第6話 華

七つ片喰のもと弥三郎は人生で初めての槍をふるった。倒した敵兵は三人。それを後ろから康惟が驚愕の表情で見つめる。


(単に暗く、女々しい将だけではなかったのかもしれぬ……。これが姫若子からの脱却か…!)


「若っ!初陣の役目は十分に果たされました!すぐに引いてくだされ!」

「ならんっ!早う治定を討て!好機を逃すなっ!」

「兄上!」


吉良親貞が到着したのだ。

国親は元親の奮戦の情報を受け援軍を向かわせていた。一方、茂辰は元親を囲むように軍を遠巻きにしている。


「兄上!ここは私が。兄上だけに戦功を挙げさせていては我慢できませぬ!」

(¯⁠\⁠_⁠(⁠ ͡⁠°⁠ ͜⁠ʖ⁠ ͡⁠°⁠)⁠_⁠/⁠¯)

「………。皆!行けーー!」


親貞部隊は本山本体に突撃した。

両軍は激戦となったが本山勢がやがて引いた。

長宗我部勢も引き始める。



戦いの後、国親は目に見えて上機嫌であった。


「そなたが部屋で引きこもっていたのは数々の伝記を読んでいたからか!いや~悪かったの!はっはっはっ!」

「いえ…。」

「では、茂辰は城に引いたそなたならどうする?」


いきなり目つきを変え国親は問う。


「諜報を用い、城から炙り出すまで待つのが肝要でござます。」

「何故じゃ?我らは勢いがあり、兵も多い。」

「城攻めは二倍の兵を持って同等とし、三倍となって初めて優位となる。それ故でございます。」

「左様か!いや畏れ入った!素晴らしい!素晴らしい!」


国親は喜んで見せた。しかし元親はすでに国親の演技を見抜いていた。


(恐らくは次の戦では我の出番はなさそうじゃな。

家督としての資質を見極められたゆえ、出る必要はないということか……。)


元親が初陣を飾った八日後、東海道の桶狭間では織田信長が今川義元を討ち取り天下にその名をはせていた。


元親、齢二十二

信長、齢二十七


である。




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