第2話

「大丈夫、広輝は悪くないよ」

 遠くから声が聞こえるような気がした。

 やがて眠っていた意識が目覚めて、広輝は薄っすらと目を開く。するとほぼ真上にある太陽から眩しい光が差し込んできてまた目を閉じる。

 どうやら広輝はどこかに寝かされているようだった。

 しばらくして目が慣れてくると、広輝は上体を起こす。周囲を見渡すと、どうやらグラウンド脇にある体育館前の簀の子の上に寝かされているようだった。

「広輝、もう大丈夫なの?」

 後ろから声がした。振り向くと美咲が心配そうな目でこちらを見ている。その目にはなぜかうっすらと涙の痕が浮かんでいた。広輝はそんな美咲に対して、苛立ちを覚える。本当にいつも近くに居やがって。

 そのとき、背中を何かが撫でるような感触があった。よく見ると美咲の右手が広輝の背中に当てられている。

 広輝がそれを振り払うように体を捻ると、美咲もそれ以上強引に広輝へ触れようとはしなかった。

 グラウンドに視線を戻すと、そこにはもう誰もいない。音もなく時折風が吹きつけて砂埃が舞うだけのグラウンドは誰もいない砂漠を思わせた。広輝は一人そこに取り残されたような感覚に陥る。

「もう練習は終わったよ」

 後ろから美咲の声が聞こえてきた。

「見ればわかる」

 広輝はそう言うと、立ち上がった。練習が終わったならこれ以上こんな所にいる意味はない。さっさと着替えて帰宅しなければ。そう思った時、軽い頭痛が広輝を襲った。まだ頭の奥底、遠くの方で父親の声が響いているようで、広輝は片手で頭を押さえ髪を鷲掴みにする。またこの感覚だ。

「大丈夫?」

 美咲がすぐに立ち上がり、広輝をすぐ支えられるよう手を回す。

「大丈夫だって言ってるだろ」

 広輝は美咲を振り切るようにして、地面へ飛び降りる。まだ体の中に不快感が残っていた。これまでにも何回かあった意識がなくなる現象。広輝は自身の頭を強めに打ち、舌打ちを一つして部室に戻った。

 その上空を、南国にいそうなサイズ感の青い鳥と可愛らしい一羽の白い小鳥が旋回する。

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