格闘家カノ 1/2
「やだやだやだやだやだやだやだやだ!」
「そう駄々をこねられましてもねえ! もともとそう言う契約だったでしょう!」
「やだ! 聞いてない!」
「聞いてないも何も、カノ本人にサイン書いて貰ったでしょう! ほら! これ契約書!」
カノの控え室についたら、なにやら揉め事が起きているらしかった。カノが手当たり次第物を投げる物だから、僕とギルロは頭を守りながら部屋の外に避難した。
「コリン、どうなってんだこりゃ?」
「さあ? 取材どころじゃないのは確かですけど」
隣の部屋の壁に張り付いていると、カノの部屋からいろんなものが飛び込んでくる。ガラスの割れる音が中の様子を不安にさせる。
最強の女カノ。写真の佇まいからは感じられないような幼さが残っているようだ。18歳で一応成人しているはずだが、暴れている姿は少女に見えた。
「だいたいね。なんであんたたちに勇者杯のことで指図されないといけないのよ!」
「ブランドイメージがあるからって言ってるだろ! 負けるリスクがある以上3試合目以降の試合は受け付けん!」
「じゃあ私が全部勝ってやるわよ!」
「そんな無茶な! そんな大口、私くらい跳ね飛ばしてから言え!」
カノと言い合っている男、おそらくスポンサー側の男が気になることを言っている。
「ギルロ先輩。今の話本当なんですか?」
「ああ、本当だ。企業のイメージダウン防止のためにカノは今回3試合しか出ない。あとは棄権するらしい。取材もそこまでだ」
意外な事実だったが、広告塔として起用されている以上納得できる部分もある。今回の勇者杯で優秀な成績を収めることができるかもしれないが、優勝以外は黒星が残ることになる。最強なんて称号を付けられている以上は、一戦の負けでもイメージダウンにつながるだろう。
「企業戦略以外にも、カノは成人したてだからな。コンプライアンス的にも苦言を漏らす奴らもいる。だから負けを作るわけにはいかない」
「へえ、そう言うもんなんですね」
「勇者杯はビジネスだからな。勝ち上がるために参加してるやつなんて一握りさ。それよりこの2人を早くなんとかしないと」
部屋の中は相変わらず大騒ぎだ。叫ぶような声とモノが散らかる音が絶えない。
「僕、ちょっと止めに入ってみます」
「おいおい、マジかよ?」
「はい。僕は魔法が使えますから、ある程度は飛んでくる物を防げるはずです。そのうちに2人を説得してみせます」
「とはいえ……、最強の女が暴れてんだぞ?」
ギルロは心配そうだ。出会って数時間だが、仲間思いの先輩なんだなと感動すら覚える。
「先輩、俺、行ってきます!」
僕はは一口の前に立った。
「2人とも落ち着い」
直後、僕の目の前に椅子が飛んできた。瞬時に魔法で結界を作るも、椅子は易々と結界にめり込んでくる。なるほど、これが最強の女の魔法か。感心したのも束の間。僕は吹き飛ばされた。
「コリン!?」
「だ、大丈夫ですか!」
「誰よこの人!」
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