第5話 槍

「長浜城は天然の要塞ではあるが、籠もれば逆に相手の準備が着々と進まされてしまう。ここは打って出るべし!!行くぞーー!」 


本山家臣·大窪治定が獅子吼する。

すでに長宗我部勢が迫っている。猶予はなかった。


(長宗我部勢の中には愚鈍な若大将もいる……。

ここで討ち取り勢いを上げるのみ………か…。)


劣勢な本山勢はそれしか打開の方法はなかったのである。


そして五月ニ十七日、午後九時頃、大窪勢の先鋒と

長宗我部勢の先鋒が衝突した。

それを弥三郎はぼーっと見ていた。

長宗我部勢は数で押されているため、もともと戦闘経験がないというのも原因し崩れている。


(そうであろうな……。経験もないのに無茶に突っ込むからこうなるのだ。「孫子」に書いてあった通りか…。)


そして突破口ができてしまった。


(こは、まずいの。)


弥三郎は丘を下り近習、秦泉寺康惟に質問した。


「われは槍をあまり使ったことがないゆえ。

どう使うのだ康惟。」

(ふぁ?!)


なぜ今聞くのだ?康惟はじめ周りの兵たちも驚く。


「ただただ、敵将の目を狙って突きなされ。さすれば討てましょう。」


侮りながら康惟は言う。

弥三郎は頷く。


「やはり「呉子」にかかれてあった通りか。では、大将とは先に行くべきか、兵の後ろに隠れるべきか?」

「………。」

「先に行くべきであろう?」


弥三郎は快闊に笑い、馬を敵中に駆けた。


「殿?!なりませぬ!」

(皆、姫若子だから不安なのであろう……。

もうしばらく姫若子を続けたかったが致し方あるまい。ここは味方を救うのが上策。)

「見よ!長宗我部の若将だ!奴を討ち取れ!」


兜を被っていたため弥三郎は目立つ。

敵兵三人が急接近し刀を弥三郎の喉めがけて振るう。


その瞬間に弥三郎の槍が日光を反射し煌めいた。


ときが止まり、時代が始まった。


四国の、長宗我部の時代である。 












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