙が置いてあった。







「親分、本当なんですかい。」


アジトへ帰る道中、三人いる子分の一人が親分に聞く。


「ああ、町のやつらが答えた内容は皆同じだ。馬車から猫がとびかかったという事だけだ。」


親分の鼻息は荒い。子分の一人が先走って馬車を襲ったのだが、追いついた時には首がちぎれかけた死体となって転がっていたのだ。


町民からの回答もおよそ冗談かと思う内容であるが、同時に遺体の頭部に爪痕が残っていた事から事実ではないかと考えたのだ。


常識で考えれば異常な話であるが、それでも最低限、しゃべれる猫である以上犯人が別でも足取りはつくだろう。


「んじゃあこの子供、喰ってもいいんで?」


子分の一人が下卑た笑みを浮かべる。子供は大きく暴れるがまるで意味がない。


「駄目だ、今やったら俺がお前を殴り殺しちまう。一日待て。」


親分は子分に静かに強かに言いつける。その語気に子分と子供は震えあがった。そうこう話していると野盗たちのアジトに着いた。


「ガキは手足を縛り直して倉庫に入れとけ。」


そういって親分は自分のテントへと向かう。子分の一人が物置から適当な布とロープで子供を縛り上げると、ひどく臭いのか顔を振るうが一発殴られておとなしく拘束されていった。


「はああ、あいつが死んだとへいえ、猫相手に子供を人質か。しまらねえな。」


そう愚痴を言いながら子分の一人がたき火に火をつける。


「どのみちどっかの冒険者だろうよ。まあ猫からはそれを聞くのが目的なのかもしらねえが。」


「だがあいつ、無鉄砲だったが弱くはなったよな?あ、お前、どこ行くんだ。」


「便所だ便所。」


そういって縛り上げた一人がそそくさとアジトを出る。


「ったくあいつも気持ちわりい。便所だけじゃねえんだろうよ。」


そう言って子分二人はたき火を挟んで笑いあう。そしていつもの様に酒でもあおるかと食糧庫に足を向けた時に、ドカっという音とぎゃっという声が聞こえた。


「あ、なんだ?」

「あいつこけたのか?」


一人行った男は松明をもっていかなかったが今日は満月、林の中とはいえ明るい夜だ。子分二人はため息をつきつつ、じゃんけんを始める。そしてたき火で座っている方が負けたので、舌を打ちつつ立ち上がる。


「酒残しとけよ。」

「じゃあいそげよ。」


残った方は鼻歌交じりに酒を取り出し、木でできたカップに入れて飲もうとすると叫声が響いた。


「殺されている!」


その声に子分は酒をほおり投げて鉈を持つ。そして親分もテントから飛び出て来た。


「おい、見て来い。」

「へえ!」


子分を先に送り親分は抜剣する。少女はそのやり取りを聞きながら物置で恐怖と混乱の中さめざめと泣き晴らしている。しかし、たき火の横では小さな黒猫が腰かけの倒木に隠れながら物置の方へそろそろと歩いていた。


「うう、ううう。」


怖い、いやだ、いたい。それが繰り返し延々と続く。だがその間に、


「にゃあ。」


猫の声が割って入った。

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