秘密主義と真っすぐな言葉
「俺はダムボール。出来る事は…ネェ!」
「自分はカンバラって言います。えっと…出来ることはナイショで」
「おれぁカラスだ、よろしくな。出来ることはゴミ捨て場をひっくり返すこと」
「おい!名前変わってんじゃねぇか」「あれ、カタカナ3文字じゃなかったっけ?」「パネルでしたよ。文字自体は一文字も被ってません」
「…私はイナギタナカだ。よろしく」
イナギタナカは頭を下げると、荒れてグシャグシャになったゴミ捨て場をジャンプで跳び超え「ふん」と息を下ろした。
「出来ることは…まぁ、ならって言わんとするか」
ダムボールが深く頷く。
「それが懸命だぜイナギタナカ。この街じゃ自分を晒すたびにセイメイ線短くなってくんだからよ。アンタも分かってんだろ?」
「…スマン、揺さぶっただけだ。名前が知れただけでもよしとする」
イナギタナカはそう言うと「君は偽名らしいがな」と女の方を見て口だけで笑った。
「おうおう失礼な奴だな。おれの名前は正真正銘パネルだ。カラスってのはやっぱ無しで」
「テキトー言いやがって。晒しすぎも問題だが、アンタみたいなのも後ろから刺されちまうぞ」
「まぁまぁ、実際名前だけでも特定されることありますから。用心に越したことないですって」
カンバラが微笑みながらとりなす。
…と、女がサングラスをカンバラの方へ向けた。「…」すると突然、その顔に手を添える。「…?」そして
「イヒャッいっ!」
そのままギュゥゥとツネった。「イひゃいれすって!」カンバラは女の腕を『パシパシ!』タップする。が、それでも女は頬をツネり続けた。
「オイ!なーにやってんだよ!」
ダムボールが女の腕を引き離し、カンバラを解放した。頬は真っ赤になって、気のせいか前よりユルユルになっている。
「おっと…ワリぃワリぃ」
女は離されると片腕だけで謝った。サングラスで目は見えないが、口元はへらへらと笑って歪んでいる。挙句「あまりにヤワそうだったからさ」などと言って、自分のほっぺを『むにむに』触った。
「大丈夫かよ」
女の態度を気に掛けることなく、ダムボールはカンバラを気遣った。
「…えぇ!ちっとも。おかげで緊張もほぐれました!」
カンバラは笑った。赤い頬が上がる。
「…そりゃ良かった。せいぜい感謝しな」
女は吐き捨てるようにそう言うと、電柱にとまるカラスの群れを見つめた。カラスというのは賢い生き物だ。まるでこれからの出来事を予期するように集まり、群れという網を巡らす。ビー玉みたいな目で見つめる先には、いつも地を行く人がいた。いつも空から人を観察していた。だからこそ、その人がたくさん死ぬ出来事を、カラスは見逃さない。
「入るぞ、地区内に」
イナギタナカが後方3人に伝えた。ミセシメのルール『被害は地区内に留める』は、言い換えれば『地区内なら何してもいい』になる。つまりこの先、地区をまたぎ入った時点で、イングリッシュ側とグリーンプル側双方が戦闘に入る。イングリッシュ側は『グリーンプル』の殲滅。グリーンプル側は『イングリッシュのミセシメ要因殲滅』。分かりやすいなぁ。
今回参加しているミセシメ要因たちには、ココだけの話 初参加者はいない。皆一回以上はミセシメに参加したことがある。しかし、それでもこの直前の空気。緊張。トーンの下がった景色。こわばり。プレッシャーのない誰かの音。出来たかもしれない準備。震え。
「慣れねぇなぁ…チクショウ。情けねぇハナシだが」
「あぁ、誰だってそうだ。もちろん私もな」
「はい…でもやっぱり」
「『皆で生きて帰りましょう!』ってか?テンプレ的なお利口さんだなお前は」
女は上半身だけをクラクラ揺らしながら、不機嫌そうに目をこすった。そのこすった反対の腕には、いつの間にか何か握られている。
「でも! それでもやっぱり…怖いから」
「バカヤロウ。こういうのはビビってるより、舐めてかかったほうが上手くいくんだよ。固まったカンセツに油断をさす~ってな」
「それに」女はダムボール、カンバラ、イナギタナカの肩を『ポン、ポン、ポン』一人ずつ叩いた。
「まだ生きてんだ。だから死なねぇ」
そう言うと女は、持っていた6インチのコルトパイソンに弾を込め、前へと歩き出した。
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